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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第3章 2人の妹
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現状説明

光の宮殿に水の王ウォーレスは呼び出されていた。

世界を守る外側の結界が崩壊の危機に瀕したからだ。

その結界の管理者は辺境にある虹の国の女王。

虹の国は今代替わりの最中だった。

今回外側の結界を受け継いだ新女王ネティアは初代虹の女王の生まれ変わりと目されていて、結界の継承は楽に行われると思われていた。

しかし、蓋を開けてみれば、女王即位後、神聖な虹の神殿内に魔物の侵入を許し、女王の双子の妹が連れ去られるという事件が起き、ネティア女王は体調を崩していた。

そんな最中に、虹の国に魔物が襲来する魔期が訪れ、最悪な状態で虹の国は魔物との戦いに臨んだ。

開戦の時に、魔物が結界を破壊し穴を開ける攻撃ファーストアタックは凄まじい衝撃を病床のネティア女王に与えた。

それに耐えきれず、結界全体にヒビが入って、世界中大騒動になったのだ。

毎年、この時期には必ず結界にヒビが入る。

そのヒビの範囲はだいたい虹の国内までだった。

今回のように世界中にヒビが入り、崩壊寸前まで行ったのは初めてだった。

この異変に世界中の人々が震えあがった。

特に、光の国の人間の怯えは方は尋常ではなかった。

この世界の中心にあり、闇の国との境を一切持たず、世界を支配しているこの国は時を止めたような平和があった。

一切の変化のないこの国にもその異変が届いたのだ。


「ネティア女王はまだ未熟だったのではないか!!?」

「ティティス前女王はまだ健在なのだろう!?なぜこの事態を止められなかったのだ!?」

「ナイト王子は虹の国で何をしているのだ!!」


矢継ぎ早に質問と非難がウォーレスに降りかかった。

その言葉の嵐が納まってから、ウォーレスは口を開いた。


「虹の国の不始末は婿入りした不肖の息子の不徳の致すところです。申し訳ございません」


ウォーレスはそう謝罪してから、続けた。


「急ぎ虹の国へ入り、状況を調べてまいります」


光の国の重臣たちが光の王を見つめる。


「頼んだぞ」


光の王は厳かに告げた。




***




ウォーレス王が光の国に呼びつけられてる間に、隣国の風の国から王子アルアがやってきていた。

アルアはナイトの学生時代からの悪友だ。


「やあ、久しぶり。なんか、大変だったみたいだけど、元気してた?」


アルアは虹の結界が崩壊寸前まで及んだ事態の調査に来た感じではなく、遊びに来たような態度で接してきた。

しかし、そこはナイトも騙されない。

アルアはフレンドリーで、何も考えてないように見えるが、抜け目がない奴だった。


「元気なわけないだろう」

「だよね…」


ナイトが不機嫌そうに答えると、笑顔を強張らせた。


「はあ、男ばっかりでつまんまいな…」


アルアはナイトと隣にムッツリした顔で座っているフロント見てため息を吐いた。


「仕方ないだろう、フローレスは行方不明。ネティアは魔力を使いすぎて昏睡状態なんだから」


ナイトもムッツリで応える。


「ああ…僕の花園だったのに、他の男どもに踏み荒らされてしまった」

「誰の花園だって?」


アルアの言葉にナイトとフロントはギロッと目を光らせた。


「ところで、ネティアのお見舞いさせてくれない?」


アルアは話を変えて、花束を持ち出した。


「面会謝絶です」


フロントは冷たくあしらった。


「いいじゃないか、僕達一応いとこ同士なんだしさ、ねぇ?」


アルアはナイトに同意を求めた。


「ダメだ」

「けっち!!」


ナイトにも拒否されたアルアは花束を投げた。


「じゃあさ、フローレスの捜索、僕も手伝おうか?いとことして、心配なんだよね。それに、任せられる人間が少ないんじゃない?」


今度はフローレスの捜索の協力を申し出てきた。

ナイトの臣下はまだ数少ない。


「迷惑だ」


ナイトは切って捨てた。


「アルア様の力を借りるまでもありませんので、お引き取りを!」


フロントはアルアを追い出すようにドアを開ける。


「おい、こら、人がせっかく親切に手を差し伸べにはるばる来てやったのに、何だその態度は!」


アルアが怒った。

仮にも風の国の第一王子、もっと大切に扱うべきところだが、


「悪いな、手は足りてる。それに忙しい」

「風の国の王太子に何かあっては、我が国が困りますので、大人しくお引き取りを!」


ナイトとフロントは強くアルアに帰るよう迫った。


「わかったよ、帰るよ。その変わり、事態が落ち着いたらちゃんと話聞かせろよ」

「ああ、わかってる。この埋め合わせはするから、じゃな」


ナイト達は風の国からの使者である王子アルアを締め出した。

アルアは憤慨しながら、風の国に帰っていった。


「もう少しオブラートに包んで対応した方が良かったでしょうか?」


王宮の門から見送りながら少し心配になったフロントがそう口にしたが、


「いや、あれでいい。今回の問題は外部には絶対漏らすわけにはいないことだ。アルアは感がいいから俺のメッセージに気付いたはずだ。下手に介入したら厄介なことなるとわかったから、さっさと帰ったんだ」

