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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第1章 前世からの約束
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ランドの一騎士の願い

ネティアはベッドの傍らにいた。

ベッドに眠るのは掛け替えのない双子の妹。

ズレた布団を掛け直して、ランプを消す。

そして、部屋を出ようとドアの方を向くと、明かりが漏れていた。


「悪い、覗くつもりじゃなかったんだけど、邪魔しちゃ悪いと思ってさ…」


覗いていた男が、罰が悪そうな笑いを漏らした。


「帰るから、ちょっと、声を掛けようと思ってさ。『お休み』」


男はそれだけ言うと、ドアを離れた。

そして、自分の家へ帰っていった。







「…夢…?」


ネティアは上半身を起こし、額を抑えた。

何の変哲もない夢。

だがその夢は、ネティアの胸を強く締め付けた。

その夢は前世の夢だった。

ネティアには前世の記憶が少し残っていた。

その残骸がたまに夢となって形を成す。


『何故、この夢を?』


ネティアはジャミルを受け入れると決めた日、前世に繋がる夢を封印した。

無用な望みを抱かぬために。

そして、その日以来、ネティアは前世の夢を見なくなった。


『封印が解けたというの?いえ、そんなはずは…』


ネティアが自問していると、


『お休み』


と言ったルークが、彼とダブって見えた。


「そんな、まさか…」


驚愕するネティアの横でフローレスが寝返りを打った。




***




「ジリジリジリ!!」


目覚ましが鳴る。

と言っても、人の声だ。

ナイトは布団から上半身を起こした。


「おはようございますっす!『ナイト様』…」


目の前に逆さまのライガの満面の笑顔があった。


「…朝っぱらからなんだ?」


ナイトは眠い目をこすりながら朝からテンションの高い忍びに聞いた。


「何って、恒例のモーニングコールっすよ」

「…何もないのかよ…ていうか、毎朝来るのか?」

「そうっすよ。秘密の会話は早朝しかできないじゃないっすか」


ライガは茶目っ気ったぷりのウィンクをする。


「昨夜はいい感じじゃなかったすか?」

「どこがだよ、俺はただ1人の人間として自分の思いを訴えただけだ」

「またまた…ネティア様をあんなに口説いておいて」

「あの会話のどこに口説き要素があるんだ?」

「話の内容というより、姿勢っすかね?あのネティア様が見惚れてったすよ」

「自分の無知に気づいて、呆然となっただけだろう?」

「いやいや、そんなんで笑顔までなりませんって…」


逆さまのままライガはナイトの耳に囁く。


「もう、友達と言わずに、恋人行きましょうよ?」


ライガはナイトを虹の王にすることをまだ諦めてないようだ。


「あのな、ここではっきり言っておくけどな、俺はシープールを離れる気はないんだ。でなきゃ、ネティアにフローレスの企みを話すかよ」

「ああ、そのことで、フローレス様から呼び出しがあると思うっすよ」

「…何?」

「…フローレス様、ネティア様に朝から絞られてますから」


ナイトは悪寒を覚えた。


「フローレス様の癇癪は恐ろしいすっよ。じゃ、頑張るっすよ、ルーク」


ライガはナイトの偽名を呼んで天井裏に消えた。







朝食の時間になった。

食堂前に立つ正規軍の騎士達は相変わらず不愛想で、双子姫の様子を窺い知ることは難しかった。

ナイトは恐る恐る双子姫がいる食堂に顔を出す。


「おはようございます、ルーク」


驚いたことに一番始めに挨拶してきたのはネティアだった。

しかも、声のトーンが明るい。

何が良かったのか知らないが、昨夜の話で好印象を与えることにナイトは成功したようだ。

フローレスはと言うと、不貞腐れた顔をナイトに向けてきた。

ライガが教えてくれた通り、ネティアに絞られたようだ。


「おはよう…ございます…いい天気だな」


ナイトは正規軍の騎士達の目を気にし、敬語に気を付け、双子姫に挨拶をした。


「そうですね」


こちらを向いているネティアは明るく答えてくれた。

しかし、


「そう、何か雲行き怪しいけど…」


横に座るフローレスはぶっきら棒に答えた。

因みに向いている方角は西。

しかも、窓があった。

その窓から見える風景は山があり、暗雲が立ち込めていた。

多分、天気が悪いのはこのフローレスが見ている方角の窓だけだろう。

他の窓から見える空は見事な快晴だ。

西の窓はまるでフローレスの心を映しているようだ。


『なんか、やりずらい…』


今まで愛想のよかったフローレスが不貞腐れ、逆に不機嫌だったネティアの方が愛想が良くなった。

片方を立たせると、片方が立たないとはよく言うが、まさにその通りだった。


「何か、機嫌悪そうだな…フローレス姫」

「…誰のせいよ」


ボソッと答えてフローレスが睨んできた。

ナイトは逃げること決めた。


「じゃ、今日は馬車への同乗は遠慮した方がいいかな…?」

「それはダメ!」


