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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第3章 2人の妹
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虹の女王不在の戦い

ライガ達は化け物に乗って、湖を渡っていた。


「ほらもっと、スピード出せ!」


ライガが化け物の長い首に着けたリードに電流を送ると、湖面の波しぶきが風と同じように流れるようなスピードに変化した。

首に着けたリードで化け物に言うことを聞かせていた。


「…魔物使いか?」


ロイは強風に飛ばされないように化け物のゴツゴツした化け物の背にしがみつきながら恐怖の眼差しでライガを見ている。

それに対し、


「実に見事だ。魔物や他の動物とのコミュニケーションをとることは非常に難しい。特に、短期では。だが、たった一つだけ言うことを利かせる方法がある。それは恐怖だ。命あるものすべてに備わっている忌避行動だからな」


グリスは感心の眼差しを向けていた。


「あ、陸が見えてきましたよ!」


ライガの横にいたグリーンが知らせる。

しかし、化け物は泳ぐスピードは緩まない。

どうやら一心不乱に泳いで前を見ていない。


「よし、ドウドウ!!」


ライガは馬を操るように電流リードを引っ張った。

すると、化け物に急ブレーキがかかったが、推進力のついた波は止まらない。

波に押され、陸地に化け物ごと乗り上げた。


「ブヲオオおおおおン!!!」


化け物が『痛い!!』と叫んだようだ。


「よしよし、痛くないぞ」


ライガが化け物をあやしている間にライアス達がその背から降りた。

グリーンに簡単な回復術で化け物を癒させ、ライガが湖面に押し戻してやった。


「ご苦労だったな、次があったら、また頼むぞ!!」


ライガが手を振ってにこやかに見送ると、化け物は首を大きく横に振って、一目散に湖の底に帰っていった。


「二度とごめんだ、って言ってたな」

「首を横に振るのは、人間と一緒なんだな…」


ロイとニルスは考え深げに化け物が消えた湖面の波紋を見つめていた。


「陸にたどり着いたはいいが、どっちへ行ったらいいのだろうか?」

「あっちだ」


ライアスが不安げに土地勘のあるグリスに尋ねると、すぐに返答があった。

指し示す方向の空に黒い大きな穴が開いていた。

そこから赤い稲光のような光が白い霧の中に広がっていく。

まるで充血した目が宙に浮いているように見えた。


「ファーストアッタクが始まったようだ」


グリスが掠れた声で呟いた。


「こうしちゃいられない!」


ハトオがハトコを空に放った。


「後方支援のレイス兵に連絡を取って、馬を連れてきてもらうよ」

「しかし、待っていては間に合わないのでは?」


ニルスが空を凝視したまま聞く。


「もちろん、移動しながらさ。ハトコなら僕を見つけてくれる」

「それじゃ、先に行くっす!俺らには馬は必要ないから、ビンセント様に事の次第を伝えとくっす」

「頼んだぞ、我々もなるべく急いでむかう!」

「了解っす!」


ライガとグリーンは風のように駆けだした。


「さすが、忍びだな…」


ロイがあっという間に姿が見えなくなった2人に感嘆の声を上げた。


「我々も急ごう!」

「フローレス様、どうか、ご無事で…」


