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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第3章 2人の妹
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退屈しのぎ

ナイトはフロントを伴ってフローレスの見舞いにやってきた。

もちろん、サプライズ。

警備に立っていたのはゼインとマイクだった。

ゼインが口を開く。


「これはこれは、ナイト様、今日はどうなされたのです?」

「ちょっと、仕事前に『ネティア』の顔を見に来た」


誰が聞いているとも限らないので、外ではフローレスの名前は伏せる。


「左様ですか、きっと女王陛下もお喜びになると思います」


マイクは朗らかに答えた。

フロントはそっと近づき、2人に耳打ちする。


『大人しくしていたか?』

『はい』


フロントはホッとした表情になって、2人から離れた。


「サラがちゃんと世話をしてくれているみたいです」

「そうか、なら、安心だな」


ナイトとフロントはフローレスに会うため部屋に入ろうとした。

しかし、その前にゼインとマイクが立ちふさがった。


「申し訳ありません。今は誰も入れるな、と言われております」

「誰から?」


答えたゼインにフロントが訪ねると、口ごもった。

フロントが眉を吊り上げた。

フローレスが何か企んでいることを察知したのだ。

マイクが観念したように口を開く。


「‥大人しくするから、目を瞑ってくれと…部屋の中だけですることらしいので…」

「部屋の中で何かしているんだな?サラが許したのか?」

「はい、危ないことではないそうなので。ただ、内容に関しては我々も存じません」

「全く、フローレス様が考えたことで、無害だったものなんてほとんどないのに…入るぞ!」


フロントはゼインとマイクを押しのけて、部屋の中へ入っていった。

ナイトは待つことにした。

何をしているのかわからないが、きっと、フローレスはフロントから大目玉を食らうことだろう。


『な、何をしているんですか!?』


フロントの驚きと戸惑いの声が響いてきた。


『げ!!フロント、もう帰ってきたの!?』

『フロント様、申し訳ありません!!女王陛下の気分が少しでも気が晴れるならと思い、勝手をしました!!』

『サラ、君が付いていながら‥‥!!』


フローレスと弁明するサラの声が響いてきた。

サラは頼まれただけだろうから、怒られるのはかわいそうだ。

ナイトは助け舟を出すため、部屋の中へ踏み込む。


「ナイト様、私も同行します」


ゼインが申し出たので、マイクを見張りに残して、入っていく。

フロントとフローレスの攻防の声が奥の部屋から響いてくる。


『ともかく、今すぐ着替えてください!!』

『え、やだ!!せっかく着替えたのに!!部屋の中だけだから許してよ!!』


どんなことをしてるのか心配だったが、どうやら、お気に入りの服を部屋で着て秘かに楽しんでいたようだ。

フローレスも年頃の少女らしく、ファッションショーに興じていたのだろう。

それならば、そんなに怒ることもないのにと、ナイトとゼインは顔を見合わせた。


「ダメです!!こんな姿、ナイト様に見られたら」

「フロント、そんなに怒ることもないだろう?」

「ナイト様‥‥!!」


奥の部屋のドアを開けると、フロントの姿が目に飛び込んできたので、宥めた。

ナイトとゼインの姿を認めたフロントの狼狽はすごかった。


「ダメです、中に入ってきては‥‥・!!」

「そんな奇抜な格好しているのか?」

「いや‥‥・その…なんというか‥‥女王らしくない‥‥というか‥‥その‥‥」

「女王なんて、どうでもいいじゃないか?気晴らしになるなら、部屋の中だけでも着たい服を着させてもさ、年頃なんだし…」


「ナイト、許してくれるの!!ありがとう!!」


助け舟を出したナイトにフローレスは感激して、姿を現した。

その姿を見たナイトは凄まじい衝撃を受け、床に倒れた。


「ナイト様!!」


フロントが慌てて駆け寄ってきた。


「これで、鼻血を止めてください!!」


フロントからハンカチを受け取り、鼻を抑える。

ハンカチがあっと今に真っ赤に染まる。


「そ、そういことか…」


ナイトは鼻血を抑えながら、フロントの警告の意味を理解した。

フローレスは自分の服を着ていた。

トレードマークのミニスカのセーラー服。

フローレス本人が着ていたら、普通だっただろう。

しかし、ネティアの体でそれを着ていたから、ナイトの理性は吹っ飛んでしまった。