即行でフローレスは却下してきた。


「でも、俺がいたら気まずいんじゃないか?」

「ネティアと2人でいるよりマシ!」


思わぬ即答に、ネティアは溜息を洩らした。


「ルーク、一緒に同乗してちょうだい。その方がわたくしも助かるわ」


ネティアからも要請されたとあっては、ナイトも断るわけにはいかない。

だが、険悪なムードになるのは必至。

朝食を食べながら対策を考えた。

最善の策を思いつく。

それは、もう1人追加で同乗させることだった。

4人になれば、2対2で話が分かれやすい。

そうはならなくても、2人に会話をさせ残り2人は聞き役になれば、場の安定は保たれるはず。

問題はその人選だった。

双子姫の馬車に同乗を許される者は限られる。

フローレスは好き嫌いが激しい性格。

ネティアは人慣れしていない。

双子姫に気に入られ、かつ、身分が高く話ができる者…



「わ、私に同乗しろと言うのか!?そんな、恐れ多い………」



朝食後、ナイトが助けを求めたのは正規軍の護衛隊長、グリス。

隊長に選ばれたなら双子姫の人望は熱いはず。

そう思って選んだのだが、彼の狼狽ぶりは凄まじい。

同乗の話を持ち掛けたナイトから後退りし、背後にあった木の根っこに足を取られてひっ転んでしまった。


『こりゃ、駄目だ…』


よく考えたら、始めから同乗しているはずだ。

双子姫からの人望はあるのだろうが、本人に問題があるようだ。

特に、レイスの者は王家を神聖視し過ぎる傾向があると前に聞いたことがあった。

隊長以下の騎士にもナイトが求める該当者は皆無。

なぜなら、皆、レイス出身者だからだ。

正規軍の騎士がだめなら、後、1人しかいない。


「ライガ!」


空に向かって呼んでみる。

すると、1枚の紙が舞い降りてきた。


『断る!』


切って捨てたような返事だった。


『後はランドの騎士か…』


当然ながら誰も浮かばない。

初っ端から、ナイトはランドの騎士相手に喧嘩を吹っかけてボコボコにした。

もし、ランドの騎士に話を聞いてもらったとする。

双子姫の馬車に同乗できると聞いたら、彼らは喜んで引き受けてくれそうだ。

だが、ネティアはともかくフローレスが彼らを受け入れないだろう。

フローレスが拒否できない人物となると、ランド軍の指揮官ぐらいだ。

だが、当然彼には任務があるし、ナイト扮する一傭兵風情が会える身分の者ではない。


『諦めるしかないか…』


望みを絶たれたナイトは項垂れた。

ほぼノンストップの馬車の中を、険悪な雰囲気を醸し出すフローレスに怯えながら過ごさなければならないかと思うと、胃が痛くなった。

思わず、しゃがみこんでしまう。


「どうした、ルーク?気分でも悪いのか?」


優しく声を掛けてくれたその騎士を、ナイトは眩しそうに見上げた。




***




「そうだよ、おっさん!エルクのおっさんだよ!!!」


気分が悪そうだったので肩に手を置いただけだったのだが、ルークはその手を強く握りしめて見上げてきた。

その目が異常に輝いていたので、エルクは正直ビビった。

何か嫌な予感がする。


「俺を助けてくれよ!」

「何があったんだ?」

「さあ、行こう!」

「行くって、どこに!?」


相当切羽詰まっていたのか、ルークは理由も告げずにエルクを引っ張て行く。

辿り着いたのは1台の豪奢な馬車。

その馬車にルークは乗り込もうとする。


「フローレス姫の機嫌が悪くてさ、俺1人でどうしようかと思ってたんだ」

「…まさかお前、私に双子姫の馬車に同乗しろと言うのか!?」

「昨晩、ネティア姫に会っただろう?エルクのおっさんなら大丈夫だって!」


エルクの承諾も得ずに、ルークは馬車に入っていった。


「災難ですな、エルク殿」


放心していると、正規軍の護衛隊長グリスがやってきた。

エルクは助けを求めるように話しかけた。


「グリス殿、私のような者が双子姫の馬車に同乗してよろしいのでしょうか?」

「緊急事態ですので、よろしくお願いします。私はエルク殿を信頼していますから」

「…はい?」


正規軍護衛隊長はランドの一仕官に無責任なこと言って去っていった。







『………何でこうなった?』


エルクは目の前に座る双子姫を前に緊張していた。

隣には、半ば安心気味のルークが座る。

昨夜、このルークとネティア姫の急接近に危惧を覚えたエルクは気になって様子を見に来たのだった。

ルークの監視に来ただけだったのだが、その監視対象の懇願で双子姫の馬車に同乗するというまさかの展開になってしまった。

監視対象はすぐ真横にいる、超特等席だ。

しかし、神聖視される王家の姫君とこんな密室で向い合って座るなど夢にも思わなかったエルクは、混乱の最中にいた。


「ど、同乗をお許しいただき、ありがとうございます…」

「エルクのおっさん、固いよ!」


何とか捻り出した言葉はルークに一笑されてしまった。


「もっと、気楽にいこうぜ」


バンバンと自分より一回り下のルークに肩を叩かれ、エルクは放心状態になった。

王族を前にしても平静でいられるこの若者に畏怖の念を禁じ得ない。

若さゆえの豪胆さなのか?

それとも天性のものか?