ライアスの掛け声に、ニルスはフローレス姫の無事を祈った。




***




頭をかち割れたような痛みと共に、強烈眩暈がフローレスを襲っていた。

部屋を出かかっていたフロントが戻ってくるのが見えたが、視界は赤く染まっていく。

そして、ものすごい勢いで世界が回転していく。

神殿の部屋の風景が見えない。

竜巻の中に入り込んだような錯覚に襲われた。

いや、錯覚ではなかった。

人の声が聞こえてきた。

全く知らない人間の声だ。


『虹の結界に赤いヒビが走っている、大丈夫か?』

『虹の国は魔期だからな、魔物との戦闘が始まったんだろう』

『しかし、今年のはデカいな』

『虹の女王が代替わりして初めての魔期だからじゃないか?』


どこかの国の国境の警備兵らしき人間たちが一斉に空を見上げている。


『怖いよ、ママ…』


ビジョンが切り替わる。

今度は街の中で、子供が赤い空を見上げて母親にしがみついていた。


『これは、結界の一部が崩壊しようとしているぞ!!』

『虹の女王は何をしているのだ!!』


ビジョンが次々に切り替わる。

今度は絢爛豪華な豪邸で学者らしき人間たちが空を見上げて恐怖に慄いていた。


『光の王にお知らせしなくては…』


報告するために慌ただしく去っていく。




『光の国…?』




フローレスは朦朧とする頭の中で気付いた。

今見えてきているのは世界中のビジョンだと。

虹の結界は虹の国だけでなく、世界中を覆っている。

だから、他の国にも影響が見えているのだ。

この状況から、ファーストアタックが起きていることがわかった。

その衝撃で、フローレスは意識が飛ばされていしまったらしい。

しかし、戻る術がわからない。



『フローレス!!』



一際大きな声が響いた。

よく知っている母親の声だ。

その声に引き戻されるように世界の回転が納まり、神殿の部屋が姿を現した。

戻ってきたのだ。



『ダメよ、こっちに来なさい』



冷たい声が響いて、神殿の部屋が消失。

代わりに見えてきたのは、白い霧、赤い稲光、そして、黒い穴からなだれ込んでくる、赤、黒、の巨大な蜂のような大軍。

そして、それに応戦する、人間と竜…レイス軍と国王正規軍の大軍だった。


『ここって、まさか、戦場…』


初めて見る魔物と人間の戦いにフローレスは震えあがった。



『そうよ、ここは人間と魔物が1000年間戦い続けている戦場よ』



先ほど響いた冷たい女の声が説明する。

そして、また、視界が切り替わった。

今度は霧の大地に降り立っていた。

すぐ近くに、見知らぬ銀髪の女が立っていた。

フローレスは食い入るようにその女を見つめる。

知らないはずなのに、知っているような気がしたのだ。


「あなたは誰?」


フローレスが掠れた声で聞くと、銀髪の女は微笑みを浮かべた。


『私は、あなたよ』







ネティアは目の前に現れた前世の妹フローネの姿を認めて、後悔していた。

虹の神殿にいた彼女はただの残留思念でしかなかった。

残留思念は祓われるか、自身の力を放出してしまえば、すぐに消滅してしまう。

少しでも長くフローネを生きながらえさせるため、ネティアは自身が支配する虹の結界の外部に飛ばした。

外部の結界内を漂う霧は魔力を豊富に含んでいる。

そんなことをしたのは、もう一度フローネに会いたかった。

そして、この手で浄化するためだった。

しかし、それは決してやってはいけないことだった。

ネティアは大きな間違いを犯した。