「そうだったんですね。さすが、ナイト様」


ナイトのアルア撃退にフロントは感心しているが、本当の敵はもう一人の方だった。


「ほう、絶対に外部に漏らせない事情があるのか…」


背後から、その敵の声が響いてきて、ナイトは寒気を覚えた。


「父さん!!!何でここに!?」


振り返って、フロントが声を上げた。

仰天したナイトが叫ぶ。


「こら、親父!!てめぇ、いつ来やがった!?」

「今しがた」

「一人で来たのか?」

「愛する息子達に会いに行くのに、従者はいらんだろう」

「熱苦しい!!また黙って出てきたのか!?」

「光の国からの帰りで、ついでにな」

「ついでにって、水の国、通り過ぎてるだろう!」


ウォーレス王は豪快に笑って、息子たちを両脇で捕まえた。


「聞いてしまったからには教えてもらおうか?」


明るかった声が急に低くドスの利いた声に代わり、ナイトとフロントは観念した。







ナイトとフロントはウォーレス王に連れられて、ティティス前女王の部屋を訪れていた。


「あら、ウォーレス、また来たの?」

「いや、一旦帰ったんだが、結界にヒビが入って大騒ぎになったから、光の王に呼び出されて、見てこいって言われたからまた来た…入ってもいいか?」

「…どうぞ…」


出迎えたティティス前女王は笑顔だったが、ウォーレス王の小脇に抱えられたナイト達を見て諦めたようにため息を吐いた。

ティティス前女王は各国から続々と届けられる書簡に目を通している最中だったが、人払いをした。

ナイト、フロントとラナだけ同席した。


「すまんな、忙しいことろ」

「いいのよ、ちょうど休憩したかったから」


ティティス前女王の侍女兼護衛役のラナが4人分のお茶を用意した。


「私が帰った後、虹の神殿に魔物が出て、フローレスが連れ去られたり、いろいろあったみたいだな」


お茶を飲んでいるティティス前女王にウォーレス王は切り出した。


「ええ、本当にいろいろあったわ。ネティアがフローレスと体を入れ替えて、その魔物と共に自分の支配する結界内に飛んだのよ」


ティーカップを静かにおいて、サラっとティティス前女王は話した。

一瞬、沈黙が流れた。


「‥‥今、なんて言った?」

「だから、ネティアがフローレスと入れ替わって、魔物と一緒に結界外部にいるのよ」


再び間が空いた。


「ネティアとフローレスが入れ替わってるだと!!?しかも、結界外部に魔物と一緒にいる!!!?今、魔期だぞ!!」

「はあ、だから、大変なことになっちゃったのよ」

「と言いうことは、今のネティアは、フローレスか!?」

「そうよ」


ウォーレス王はあまりの衝撃に椅子から飛び上がった。


「そそそそそ、そんな大事なこと、言っていいのか!!!?」

「あら、何を驚いているの?探りに来たのはそっちでしょう?」

「いや、しかしだな‥‥そんな、大それた話、外部の人間に簡単に話すものでは‥‥」

「あら、やだ、もう私達、身内ででしょう?」


ティティス前女王がナイトを見てウィンクする。

外交に関して、父は強かだが、義母は更にその上を行っている。

さらりと国家機密を暴露した義母の勝利だ。

他国の国家機密を知ってしまった父は混乱している。

こんなに動揺している姿をナイトは見たことがなかった。

ウォーレス王は眩暈を覚えて、椅子に戻った。


「‥‥‥‥状況は分かった‥‥」


ウォーレス王はお茶を飲み干した。


「今、どういう状態なんだ?結界は修復されているみたいだが?」

「そうなんだけど、それが、よくわからないのよね」

「‥‥どういうことだ?」

「結界崩壊寸前にネティアの体、他の第3者に乗っ取られたみたいなのよ」


2個目の爆弾に再びフリーズするウォーレス王。


「ネティアの体が乗っ取られただとぉおおお!!」

「だって、フローレスじゃ、ファーストアタック防げないでしょう」


