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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
105/134

未練

虹の女王ネティアの2回目の結界継承の儀式が厳かに執り行われた。

天気は生憎の曇天。

だが、雨は降っていなかった。

しかし、空は今にも泣きだしそうな気配だった。


虹の結界の一部を、前女王ティティス通して橙色の魔力を受け継ぐ。

魔力がネティアの中に流れ込む。

そして、再び、ネティアの意識の世界に前世の妹フローネが姿を現した。


『姉さん・・・・・・あの人に、もう一度会いたい…』


前世で一度だけ見せた妹の弱音を吐く姿が再現された。


『会わせてあげる、絶対、約束するわ!』


ネティアがそう約束すると、フローネは涙を浮かべて微笑んだ。

体中に満ちていた結界の魔力が吸収された。

張りつめていた気が途切れ、意識がまた落ちた。

しかし、すぐに抱き留められた。

抱き留めた人物の顔を見る。

フローレスだった。

親衛隊になった彼女は結界の儀式に参加することができるようになっていた。

いつも離れていた双子の妹が傍にいてくれた。

とても心強かった。

だが、


「女王陛下!」


フローレスからかけられた敬称をネティアは悲しく思う。

双子の妹、だから、名前で呼んでほしかった。

もう元には戻れないのだろうか?

ネティアは意識を閉じた。




***




フローレスは儀式で気を失ったネティアを寝室へと運んだ。

寝室に着くと、ネティアはすぐに意識を回復した。


「大丈夫?」

「うん、ちょっと、疲れただけ。少し休んだら大丈夫」


そこへ、ネティアの夫ナイトがフロント、ライアス、シュウを伴って現れた。


「ネティアは大丈夫なのか?」

「前回よりは大丈夫です。ごめんなさい、心配をかけて」

「そうか、安心したよ。フローレス、ネティアについててくれ」

「もちろんよ。私、女王の親衛隊だもの」

「そうだったな」


ナイトは安心して微笑むとフロント達を伴って、仕事に戻っていった。


「フローレスが傍にいてくれると落ち着くわ」

「そうでしょう?親衛隊になったかいがあったわ」


女王の姉に頼りにされ、フローレスは嬉しくて姉の手を取る。


「こうやって、ゆっくり話もできるし・・・女王の仕事はいつも大変ね、見ててわかるわ。でも、今日はもういいんじゃない。大仕事を果たしたんだし」

「そうね・・・わたくしもあなたと話がしたかったわ。でも、忙しくて・・・」

「話って何?」

「・・・・・ごめんなさい・・・・なんか、眠くなってきちゃった・・・・フローレス、傍にいて・・・・ね」

「傍にいるからゆっくり休んでね」


ネティアの話が何だったのか気になるが、それよりも今はゆっくり休んでほしかった。

1時間ほど経過したが、ネティアが起きる気配はなさそうだった。

少し休んだら大丈夫、と言っていたが、全然大丈夫ではなかったようだ。

グーとフローレスのお腹が鳴った。

よく考えると昼食をとっていなかったこと思い出した。


「サラ、ごめん。ちょっと、出てきていいかな?」

「いいですよ。お食事まだでしたものね」


控えていたネティアの侍女サラに看病を代わってもらって昼食を取りに行く。

ポケットを探ると、ピザ1年間無料サービス券があった。

フロントとデートに出かけた時に、ピザの大食い競争で優勝した時の賞品だった。

たまに街に繰り出して、ピザを食べ行くときのためにいつもポケットに忍ばせていた。


「そうだ、ネティアが起きた時のためにテイクアウトもしよう」


フローレスは近道を使って王宮を出ようとして、中庭を通ることにした。


「フロント様!」


気まずい状態が続いているフローレスの婚約者の名前を走りながら探す男の声に足を止めた。

フローレスはとっさに木陰に隠れて、フロントがいる場所を探す。

反対側のバラ園の方角からフロントが現れた。

手にはバラの花束を持っていた。

浮気相手のマリアにでも渡すのだろうか?