それは、フローネが結界の元になっていること、そして、ネティアが支配する結界内であること。

フローネは結界そのものだ。

残留思念は本体から力を供給し、また、術者であるネティアと同等、いや、それ以上の支配力を手にしてしまったのだ。

現世において、魔力で自分以上の相手と対峙したことなどネティアにはなかった。

ましてや、今自分の体ではない。

現世の妹フローレスの体のなかにいる。

これが唯一の救いだった。

ネティアがフローレスの体にとどまっている限り、フローネはこの体を奪うことはできない。

ネティアはそう信じていた。

フローネの横に、自分の本体、フローレスが現れるまでは。



「フローレス!!!!」



絶望的な声で、ネティアは呼びかけた。

フローレスがこちらを向いた。

顔色が青白く、立っているのもやっと言った感じだ。

風に乗って、血と硝煙の匂いが漂ってくる。

空を見上げると、霧で覆われている結界に黒い大きな穴が開き、底から赤い雷のようなヒビが徐々に広がっていっていた。


『結界が壊れていく…』


魔物との戦いが始まっている。

そして、フローレスはそれに耐えられないでいる。

ネティアは迷わず、叫ぶ。


「フローレス、結界を解除して!!」


フローレスを救う道はそれしかない。

結界が解かれることで、どれほどの損害がでようとも、フローレスの命には代えられない。

きっと、母も同じことを思ったはずだ。

そして、その方法を伝えてあるはず。

ネティアはそう確信して叫ぶ。


「早く!!」







嵐の中にいるような、ものすごい頭痛の中、フローレスはネティアの声を聞き取った。

そして、母が教えてくれた結界解除の方法を思い出しながら、胸元で腕をクロスさせた。

結界とのつながりを感じた。


『この腕を広げれば、結界との繋がりが切れて、この痛みから解放される…』


フローレスは腕を開こうとするが、ものすごく腕が重く全く動かない。

魔力の拘束が凄まじく強い。



「大丈夫よ、あなたならできるわ!!」



ネティアが応援する声が聞こえる。

励ましを受けて、フローレスはもがいた。

すると、少しずつだが腕が動き出した。

重厚な扉を腕で開こうとしている感じだ。

やっとのことで、腕の重なりが浮いた。



「その調子よ!!」



励ましを受けて、フローレスは結界解除に向けて腕を開き続けた。



『いいの?』



銀髪の女が口を開いた。



『結界を解いたら、たくさんの死人が出るわよ』



フローレスの心に動揺が走った。

せっかく離れた腕が再び重なる。


「そんなの、わかってる。でも、私が今のままで頑張っても、同じことよ!」


フローレスは言い返して、再び腕を浮かせた。


『そうね。まだ、前女王の結界もあるものね…』


銀髪の女はそっけなく答えて、続けた。


『解除した場所は魔物に明け渡すしかないわね』

「取り戻せるわ!」


フローレスが言うと、銀髪の女は呆れた顔を向けてきた。


『本気でそう思っている?魔物達が取り戻した場所を手放すはずないでしょう。結界の外で生きてきた魔物達はものすごく強いのよ。結界があったから1000年間も前線を維持できたのよ』


フローレスの心に迷いが生まれる。

母は、結界が破られたとしても取り戻せばいい、と言っていた。

だが、本当にそうなのか?

頭の片隅に引っ掛かっていた。

なぜなら、結界が破られたことなど一度もなかった。

なぜ、取り戻せると母はわかるのだろうか?

