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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第3章 2人の妹
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熟女のお茶会

夜半過ぎ、人目を避け、カインは先日訪れたばかりの、ランド領主邸に来ていた。

前回は、行方不明になったフローレス姫のこと、ネティア女王の記憶喪失の報告だった。

フローレス姫が魔物に攫われたという事実は公になってるが、ネティア女王の記憶喪失は極秘扱いとされ、王宮内では緘口令がしかれていた。

その知りえた極秘の情報を、カインはランド卿へこっそり報告していた。

彼の一族のために。

今回は、ナイト王子が親衛隊を打ち破り、ネティア女王と初夜を迎えてしまったというまずい、報告だった。

正直気が重かった。

アインに任せていれば大丈夫だと思い、休みを取り、ランド卿へ報告に行ったのだが、まさか、その日にナイトに突破されるとは夢にも思わなかった。

前世から縁という、ナイト王子のネティア女王への愛は本物だった。

密会の場所にランド領主ジャミルが現れた。

カインは深々と頭を下げる。


「ナイトがネティアとの初夜を終えたそうだな」

「申し訳ございません、ナイト王子に虹の王の資格をあたえてしまいました」


虹の女王と結ばれると、女王の強力な魔力でその伴侶は守られるのだ。


「謝る必要はない。ナイトはすでに王の資格を得ていた」

「すでに?・・・・・・とは、一体どういうことですか?」


カインは驚いて顔を上げた。

ジャミルは不機嫌な顔になっていた。


「闇の騎士事件で、ナイトが傭兵に成りすまして、ネティアの護衛をしていたのは知っているな?」

「まさか、その時に・・・」


カインは叫びそうになって、口を噤んだ。

ネティア女王はその時、親の反対を押し切り、ランドに赴き、ジャミルと結婚するはずだったのだ。

それが土壇場で、水の国が介入してきて、ナイト王子とネティア女王の結婚が決まった。

あまりにも急な話で、反発も起きたが、結局は虹の王家が水の王家の力を借りて、押し通した形になった。


「まさか、そんな事情があったとは・・・・ご不快なことを思い出させてしまい、申し訳ありません」


カインは深々と詫びを入れた。


「隠されていた事実に真実が追いついただけだ」

「しかし、これでナイト王子は公私ともに虹の王の資格を得たことになります」


カインが重い口を開く。

ジャミルの眼が細くなった。


「親衛隊の様子はどうだ?」

「はい、ナイト王子に実力を見せつけられた者たちの中には心酔してる者もみられました」


カインはアインから話を聞いた時のことを思い出していた。


『まさか、突破されるとは思わなかった。だって、相手はたった1人だぜ。水の魔剣を使って、雨で目くらましかと思ったら、絨毯を凍らせ、俺達から足場を奪たんだ。そんな中、ナイトの奴、スケートの要領で滑ってきて、俺達をあっという間になぎ倒して、通り抜けたんだ。追いかけようとしたら、氷の絨毯の端を釣り上げて、滑り台状態さ。あれには参った。完敗だ!』


