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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第3章 2人の妹
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虹の女神降臨

『結界を解除して』と双子の姉である虹の女王ネティア信じられないようなことを言った。

すべては自分を思ってのからの言葉だ。

しかし、フローレスはその言葉を受け取れなかった。

今、結界を解除すれば魔物と戦っている戦場の兵士たちが大勢死ぬ。


『私が頑張らなきゃ、ビンセントや父上達が必死に守ってきた結界を守らなきゃ!絶対に守らなきゃ!』


フローレスは戦場へ祈りを捧げる。

竜から落ちた騎士が地上へ落下していく。

転送させることはできなくても、落下の衝撃は和らげられるはず。


『私が今ネティアだから…虹の女王だから!何とかしなきゃ…!!』


フローレスは気を失いそうになる痛みと戦いながら必死に、ネティアの魔力を操ろうとしたが、ほとんどコントロールできなかった。

当然、この魔力はネティアのものであってフローレスのものではないからだ。

わかっていても、祈ることをやめられなかった。


「お願い、ネティア戻ってきて…私はどうなってもいいから…お願い!!」


目の前で繰り広げられる惨劇の前にフローレスは己の無力を嫌というほど思い知らされ、偉大な姉に助けを求めた。

しかし、姉からの返答はなく、フローレスは途方に暮れた。







『姉さん、このままじゃ、この子、死ぬはよ』


フローネが一向に動こうとしないネティアに知らせてきた。

ネティアも迷っていた。

しかし、もう迷っている暇はない。

決意も変わらない。

ネティアは目を閉じた。


『フローレス』


心の中で呼びかける。


『ネティア、来てくれたのね!』


フローレスが歓喜する。


『いいえ、このまま結界を解除するわ』

『‥‥どうして、そんなことをしたら戦場で戦っいる兵士がたくさん死んじゃうし、領地を魔物に占領されちゃう!!』

『すべてはあなたの為よ』

『私はどうなってもいいの!!お願い、死なせないで!!私たちのため、国のために戦っているのよ!!』


ネティアは沈黙した。

それは誰よりも女王である自分が良く知っていることだった。

だから、苦悩した。

それでも、フローレスを取ると決断した。


『どうでも良くないわ。わたくしにとってあなたはたった一人の妹。何者にも代えがたい存在…』


そうフローレスに語り掛けながら、目の前に実体化している前世の妹フローネにも語り掛ける。


『わたくしたちは双子、この世に同時に生を受けた。いつもそばにいる、たとえ、どんなことがあっても‥‥。だから、死ぬ時も一緒だと思っている…』


ネティアは腕を胸の前でクロスした。

結界を解除する構えだ。


『ネティア、一体何を‥‥!?』


フローレスから驚きの反応があった。

体の自由が利かなくなったのだ。


『このまま結界を解除するわ。一緒にやりましょう‥‥』

『‥‥‥・いや、いやよ!絶対に嫌!!やめて、ネティア!!』


フローレスは必死にあがいているが、ネティアの体内ではほとんど無抵抗だった。


『お願い、生きて。わたくしも一緒に罪を背負うから』

『やめて!!そんなことまでして、生きていたくない!!』


フローレスの絶叫が木霊する。

その声は前世の自分が上げた声と重なった。

この世で最も大切な魂の片割れを失ったときの悲しみが蘇り、ネティアの決意を強固にした。

ただ、罪悪感がないわけではない。

国を創ったナイト、そして、仲間達。

何世代にもわたり結界を守護してきた自らの子孫と数多の戦士たちにはとても顔向けできない。

特に、現世に転生してまで現れた夫ナイトには謝っても謝りきれない。




『‥‥‥・ナイト様‥‥・ごめんなさい‥‥‥わたくし、やっぱり‥‥・』





最期にネティアはナイトに心の中で詫びながら、結界を解除するためクロスした腕に力を込めた。







『お願い、やめて!!!』


フローレスは必死の抵抗を続けていた。

しかし、成す術もなく腕がほどかれていく。

足を引きずって去っていくビンセントの後ろ姿が浮かんだ。

そして、悲し気に微笑むフロントの顔が続いた。

悔し涙が零れた。




『‥‥・なんで、私に力がないの!!お願い!!私に力を貸して!!神様!!!』




フローレスは絶叫した。




『その願い、この私が確かに聞き届けたわ!!』


突然、見ず知らずの女の声が響いたかと思うと、金色に輝く光と共に女が現れた。



『‥‥・神様‥‥?』



呆然自失のフローレスが声を絞り出す。


『そうね、虹の女神!と、でも言っときましょうか」


茶目っ気ったたっぷりに自称虹の女神が微笑んだ。

そのチャーミングな笑顔は、誰かに似ていた。


『あらあら、結界が大変な状態になってるわ。良かった。間に合って!』


自称虹の女神は結界の状態を把握したのか、急に厳しい顔つきになった。


『何とかできますか、女神様…』


フローレスがすがると、虹の女神は腰に手を当てて自信たっぷりに答えた。


『任せて!!こんな修羅場を見ると燃えるのよね、私!!』


自称虹の女神はみなぎる闘志で腕まくりを始める。

血の気の多い発言から、女神ぽくない。


『‥‥結界解除しようとしてる奴、邪魔ね』

『ネティアのことですか?』


フローレスの問いに自称虹の女神が頷く。


『まあ、いいわ。再会前に盛大に反抗しとこう』

『あの、ネティアとお知り合いなんですか?』

『うん、まあね。腐れ縁ってところかしらね。あの人、根暗で思い込んだら一直線で回りが見えなくなることがあるのよね。今がまさにその状態。まったく、だから私がついてないとダメなんだから…』