少し胸が痛んだ。


「どうしたんだ?」


フロントを探していた男はマリアのボディガードだった。


「マリア様がロンド領主に付きまとわれています!お助けください!」

「わかった、すぐ行く」


フロントはバラの花束を持ったまま、マリアを助けに行く。

フローレスも隠れてついていく。


『ブラッドの奴、まだマリアに付きまとってたの!?』


マリアは恋敵だが、同じ女のとして心配もしていた。

結界継承の儀式では王の一族も参列していた。

久々に美しいマリアを見かけてちょっかいを出しのだろう。

ブラッドは女癖が悪いので有名だった。


「お茶ぐらいいいだろう?」

「いや、触らないんでください!」


ブラッドとマリアの争う声が聞こえてきた。

王宮の隅の廊下の行き止まりにマリアは追い込まれたようだ。

王の一族の権威があるブラッドは城兵を払うことができる。

マリアを守っているのは、マリアのボディガードだけだ。

だが、ブラッドには手出しができない。

堂々と1人でマリアに迫っている。


「手ぐらいいいだろう?フロントにはあっさり服を脱いだんだから」

「あなたとフロント様は違います!」

「そうかもな。でも、俺とお前は一緒じゃないか?」

「なんですって?」

「欲しいものは奪ってでも欲しい」


言われたマリアは言葉をなくした。

そうだ、マリアはフローレスからフロントを奪いたかった。

ブラッドと何ら変わりはない。


「同類同志、仲良くしようぜ」


ブラッドが腕をマリアの手に回そうとしているが、マリアに払う気はない。


「汚い手で触れないでいただきたい」


背後から腕を掴まれたブラッドが驚いて振り向く。


「フロント様!」


マリアが歓声を上げる。

嫉妬も忘れて、フローレスは、『行け、フロント!』、と隠れて応援していた。

フロントはブラッドの腕を捻り上げて、マリアから引き離して、突き飛ばした。

ブラッドはよろけながらも、転びはしなかった。


「マリアを手に入れたからって頭に乗るなよ!」

「頭になど乗っていない。図に乗っているのはお前の方だ」

「何!?」

「王の一族の権威を振りかざすのは相変わらずだな、ブラッド」

「生まれた時からの特権だ。闇の流民のお前が俺を呼び捨てにしていい身分じゃないぞ」

「確かに、身分はないな。だが、私にも生まれた時からの特権はあるぞ」

「何の特権があるんだ?」

「この体かな。少なくともお前より力も魔力も強い。何より、女性にモテるという特権だ。お前なんて王の一族の肩書がなければ、モテないだろうからな」


フロントはバラの花束を肩に乗せて、気取ったポーズをとる。

ブラッドは顔を真っ赤にして怒った。

フローレスはちょっと白けた。

フロントの自意識過剰なところはあるが、ほぼあっているので何も言えない。


「フローレスと別れられてよかったな!!」


捨て台詞を吐いて、ブラッドは退散した。


「さすがです、フロント様!!」


ブラッドを撃退したフロントをマリアのボディガード達が称賛する。


「いや、大したことじゃ・・・・」

「フロント様!!」


マリアがフロントに抱き着いていく。

怖かったのか、涙を流している。

盗み見ているフローレスの胸に再び痛みが走る。


「帰りましょうか?」


フロントは優しく語りかけて、マリアと共に帰っていく。

その姿は強くて、優しくて、格好良かった。

ずっと憧れだった。

子供の頃、こうやって隠れてフロントの姿を盗み見ていた。


「何で、私、マリアみたいにうまくあまえられなかったんだろう・・・フロントとあんなふうになりたかったのに・・・」


フローレスが危ない時に何度もフロントが助けに来てくれた。

でも、素直に甘えることはできなかった。

腕を組んで、想像してみる。

マリアみたいにフロントに甘えている自分の姿を。


「柄じゃないんだわ、私なら自分で撃退する」


そういう結論にあっさらり至った。


「早くピザ食べて、ネティアの元に戻らなくちゃ」


マリアは無事フロントが救出して、万事解決。

フローレスは親衛隊の職務に戻った。




***




カリウス邸にマリアを連れて戻ったフロントは、自身にあてがわれた部屋の壁に拳を打ち付けた。


『まだ別れてない!!』


心の中で怒り狂っていた。

先ほどのブラッドの最後の言葉への反論だった。

もし、あの場にマリア達がいなければ、ブラッドに超特大の攻撃魔法をお見舞いしてやったところだ。

しかし、今は自分の不義理でフローレス姫に気持ちを伝えられずにいた。

あのバラの花束はネティア女王への見舞いの品だった。

見舞いついでに、看病しているフローレス姫に近づいて話そうと考えていたのだ。

だが、ブラッドがマリアに絡んでいたので、助けに行き、泣いている彼女にあげてしまった。

そうとは知らないマリアは喜んでくれた。

罪悪感でいっぱいになる。

今はマリアの好意に甘え、彼女の傍にいた。

近くにいて守ってあげたいと思ってしまう。

マリアはか弱い女性だ。

気を強く持っているが、完全な強がりだ。

その美貌からブラッドのような男につけ狙われることがある。

その点、フローレス姫は強かった。

あの親衛隊さえ倒して、手懐けてしまった。

常日頃から、『自分の身は自分で守る』、と公言してるだけある。

傍にいなくても大丈夫。

守りがいがない。

だが・・・


フロントはベッドに体を投げ出し、仰向けに寝転ぶ。


『フローレス様を守る』


そう誓って戻ってきたはずなのに、全然守れらせてもらえない。

自分の存在意義が空回りしていた。


『私は、今、なんのためにフローレス様の傍にいようとしているんだろうか?』


守れなかった彼女は守る必要がないほど強くなった。

もう自分は必要ないのか?


