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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第3章 2人の妹
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検査

ネティアの素足事件から、ナイトは仕事に邁進していた。

軟禁状態のフローレスの元へは足が遠のいた。

またあれを見たら理性が吹っ飛んでしまうから、意識して近づかないことにした。

フローレスは体調がいいようで、よく食べるようになったが、その後、気持ち悪くなって吐くようになった。

それを繰り返しているという。

フロントによれば、ネティアの体のなのに、自分の体のように食べるからだという。

心と体のバランスがおかしくなっているためだと言っていた。


1週間がたったころ、ゼインが慌てた様子でやってきた。


「ナイト様、最近フローレス様の元へ来られてませんよね?」

「ああ、この間の事件で、ちょっと、行きづらくてな…」

「心中お察しします。ですが、毎日でなくていいので、フローレス様に会いに来てください」

「何かあったのか?」

「実は…アインとカインがこんな話をしているのを耳にしました」



*



『最近、ナイトの奴、来ないな…』

『忙しだけじゃないか?』

『どんなに忙しくても、妻の体調が悪かったら見舞いに来るだろう?』

『そうだな…』

『もしかして、体の相性が悪かったんじゃないのか?』


ナイトは一度、親衛隊の警備を突破し、女王の寝室にたどり着いて一夜を明かしたことがあった。


『あり得るな、体の相性が悪くて愛が冷めることもあるな』

『そうなら、許せん!女王陛下が過食症で苦しまれているときこそ、心の支えになるべきなのに』



*



「ちゃんと、心配している!それに、相性は前世も今も合わないわないなんて思ったことはない!!」


話を聞いたナイトは怒りに震えた。


「今夜、行くぞ」

「では、私もお供させてください」

「え?」


ナイトは困惑した。

夫婦の寝室に供?