夢にまで見た、新妻の白く柔らかな肌から目が離せない。

鼻血が止まらず、意識が遠のいていく。


「兄ちゃん、ネティアが、帰ってきた…俺を呼んでいる‥‥」

「ナイト様、しっかりして下さい!!ネティア様はあんな格好されません!!あれはフローレス様です!!」


床を這って新妻の元へ行こうとするナイトの手をフロントが抑える。

ナイトはもう一度顔を上げる。

セーラー服を着たネティア。


「ああ、素足が眩しい…」

「ナイト様!!」

「どうしたんですか!?」


騒ぎを聞きつけ、外にいたマイクが駆けつけてきた。

マイクは部屋に入るなり、倒れているゼインを目の当たりにした。


「ゼイン、どうしたんだ!?」


ゼインの反応がない、マイクは口元に手を当て、更に心音を確認した。


「た、大変です!ゼインが息をしてません!!一体、何が‥‥・!!?」


マイクがこちらを向いた瞬間、ナイト同様、鼻血を吹き出して倒れた。


「サラ!!早く、布か何かでネティア様のお御足を隠せ!!」

「はい、ただいま!!」


サラはシーツを持ってきてフローレスを包んだ。

ナイトとマイクの鼻血が止まった。

サラがナイトとマイクにティッシュを1箱ずつ渡した。

フロントは天に召されようとしているゼインの元へ駆け寄る。


「戻ってこい、ゼイン!!『命の息吹!!』」


フロントが蘇生魔法を唱えると、ゼインの瞼開いた。


「ゼイン!!生き返って良かった!!」


マイクが起き上がったゼインを熱く抱擁する。


「どうしたんだ、私は?…突然目の前に、虹の女神が降臨したよう思ったんだが…


目覚めたゼインの言葉にナイト達は悲痛な表情を浮かべる。

出血多量のナイトとマイクはなんとか耐えられたが、ゼインは即死だった。

本来、絶対見られるはずのない女王の御足の破壊力は、万死に値した。


「フローレス様、早く着替えてきてください!!これ以上犠牲者が出る前に!!」


怒り心頭のフロントが叫んだ。


「ちょっと、一体何なのよ!私がいつもしてる格好をしてただけじゃない!!」


フローレスは心底納得できない顔で抗議した。

久々に恒例だったフローレスとフロントの口論が始まる。


「今はネティア様のお体なんですよ!!」

「だからって、何よ。私が自分の体でこの格好してても誰も鼻血なんか出さないじゃない!」

「フローレス様とネティア様では全然、違うんです!!」

「似たようなものじゃない、私とネティアは双子なのよ!」

「双子なんて関係ありません!!月とすっぽんぐらい違います!!ネティア様のお御足はそれはそれは尊いものなんです!!」

「じゃ、私の足は尊くないってわけ!?」

「ええ、そうです!!ずっと見せられているので、みんな見飽きてるんです!!しかし、ネティア様のお御足は違います!!大事に大事に隠された宝物なんです!!ナイト様を始めとする男の心を狂わせてしまうほどの破壊力あるんです!!」

「そうなの?」


フローレスはナイト達の方を向いて、聞いてきた。

ナイト達は難しい返答を迫られ、明後日の方を向く。


「いや、フローレスの足も宝物だよ。初めて見た時、ドキッとしたもん。ただ、ずっと、見てたから、慣れたかな…ネティアは‥‥俺の妻だから‥‥」


ナイトは最後は笑ってごまかした。


「フローレス様のお御足はとても美しいです。いつまでも見ていられます。女王陛下のお御足の方は‥‥私は見てないのでわかりませんが…」


ゼインは赤裸々に答えたが、ネティアの足を見て、死にかけたので、説得力がない。

最後、マイクは唸りながら、


「フローレス様のお御足は我々にとって目の抱擁になるというか、薬ですね。女王陛下のお御足はその色気があって‥‥・毒…そう、毒でした…」


と名言を絞り出し、ナイト達を頷かせた。

しかし、フローレスは理解できず。


「どういう意味?」

「そうですね‥‥毒と薬は表裏一体ですから‥‥フローレス様のお御足も、毒になりますから、その露出が多い服は避けられた方がいいと思います…」


マイクは苦しい説明をした後、忠告を付け足した。


「マイク、ありがとう。後は私が」


フロントがフローレスの前で仁王立ちする。


「わかったわよ、今は着替えるわ」

「また、その服を着るおつもりですか!?」

「いいじゃない、部屋で自分で楽しむ分には。それに、ドレスって足に纏わりついて嫌いなのよね。知ってるでしょう?」

「ええ、知ってます。でも、あなたは今、ネティア様、女王なんですよ。部屋で秘かに楽しまれててもいつ何時、急な来訪や呼び出しがあるかもしれないんですよ。常にドレスを着用してください!!」