「ルークの言う通りです。そんなに畏まらなくてよいのですよ、エルク」


ネティア姫が微笑む。

フローレス姫はつまらなそうに肩を上げた。

双子姫はルークの振る舞いに、特に気を留めた様子はない。

それはエルクにとって、驚くべきことだった。

改めてルークを凝視する。

冴えた青い髪に深い青の瞳、顔立ちも、ルックスもいい。

美男子とまではいかないが、人懐っこい少年のような笑みは万人を魅了する。

衣服さえ整えれば、あっという間に貴公子に変身しそうだ。


『本当にただの傭兵なのか…?』


エルクはルークのディープブルーの瞳に問いかけた。

その瞳が見つめ返してきた。


「おっさんさ、レイスの血が混じってるか?」


ルークからの思わぬ質問にエルクは目を丸くした。


「…よくわかったな、私の母はレイスの出身だ」

「やっぱり、何か赤毛が淡く輝いてたからさ。レイスの銀髪が混じってるんじゃないかと思ってさ」


ルークは得意げに笑った。

移民が集まった国である虹の国は当然多くの混血がいる。

濃い髪色の場合は見分けるのは難しい。

エルクのように銀の髪が赤髪の色に吸収されて若干の違いが出るくらいだ。

ランドの仲間達も気づく者は稀だった。


「俺、おっさんの話聞きたいな?」


突然のルークの要望にエルクは慌てふためく。


「…私が話をしたところで面白くもなんともないぞ?」

「そんなの話してみないとわからないだろう?」

「私は、ただのランドの一騎士にすぎん…」

「そのランドの一騎士の話を聞きたいんだよ。なあ、ネティア姫?」


話のボールがネティア姫に投げられた。


「はい、わたくしもランドの一騎士であるエルクの話を聞いてみたです」


ネティア姫からも笑顔で要望され、エルクは困り果てた。

酒場で身の上話をするならいざ知らず、未来の女王に対してするのだ。

どう話していいのか、言葉が出てこない。


「普通でいいんだよ。例えば、ランド領についてとか、ランド領主のこととかさ」


ルークのアドバイスでエルクははっとした。

ランドの一騎士にすぎない自分が、雲の上の人であるネティア姫に直接話ができるということに気づいたのだ。

これはネティア姫にランド領主ジャミルという人間を知ってもらえる絶好の好機。

だが、プレッシャーもかかる。

エルクが上手く話せなかった場合、ジャミルの好感度は一気に下がってしまうだろう。

それは絶対にあってはならない。

主のため、友のため、敷いては国のため、エルクは腹を決めた、自分の思いを未来の女王に話すことを。


「では、ご要望にお応えして…私の母方の祖父の話からさせていただきます…」


エルクの切り出しに、ルークとネティア姫は興味を示す笑顔を見せた。

唯一、機嫌の悪いフローレス姫はどうでも良さそうに窓の外に目を向けていた。


「祖父はレイスの有能な騎士でした。祖父の子は私の母と叔母だけで、男児には恵まれませんでした。ある時、祖父は魔物との戦いで大怪我をしたこときっかけに移住を決断しました。母達がまだ幼く、騎士の家系を守っていくことが困難になったからです」