「私も心配なので…あの魔王に、あの方がいじめられてるのではないかと…」


ゼインはフローレスの守役として常についているフロントにいじめられているのではないかと、心配しているようだ。

恋心を抱いているゼインは、フローレスを守りたいようだ。


「なら、僕も是非、ご一緒させてください!」


横からさらなる、飛び入り参加の声が上がった。


「シュウ!?」

「話は聞かせていただきました。ですが、僕も婚姻を申し込んだ男ですので、黙って見過ごすわけには参りません!」


忘れてもらっては困るとばかりに登場したシュウはゼインと火花を散らした。

フローレスをめぐって、男たちの熾烈な戦いの幕が切って落とされた。

しかし、体はネティアだった。


『あの、中身はともかく、外側は俺の妻なんですけど…』




ナイトは悶々としたものを抱えて、夜、2人を伴ってフローレスのいる女王の部屋へ向かった。




「お、ナイト、久しぶりだな?」


警備をしていたアインが気安く話しかけてきた。

相棒のカインも一緒だ。


「おう、久しぶり…」


目上のナイトに対して無礼な口利きだが、怒る気力も起きなかった。


「うん?シュウ様にゼインも一緒か?」


供連れに案の定、アインとカインが変な顔をしていた。


「ちょっと、仕事が終わらなくてな。ネティアの意見も欲しくて、一緒に見舞いに連れてきた」


ナイトは苦しい理由を作った。


「ご苦労様です。女王陛下を交えて、ちょっとした会議をします」

「そういうことだ。今夜は徹夜になる。警備の方、頼んだぞ」


シュウの作り話にゼインが合わせる。


「え、徹夜!?」

「女王陛下の体に障るのでは?」


アインとカインが顔をしかめた。


「安心してください。女王陛下にご無理はさせません。ちょっと、お話をお聞きするだけですから」

「そういうことだ。絶対に女王陛下にご無理はさせない」


シュウとゼインの言葉にアインとカインは顔を見合わせてから、


「そういことなら、どうぞ」


と道を開いた。

第一関門突破。

続いて、第二関門。


「ナイト様、どうなされたんです?」


中にいたフロントがナイトを出迎える。


「なんか、足を運ばなかったら、変な噂がたつみたいだから、来たんだ」

「変な噂?」


ナイトはゼインから聞いた話をフロントにした。


「そうでしたか。確かに、全く足を運ばなかったら、疑われますね。ところで、なぜ、ゼインとシュウがこんな夜更けに一緒なんですか?」


フロントがゼインとシュウを見て首を傾げる。


「むろん、フローレス様をお守りするためだ」

「誰から?」

「お前からだ」


ゼインの言葉にフロントは顔を引きつらせた。


「僕も忘れてもらっては困りますね。僕はフローレス様に婚姻を申し込んだんですから。横取りされては困ります」


シュウも負けじと主張する。

3人の間で熱い火花が散る。

あの素足事件からフローレスをめぐる戦いに火がついてしまったようだ。


『義妹よ…お前、モテモテだぞ…』


ナイトは、前世で結婚できるか自信がない様子だった義妹に語りかけた。

願わくば、この光景を見せてやりたいぐらいだ。


「あら、ナイト様、シュウ様にゼイン様まで…どうなされたんです?」


サラが奥から出てきた。


「サラ、我々は今夜は泊まらせていただきます」

「え?」


シュウの言葉にサラは目を丸くして、ナイトに問いかけてきた。


「その、フローレス絡みだ…」

「ああ…はい、はい…」


サラはすぐに理解して、3人分の毛布を取りに行った。

女王の部屋は家一軒分ぐらい広い。

寝室のほかに、書斎、リビング、生活に必須のバスルームやトイレ、ちょっとしたキッチン、衣裳部屋、侍女であるサラの控室、他にはちょっとした、部屋が5部屋もある。

リビングに入ると、フローレスが寝る前にお茶を飲んでいるところだった。


「あ、ナイト来てたんだ。あれ、シュウとゼインもいる」


フローレスはナイトを見て喜び、シュウとゼインを見て首を傾げた。


「ああ、気にしないでくれ。見張りだ」

「見張り?」


フローレスが首を傾げている間に、毛布を持ったゼインとシュウはリビングの4つあるソファの1つを陣取っていた。

ちょうど4つあるので、ここで男4人寝ることになる。

フロントも毛布を持って、1つのソファに陣取る。

本当は当てがわれた部屋があるのだが、恋のライバル2人がフローレスに近い場所で寝るため牽制する。

残る一つがナイトの寝床となる。


「なんか、よくわかんないけど、みんなここで寝るのね。お休み」

「「「おやすみなさい」」」


ナイトを除く3人はおやすみの挨拶をし、火花を散らして毛布を被った。

姿がネティアのフローレスが寝室へ入っていくのをナイトは切なげに見送る。


『…俺はいつになったら、ネティアと初夜を迎えられるんだろう?』


毛布にくるまり、ため息を吐き、


『ネティア、早く帰ってきてくれ…』


ナイトは心の中で呼びかけて、眠りについた。




***




虹の王宮でフローレスをめぐる争いが起きている頃、ネティアは霧の大地の地下で焚火を囲って、1人焼き芋食べていた。

霧の大地の地下には芋類や豆類、小魚や飲み水などの貴重な食糧が確保できる場所が点在していた。

結界の現状を見に行った後、この場所を運よく見つけた。

他にも地下の食料拠点を見つけていたが、その場所まではかなり遠く、戻っていたら日が暮れていたかもしれない。

日が暮れると、狂暴な夜行性の動物や魔物の活動を開始するので、移動は危険だった。

特に、今のように魔法が完全に使えない状態では。


「まさか、全く魔法が使えなくなるなんて、思ってもなかったわ…」


魔法と共に生きてきたネティアにとって、それは驚きでしかなかった。

自分の体とのつながりが全くと言っていいほど、断たれてしまったのだ。

自分の本体からわずかながら魔力を抜き取り、剣に魔法を宿して遭遇した魔物を楽々と倒していたが、それが出来なくなった。

魔法で起こしていた焚火も手で苦労して起こして、食事が遅くなってしまった。


「一体、何が起きてるのかしら?」


フローレスが突然消え、フローネも後を追うように消えた。

結界の修復はフローネの力を使ったもので、魔物を撃退した魔法は自分の魔力だった。

フローレスがネティアの魔力を完全にコントロールしたのだろうか?