1回目を上回る衝撃に、椅子ごと倒れそうになるウォーレス王。


「なぜ、なぜ、そんなに落ち着いているんだ?」

「だって、結界は修復してくれたし、魔物は追い払ってくれるし、兵士たちも助けてくれたのよ。正体はわからないけど、いい人でしょう?」


楽観的な虹の前女王にウォーレスは撃沈した。


「とりあえず、結界は完全修復、魔物の再侵入は今のところはないわ。ネティアの体を乗っ取った者の正体はフローレスが目覚めればきっとわかるはずよ」

「今はフローレス姫が目覚めるのを待っている状態です」


フロントが代わって現状を伝えた。


「そうか、行方不明のネティアの方はどうなっているんだ?確か、捜索隊が出ていると聞いたが?」

「それが、魔物に巻かれて、今、レイス軍に保護してもらっているところです」

「それじゃ、全く手がかりはないのか?」

「はい…」


再びティティス前女王が口を開く。


「手がかりがない以上、捜索隊は一度帰還させて、再度派遣する予定よ。今度はタイムリミットはないから、捜索に専念できるはず」

「なるほどよくわかった。それでは、そのことは伏せて、光の国にそう伝えておこう」


情報を得たウォーレス王は帰ろうと立ち上がったが、その前にラナが立ちふさがった。


「国家機密を知った以上、ウォーレス王と言えどもお返しするわけにはまいりません」

「何!?」


ウォーレス王が振り返えると、満面の笑みが帰ってきた。


「今ね、レイガルもビンセントも傍に居なくて、カリウスだけじゃ不安なの。傍にいて、わたくしを支えて、お・ね・が・い」


ラナと正反対の身の毛もよだつ脅迫だった。


「いや、しかし、私も自分の国に帰らないと‥‥」

「結界崩壊寸前までいった真相がなかなかわからないから帰れないって、言うのはどう?」


留まる言い訳を提案された。

普通、国庫機密を数分で知りえることなどあり得ない。

ウォーレス王は苦い顔をして、ティティス前女王としばらくにらみ合った。


「‥‥‥・わかった、私の負けだ。お前には敵わん」

「ありがとう」

「どうせ、各国の書簡の返信を私に手伝わせるつもりなんだろう?」

「そうよ、昔みたいに」


ティティス前女王は嬉々としているが、ウォーレス王はため息を吐く。


「あら、嬉しくないの?あなたの愛する息子達と望めば毎日顔を合わせられるのに」

「私にも自分の国の仕事があるんだぞ」


ナイトの婿入りに格好つけて、虹の国に長く居座っていたから、仕事は山のように溜まっていることだろう。


「それは、さぼってたあなたが悪いわ」


痛いところを疲れて、ウォーレス王は具の音も出ない。


「そんな顔しないで、ここにいたらもしかしたら、他にもいいことがあるかもしれないわよ?」

「それは何だ?」

「それは起きてからのお・た・の・し・み」


罠にはまったウォーレス王はティティス前女王の下、虹の国で軟禁生活を送る羽目になった。

義母と実父のやり取りを見て、ナイトがぼやいた。


「兄ちゃん、俺達人質みたいだな」

「そうだな、もう子供じゃないし、私達結構強いけど、父さんたちにとってはいつまでも子供なのかもな」




***




魔物一掃と結界修復から一週間ののち、ネティア女王の体の中で眠っていたフローレス姫が目覚めた。

その知らせに真っ先に駆けつけたのはフロントだった。

ナイトよりも先に会って、本当にフローレス姫かどうか確かめるためだ。


「フローレス様ですよね?」


フロントが不安げに聞くと、目覚めたばかりのフローレス姫がハッとした。


「そうよ、戦況はどうなったの?」


ネティア女王の中にいるのがフローレス姫で内心ほっとした。


「‥‥覚えてないのですね?」

「ええ、私になったネティアと会ったんだけど‥‥」

「ネティア様に会われたのですか?」

「うん、でも、ネティア戻ってきてくれなくて…だから、私、頑張って、祈ったの。そしたら、『虹の女神』がやってきたの」