トントン


ノックする音がして、フロントは飛び起きた。

きっと、マリアだ。

ドアを開けて迎え入れる。


「フロント様から頂いバラ飾ってみました」


バラを活けた花瓶をもって、入ってきた。


「もう大丈夫なのですか?」

「ええ、フロント様がいてくださりますから。焼きたてのクッキーがありますから、お茶を一緒にいかがですか?」

「もちろん、いただきます」


ティーセットが運ばれてきて、召使いがお茶を注いで退出する。

マリアと2人きりなる。

しばらくお茶を楽しんでから、マリアが言いにくそうに喋り出した。


「わたくし、フロント様に謝らなければなりません」

「え、何をです?」

「その・・・・・フロント様の意思を無視して、その、はしたないことをしてしまって」


マリアは神妙な顔でフロントを見つめてきた。

一夜を共にした日のことを言っているようだ。


「ブラッドに言われたことを気にしているのですか?」

「言われてハッとしましたわ。わたくしもブラッドと同じことをしてしまったと」


フロントはカップを置いて、マリアと真剣に向き合う。

住まわせてもらってはいるものの、マリアとの関係は一度きりだった。


「でも、あなたとブラッドは同じじゃないですよ。あなたは一途に私を想ってくれた。それに、ちょっと心が弱っていた私の心が揺らいだだけですから」

「それでは、その・・・わたくしとのこと・・・」

「惹かれています。ですが、まだ私の心の中にはフローレス様がいます」

「そうですわよね・・・」

「でも、あなたの気持ちはとても嬉しいです」

「なら、わたくしにもまだチャンスがあると思っていいいのですか?」

「今は何とも・・・・・・まあ、フローレス様次第でしょうか」

「わたくしはいつまででも待ちます!フロント様が振り向いてくださるまで!」


熱いまなざしを向けられて、フロントは苦笑するしかなかった。




***




翌日、フローレスの前にブラッドがいた。

昨日マリアが絡まれていたが、今日は自分が絡まれてしまった。

フロントのことでからかいに来たのは明白だった。

たまたま1人で歩いてて、親衛隊の仲間がいない時だった。

適当に流すことに決めた。


「よう、フローレス、元気か?フロントに捨てられたそうじゃないか?」

「別に捨てられてないわよ」

「フロントの奴、マリアのところに入り浸りだそうじゃないか」

「居心地がいいんじゃないの?」

「そりゃ、マリアはお前と違って、優しくしてくれるだろうからな」

「そうかもね」

「これからどうするんだ?フロント以外にお前をもらってくれる奴いるのか?」

「そんなの知らないわよ。結婚しないなら、仕事を頑張るだけよ」


そっけなく答えると、ブラッドは眉を潜めて、説教してきた。


「お前、自分の立場わかってんのか?虹の王家で初めて第2子として生まれたんだぞ。結婚しないなんて許されるわけないだろう?」

「相手がいなきゃ結婚なんてできないでしょう?それともなに、ジャミルが私に気があるって?」

「まさか!」


ブラッドはそう言って、フローレスをじっと見つめてくる。


「あのちんちくりんが、美人になったもんだな」

「え、何、急に、気持ち悪い!」


ブラッドの腕がフローレスの肩に回され、鳥肌が立つ。


「強がってても、女なんだし。寂しいんじゃないか?何なら、俺を頼ってくれてもいいぜ」

「誰が、お前なんか頼るか!」


ブラッドの腕を振りほどいて、フローレスは腰の剣を抜いた。


「ブラッド・ロンド!王女の私にお前ごときが触れていいと思っているのか!?」


本気で斬るつもりで剣の切っ先をブラッドの鼻先に向けた。

本気度が伝わったのか、ブラッドは手を挙げた。


「ああ、悪い。冗談、冗談だ」


ブラッドは青い顔で笑いながら、退散していった。


「全く・・・フロントに恥かかされたからって、私に絡まないでよ」


ぼやいて、剣を納めると、拍手が聞こえてきた。

柱の陰から出てきたのはフロントだった。


「いや、お見事。さすが、親衛隊。私の出る幕なかったですね・・・」