アインは興奮気味に楽しそうに語っていた。

完全にナイト王子を認めていた。


「そうか、お前はどうなのだ?」

「わたしはまだこの目でナイト王子の実力を見ておりません」


ジャミルは満足そうな笑みを浮かべる。


「ならば、継続して、ナイトの妨害を頼む」

「御意にございます」


カインは恭しく一礼した。

ナイト王子が王の資格を得たとしても、子をなさなければその血は残らない。

他の王家の血など入れてはならない。

この国には、彼の主を含めて7人の王がすでにいるのだから。




***




ネティアとフローレスの体の入れ替わりが発覚してから3日ほど経つ。

フローレスはネティアの体の中で記憶を取り戻したが、体との記憶の相違で混乱が生じ、再び昏睡状態に陥っていしまった。

フロントは看病しながらフローレスを見守っていた。

フローレスになったネティアの行方は依然不明のままだった。

グレイが目を付けた、地中の中の捜索だが、忍び衆と宮廷魔術師のヘレン率いる術者が共同で行っているが手がかりはない。

最高司祭リリィは神官と共にフローレスの秘密基地の空間をくまなく調べているが、こちらからも何も出てこない。

ナイトはライアスとシュウとで、公務に行っていた。

ネティアの捜索への参加は許されなかった。

表面的には、行方不明になっているのは義妹のフローレスで、妻のネティアではないからだ。

探しに行きたいが、地位からは逃れない。


『ネティア、どこにいるんだ?』


焦燥だけが募っていく。


「ナイト様、ティティス陛下がお茶を一緒に飲みたいとのお誘いがありました」


出ていたシュウが戻ってくるなり、義母からの伝言をナイトに知らせてきた。

ナイトは瞬きをする。


「お茶をのみたい?会議じゃなくて?」

「会議じゃありませんよ。ただ、気晴らしにナイト様とお話したいだけだそうです」


ネティアとフローレスの体が入れ替わり、ネティアは行方不明、フローレスは昏睡状態のこんな時に、憂さ晴らし?

