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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第3章 2人の妹
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捜索再開

レイガル王の帰還により、ようやく落ち着きを取り戻したナイト王子、虹の前女王ティティス、水の王ウォーレス。

早速、行方不明になっているネティア女王の捜索隊が再派遣されることとなった。

今回の捜索は真剣度が違った。

ナイト王子の妻であるネティア女王の妊娠が発覚したからだ。

こままだと、体が入れれ替わっている義妹フローレス姫が出産しなければならなくなる。


「必ず、ネティアを発見して、連れて戻ってきてくれ!!」


ナイト王子は捜索隊の面々を見て、強く頼んだ。

そして、隊長のライアスの前に立ち、


「頼んだぞ、ライアス!」


期待の言葉をかけられた。


「ライアス、頼りにしているぞ」


ナイト王子の父ウォーレス王からも激励の言葉をかけられた。

身が引き締まる。


「は、我々捜索隊は、必ずや信頼に応え、ネティア女王を連れて戻って参ります!!」


ライアスが敬礼すると、他のメンバーもそれに倣った。


「では、行って参ります!」


ライアス率いる捜索隊は、虹の神殿のワープを使って、虹の結界外部の霧の大地へと旅立つ。


『頼んだぞ、みんな…必ず、ネティアを連れて戻ってきてくれ…』


ナイト王子の切実な言葉をライアスは深く胸に刻んだ。




***




ライアス率いる捜索隊は再び霧の大地へと戻ってきた。

メンバーは、前回から引き続き、忍び衆からライガ、グリーン。

今回レッドとブルーは外された。

親衛隊からニルス。

今回から新たに、レイス軍からグリスとハトオ。

国王正規軍からロイが新たに加わった。

ワープ拠点のある窪地から這い上がり、霧の大地を見回す。

フロントに1人追い返されたライガが周辺の魔物を派手に一掃していたので、見晴らしがよくなっていた。

しかし、霧は相変わらず深かった。


「さて、どのように捜索しましょうか?」


ライアスが問いかけると、まずグリスが口を開いた。


「全員で動いた方がいいでしょう。手練れがそろっているとはいえ、術者という術者はいません。特に、本格的な回復魔法を使えるものは皆無ですから」

「そんなじゃ、時間がかかるっす!2人か、3人で組んで手分けして探すっす!魔物は俺が一掃してそんなに時間は経ってないっすから、大丈夫っす!」


ライガが反対意見を上げた。


「なるほど、確かにそうだな…手分けして探した方が見つけられる可能性が高い」


グリスはすぐに考え直した。


「では、3組に分かれて、捜索しましょう」


1組目、グリス、ニルス。

2組目、ハオト、ライガ。

3組目、ロイ、グリーン、ライアス。


地理に明るい者を主にし、癒しの魔法を使える者を入れ、隊長のライアスはロイの班に入った。


「ワープ拠点を背にして、北、東、西の三方に分かれるっす。範囲は、俺が魔物を一掃した範囲まで。何かあったら、硝煙弾を打ちあげるっす。硝煙弾の色は赤、緑、黄色の3色っす。赤は緊急事態の至急応援の時、緑はネティア様発見、黄色は拠点に戻るの合図す」


ライガはそう言って、1班ずつに3色の硝煙弾を渡した。


「それじゃ、出発す!俺らは真ん中の北に行くっす。ハトオ様、行くっす」

「うわあ、待ってよ!!」


ハトオは慌ててライガを追いかける。

ライガはとても足が速かった。

グリスは吹き出していた。


「相方がライガではハトオは苦労するだろうな。ニルス殿で良かった」

「ははは、よろしくお願います。グリス殿。我々はどちらに行きますか?」

「我々は、東にしましょう。来るときに通った方角なので、一番移動範囲が狭い我々にはいいでしょう」


グリス達が東方を選んだので、ライアス達の班は西方が捜索範囲になった。


「西の方をまだよく確認していません。気をつけてください。何かありましたら、すぐに知らせてください」

「お気遣いありがとうございます、グリス殿。できれば、赤の硝煙弾は打ち上げずに、ネティア女王を見つけられるといいのですが…」

「それはたぶん無理ですよ、ライアス様。霧の魔物が妨害してくるはずです」


グリーンが顔を曇らせて言ったが、グリスの顔は明るい。


「虹の女神の活躍により、今年の魔物の侵攻は止まりました。ですから、ネティア様は王宮に戻ってきたいと思っておられると思います。ひょっとすると、こちらに向かって来られていて、すぐ見つかるかもしれません。責任感の強いお方ですから」

