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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第3章 2人の妹
123/134

準備完了

ワープ拠点のある窪地から出たネティアは異変に気付いた。

けたたましい魔物の咆哮が大地を震わせていた。

その主と思われる白い怪鳥の数百の群れが近くにある住処の森の上空を旋回している。

住処の森からは火の手が上がっている。

その火は地上で渦を巻き、上空の白い怪鳥に向かって伸びていく。

火の竜巻に飲み込まれた怪鳥が何十体も火だるまになって墜落していく。

地面に落ちた怪鳥の火はすぐに見えなくなる。

沼地に飲み込まれたのだ。

他の場所にあった沼地が移動してきたのだ。

沼地は沼の主である枯れ木に擬態した魔物が作り出したもので、本来は定住しているが、獲物を求めて移動することがある。

白い怪鳥が墜落したり、逃げて行ったりして空間が空くと空から落ちてくる人影を見つけた。


『ライガ!!??」


ネティアは見間違いではないかと目を擦ってもう一度見たが、間違いなくライガだった。

彼はリリィ達と一緒に洞窟のワープ拠点から王都に帰ったはずだった。

それがなぜここに残っているのか?

訳が分からず、ライガを目で追う。

地上に近づいてくる獲物を受け止めるように沼が半球を作る。

落ちてきたライガを沼全体で飲み込むつもりだ。

火と風の対策は完全に思われたが、


『雷針!!』


ライガは臆することなく罠である沼のど真ん中に落下した。

沼地全体が目もくらむような光に包まれた。

ネティアは思わず目を閉じた。

再び目を開けると、沼の主は黒焦げになり、沼は干潟のようになっていた。

ネティアは呆気にとられた。

ライガがものすごく強いのは知っていた。

しかし、白い怪鳥と沼の主は、ネティアとナイトが前世で戦ったことのある魔物だった。

怪鳥は飛ぶし、仲間も呼ぶ。

沼地では足を取られて、上下からこの2種の魔物に挟まれたときは苦労させられた。

なので、一瞬で壊滅させた話など聞いたことは一度もない。

それをライガは巣ごと2種の魔物をあっさり壊滅させてしまった。

正直ここまで強かったとは知らなった。

ネティアの上空を白い怪鳥が猛スピードで飛んでいった。

逃げた怪鳥が他の森に住む仲間を連れて戻ってきたのだ。

足には牛1頭ぐらいの大きな岩を持っている。

それを上空からライガに落として攻撃を開始する。

ライガに接近するとたちまちやられてしまうので、上空から距離を取っている。

なかなか賢い魔物だ。

1000年前から存続しているだけあって知恵を持っている。

しかし、ライガには通用しなかった。

大量に落とされてくる大岩を素手で粉砕している。

そして、その粉砕した岩を手に取って、怪鳥めがけて投げている。

石が命中した怪鳥はたちまち墜落していく。

まるで銃で撃ち落とされたようだ。

ライガはその調子でドンドン怪鳥を退治していく。

その屍を求めて他の沼の主も現れた。

次はまた別の沼の主だ。

しかし、今度は沼の主だけではなく、一角のオオカミも群れで現れた。

この周辺には生息していなかった。


『どういうこと?』


結界内の厳しい環境下、魔物達の縄張り意識は強い。

それなのに一角オオカミが群れで現れた本来はあり得ない。

ネティアが考え込んでいるとすぐにその答えが目に入った。

怪鳥が全滅し、空に何もいなくなり、霧が一瞬晴れた。

そこに、黒い球体が浮いていた。

その黒い球体は禍々しい魔力を放っていた。

それがどうやら魔物達を呼んでいるようだ。

ライガはやってくる魔物を淡々と片づけていく。

まるで、わかっているかのようだ。


『もしかして、フロントの仕業?』


フロントならば、王都に戻ったライガを移動魔法で一瞬で飛ばすことが可能だ。

ライガに明確な殺意を抱いている彼ならやりそうなことだ。

結界内でネティアの捜索をしやすくするためなどの理由をつけて、魔物退治をさせているようだ。

あわよくば、魔物にやられてしまえばいいと思っているようだが、逆効果に見える。

熾烈な戦場を戦い抜くライガは、更に強くなっていくことだろう。

フロントが彼を極度に恐れているのはこのためだ。


『ライガはたぶん大丈夫そうだから、早くフローネを探しに行かなきゃ』


ここにいては呼び寄せられた魔物達と戦いになる。

ネティアは霧の草原を目指して駆けだした。




***




総司令官である旧レイス領主ビンセントはレイガル王を招いて、魔物襲来に備えての作戦会議を開いていた。


「今年は魔物の先遣隊が早かった割には、まだ攻撃が開始されていません。ネティア女王陛下が即位されて、結界が新しくなっているからでしょう。しかし、例年になく慎重です」