ネティアに対しての文句らしいことを呟いた。


『あ、でも、全然大丈夫だから安心して。今、あの人自分の体の外にいるでしょう?だったら、絶対私の方が強いから。中にいたらアウトだったけどね』


何かを企んでいるように自称虹の女神が笑う。


『あ、そうそう、この後、私あなたに世話になると思うから。よろしく』

『え?はい?よろしくお願いします』


フローレスはよくわからないまま返事をした。


『じゃ、あの人に気付かれる前に始めるね』

『お願いします!』


フローレスは思い出したように頭を下げた。

今大勢の命運がかかっていた。

フローレスの頭の上に自称虹の女神の手が置かれた。


『ありがとう。よくみんなのためにここまで頑張ってくれたわね。私はあなたの味方よ』


虹の女神からの労いの言葉を聞いた瞬間、光が溢れて世界を覆った。








ネティアはフローレスの体から遠隔で結界を解除しようとしたが、なぜか本体の自分の体が動かなかった。

クロスした腕の重量感も消えていた。

繋がっているはずの魔力が途絶えたのだ。


「‥‥・何が起きてるの‥‥?」


自分の体に入っているフローレスに目をやる。

フローレスに魔力を操る力は皆無のはずだった。


『あの子が来たみたいね‥‥』


フローネが悲し気に微笑む。


「あの子?」

『賑やかになるわね‥‥』


フローネはそう呟くと、実体化していた体が透けていく。


「フローネ!!?」


フローネは青白い閃光となって遠くへと飛び去っていってしまった。

その直後、傍に居たフローレスも姿を消した。

フローネがいなくなったことで拘束を解かれて、元いた場所に戻ったようだ。

しかし、これで事態が快方に向かうわけではない。

魔物の総攻撃を受けている結界の崩壊は続いている。

それに伴い、フローレスの命は削らているのは変わらない。

すぐに自分の体に戻り、事態の収拾を図らなければならない。

ところが、ネティアは自分の体に戻ることができなかった。

肉体と精神を繋いでいるはずの魔力が断然していたからだ。


「どうなってるの?」


成す術もなく途方に暮れたネティアは、空に空いた結界の亀裂を見上げた。




***




目の前に倒れたはずのフローレス姫が消えた。

フロントはティティス前女王へ視線を向けた。


「ティティス様、フローレス様はどこへ行かれたのですか!?」

「わからないわ…ファーストアタックが起きたショックで、魔力の暴走で肉体ごと飛ばされてしまったようだわ…」


騒然となる。


「‥‥ともかく、フローレス様をお探ししなくては!!」


ゼインが呟いて駆けだそうとするが、マイクが止める。


「探すって、どこを探すんだよ!?」


視線がまたティティス前女王に集まる。


「わたくしの力では感知できない。おそらく、ネティアが支配している結界内すべて…でも、虹の国内にはいるはず。呼びかけたら、一度戻ってきた気配があったわ」


母であるティティス前女王でさえ、フローレス姫の所在を突き止められずにいた。

そこへ、神殿の女神官が駆けこんできた。


「ティティス陛下!!最高司祭様!!」


この女神官はいつファーストアタックが始まってもいいように、祈りの間で待機している中の1人だった。

今は女王不在のまま、女神官たちだけで兵士たちのために祈りを捧げていた。


「戦場で何かあったのですか!?」


血相を変えたリリィが息を切らせている女神官に詰め寄る。


「女王陛下が、戦場に現れました‥‥!!」


思いもよらない場所にフローレス姫が飛ばされたことを知ったフロント達は絶句した。

ナイトの顔からは血の気が引いていた。


「…義母上…!」

「‥‥ともかく祈りの間に行って、状況を確認しましょう!!」


ラナがティティス前女王の車いすを押して、その後にフロント達が続いた。

祈りの間では全面がスクリーンのようになっていて、戦場が映し出されていた。


『‥‥‥フローレス様‥‥?‥』


蜘蛛の巣のようなヒビが入った結界を前に、戦地上空に虹の女王ネティアが金色の光を放ちながら浮いている。