ネティア姫が沈痛な表情を浮かべた。


「バイソン家の追放と年々増加する魔物の襲来でレイスの騎士に負担がかかってしまったのですね」


バイソン家とは王の一族と呼ばれる建国以来の7大貴族1つ。

しかし、反逆の罪でネティア姫の祖母ディアナ女王に追放された貴族だ。


「…そうです、魔物の襲来は増え続け、レイスの苦みは今なお続いています。だから、私の祖父のように移住を決断する者は後を絶ちません」

「人口減少に増加する魔物の襲来か、悲惨だな…」


ルークも沈痛な面持ちをになった。

だが、


「レイスが大変なこと知っているくせに、ジャミル達は兵を出さないじゃない!」


フローレス姫だけは憤りを露わにした。

バイソン家追放に他の王の一族の4家が反発した。

そのため、魔物が襲来する『魔期』は国が一丸となって討伐に出向くことが慣例になっていたが、4家は出兵を拒否した。

兵を持たない王家を困らせ、バイソン家の追放を取り消させる狙いがあった。

ところが、ディアナ女王はバイソン家の追放を取り消さなかった。

夫に迎えたベルク王が自ら兵を招集し、正規軍を創り、残った2家と協力して魔物討伐を成功させたのだ。

ベルク王は、ディアナ女王の前夫の従者で強者で知られていた。

また、前夫マルコは風の国の王子だったことで、風の国からの助力もあった。

狙いが外れ、立場を失った4家との対立はこうして始まった。

ベルク王と間に生まれた現女王ティティスを女王と認めないなど、今もその膠着状態が続いていた。

兵を出さず、税金も真面目に納めず、父と母を認めない王の一族へのフローレス姫の憤りもわかる。

だが、それは王家と王の一族とのイザコザ。

仕える騎士達にもやり場のない怒りはある。


「フローレス姫、レイスが窮地に陥った責任の一旦はあなたにもあるのですよ」


エルクの一言に、フローレス姫の表情が変わった。

一時期、レイスにも明るい話があった。

レイス家の一人息子とフローレス姫の縁談だ。

しかし、その話はレイスの当主ビンセントが養子を迎えようとして消滅した。

もし、レイスの嫡男とフローレス姫の縁談が成立していれば、王家と王の一族との対立は好転していただろうと言われている。


「エルク…」


ネティア姫が話を変えるよう目で訴えてきた。

幼かったフローレス姫に火がないことはエルクもわかっていた。

すべては養子を迎えようとした当主のビンセントの判断ミスだ。

その養子を迎えようとしなければ、彼は将来有望な息子を失うことはなかったのだから。


「我々は、我々の領土だけでなく、国も守りたいのです。私はネティア姫とジャミル様がご結婚なさることでその願いが叶うと信じています」


同胞のレイスの窮地を憂ういながらも、王家を許せない4家は未だに対立姿勢を崩さない。

だが、今、その膠着状態に光が差した。


「ええ…あなたの願い、きっと叶えます」


ネティア姫の言葉に、エルクは祈りが通じたような気がした。

気分が明るくなる。


「ランドはいいところです。他の3国と接して交易が盛んです。王都からは山脈に阻まれて遠いですが、実りの多い土地です。中でもワインは名品です。水の国にも負けません」

「へえ、それは聞き捨てならないな。是非、賞味したいな」


ルークが身を乗り出す。


「我が家のワインなら御馳走してやるぞ」

「おっさん、ワイン作ってるのか?」