「『女王の体調が優れない』ことは聞いているな?結界は脆弱になっているのではないか?」


レイガル王が暗にネティア女王と入れ替わっているフローレス姫の心配を示してきた。

王の成長にビンセントは少しばかり驚いた。

虹の結界の外に広がる闇の森で、野生児のように過ごしてきた彼は直情的で、周囲を慮ったり、状況に合わせて遠回しの言い方をすることがとても苦手だった。

若い頃のレイガル王を補佐していたビンセントだったが、とても一国の王になれる器とは正直思っていなかった。

しかし、20年の時を得て、野生児から王へと成長していた。

そのことに少し、喜びを感じた。


「存じております。だから、なおさら慎重なのだと思われます」

「なぜだ?」

「魔物どもは我々との1000年にも及ぶ戦いでとても賢くなっています。おそらく、罠ではないかと、疑っているのでしょう」

「‥‥なるほどな…」

「しかし、そろそろ仕掛けてくるでしょう。一部の主力の『蜂』どもの動きが機敏になってきていますから‥‥」


魔期に攻めてくる魔物は多数の種類がいる。

その中で蜂から進化したと思われる魔物が、虹の国が建つ前の太古からの地主で他の魔物達を束ねていた。

そのトップは女王蜂で1000年経った今も変わっていなかった。


「あちらの蜂の女王はいら立っているようです」

「蜂の女王が仕切っているのではないのか?」

「魔物の総司令官は別にいるようです」

「我々と似ているな‥‥」

「いかにも…」


ビンセントは苦笑した。

総大将はもちろん虹の国王レイガルだが、実権を握っているのはビンセントだった。

この霧の大地のことは誰よりも熟知している。

国の中枢にいる王や女王は知ることができない。

蜂の女王もこの霧の大地のことを詳しくは知らないはずだ。

だから、全く仕掛けない総司令官にいら立っているのだ。


「失礼します、ビンセント様、レイガル王」


2人のレイスの騎士が入ってきた。


「グリスとハトオか、連絡が来たのだな?」

「はい。後、湿原地帯が少々騒がしいようです」


グリスの報告を聞いて、レイガル王が顎に手を当てる。


「捜索隊が魔物狩りをしているのかもしれんな」

「あははは、派手にやりますな」


ビンセントは豪快に笑い飛ばしてから、グリスたちに向き直る。


「準備ができ次第、フローレス姫の捜索隊の元へ迎え」

「承知しました。正規軍からは誰がくるのですか?」


グリスがレイガル王に尋ねた。


「こちらからは1人だ。ロキという者が立候補した。小隊長だが、今は外で警備をして待っている」

「わかりました。では、声をかけて連れて行きます」

「頼む」


レイガル王はグリスたちからビンセントへ視線を戻した。


「ビンセント、初回攻撃ファーストアタックはいつだ?」

「おそらく3日以内でしょう。お前たち、頼んだぞ」


グリスとハトオは敬礼して、すぐに退出した。




***




同じ頃、ライアスはニルスと共に、主であるナイト王子に結界内で報告と話を聞いていた。

ナイト王子には初代虹の王として、前世の記憶があった。


「荒れた大地と洞窟の聖地、白い怪鳥と沼の主がいたのか。1000年前のままだな…」

「王子は前世であの場所に行ったことがあるのですか?」

「ああ」

「では、ネティア様は何を食されているのでしょう?食べられる物を我々は見つけられませんでしたが」


ワープ拠点とした洞窟の聖地で飲み水は見つけられたが、食料になりそうなものはなかった。


「一応ある。地下にな」

「‥‥地下ですか?」


ナイトは頷く。


「洞窟の聖地は他にもあってな、その中にマメ科の植物やイモ類が育ってるところがあるんだ。たぶん、ネティアはそこで食事をとっていると思う」

「ああ…良かった…」


ニルスが安堵して脱力する。


「てっきりワイルドに魔物の肉を食べていらっしゃるのではないかと思ってました」

「あははは、ネティアはそんな危ないことはしない。だが、フローレスならあり得るな‥‥」


今のネティア女王はフローレス姫と体が入れ替わっているのであり得ない話ではない。

ナイト王子は目をつむって、その妄想を打ち消してから、話を続ける。


「白の怪鳥と沼の主はほぼ縄張りから出てこないから、近づかなければやり過ごせる。角を持つオオカミは囲まれると厄介だ。警戒は怠るな」

「は、肝に銘じます」


ライアスが気を引き締めていると、フロントがやってきた。


「魔物のことは心配には及びません‥‥‥ライガがすべて片づけてくれたようです‥‥‥」


フラフラとよろめきながらフロントがやってきた。

顔が青ざめている。

それから察するに、弄した策には見合わず、ライガが健在だということがわかる。



『フロコ!ただいま!片づけて来たよ!!』



帰ってきたのか、どこからともなく声が響いてきて、フロントは身震いしていた。

しかし、ライガは現れなかった。

先にティティス前女王に報告に行ったようだ。




***




リリィはティティス前女王と共にその執務室にいた。


「ティティス様、リリィ様ただいま戻りましたっす」


リリィがライガに歩み寄る。


「ライガ、良く帰ってきたわね。ケガはない?」

「かすり傷っすから、へっちゃらっす」