その様子は暴走する魔力に苦しまされていた様子とは明らかに違った。

魔力は完全に制御されていた。


『‥‥・ネティア様?』


ネティア女王が自分の体に戻ったのかと思ったが、感じられる魔力がどこか異質だった。

ネティア女王の魔力は歴代の虹の女王の誰よりも膨大さが特徴だった。

しかし、更にそれを上回る魔力が今の女王には備わっていた。


「ティティス様、これは一体…」

「…見守りましょう…」


ティティス前女王は食い入るように映し出されている娘の姿を見つめた。




***




戦場上空に虹の女王ネティアの肉体を移動させたのは自称虹の女神だった。

フローレスの意識は眠りについていた。

崩壊寸前の結界はヒビで真っ白になっていた。

深刻な状態の結界を自称虹の女神が睨んでいると、青白い光がやってきた。

フローネだった。


「魔蜂達を一気に追い払って、結界を修復するわよ」

『あなた一人で?』


フローネが呆れたように聞くと、


「いいえ、あなたと虹の王に手伝ってもらうわ」


自称虹の女神は同じ上空にいる虹の王レイガルに目を馳せた。

レイガル王はすでにこちらに気付いていた。

こちらの動向を探るようにじっと観察している。


『はいはい、あなたには敵わないわね‥‥』


フローネは観念したように呟くと、青白く光りながら杖へ変化した。

それを自称虹の女神が手に取ると、金色の強烈な光が発せられ、戦場全体に広がっていった。

その光の中に魔蜂と戦闘中の兵士達が次々と呑まれていった。

そして、その強烈な光が消えると、人間の姿だけ一緒に消えていた。

魔蜂達は突然いなくなった敵を探して、混乱して、行動を一時停止した。

その隙を見て、自称虹の女神が叫ぶ。


「今よ、虹の王!!敵を一掃して!!遠慮はいらないわ!!」


レイガル王はそれに答え、黒竜を駆り、魔蜂の軍に中に突っ込んで、巨大な剣を縦横無尽に振り回した。

魔蜂達は人間離れした虹の王のパワーに無残に吹き飛ばされていく。

その間、自称虹の女神は自らの魔力を最大限に高め、


「虹の王、もういいわ。後は、私がやるから」


最高潮に達した時、レイガル王を転移させた。

遠くに押しやられた魔蜂が壁となって、押し寄せてくる。

自称虹の女神は不敵な笑み零した。


「今回だけの特別大サービスよ。『我が地を侵す魔物達よ、我の怒りの鉄槌を受けるがいい…』」


黄金の閃光が膨らみ押し寄せてくる魔蜂の壁と激突した。

黄金の閃光は風船のように膨らみ、破裂した。

その衝撃ですべての魔蜂が結界外へと追い出された。

自称虹の女神から第2派の青白い光が放たれた。

ひび割れた結界を一気に修復、そして、強化していった。

魔蜂が戻ってくるころには、強固な結界が出来上がっていた。


「いっちょ上がり!!無駄無駄!!これが虹の女神様の結界よ!!」


自称虹の女神は結界外で、体当たりを繰り返している魔蜂に向かって大声で笑った。

結界の修復が完了すると、青白い光、フローネが帰ってきた。

自称虹の女神は笑うのをやめ、


「ご苦労様…」


とフローネを労った。


『全くあなたは人使いが荒いわね』

「…あなたは人じゃないでしょう?」


自称虹の女神は突き放すような言葉を放った。

彼女にとって、フローネは使役する道具でしかない。


「…あなたには同情する。私もあなたが生きている間に会いたかった…」


フローネは黙っていた。


「でも、この人は関係ないでしょう?」


自称虹の女神は、自分の中で眠っているフローレスのことを言った。


『…その子は私…』

「違うわ!!今のあの人の双子の妹は、この人なのよ!」


フローネは押し黙った。


「悪いけど、消えてちょうだい!あなたの存在は災いでしかない…」

『それは、嫌よ。せっかくこの世に蘇ったんだから、私が犠牲になった後、この世界がどう変わったのか見たいわ。それに、その子には私の力が必要だわ』


フローネは譲らなかった。