「そうであってくれると、私も信じています…」


ライアスはグリスの言葉に賛同した。

ネティア女王が近くまで来ていると言う、予感があったのだ。

この予感に根拠はない。

だが、ライアスの直感はよく当たると、主のナイト王子を始め、同僚の騎士達からも良く言われていた。


「それでは、我々も行きます」

「お気をつけて」


グリスとニルスを見送ってから、ライアス達も捜索を開始した。


「西の方に向かって捜索しましょう。北と東の方は若が魔物を一掃した時にまっ平にしてますから、こちら側に向かってくると思います」


グリーンが提案してきた。

西側は魔物がいなかったのか、岩や木などの障害物が点在していた。


「生き残った魔物が隠れているかもしれませんね」


ロイが険しい顔で霧で霞む景色を睨む。

今のところ、魔物の気配は感じられない。


『鬼火!!』


グリーンが術を使って、3つの火の玉を出した。

はぐれないための目印と周囲を照らす明かりとなった。


「この炎は魔物が襲ってきたときに飛んで行って攻撃しますが、その後消滅します」

「ありがとう、グリーン殿。肝に命じる。さて、私も何か役に立たねば…」


そういうと、ライアスは息を大きく吸い込んだ。


「ネティア様!!!!ライアスです!!どちらにおられますか!!!お迎えに上がりました!!!!!」


と大声で呼びかけた。

ライアスの声は良く通ると評判だった。

王都ではフローレス姫が行方不明になっていることになっているが、ここにいる人間は捜索隊ぐらいだ。

堂々と女王の名前を叫べる。


「ネティア女王陛下!!!いたら、返事をしてください!!」

「ネティア様!!グリーンです。お迎えに参りました!!」


ロイとグリーンもライアスの真似をして、呼びかけを始める。

3人はつかず離れずの距離を保ちながら、岩の陰や木陰を1つ1つ確認して、声を張り上げた。

その声は広大な大地に空しく消えていく。

この大地のどこかにネティア女王はいて、必ず届くと、ライアス達は信じて呼びかけを続けた。




***




ネティアは今度こそ、絶対に虹の王宮に帰る決心をして、霧の大地を歩いていた。

ライアス達の読みは当たっていた。

魔物に遭遇したら、出来るだけ回避をし、体力を温存しながら歩き続けていた。

ライガが魔物を一掃したワープ拠点があった場所に近づくと、障害物がなくなり、見晴らしがよくなった。

魔物との遭遇もほぼ皆無になった。

霧で霞む景色を見つめて、ネティアは呆然となった。


「地形が元に戻っている‥‥」


フローネによって、移動されてしまったワープ拠点が元に戻ていた。

こんなことができるのはフローネか術者本人である自分しかいない。

しかし、移動させたフローネが元に戻したとは考えにく。

だとすると、


「‥‥・まさか、フローレスが?」


体を入れ替えている妹の名前を口にする。

現在、ネティアの魔力を扱える唯一の人間。

しかし、そんなことはありえない。

無魔力体質で、魔力のコントロールが全くできずに翻弄されていた。

魔物侵攻のファーストアッタクで窮地に陥り、魔力のコントロールをマスターした?

ネティアは頭を振る。

もしそうだったとしても、代々虹の女王が継承してきた人外の魔力を完璧にコントロールすることなど不可能だ。


「本当に、何が起きてるの?」


謎だらけの現実に頭が混乱する。

しかし、王宮に帰り、自分の体に戻ればすべての謎は解ける。

ワープ拠点が元に戻っていることは、すぐに帰れるということ。

そして、自分を探す捜索隊が近くにいる。

希望の光が灯る。

ネティアは考えるのをやめ、ワープ拠点を目指して走り始めた。

ほどなくして、聞き覚えのある声が霧の中から聞こえてきた。



『ネティア様!!!!いたら、返事をしてください!!!!!ライアスです!!!』



ネティアは足を止めて、声がした方角を確認する。


「ライアス!!!?わたくしはここです!!!!!」


ネティアは声の限り、叫んだ。

耳を澄ます。

ライアスの声は戻ってこない。

届かなかっただろうか?