ナイトはとても乗り気になれない。

しかし、2人の母である義母の誘いを無碍にすることはできないが、のんきだと思う。


「わかった、フロントにも声をかけよう。ライアス、とシュウも来るよな?」


複数人で行けば、盛り上がるし、自分の気持ちも隠せる。

正直、義母と話が合うとは到底思えなかった。

しかし、


「ご同行はできません」

「何で?」

「お呼びがかかっているのはナイト様お1人ですから」


思惑が外れて、ナイトはため息を漏らす。


「いいではないですか、お1人でも」


ライアスが気楽に言ってきた。

ナイトはイラっとする。

ライアスには、貴婦人とのお茶会の会話の話題の難解さなどわからないのだ。


「あちらで話題は用意されているようなので、心配にはお呼びませんよ。あと、無用な気遣いも不要かと。ナイト様の義母上なのですから」


ナイトの表情を読んで、シュウが微笑む。


「そうですよ。それに最近、王子はお疲れ気味のようにお見受けします。きっと、ティティス陛下は王子のことを気遣ってくれているのですよ」

「・・・・そうかもな、1人で行ってくる」


ナイトはそう答えたが、あの義母が気遣ってくれるとは到底思えない。

ただのお茶のみ話であるはずがない。

何か、ナイトだけに聞きたいことがあるのだろう。

先日、フローレスの秘密基地のことで、召集をかけられ、フロント、ライガ、ナイトは事情聴取された。


『でも、俺1人から聞き出せるものなんて、何かあるのか?』


ナイトは虹の国に来てまだ間もない。

妻ネティア、義妹フローレスとの付き合いもまだ短い。


そんな疑問を抱えたまま、義母の部屋に赴いた。


「義母上、参りました」

「よく来たわね、ナイト」


ティティス前女王が直接ナイトを笑顔で出迎えた。

車いすの義母の後について、中に入ると、窓際の茶会の席に客人がいた。

2人だけだと思っていたナイトは面食らった。

宮廷魔術師ヘレン、最高司祭リリィ。

そして、ティティス前女王の侍女ラナ、元国王正規軍の伝説の女騎士。

別名、虹の国の三大魔女と呼ばれている3人だ。

ヘレンとリリィは聖魔の最高位の術者として、行方不明のネティアの捜索の指揮を執っているはずだった。


「今日はお休みしましたの、手がかりが何も出てこなくて・・・」

「こういう時は、気晴らししないとね」


ナイトの心の声を読んで、リリィとヘレンが答えた。

4人の魔女がナイトに不気味な微笑を投げかける。

ナイトは逃げ腰になったが、


「さあさあ、お座りになってくださいませ、ナイト様」


逃がすまいと、ラナに肩を掴まれたナイトは強引に席につかされた。

伝説になっている女騎士だけあって、腕力は相当なものだった。

それから、ラナは全員にお茶を入れてから、席に着いた。

男1人対4人の熟女。

これは、なんの拷問だろうか、とナイトは脂汗を流す。


「そうかしこまらなくていいのですよ。今日はナイト様のお話を聞きたくてわたくしたち参りましたのよ」

「え、俺の話!?」


お茶を一口飲んで気軽に話しかけてきたヘレンの言葉にナイトの声が上ずる。

シュウの話では話題は義母が用意しているはずだった。


『しまった、なんか気の利いた話を用意しとくんだった!!!!』


ナイトはシュウを恨んだ。

現状を乗り切るために、義母たち、熟女が楽しめる話題を必死に記憶を探る。

すぐに浮かんだのは水の国での話。

父である水の王ウォーレスとの親子喧嘩とか、シープール統治、ライアスにかけられた苦労話くらいだった。

しかし、どれも、気分転換にお茶会を開いた熟女たちが好む話題とは思えなかった。

やはり、好まれるのは色恋の話だろう。


『もしかして、俺とネティアの馴れ初めを聞きたいとか!?』


ナイトとネティアの馴れ初めの詳細は誰にも話していなかった。

逃げ出したい衝動にかられる。

他人が、どっちが先に惚れたのかと、推測するのは構わない。

だが、自分がそれを話すのは到底耐えられない。

つい、思いつめて、なるようになってしまったとでも、言うのか?

自分の口から・・・

ナイトは頭を振る。


「え、俺の話といいますと・・・・・やっぱり、シープール領主になった時のはなしですかね・・・・?」


恋愛談を避け、自分の武勇伝に持っていこうとした。


「それはウォーレスから何度も聞かされたからもういいわ」


義母にあっさり却下され、


「わたくしたち、『浮いた話』が大好きなのよ」


ナイトは固まった。

やはり、色恋の話が聞きたいらしい。


「・・・・・それは・・・・・・その・・・・・、俺とネティアとの馴れ初めでしょうか?」


恐る恐る聞いてみると、義母は楽しそうに笑った。


「それも興味はあるわね。でも、それは後日、ネティアが戻ってきてからの楽しみに取っておくわ」


ナイトは一気に脱力した。

ならば、誰の浮いた話が聞きたいのだろうか?

ナイトが知っている浮いた話は、ライアスとサラ、フロントとマリアぐらいだ。


『・・・・後者は絶対にないとして、ライアスとサラの馴れ初めを義母上は聞きたいのか?俺、何も知らないんだけど・・・・』


悩んでいるナイトの表情を面白そうに観察しながら、義母はお茶を一口飲んで本題を切り出した。



「あの祠に祭られていた人物は、相当な未練を残してこの世を去ったようね・・・・」



その切り出しに、ナイトは弾かれたように顔を上げた。

義母たちが聞きたい話とは、フローネのことだと悟った。

義母は穏やかな微笑みを浮かべて続ける。


「やっぱり、あなたも知っているのね。あの祠が誰を祭っているのか?」

「はい、あの祠は、前世の俺とネティアが建てたものですから・・」


霧の魔物の正体は、ネティアの前世の双子の妹フローネ。

そう考えれば、すべての点が線で繋がる。

神聖な虹の神殿にいたことも。

ネティアが魔法を使えず、様子がおかしかったことも。

ネティアはただ守りたかったのだ。

現世の妹と、前世の妹を。


「フローネです・・・・ネティアの前世の双子の妹です」

「やっぱり、そうだったのね」


義母はとっくに霧の魔物正体に気付いていたようだ。

三大魔女たちにも、驚いた様子はない。


「しかし、まさか、魔物になって現れるほどの未練を持った者が、虹の結界の柱に選定されていたなんて驚きです」


リリィがいうと、ナイトは驚きの表情を浮かべる。


「未練を持った者が生贄に選定されることはないのですか?」


ヘレンが説明する。


「そんな者を生贄にしたら危険でしょう。世界を守るための結界ですよ。世界を守るために自らの命を捧げられる者が生贄には相応しい。どんなに膨大な魔力を秘めた人物が柱でも、未練を抱えたまま結界の柱にされれば、儀式中に暴走されたり、術が完成しても、不完全な結界になってしまいます。悪く言えば、フローネ様は処刑されたようなもの。世界に恨みを持ったままよく今まで結界が1000年もの間持ったとしか、いいようがないですよ」


