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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第3章 2人の妹
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母の追跡

フロントはネティア女王と入れ替わってしまい、ずっと昏睡状態になっているフローレス姫の傍についていた。

寝室にあるからくり時計が昼の3時になって、鳩が飛び出してきた。

フロントは微笑を零して、眠っているフローレス姫に囁く。


「おやつの時間ですよ」


育ち盛りのフローレス姫は3時のおやつの時間になると騒ぎ出すのだった。

フロントはそのたびに、巷で流行っているお菓子を買ってきて出していた。

フローレス姫は普通の年頃の女の子と変わらず、甘い物に目がなかった。

それは、双子の姉であるネティア女王も同じだった。

たくさん買ってきて、それを口実に2人で会いに行って、3時のおやつを3人で楽しんだこともあった。

つい1年前までの出来事なのに、随分昔のように感じる。

それくらい、この1年で生活は激変したのだ。

フロントの血のつながらない弟、ナイトが水の国に行って水の国の王子になっていた。

そのナイトが虹の国に婿入りして、ネティア姫が女王になった。

フローレス姫がフロントの反対を押し切って、騎士になり、親衛隊に入った。

ネティア女王とナイトの結婚を見届けてから、フローレス姫に結婚を申し込んだが、断られた。

フラれたと思いこんでしまったフロントは、あろうことか、マリアと一夜を共にしてしまい、婚約解消の危機に瀕いしている。

何とかよりを戻そうとあがいている時に、起きたのが霧の魔物事件だ。

ネティア女王がフローレス姫を霧の魔物から守るために、互いの体を入れ替のだ。

入れ替わり、フローレス姫になったネティア女王は霧の魔物に連れ攫われた。

またネティア女王になったフローレス姫は一時、記憶喪失だったが、記憶を取り戻したがために昏睡状態のありさまだ。

行方不明のネティア女王も心配だが、昏睡状態のフローレス姫の警護をティティス前女王からきつく申し渡されていた。

むろん、フローレス姫は心配だが、ここは王宮で安全な場所だ。

行方不明のネティア女王を探しに行った方が自分としては役に立つと思う。

だが、自分が犯した不義のせいで探しにいけない。

体が入れ替わっているため、行方不明になっているのはフローレス姫の方なのだ。

つまり、今不仲のはずのフロントが探しに行くの傍から見れば、変なのだ。


『でも、こっちがフローレス様なんだよな・・・』


寝ているからいいが、起きたらどんな風に接したらいいのかわからない。

心から愛する女性がゆえか、魔物との生死をかけた戦いの方がはるかに気が楽な感じがする。

フローレス姫に早く目覚めてほしいが、欲しくない気持ちもある。


「フローレス様、早く目覚めてください。そしたら、私がネティア様を探してきますから・・・」


フロントは眠っているフローレス姫に語り掛けた。


「・・・・・・・ネティア・・・・・」


口が動いた、覚醒が近い。

フロントは身を乗り出して、呼びかける。


「フローレス様!!」

「ネティア!!!!!」

「うわあああ!!」


突然フローレス姫が起き上がってきて、フロントはひっくり返った。

その上に飛び起きたフローレス姫が落ちてきた。

フロントは押し倒された感じだ。


「あ、フロント!!聞いてよ!!!」


とんでもない体勢になっているが、間髪なく話しかけてくる。

体はネティア女王だが、間違いなく中身はフローレス姫だ。


「どうしたんですか!?目覚めるなりいきなり!?」

「夢の中で、ネティアに会ったのよ!!」

「・・・・夢の中で?」

「そうなの!!」


フロントはフローレス姫を自分の体から降ろし、立ち上がると、思案する。

体が入れ替わったネティア女王とフローレス姫は繋がっている可能性がある。

行方不明のネティア女王の手がかりがつかめるかもしれない。


「その場所、どこか、わかりますか?」


フロントが早速聞きこむと、フローレス姫は眉を潜めた。


「それが、霧に包まれてて、よくわからなかったわ。林の中だとは思うけど、木々は枯れてて、大地は石がごろごろしてて、荒れ地だったわ。それで、強そうな魔物がいたわ。見たことない魔物」