「え、ケチ!!」

「ケチじゃありません!!これをいい機会に、年頃の淑女としてのマナーを身に着けてください!そしたら、私もコロッとマリア様に心を奪われることはなかった」


思わず出たフロントの本音にナイト達は震撼した。

フローレスの眉がつり上がる。


「へぇ、フロントは、ミニスカートよりドレスが好きなわけ?」

「ええ、フローレス様のミニスカートは見飽きているので気は高ぶりませんが、フローレス様がドレスをお召しになられたら、きっと私も気を高ぶらせるでしょう」

「ふーん、みんなと逆なわけね。だから、ドレス姿のマリアで気が高ぶったのね」

「いえ、そういうわけでは…」


雲行きが変な方向に流れたことに気付いたフロントだったが、遅かった。


「じゃ、着替えてくるわ」

「フローレス様…!!」


フローレスはシーツを羽織ったまま部屋を大人しく出て行った。

サラもその後を追った。

フロントは呼び止めたが、フローレスが振り返ることはなかった。

固まっているフロントの元にナイト、ゼイン、マイクが集まった。


「フロント、ここは正直に本音を言った方が良かったと思う」

「え、ずっと傍にいた私が、ミニスカートがいいって、言えるわけないでしょう!」

「立場はわかります。でも、ドレスで本当に気が高ぶるんですか?それなら、王宮では気が高ぶりまくってる変態ですよ」


ナイトとマイクが真剣な眼差しでフロントに問いかけた。


「そ、そんなわけないでしょう!…フローレス様だけです!!」


必死に弁解するフロントの前にゼインが聳え立つ。


「フローレス様は私が守ります!!フロント殿はどうぞ、マリア嬢とお幸せに」

「な!!」


ゼインはフロントに宣戦布告をして、持ち場へと帰っていった。




***




午後になり、ライアス率いる捜索隊がフローレスの見舞いに訪れた。


「私も見たかった!!」


朝の事件を友人のゼインとマイクに聞いて、ニルスは悔し気な声を上げた。


「なんか、楽しいそうだな」


ロイが3人のやり取りを見て呟く。


「楽しいものか!?ゼインなんかあの世に行きかけたんだぞ」

「俺は覚えてないが」


マイクが国王正規軍から応援に来ているロイに説明している後ろで、ゼインは頭を傾げていた。


「王子は大丈夫でしか?」

「まあな、一瞬危なかったが…」


ライアスがナイトを気遣って声をかけてくれた。


「グリスとハオト、元気してた?」

「本当にフローレス様なんですね?」

「びっくりしました」


フローレスは新しく捜索隊に加わることになったグリスとハオトに話しかけていた。

サラは傍についていたが、ライアスの方をチラチラと見ていた。


「ライガはどうした?」

「若はバイト先に顔を見せに行っている。長く休んでたから、客が顔を見たいんだってさ」


フロントはグリーンにライガのことを聞いていた。

それぞれが会話していると、扉が開いた。

入ってきたのはティティス前女王とお付きのラナだ。


「ティティス様、今日はお越しになられる予定でしたか?」


フロントが慌てて迎える。


「いいえ、ちょっと、寄っただけよ。フローレスは元気そうね」

「はい、元気すぎて困ってます」


ティティス前女王は集まってきた捜索隊の面々を見回した。


「ライガ以外揃っているわね。フローレス、こっちへいらっしゃい」


ティティス前女王に呼ばれたフローレスがやってきた。


「あなた、透視もできない?」

「透視?」

「結界内を見通すことよ。それで、ネティアを探せたら、捜索地点を絞れるでしょう?」


言われてフローレスはハッとした。


「やってみます!でも、どうすればいいのか…?」

「あなた、結界内へ飛んだわよね?その時の感覚覚えてる?」

「なんか、意識が持っていかれる感じがしました」

「その感覚に意識を任せなさい。魔力が集中しているところに意識が持っていかれるの。今、魔物達によって結界はまだ攻撃されているわ。魔力の流れを辿れば、結界へ意識を飛ばすことができるわ」