そんなことはあり得なかった。

ましてや、あのフローネを使役することなどできるはずもない。

もし、出来る者がいるとしたら、前虹の女王である母ティティスぐらいだ。

しかし、いくら母でもネティアの結界に干渉することは不可能だ。

だとしたら、やはり、フローレスが未知の能力に目覚めたのかもしれない。


「自分の体に戻らないことには、状況が把握できないわ…」


万能の魔力を持っている自分の体に戻れば、ネティアにわからない物はなかった。

自分の体に戻る決意を固めた。

しかし、そのためにはやはり準備が必要だった。

魔法が使えない以上、高速で移動はできないから、計画的に移動しなければならない。

数日分の食料と飲み物も必要だ。

それに、問題はどこへ向かえばいいかだ。

1つは、自分の結界を出て、母の結界へ入ることだが、距離が相当ある。

2つ目は、ネティアを探すために派遣されている捜索隊に見つけてもらうことだ。

しかし、リリィが作ったワープ拠点はフローネによってどこかへ移動させれてしまった。

再派遣される捜索隊がどこから来るか、全くわからない。

それに気がかりはフローネだ。

ネティアが帰ろうとすれば、必ず妨害してくるだろう。


「とりあえず、ワープ拠点が始めにあった場所を目指そう。何か、繋がるものがあるかもしれない‥・」


フローネによってワープ拠点は移動されされてしまったが、あの一帯はライガが魔物を一掃しており、安全な場所でもあった。

虹の王宮へ帰る手がかりなければ、その一帯を通って、母の支配する結界へ入る方針を固めた。




***




フローレスをめぐる、牽制お泊りの2日後の朝の食事の時間のことだった。

義母ティティス前女王が食事中のフローレスに言った。


「フローレス、突然だけど、今日、あなたの詳しい検査をするから、食事が終わったらわたくしたちと神殿に来なさい」

「え?検査?」


ご飯粒を口につけたフローレスは顔を上げ、


「私、元気だけど?」


食べ終えた十数枚の皿を母親に見せていた。

ナイトとフロントは何とも言えないでティティス前女王を見る。


「あなたにとっては普通かもしれないけど、ネティアにとっては異常な状態よ」

「あ‥・」


フローレスは思い出したように固まる。

今は姉のネティアの体だったのだ。


「わかりました」


フローレスは素直に答え、


「何にもないと思うけど、念のためね」


と楽観的に呟いた。


「ティティス様、私はどうしましょう?」

「あなたは今日はナイトについてていいわ。わたくしたちがいるから」


フロントはフローレスの警護を解かれた。

フローレスもフロントもちょっと、ほっとしていた。

ずっと傍に居ては気が疲れるようだ。


「フローレス様、大丈夫でしょうか?」


ティティス前女王に連れて行かれるフローレスを見ながらフロントが心配そうに呟く。


「あの様子なら、きっと、大丈夫だよ。フローレスがネティアの体に入っているからおかしなことになっているんだろう?」

「まあ、そういう風に私は見てますが…」

「昼に様子を見に行こう。今日は大事な会議だ。ジャミル達も来るから気を引き締めないと」

「そうでした…」


フロントは思い出して、頭を切り替えた。


「シュウの話だと、会議の後、もしかしたら、ネティアを見舞いたいと言っているらしい」

「そ、それは、困りましたね…」


フロントは顔を強張らせた後、『何とかします』と答えた。




***




「母上、どんな検査をするの?魔法でいつもチェックして、どこにも異常ない、て、言ってたじゃない?」


フローレスは椅子に座って母親のティティス前女王に疲れたように言った。

毎日、母や、リリィ、ヘレンから手をかざされ、魔法でスキャンされていた。


「今日は魔法は使わないで、触診をするわ」

「触診?」

「つまり、あなたの体を手で触るの。リリィ、お願いね」


白衣のリリィがフローレスの真向かいに座る。


「まずは、お熱を測りましょうね?」


体温計を手渡され、フローレスは測って、リリィに返した。


「あら、微熱ですね…」


リリィは体温計をヘレンに渡し、ティティス前女王へ回す。


「次は脈を見ますね」


フローレスは言われるがまま手を出した。

リリィが脈を診ると、眉を潜めた。


「お月のもにはちゃんと来てますか?」


フローレスはしばらく考えてから、


「ネティアになってからは来てないわ…その前はわからないけど…」


ついてきた侍女のサラに目を向けた。