「霧、林のような荒れ地、見たことがない強そうな魔物・・・」


フロントがキーワードを呟いていると、入り口から誰かが入ってきた。


「お目覚めのようですね、フローレス様」

「ラナ様・・・!?」


突然現れた侍女長ラナは驚くフロントを通り過ぎて、フローレス姫の元へ行く。


「フローレス様、お目覚めになられたのですね!良かった!」


案内してきたネティアの侍女サラも出てきて、安堵の表情を浮かべた。

しかし、ラナの表情は硬く、フロントとサラの方を向く。


「今からティティス陛下の元へフローレス様をお連れします」

「今からですか?」


フロントが聞き返す。

フローレス姫は目覚めたばかりだ。

身支度の必要がある。


「そうです、でないと、ネティア様に痕跡を消されてしまう恐れがあるそうです」

「痕跡を消す!?ネティア様が・・・・?」


フロントが訳が分からず聞くと、ラナは頷く。


「理由はティティス陛下に聞きなさい。フロント、転移魔法を」

「は、はい、わかりました」


フロントは混乱しながらも、言われるがまま魔法陣を描き、フローレス、ラナ、サラともどもティティス前女王の部屋へ転移した。



「来たわね」


魔法陣が消えると当時に、ティティス前女王は車いすを走らせて、フローレス姫の元へ、やってきた。

そして、いきなり、頭を鷲掴みにした。


「は、母上!?」

「ちょっとの間我慢なさい。ネティアに逃げられるわ」


そう言い終わらないうちに、ティティス前女王は娘の体に自らの魔力を流し込んだ。

ネティア女王の体を伝って、離れた場所にいる精神を探そうという考えだ。

しかし、それは相当な荒業だった。

魔力を受けたフローレス姫が痙攣している。


「フローレス様!!ティティス様!おやめください!!」


フロントは2人の元へ割って入ろうとしたが、ラナに羽交い絞めにされる。


「邪魔は許しません!」

「しかし、ラナ様!魔力耐性のないフローレス様にあれはひどすぎます!」


フロントはフローレス姫のために全力で抵抗した。

さすがのラナも抑えられなくなり、説得に切り替えてきた。


「落ち着きなさい、フロント!今のフローレス様はネティア様よ!」

「いくら、ネティア様の体といえど、フローレス様は魔力自体を知りません!そんな状態でティティス様の強力な魔力を流されたら、また昏睡状態に戻ってしまいます!!」


ラナは言葉を詰まらせた。

そこまでは考えが及ばなかったようだ。

しかし、フロントを押さえつける力はさらに強まった。

何があっても、主の邪魔をさせないつもりだ。

フロントも主のために必死にもがいた。


「確かに、あなたのいうことにも一理あったわね」


攻防の最中に疲れた声が響いた。

フロントとラナが攻防をやめて、主たち方を見ると、フローレス姫が崩れ落ちるところだった。

それを見たフロントはラナの腕を振りほどいて、フローレス姫を倒れる直前で受け止めた。


「フローレス様!!」


呼びかけるが、やはり反応はない。

ティティス前女王の強力な魔力を流し込まれて、また意識が吹っ飛んでしまったのだ。


「陛下、ネティア様の居場所は突き止められましたか?」


ラナに聞かれたティティス前女王は大きなため息と共に首を横に振る。


「あとちょっとのところで間に合わなかったわ‥‥空間を閉じてるところで、わずかな隙間が残っていたけど、気付かれて塞がれてしまったわ・・・・」


そう話していたティティス前女王の体が傾く。


「陛下!」


ラナが崩れたティティス前女王の体を助け起こす。

魔力を流し込まれたフローレス姫のダメージも相当だが、ティティス前女王の消耗もかなりのものだったようだ。

フロントはフローレス姫をサラに託すと、ティティス前女王の元へ駆け寄る。


「ティティス様・・・」

「大丈夫よ、ちょっと強引に力を使いすぎたわね・・・・わたくしは休むわ。あなたもフローレスを休ませなさい・・・話はあとでね・・・・」

「ネティア様の居場所について、何かわかられたんですか?」


フロントは聞かずにはいられなかった。

疲れ切ったティティス前女王は力なく笑う。


「・・・今回は徒労に終わったけど、他の手を打ってあるわ。いずれ、ネティアの居場所はわかるはずよ・・・」


ティティス前女王は気を失っているフローレス姫を見つめて答えた。


「他の手?」

「フロント、その質問はまた後日にしなさい」


ラナがピシャリと言って、ティティス前女王の車いすの後ろに立った。

フロントは口を噤んで、寝室に押されていくティティス前女王の後姿を見送った。




***




ネティアは額の汗を拭っていた。

フローレスの意識がここに現れたことに驚いて、意識の空間を完全に遮断しようとしている時だった。

突然強力な魔力が閉じようとしていた空間に満ちたのだ。

閉じようとしている空間を強力な魔力で突破させようとしている。

その魔力が母のものだとすぐに分かった。