「‥‥虹の女神?」


意外な言葉にフロントは目を丸くした。


「うん、私の願いを叶えてくれるって、そして、私の味方だって言ってくれたの。その後の記憶はないわ。ねぇ、それで、どうなったの?教えて?」


フローレス姫にせがまれ、フロントはことの次第を話した。


「魔物達の戦闘の最中の上空にネティア様、というか、虹の女神様が現れて、レイガル様以外の兵士たちを一斉に転送させたんです。その後、レイガル様が魔物達の中で暴れて、その後、転送させれました。強力な攻撃魔法を打つための時間稼ぎだったようです。その魔法で魔物達を一掃させた後、すぐさま結界を修復されました」

「そうなの、すごい!!本当に虹の女神だったんだ!!」


話を聞いたフローレス姫は虹の女神に心から感謝していた。

フロントは戸惑いながらも、納得した。

虹の女神なら、ネティア女王以上の力を持っていてもおかしくはない。

しかし、その正体は不明のままだ。




***




「虹の女神ね‥‥女神なら私達虹の女王以上の力を持っていてもおかしくないけど‥‥」


フロントはティティス前女王にフローレス姫から聞いたことを報告していた。


「今まで虹の女神が降りて来たっていう話は、聞いたことないわね…」


ティティス前女王は難しい顔をしている。


「フローレス様だったからじゃないでしょうか?」

「そうね…ここまで結界が崩壊寸前まで行って、魔物達の侵攻を許すような窮地に陥ったこともなかったから虹の女神が降臨しなかっただけなのかもしれないわね…わたくしたちが虹の女神そのものだったと思ってたから、本物の女神がいたなんて、知らなかったわ…」


虹の女王は世界を守る結界を張っている。

その魔力は人外で、神に匹敵すると言われている。


「ちょっと、謎は残るけど、フローレスが無事だったんだし、よしとしましょう。後はネティアだけね」


フローレス姫の体に入っているネティア女王の行方は不明のままだった。

虹の神殿から直通のワープ拠点を作っていたが、霧の魔物によって湖のど真ん中に移動され、行き来や連絡できなくなってしまった。

捜索隊はそこから脱出し、足が速い忍び衆のライガとグリーンが先行し、魔物討伐軍の総指揮を執っているビンセントに救助求めた。

残りのライアス以下、4名は先ほどレイス軍の元にたどり着いたと報告があった。

捜索隊は一度ティティス前女王の支配する結界まで引き返して、虹の王宮に魔法で戻ってくることになっている。

ネティア女王の捜索は振出しに戻ることになる。


「私も捜索隊に加わった方がいいのではないでしょうか?」


フロントは控えめに掛け合ってみた。

一度却下されているためだが、霧の魔物の妨害があったことを考えるとフロントのように術師でもあり、騎士でもある自分がいた方が何かと都合がいいのではないかと、思ったからだ。

しかし、結果は同じだった。


「ダメよ、あなたにはフローレスの傍に居てもらわないと困るわ」


フロントは肩を落とした。

この異常事態を早く解決するためにはネティア女王を連れ戻して、元の体に戻ってもらうことだと思っていた。


「よく、フローレスを見ていてね。何か異常があったらすぐにわたくしに報告して頂戴。霧の魔物に虹の女神、どちらも実体を持たない精神体よ。フローレスの精神、または、ネティアの肉体に異常が出るかもしれないわ」


フロントはハッとした。

確かにネティア女王の体の中にいたのはフローレス姫だったが、安心してはいけない。

謎の精神体に二度も憑依されている。

何の影響も出ないとは言い切れない。


「はい、しっかり観察します」

「頼んだわよ、フローレスはもちろん、女王のネティアにも異常が出たら、この国は終わるわ」


ティティス前女王の言葉が重く響いた。
























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