考えればわかる。

銀髪の女が言っていることが本当なのだ。

フローレスの腕が再びクロスした状態に戻った。

すると、そこから激痛が全身に走った。

強烈な頭痛と共に戦場のビジョンが脳裏に映し出された。






結界に張り付いていた点滅していた無数の魔蜂が爆発していく。

結界はガラスのように割れていき、外部の瘴気の混じった大気が吹き込んでくる。

その爆風に乗って、赤い魔蜂の大軍が目にも止まぬ速さでなだれ込んできた。


「来たぞ!!風竜隊!!」


竜騎士隊の総指揮を任されているウィルが命令を飛ばす。


待機していた風竜達が風圧を起こし、飛んできた赤い魔蜂の動きを押しとどめる。

向い風と自らの飛行スピードの摩擦で火の玉と化していく。


「行くぞ!氷竜隊!!」


自ら操る氷竜に氷の息吹で赤い魔蜂に攻撃を仕掛けた。

赤は火の色と同じらしく、赤い魔蜂は寒さに弱かった。

凍り付かせて落としていく。

しかし、敵の勢力はこれだけでは落とせない。


それに竜達のブレスも長くは続かない。

氷の息吹が止むと、吹雪を耐え抜いた赤い魔蜂が再び突撃してきた。

摩擦熱の炎は消え、スピードも落ちている。


「雷竜隊!!」


電撃を走らせて、撃墜する。

撃墜できなくとも、敵を痺れさせる。

痺れが取れるまで、魔蜂は落下を余儀なくされる。

下にはロンが率いる火竜隊が待ち伏せしている。

火竜隊は剣や槍などの物理攻撃、氷の魔法やその補助魔法で赤い魔蜂を一掃していく。

これで大半の敵を倒すことができるが、それでも、風、氷、雷、物理攻撃の4重の壁を突破してくる。


数十の赤い閃光が駆け抜けた。


竜に騎乗していた騎士が数名、落下していく。

駆け抜けた赤い閃光が戻ってくる。


「来るぞ!!」


ウィルは仲間に呼びかけ剣を抜いて、氷竜の背中に立つ。

ウィルの氷竜は翼を大きく広げ、周囲の空気を凍らせ、氷のバリアを張る。

遠くにいる氷竜は氷のブレスで赤い閃光に攻撃を仕掛ける。

しかし、一度氷のブレスを抜けてきた赤い魔蜂を落とすことはできない。

空を飛ぶ、彼らのスピードに人間がついていくのは至難の業だ。

竜の力を借り、魔法や罠で動きを鈍くして戦っていく。

ウィルめがけて、炎をまとった魔蜂が氷の障壁をぶち破りながら突進してきた。

ウィルは剣で一刀両断する。

倒された魔蜂は落下していく。

他にも落下していく姿が見える。

しかし、仲間の騎士もその中に数名混ざっていた。

たとえ数名でも大きな痛手だ。

彼らは歴戦の騎士であり、数少ない竜の乗り手だからだ。

次の竜騎士が育つまで、長い時間を要する。

対する魔蜂は生まれながらにして戦士だ。

毎年生まれ、数は変わらない、いや、増えているように感じる。

人間側が一枚岩ではないのも原因だ。

今の虹の国は王家と大貴族である王の一族と対立していて、人材の確保が困難になっていた。

それをカバーするのは大将である虹の王と女王の加護だった。


四重の壁を抜けてくる魔蜂の数が増えてきた。


「退避!!」


ウィルの号令を待たずして竜騎士隊が前線を離れた。

氷竜と魔導士部隊の氷の壁を爆破するように大量の赤い魔蜂が飛んできた。


「お願いします、陛下!!」


ウィルが叫ぶと、後方から一際大きい黒い竜に乗ったレイガル王が大剣を構えて、飛んでいた。

突撃してくる魔蜂に向けて、その大剣を横に振う。

神の一撃のような、ものすごい爆風が起きて、魔蜂が一瞬にして薙ぎ飛ばされていく。

魔蜂の軍は破壊された結界の近くまでかなり押し戻され、力尽きた魔蜂は地上へと落下していく。


地上に目を落とすと、黒い魔蜂の大軍が進行していた。

黒の魔蜂は羽がなく飛ぶことができない。

昆虫で言う蟻のような魔物だが、体格は人間並みに大きく、力も強い。

そのうえ、黒の魔蜂は6本の足で短剣のような武器を持つ。

対する人間側は落とし穴や地雷などで罠を駆使して進行を遅らせ、魔法を主に用い、弓、投擲、最終的には槍で応戦する。

しかし、槍で黒の魔蜂を倒せる騎士10名にも満たず、槍で対峙した時にはほぼ確実に死を意味した。

神の一撃にも等しい、虹の王レイガルの攻撃は混戦する地上に振り下ろすことはできない。

代わりに中空を飛んでいる竜騎士部隊が援護に回る。

火竜隊を率いるロンがその役目を担っていた。

かなり切羽詰まっているようだ。

例年なら、虹の女王の力で退治された魔蜂は結界外へ転送されていたが、今年はその魔蜂の処理をしながら地上の援護もしなければならなかった。