「実は、ランド行きから戻られてから来てないご様子でした。私は心労のせいではないかと思って心配しておりました」

「え、そうだったの、知らなった!!」


ネティアの体調を知ったフローレスが驚いていると、リリィの手が肩に置かれた。


「フローレス様、ベッドに横になってもらえますか?」

「え?ええ…」


フローレスは言われるがまま、横にあった簡易ベッドに寝る。


「お洋服をちょっと、めくりますね…」


リリィはフローレスのお腹を触ると、顔色が変わった。


「何かあったの?」

「もう少し、お付き合いください」


リリィの真剣な顔にフローレスは嫌とは言えなかった。




***




ナイトは会議に望んでいた。

議題は魔物討伐の今年の戦況報告と功労者への褒賞についてだった。

出席者は各領主と有力貴族、国の各官長だ。

大貴族である王の一族、ジャミル、ミゲイル、ヘーゼル、ブラッドも出席していた。

戦闘には参加しないが、魔物討伐の褒賞は出してくれるらしい。

レイスが倒れれば、嫌でも魔物討伐に出なければならないからだ。

残る大貴族ハーツ卿は、レイス軍の後方支援で欠席している。


「結界は完全に回復し、侵攻してきた魔物の軍は侵入できません。戦闘終結を宣言してもよろしいのではありませんか?」

「しかし、結界への魔物の攻撃は続いている。終結宣言を出すのはまだ時期尚早でしょう。ネティア女王陛下の体調もいまだ回復していません。また、結界が崩壊寸前まで行くかわかりませんぞ」


話題は戦闘終結宣言を出し、軍を撤収させるかどうかが焦点になっていた。

結界の状態から、魔物の再侵入はまずないとの見方が大方を締めているが、女王ネティアの健康問題が影を落としていた。

軍を展開していると、軍事費が掛かる。

心配がないのであれば、さっさと撤収させたいところだ。


「レイス軍を残し、国王正規軍だけを撤収させてはいかがですか?」


国の財政を司る財務部が、妥協案を出した。


「いや、レイス軍ではなく国王正規軍が残るべきではないか?もし、結界が破られた場合、いくら名将のビンセント様とはいえ、魔物を防ぐのは難しいでしょう」


貴族代表としてヘーゼルが発言した。


「戦場に国王に残れ、とおしゃっているのですか?」

「魔物討伐の旗頭は虹の王です。そのために、ティティス陛下の加護を授かっているのですから当然ではありませんか?」


ヘーゼルの発言はもっともだった。

レイス軍、撤収に傾きかけた時、


「我がレイスをなめてもらっては困ります。我々はあの土地を代々守ってきたのですよ」


シュウが口を開いた。

ヘーゼルが鋭く反応した。


「レイス卿、あなたは戦場での戦いに参加できない身の上でしょう?」

「ええ、不甲斐ないことに私は戦場に赴くことはできませんが、我がレイスの兵の強さを信じております。国王陛下が王宮に戻られても心配はいりません」


シュウは毅然とした態度で返答した。


「シュウ、本当に大丈夫なのか?」


ナイトは心配になって、確認した。


「もちろんです」


シュウの返答にヘーゼルは追い打ちをかける。


「大した自信ですね。しかし、レイスが倒れると我々にも火の粉が飛ぶことになります」

「ええ。存じてます。その時は頑張って、魔物を止めてください。王の一族の名に懸けて。しかし、止めることができるでしょうか?長らく戦場に立たれておられない、名ばかりの王の一族様方に…」


シュウはやり返した。

ヘーゼルは眉を吊り上げた。


「…言うな…」


ブラッドが感心したように呟いた。


「‥‥レイスが倒れないことを祈っている‥‥」


ヘーゼルは苦し紛れにそう言って、席に着いた。


「してやられたな‥‥」


ジャミルはヘーゼルを宥めるように肩に手を置いていた。

張りつめた空気が、緩んだ。

ナイトは褒章の話に移行しようと、フロントに合図を送った。

その時、突然、部屋の入口の扉が大きな音を立てて開いた。

驚いて、その場にいた全員が扉を見ると、意外な人物が立っていた。


「‥‥ネティア女王?」


官長達が呆然と呟く。

一同が声もなく、呆然と見つめる中、ドスドスと中に入ってきて、まっすぐナイトのところへ向かってきた。

目の前に来ると、何か怒っているような感じがした。


「フ‥‥・ネティア、体の具合はいいのか?」


ナイトはボロを出しそうになりながら、フローレスに話しかけると、スカートが舞った。

次の瞬間、ナイトは吹き飛んでいた。





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