義母が自らの見解をいう。


「それは虹の結界を最初に張った術者が双子の姉だったからでしょうね。フローネは家族のために命を捧げたのでしょう。そして、ネティアは結界が不完全であると気付かせないように1000年間隠し通した」

「その結果が今ということですね」


ラナが聞くと、義母は重く頷く。


「ナイト、虹の結界を完成を妨害した者がいたわね?」

「・・・・・おそらく、俺の親友だと思います」


ナイトは歯を食いしばった。

義妹が結界の柱にされた時、遠く離れた場所で魔物討伐を指揮していた。

フローネの死は後日知った。

親友が闇の国に旅立つ前に、使いをよこしてくれたのだ。


「その人は一体何者だったの?」

「その当時の王族の1人でした。ですが、全然王族らしくなかった。そいつは、身分の貴賤や民族など気にせず人の中に入っていくので、誰からも愛されていました。俺はそいつの護衛で、よく狙われるので、いつも焼きもしていました。ですが、似たような悩みをお互いに持っていて、いつの間にか、親友になってました」


ナイトは前世の親友のことを思い出して、苦笑した。


「当時の王族ね・・・前世のネティアは山奥の小さな村で双子の妹と2人暮らしだったと聞いたわ。あなたが、その人とネティア達を引き合わせたのね」


話には頷いが、ナイトは否定する。


「いえ、本当は引き合わせるつもりはなかったんです。それどころか、俺も自身も二度と会うことはないと思っていました」


義母たちは不思議そうに首を傾げる。


「でも、実際は出会ったんでしょう?」

「はい、まさか、俺を追いかけてくるなんて思いもよらなくて」

「追いかけてきた?」


疑問がさらに深まって、詰め寄ってくる義母たち。


「俺、その、あいつに黙って、出奔したんです」

「出奔?」


ナイトは歯切れ悪く続ける。


「俺の親父は豪商で・・・・俺に騎士をやめて、結婚して、後を継げと迫ってきたので、たまらず逃げ出したんです」


沈黙が流れる。


「なんか、現世とつながるところがありますね・・・」


ラナが呟く。

現世のナイトの父、水の王ウォーレスは本当はナイトに王位を譲りたかった。

そのために、国中、世界中から美女を掻き集めてナイトに妻を娶らせようとしが、運命には逆らえなかった。


「それで、旅先で出会ったのが、前世のネティアでした。卓越した術者で、俺が苦戦してるときに、助けてくれたんです。美しい銀髪と瞳に心を奪われました。完全な俺の一目ぼれでした」


黄色い声が上がる。


「面白くなってきたわね、さあさあ、早く続きを聞かせて!!」


ヘレンが鼻息荒くせかす。

ナイトは苦笑いを浮かべた。

現世の馴れ初めではないが、前世の馴れ初めを話すことになってしまったからだ。


「告白して、一緒に旅をしていたんですけど、突然、彼女がいなくなってしまったんです」

「え、いきなり逃げられたの?」

「何をしたですか?」


ヘレンが驚いて叫び。

ラナが軽蔑するよう睨んできた。


「何もしてませんよ!告白したつもりだったんですけど、なんか、告白した言葉がまずくて、俺の気持ちが伝わってなかったことを人づて聞いて、彼女を追いかけて

彼女の村を訪ねたんです。ネフィアを見つけて、自分の気持ちをもう一度、告白している時に、義妹フローネが現れたんです」

「・・・・・それで・・・・?」


話の主役が出てきて、熟女たちは固唾を飲んで、身を乗り出してきた。




「・・・・・こん棒で殴られました・・・・・」





ナイトは頭を掻きながらポツリと呟くと、熟女たちは、テーブルの上に突っ伏した。

















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