「わかりました!」


ティティス前女王のアドバスの下、フローレスは目を瞑り、意識を飛ばした。


「結界が見えます!蜂みたいな魔物に攻撃されています。あ、結界の近くに私…ネティアがいます!!攻撃されている結界を見ています」


ネティア発見の報にナイト達はどよめいた。


「そう、わかったわ…フローレス、戻ってらっしゃい」

「でも、ネティアが!!」

「今は、あなたが透視できることを確認したの。ネティアの捜索はまた次にしましょう。それに、あなたに見られてると気付づいたら、また逃げられてしまうわ」


フローレスは大人しく目を開けた。

ネティアは一度、捜索の手を振り払った。


「捜索隊の出発前にフローレスの透視で場所をネティアの居場所を確認しましょう。それじゃ、失礼すわね。フロント、フローレスのこと頼んだわよ」

「はい、ティティス様…」


ティティス前女王はラナに車椅子を押され、部屋を出て行った。


「やった、これでネティアが連れ戻せる」


フローレスは自信に満ちた表情を浮かべていた。

ナイトやフロント、捜索隊のメンバーも期待のこもった視線をフローレスに向けていた。




***




フローレスを急遽見舞った後、ティティスはある疑問を再燃させていた。


「ラナ、フローレスは確か、ネティアは結界を見上げていたと言っていたわね…」

「はい、仰ってました」

「なら、ネティアも何が起きたのか事態を把握していない可能性があるわね」

「そう思います」


車椅子を押すラナにティティスは話しながら思考を整理する。


「やはり、虹の女神の正体が気になるわね」

「調べられますか?」

「その必要があるわね、後で、サラを呼んできてちょうだい。極秘でね」

「わかりました。機会を見計らって連れてまいります」







数日後の夜、ラナはサラを連れてきた。


「あの、お呼び出しのご用件はなんでしょうか?」


急に呼ぶ出され、サラは緊張していた。

フローレスが透視をできることがわかってから、3日経っていた。


「そんなに緊張しなくていいのよ。ちょっと、話を聞きたいと思ってたの」


捜索隊の派遣はまだ延期されていた。

それはフローレスの容態が思わしくなく、食べては吐くという、過食症のような状態になっていたからだ。


「フローレス様のことですよね。申し訳ありません。食欲を自制するよう、フロント様と手を尽くしているのですが、どうしても、食べられてしまうのです」

「そう、それは、困ったわね。でも、今日はフローレスのことではなく、ネティアのことを聞きたくてあなたを呼んだのよ」


サラは驚いて顔を上げた。

フローレスのことで怒られると思っていたらしい。


「何をお知りになりたいのでしょうか?」

「そうね、まずはネティアの食生活について、食欲はあった?」

「いいえ、ランド卿との結婚をお考えの時から、あまり食欲はおありではありませんでした‥‥」

「‥‥そうね、あの時はいろいろあったものね…」


ネティアは国を一丸にするため、反王家のランド領主ジャミルとの結婚を勝手に決めて、ティティス達家族は猛反対した。

ネティアのストレスは相当なものだったろう。


「ナイトと結婚してからはどう?」

「結婚されてからは、少し食欲は回復されました。お幸せそうでしたが、どこか不安げな表情をされるときもありました」


運命の相手、ナイトの飛び入り婿入りで、ランド領主ジャミルとの婚約は土壇場で破棄。

虹の国は大騒動になった。

ネティアの高ストレスの生活が続いた。


「食欲以外で、何か、体調に変化はなかった?」


サラはしばらく考え込んでから、


「そういえば、疲労感を訴えられていました。後、時々、眠いとも…」

「ネティア様は、ストレスからの食欲不振で、低栄養状態、フローレス様と入れ替わる前から体調が悪かったみたいですね」


ラナが推察を挟んだ。


「結界を早々に継承させたのも、魔力不足に拍車をかけてしまったみたいね」


ティティスは娘の状態を確認せずに、結界を継承させたことを後悔した。


「サラ、後日、フローレスを診察するから、神殿の医務室に連れてきてくれるかしら?」

「はい、わかりました」

「ありがとう、もういいわ」

「はい、失礼いたします」


サラを返した後、ティティスは考え込んだ。

何か見落としているような気がしたのだ。






















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