「そう、ネティア様は手紙を読まれてた?」

「ばっちり読んでたす」


ライガは戻ってくるときにワープを使ったので、手紙がなくなていることを確認していた。

しかし、ネティア女王がワープを使った形跡はない。


「最後にもう一回探しに行ったんだと思うす。戻ってきたら自由が利かなくなるっすからね」


気落ちするリリィにライガが言った。


「全く、困った子ね…」


ティティス前女王は呆れながらも、娘を信じることにしたようだ。


「ライガ、ビンセント達が応援を送ったそうよ。ライアス達とともにまた行ってくれるわね」

「‥‥ちょっと、きついっすけど、仕方ないっす」


ライガは少し渋ったが、了承した。


「時間がないわ、急いでね」


ライガは頷くと、天井裏へと消えた。




***




ライガの準備が整うまでの間に、ニルスはゼインたちに会いに行った。

ゼインはマイクと共にフローレス姫の警護に当たっていた。

フローレス姫はニルスが来た時に少しだけ顔を出されたが、すぐに寝室へと戻っていた。


「お体の方はあまりよくないようだな」

「ティティス陛下のお力で、一時はよくなっていたが、また体調が優れないことが多くなってきた。魔物どもが結界に何らかの圧力をかけているようだ。お労しいことだ‥‥」


ゼインが目頭を押さえる。


「肉体的にもそうだが、精神的にもお疲れなんだ。全く、こんな時にシュウ様は一体何を考えていらっしゃるのか?」

「シュウ様がどうしたんだ?」


憤慨しながら言うマイクにニルスが尋ねる。


「ここだけの話にしろよ。シュウ様が、フローレス様に婚姻の申し出をされたんだ」

「「え!?」」


漏れた悲鳴がもう一つ。


「え、ゼイン、知らなかったのか?」


マイクは仰天するゼインを見て、驚く。


「何も聞いていない!それは本当なのか?」

「ああ、俺はサラ様と部屋の外から盗み聞きしてたから、間違いない」


ゼインはここ数日のことを思い返してから、


「ナイト様やティティス陛下がここ数日、特に機嫌が悪い感じがしたのはそれが原因だったのか‥‥」


呟いた。


「それで、どうなるんだ!?こんな時期だが、こっちも重大な事件じゃないか!?」


ニルスが思わず先を促す。


「とりあえずはネティア女王陛下がお戻りになるまで保留だ。シュウ様は出禁になった」

「保留って!?それって、その話、ありってことじゃないか!?」


マイクにニルスは食ってかかった。


「仕方ないだろう。冷静に考えれば、お2人の身分的にはいい縁談だろう?」

「それはそうだが、シュウ様はダメだ!頭はいいかもしれんが、弱すぎる!!絶対にフローレス様とは釣り合わない!!だったら、俺はゼインを押すぞ!!」


急に話を振られたゼインは顔を真っ赤にする。


「いや、フローレス様が俺なんかに‥‥」

「何を弱気になっているんだ!これはお前にとって絶好のチャンスなんだぞ!」


普段大人しいニルスだが、感情が抑えられずゼインに掴みかった。


「今のフローレス様はフリーだ!だから、シュウ様はアタックしたんだ。それはお前にもできるんだ!特に、お前はフローレス様の一の子分だろう。一番いいポジションにいるじゃないか。大チャンスだ!!」

「‥‥‥確かに、俺もお前を押すぞ。シュウ様や浮気者の魔王より絶対お前の方がいい!!」


ニルスの話を聞いて、マイクもゼインの恋心を応援に回った。


「わかった、俺もダメもとでアタックしてみる!」


ニルスとマイクの声援はゼインの心に火をつけた。




***




フロントはナイトの部屋で静かに本を読んでいる。

本来なら護衛として、フローレスの傍にいなければならないのだが、シュウの一件でさらに行き辛くなったようだ。

ナイトはため息を吐いてから、フロントの背中を押すべく椅子から立ち上がった。

しかし、その役目別の者に託された。

突然、天井が抜け落ちた。


「コラ!フロント、何やってんだ!?」


埃をまき散らしながら、フロントにライガ掴みかかっていた。


「何、シュウ様に横取りされてんだ!!」

「ライガ、お前、バイト先に休み延長出して、捜索に行ったんじゃなかったのか!?」


完全に油断していたフロントは狼狽していた。


「超特急で行って来たに決まってんだろう!!それに、こんな大変なことになってるのにお前に何も言わずにいけるわけないだろう!!とっとと、フローレス様の傍に行け!お前がいないとフローレス様が不安になるだろう!」

「‥‥‥そうだろうか?」

「いいから、行け!!離れるな!!ファーストアタックはもう間もなくだ。ネティア様が間に合わなかった時のために備えろ!!」


ライガに怒鳴られてフロントは自分の役目を思い出した。


「‥‥もうすぐなんだな?」

「ああ、結界の外壁に魔蜂が張り付き出していた」


2人の話を聞いて、ナイトが立ち上がる。


「ライガ、ネティアを連れてきてくれ」

「了解っす!」


ライガは敬礼すると、天井裏に消える。


『行く前に、片づけ頼んだぞ、フロント!』


フロントは仕方なさそうに掃除道具を取りに行った。












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