こんなことができるのは母以外には考えられない。

そして、ネティアが何を考えているのか、気付かれていることも同時にわかった。

さすが、自分を産んだ人だ。

しかし、ネティアがやろうとしていることを知っているのなら、必ず、阻止してくるだろう。

ネティアは必死で空間を閉じ、母の魔力を突破させなかった。

つまり、母には自分の居場所は知られていない。


『でも、居場所は気付かれているかも・・・』


虹の結界の大半を支配している母の手の届かない場所。

ネティアが支配している部分にいるのだ。

ここの支配者はネティアだ。

母の眼は届かない。

だが、すぐに捜索の手が伸びるだろう。


「ぐずぐずしてられないわ、早く、フローネを鎮めないと・・・」


ネティアは体を休ませてから、再び動き出そうとしたとき、鳥の獣のけたたましい鳴き声が響き渡った。

そちらの方向の空を見ると、多数の黒い影が竜巻のように集中している。


「人が魔物と戦っている!もう、魔期が来たのね・・・」


ネティアはその方角に向かって、急いで駆けだした。




***




強力な魔力を受け、フローレスが昏睡状態から目覚めたのは、5日後だった。


「あら、久しぶりね、フローレス」


母、ティティス前女王はにこやかに話しかけてきた。

しかし、フローレスはむくれていた。

ネティアの体になってから目を覚ましては昏睡状態に陥ること、3回。

生死をさ迷った。


「あらあら、怒ってる?ネティアの体から大丈夫だと思ったのよ。ごめんなさいね」


母はご機嫌を取るため、フローレスの頭をよしよしの撫でる。

フローレスは無言でそれを受け入れる。

こんな風に元気に振る舞ってはいるが、母が目覚めたのもつい2日前だ。

虹の女王の双子の妹の失踪、女王の昏睡状態に続き、その2人の母である前女王ティティスも倒れたとの報は国中を震撼させた。

フローレスは寝ていて知らなかったが、かなりの大騒動になったらしい。

反虹の王家の急先鋒である王の一族でさえ、王宮に急遽駆けつけてきたほどだ。




『どうなっているんだ!何が起きているのか、説明しろ!!』




ジャミルたちが宰相のカリウスとレイガル王に説明を迫った。

2人に、ジャミルたちを鎮めることはできなかった。

実質的に国を動かしてきたのは前女王ティティスだ。

代替わりして、ネティアが女王になった今でもそれは同じだった。

2人とも、与えられた役割はこなせる実直さはあるが、口は達者ではない。

この騒動を主導的に鎮めたのは、現女王の夫であるナイトだ。


『ナイト、説明してもらおうか?』

『まずは、我が妻ネティアと義妹フローレス、義母ティティスのために駆けつけてくれて、感謝する』


ナイトは穏やかな表情でいきり立つジャミルたちに礼を述べたらしい。


『前女王の容態はどうなのだ?』

『義母上はフローレスとネティアのことが原因で心労で倒れられた』

『本当に心労か?』

『医師がそう見立てました』


ナイトの側近、シュウが応じた。


『ならば、面会させてもらおうか?』

『恐れ入りますが、面会は謝絶です』

『ただの心労で、面会謝絶になるのか?』


ジャミルは食い下がってきたが、


『ジャミル、ティティス陛下には休養が必要だ』

『ビンセント様、レイス領に戻られたのではなかったのですか?』


王都にいないはずのビンセントが現れてジャミルたちは狼狽したらしい。


『私は虹の女王の臣下だ。女王陛下の危機に駆けつけぬ臣下がおるか?お前たちもそうであろう?』

『・・・私たちは、ティティス前女王の安否が知りたいのです・・』

『ティティス陛下は少しお休みになれば、またすぐに元気なお姿をお見せくださる。心配には及ばん』


ビンセントが、ジャミルたちを追い払ってくれたおかげで事態は沈静化したそうだ。




「遅くなりました、義母上」



公務を終えたナイトがフロント、シュウ、ライアスを伴って現れた。

フローレスが目覚めたので、緊急に召集されたのだ。

話題はもちろん、行方不明のネティアの所在だ。


「フローレス、体は大丈夫か?」


隣に来たナイトは気遣ってくれたが、


「平気、ナイトの方がやつれてるみたい」

「ここのところ、休めてないからな・・・」

「ごめんね・・・」

「お前が謝ることじゃない。でも、義母上がやっとネティアの居場所突き止めてくれたらしい」

「え、それ本当!?」


期待を込めて、フローレスはナイトと共に母を見つめる。

他の出席者、父王レイガル、宰相カリウス。

虹の国の三大魔女、宮廷魔術師ヘレン、最高司祭リリィ、侍女長ラナ。

ネティアの専属の侍女サラとライガを除く忍び衆のみだった。

皆、固唾を飲んで母の言葉を待っている。


「単刀直入にいうわね。ネティアは結界の一番外側、レイス領と闇の国との境にいることがわかったわ」























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