ネティアは再び歩きながら、叫ぶ。


「わたくしです、ネティアです!!!!」


ワープ拠点に進むにつれ、霧が濃くなっていくように感じた。


『姉さん、どこに行くの?』


フローネの声が響いた。

妨害されている。

ということは、ネティアの声はライアス達には届いていない。

霧が濃くなり、目指していたワープ拠点が見えなくなる。

しかし、今のネティアに対抗手段はない。

再び希望が消えた。




***




「今、ネティア様の声が聞こえなかったか!?」


ライアスはグリーンとロイに問いかけた。

2人は驚いた顔をして、首を振る。

霧が濃くなり、遠方が見えにくくなってきていたが、ライアスには確信があった。


「必ず、この近くにネティア様が来ていらっしゃる!!」

「でも、俺達何も聞こえなかったですけど」


ロイとグリーンが顔をしかめた。

しかし、ライアスは自分の直感を信じた。

その直感はすぐに裏付けられた。


『ライアスの言う通り、ネティアはすぐ近くにいるわ!!!』


声が頭に響いた。


「この声は、フローレス様!?」


グリーンとロイが驚きの表情を見せる。


『ええ、そうよ、直接みんなに話しかけてる。ネティアは霧の魔物の妨害にあってる!!私がサポートするから、ネティアをお願い!!』


そうフローレス姫がいうと、急に霧が晴れた。

そして、遠方に人影が見えた。


「ネティア様!!!」

「ライアス!!?グリーンも!!‥‥」


フローレス姫の姿をしたネティア女王が駆けてくる。

ライアス達も駆けだす。



『行かせないわ!!』



焦ったような女の声が響く。

おそらく虹の神殿に眠っていた霧の魔物。

晴れていた霧が急に濃くなった。

ただ濃くなっただけでなく、突然、森が出現した。


「え、木!?」


走っていたロイが木の枝に引っ掛かり、かすり傷を負う。


「茨です!!動いています!!」


グリーンが叫んで、茨の伸びてきた蔓をよけた。

グリーンとロイが足を止める中、ライアスだけは突き進んだ。


「このライアスには通用せん!!」


茨が襲い来る中、ライアスは剣で薙ぎ払い、突き進む。


『おのれ!!』


霧の魔物の声に反応して、すべての茨がライアス1人を狙う。


「ライアス殿!今手助けを‥‥うわああ!!」


ロイが救援に駆けつけようとすると、突然の突風で吹き飛ばされた。


「く、俺らだけじゃ、歯が立たない!!」


それを見たグリーンは苦虫を噛み潰し、その場から離脱した。

残されたライアスは孤軍奮闘する。

今ここで諦めたら、ネティア女王を連れ戻せなくなる。


『王子のため、サラ殿のため、必ずネティア女王を王宮にお連れする!!』


ライアスは襲い来る茨を薙ぎ払いながら、ネティア女王がいる場所を目指した。


『なんなの、この男!?』


ライアスの執念に霧の魔物が根負けした。

茨と霧が途切れた。

目の前に再びフローレス姫姿のネティア女王が姿を現した。


「ライアス!!」

「ネティア様、お迎えに参りました!!」


傷を負いながらも、ネティア女王の前に膝を折る。


「ひどい傷…」

「大したことはございません。それより、早く王宮に帰りましょう。ナイト王子たちがご心配されてます!!」

「ええ、そうだったわね。心配をかけて、ごめんなさい」


ライアスはネティアの手を取って立ち上がった。



ピュー‥‥バン!!バン!!



空に赤と緑の硝煙弾が見えた。

戦線を離脱したグリーンが上げたものだろう。

ライガ達が救援に来てくれる。


「応援が来ます!もうしばらくの辛抱です!!」


ライアスはそう言って、剣を引き抜いた。

霧と茨に2人は包囲されていた。

ネティア女王も剣を抜いて、ライアスの前に立つ。


「ライアス、わたくしを盾になさい!!あの子はわたくしには危害は加えませんから!」


ライアスは驚いて、ネティア女王を庇うように立った。


「そのようなこと、できません!大事なお体なのですから!!」

「気遣いありがとう。でも、フローレスは弱くないわ。あなたも知ってるでしょう?」

「そうですが、どちらにしても、あなた様方にお怪我をされては王子に顔向けできません!!『もうあなた様お一人の体ではない』のですから!!」

「‥‥え?」


ネティア女王の動きが止まった。




***




ライガは疾風のごとく、硝煙弾が上がった場所に駆けつけた。

グリーンが負傷したロイを手当てしていた。


「グリーン!!ネティア様はどこだ!!」

「あそこです!!ライアス様が今一人で頑張ってます!!」


指し示された方向に濃い霧の塊と茨の蔓が見えた。

ライアスとネティア女王の姿は確認できない。


「グリーン、ロイ、大丈夫か!?」


グリス、ニルス、ハトオも遅れて駆けつけてきた。

霧と茨の塊を3人も目にする。


「デカいな、どうする?」


グリスがライガに尋ねる。


「どうするもこうするも、突撃しかないっす」


ライガは拳を打ち付けて、炎を宿した。


「そうだな」


グリスも剣に炎を宿した。

ニルスとハトオも倣う。


「若、気を付けてください!敵には実体がないです!!」

「わかってる!ネティア様とライアスを救助したらすぐ戻ってくる!援護を頼むぞ!」

「はい!」


ライガが先陣を切って、霧と茨に突撃する。

その後にグリスが続き、ニルスとハオトは第2陣として駆けだした。



『ふふふふふははははあああああ!!!!!』



霧と茨から不気味な女の笑い声が響いた。

ライガ達に緊張が走った。

急に霧が薄くなっていく。

ライガ達は足を止めて、円陣を作った。

集中していた霧が広がり、こちらに攻撃を仕掛けてくると警戒した。

茨が露になったが、それも霧と共に薄くなっていく。

次第に霧が晴れていき、人影が浮かび上がった。


「ライアス様!!」


ライガ達が駆け寄った。

ライアスは1人だった。


「ネティア様は!?」


ライガが訪ねると、


「どこかへ行ってしまわれた‥‥」


と呆然自失で答えた。

ライガ達はその様子に困惑した。


「一体、何があったのです、ライアス殿?」


グリスが訪ねると、ライアスはことの次第を話した。












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