虹の女王の加護は全員の攻撃力、防御力の向上はもちろん、ちょっとした傷なら常時回復してくれた。

撃墜された竜騎士の保護もロンの軍の仕事だが、そちらにはほとんど手が回っていなかった。

例年なら、重傷を負った兵をすぐさま女王が転移させてくれていた。


『虹の女王の加護がなく戦うということはこういうことか‥‥』


戦いで散っていく仲間に心を痛めながら、ウィルは前を向いた。

押し戻された赤い魔蜂の軍が再び迫ってきていた。


「全員、配置に着け!!」


号令をかけ、ウィルは再び前線に立つ。




***




『みんなが必死に戦っているのが見えた?』


銀髪の女が問いかけてきた。

フローレスの瞳から涙が溢れる。


『彼らを見捨てることなんて、出来ないわよね?』


フローレスは静かに瞼を閉じて俯いた。





フローレスの動きが止まっている。

隣に立つフローネが何か言ったに違いない。


「フローネ!フローレスに何を言ったの!?」


フローネが静かにこちらを向いた。


『本当のことを言ったのよ。姉さんたちが嘘をつくから…』


ネティアは唇をギュッと嚙んだ。

真実を知った以上フローレスには結界を解除することはできない。

身勝手な振る舞いが目立つ妹フローレスだが、本当は他人を思いやることのできる優しい子なのだ。

わかっていたのに、その責任をネティアはフローレスに押し付けてしまった。

現世に蘇った前世の妹の魂を少しでも長くつなぎとめておきたかった。

しかし、そのせいで、現世の妹に非情な決断をさせることになってしまった。


『わたくしはなんて愚かなことをしてしまったの…フローネはこの世の人間じゃないのに‥‥』


この最悪な状態を招いてしまったことをネティアは深く反省した。

フローレスをフローネから離さなければならない。


「フローネ、フローレスを解放して」


ネティアが必死の思いで頼むと、


『そんなの姉さんの思うままじゃない?」


と返された。


『だって、ここは姉さんの結界よ。私はその結界そのもの。戦っている兵士達の命も魔物の命も姉さんの掌の上…』


フローネは試すような視線をネティアに向けてきた。

その通りだった。

ネティアはいつでも自分の体に戻って、結界を万全にして、魔物達を一掃する力を持っている。

だが、元の体に戻った場合、自分の体に戻ったフローレスは魔力耐性がゼロになる。

そうなったら、フローネはフローレスの体に入り込むだろう。

そして、フローレスの意識はフローネにとってかわられる。

それはフローレスの死を意味する。

それだけは絶対に許してはいけない。

方法はただ1つ、フローレスがネティアの体のまま結界を解除するしかない。

それがたとえ、どんなに非情な選択だったとしても、止む負えない。


「フローレス、聞こえる?‥‥・結界を解除して」


目を瞑り俯いて苦しみ耐えているフローレスに話しかける。

フローレスは首を横振る。


「良心が咎めるのね。ごめんなさいね、あなたに苦しい思いをさせてしまって。でも、わたくしは何に替えても、あなたを失いたくないの。だから、お願い。結界を解除して」


フローレスは体を強張らせて動かなかった。


「今から出る犠牲は過去に出るはずだったものなの。この結界は本当は張ってはいけないものだったの」


ネティアは諦めずに語り掛けたが、フローレスは俯いたままだった。


『無駄よ、姉さん。この子、戦場の兵士たちを守ろうと姉さんの巨大な魔力を操ろうとしてる。扱えるわけないのに…』


フローネの声に苦しみが混じった。

自ら持つ巨だな魔力を操れず、フローネは結界の人柱になった。


『本気なの?1000年間、ずっと見守ってたよ。みんなで守ってきたのに。この子のために結界を解除するの?』

「あなたを失った時のような過ちをもう犯したくないの」


フローネはフローレスに憐みの眼を向ける。


『私の力があれば、この子は苦しまなくて済むのに』

「それは、ダメなの、わかって…!」


ネティアが必死に訴えると、


『私、居ちゃダメ?』


フローネは寂し気な視線を向けてきた。

ネティアは口ごもった。


『私、姉さんたちの傍に居たい。もう独りは‥‥嫌…』


フローネは視線を再び苦しそうなフローレスに戻した。

フローレスは顔面蒼白になりながら、戦場の兵士のため、必死に戦っていた。

ネティア以外決して操ることができない巨大な魔力を相手に。























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