「ああ、味自慢で一度は表彰されたこともあるんだぞ」

「そいつはいいや!絶対飲ませてくれよな!」


ルークは目を輝かせていた。


「フローレス姫も、是非」


エルクは不貞腐れていたフローレス姫にも声を掛けた。


「一緒にいただきましょう?」


ネティア姫が助け舟を出してくれた。


「…飲んであげてもいいわ…」


ぶっきら棒な返事だったが、エルクは嬉しかった。


「ありがとうございます。後、ジャミル様のことですが…」


ジャミルの名前を出すとまたフローレス姫は嫌そうな顔をしたが、構わず続ける。


「本当はお優しい方です。本当に国のことを思ってくださっていると私は思います。家臣の私が言うのもなんですが、ジャミル様をよく見て欲しいのです」


「ええ、そのつもりです。わたくしもジャミルのことはあまり知りません。それに、あなたのような臣下がいるならきっとジャミルにもいいところがあるでしょう」


ネティア姫はそう答えてくれたが、フローレス姫はまた横を向いてしまった。


「まあ、会ってみてからのお楽しみだな…」


ルークはジャミルの評価を保留した。

以上で、エルクのジャミルのプレゼンは終わった。




***




エルクがランドのために頑張っているころ。

ランド領主ジャミルはフォークの通信を受けていた。


「何、出迎えに来いと言うのか?」


ジャミルは口調が荒くなった。

フォークは、突如転がり込んだ旅の傭兵がネティアと急接近していることを危惧し、ジャミル本人に出迎えに来て欲しいと進言してきた。


「はい、ジャミル様自らお迎えに上がれば、ネティア姫のお心を確実にお掴みなれると思います」

「気にし過ぎだ、フォーク。フローレスが気まぐれで連れ込んだ、ただの傭兵だぞ」

「しかし、その者、水の王家の紋章入りの剣を持っていると聞いております。ただの傭兵で片付けるには…」

「フォークよ…」


ジャミルはフォークの言葉を阻んだ。


「お前のことを俺は信用している。だが、心配は無用だ。なぜなら、ネティアはもう王都を立った。それが意味するところは、『我々の勝利』だ」

「もし万が一、ネティア姫のお心が変わることがあるやもしれません!」

「気が変わったとて、ネティアも後戻りできないことはわかっているはずだ。放って置いていい」

「しかし…!」


食い下がってくるフォークにジャミルは溜息を洩らした。


「いいではないか、最後に恋の一つでも。もし、ネティアとその傭兵が本当に恋に落ちたとて、その傭兵風情に何かできるとでもいうのか?」

「……失礼いたしました…」


フォークは非礼を詫び、通信を切った。

大鏡が元の状態の戻る。


「フローレスも酷いことするね」


横に控えていたミゲイルが呆れたように呟く。


「ネティアに好きな男ができれば、ランド行きを途中でやめるとでも思ったんだろう。浅はかな女だ。それが一番ネティアを苦しめることだとわかっていない」


ジャミルは吐き捨てるように言って、立ち上がった。


「あれ、行くの?」

「…一応な、悲願達成を確実にするためだ。ミゲイル、後の準備は頼む。」


素っ気なく答えて、ジャミルは部屋を出て行った。


「ジャミルは優しいね…」


閉まったドアを見つめてミゲイルは呟いた。








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