「残念だけど私が来たからにはこの人には手は出させないわよ。悪いけど諦めて」


自称虹の女神も譲らない。

フローネから忍び笑いが漏れる。


『あなたに何ができるの?』

「私だけじゃないわ。あの人だって今回のことで懲りたでしょうから、あなたを放置しないわよ」

『そうね…でも、姉さん帰ってこれるかしら?』


フローネの不敵な問いに、自称虹の女神は戸惑う。


「帰ってくるに決まってるでしょう。この体はあの人のなんだから」

『でも、あなたが来たから‥‥帰りずらいでしょうね‥‥』

「何でよ?‥‥・そんなに私のことあの人嫌ってたわけ‥‥」


自称虹の女神は多少動揺した様子で、フローネに尋ねる。


「そりゃ‥‥・前世で、あんまり仲良くなかったわよ‥‥でもよ、あの人と私は切っても切れない縁で結ばれてるのよ。まさか…私が来たからって‥‥帰ってこないなんてこと…ないわよ…‥‥ない‥‥・絶対、ない!!」


最後は自分に言い聞かせるように、自称虹の女神は断言した。

フローネは小さなため息を吐いた。


『‥‥・わかってないわね、姉さんがあなたを嫌ってるわけないでしょう』

「じゃ、なんで、帰って来ないって言うのよ!?」


フローネは頭を押さえる。


『あなたの来たタイミングよ』

「タイミング?」

『そう、あなた、今誰と姉さんの体にいるの?』


その質問に答えようとして、自称に虹の女神は固まった。


『ようやく理解したみたいね。じゃ、私は行くわね。ここで姉さんと暮らすのも悪くないわ』

「ちょっと、待ちなさい!!王宮育ちのあの人が、こんなところで暮らせるわけないじゃない!!」

『ところが、そうでもないみたいよ。その子の体だと平気みたい。それどころか満喫してたわ』


自称虹の女神は苦虫を噛み潰したような顔になった。


『どうやって、あなた達が姉さんを連れ戻すか、楽しみだわ』


フローネは笑いながら、青白い閃光となって、彼方へと飛び去った。







本陣のビンセントは驚きの表情で、辺りを見回していた。

戦場にいた兵士達が全員は転移されて、戻ってきていたからだ。


「何があったのだ?」

「上空に突然、ネティア女王が現れたのです!!」


兵士たちに聞き込みをすると、ネティア女王の目撃情報が相次いだ。

しかし、今のネティア女王の体の中にいるのはフローレス姫だった。

フローレス姫は女王の膨大な魔力を制御できずに、体調を崩していたはずだった。

ファーストアッタクに耐えられない可能性があるため、結界の崩壊が予測されていた。

そして、その準備もしていた。


「間違いなくあれはネティア女王陛下でした」


断言する者が現れた。


「おお、ウィル、ロン、無事だったか…」


上空で竜騎士隊の指揮を執っていたウィルが同僚のロンともに現れた。


「国王陛下はどうされた?」

「我々が強制的に転送された後に、魔蜂の軍の中で大暴れされてから転送されたそうです。その後、女王陛下が魔法で魔蜂を一掃され、結界を修復されました」


ロンが報告する。


「あの光は女王陛下のお力だったのか…」


ビンセントは空の結界を見上げて納得する。

ひびだらけの結界は元の状態に戻っていた。


「お戻りになられたのだな…」

「いえ、それがどうも違うようです‥‥」


ビンセントはそう思ったが、ウィルが固い顔で声を潜めた。


「それは、どういことだ?」


ビンセントが驚いて聞くが、ウィルとロンも困惑気味だった。


「‥‥今、国王陛下が女王陛下の元へ行っています…」


とロンが告げる後ろで、


「ああ、傷が治ってる!!」

「生きてるぞ!!俺達、生き残ったぞ!!」

「病に伏されていた女王陛下が回復されて来てくださったんだ!!」


生き残った兵士たちの歓声が次々に上がる。


「ネティア女王陛下、万歳!!女王陛下万歳!!」


戦場に現れた女王ネティアは兵士たちは称えた。

その姿を複雑な心境でビンセント達は見つめていた。





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