「何、見てたの?あなたのせいで、いい迷惑なんだけど・・・」

「あははは、すいません。そのことで、ちょっと、お話が・・・」

「もうおしまいにしましょう」

「え!?」


フロントは復縁に来たようだが、フローレスの意思は固かった。


「ずっと思ってたけど、マリアとあなた、お似合いよ」

「いや、その、ちょっと、待ってください!」


素通りしようとしたが、フロントに腕を掴まれた。


「見ての通り、私は大丈夫よ。自分の身ぐらい自分で守れるから」

「そうでしょうけど、心配なんです!頑張りすぎて、助けてほしい時でも、フローレス様は何も言わなそうだから・・・・」


フロントが心配そうに見つめてくるが、フローレスはため息を吐いた。


「それはあなたでしょう?」


人がいいフロントは頼まれた仕事は断れずに、いつも抱え込んでいた。

もちろん、魔物退治など危ない仕事もあって、大怪我をしているのに、フローレスに黙っていたこともあった。


「マリアと一緒になった方があなたのためよ。マリアならあなたに無理はさせないだろうから。私には親衛隊の仲間がいるから大丈夫よ」


フローレスはフロントの手を振りほどいて立ち去ろうとしたが、


「なら、せめて、見届けさせてください!あなたが親衛隊長になって、他の誰かを選ぶまで!」


フロントの最後の粘りにフローレスは面倒臭そうに振り返り、


「好きにすれば」


と一言だけ答えた。




***




フローレスに復縁を断らたフロントは力なくナイトの部屋を訪れた。


「どうだった?」


迎え入れられてすぐ、フロントは首を振った。


「・・・これからどうする?」

「結婚まで考えたのに、そう簡単に諦められない。とりあえず、見守る。フローレス様が親衛隊になって、誰を選ぶのか見届けたい」

「マリアの方は?」

「マリア様は私がフローレス様を忘れるまで待ってくれると言ってくれた」

「そうか・・・」


ナイトはそう言って、少し間を開けてから、


「あの、兄ちゃん、これからのことなんだけど・・・」


フロントはナイトの方を向く。


「その仕事のことなんだけど、兄ちゃんさ、カリウス下で働いくれないか」

「カリウス様の元で?」

「うん、親衛隊はフローレスに任せられそうだから、ライアスを俺の傍に戻そうと思う。そうすれば、全体的に連携も取りやすいと思うんだ」


ナイトの提案にフロントは黙った。

次期国王になるナイトの考えはわかる。

フロントが宰相であるカリウスの元に行けば、ナイトの力を政治にも影響を及ぼせる。

だが、そうなると、フローレス姫との距離がますます広がってしまう。


「考えはわかるよ。でも、今は少し距離を取ってみたらどうかな?」

「・・・・そうだな、ナイトの立場もあるもんな」


フロントに選択肢はなかった。

早々にナイトの部屋を辞した。


『もう、ダメかな・・・』


フローレス姫との復縁は叶わなそうだ。

しかし、諦めきれない。

こんな気持ちでは、とてもマリアが待つ邸へ戻れなかった。

誰かに胸の内を打ち明けたい。

悩んだ末に、訪れたのはフローレス姫の双子の姉、女王ネティアの部屋だった。

ネティア女王はフロントの面会を聞くなり、すぐに部屋に招き入れ、人払いをしてくれた。


「フローレスのことでしょう?」

「はい、ネティア様・・・申し訳ありません。フローレス様と話しましたが、復縁はできなさそうです」


ネティア女王は息を呑んだ。


「フローレスは許してくれなかったの?」

「そうみたいです。マリア様と似合いだと言われてしまいました・・・」

「まあ、フローレスがそんなことを!」


ネティア女王は信じられない顔をしている。


「昼間はブラッドに絡まれてましたが、自分で撃退してました。私の出番はありませんでした」

「そんなことないわ。フローレスにはあなたが必要よ」

「今は必要ないみたいです。親衛隊の仲間がいると言ってました」


フロントは力なく笑った。


「私はナイト様の元を離れ、カリウス様の元に行くことになりました」

「え、それじゃ、フローレスとは・・・」

「少し離れて考えたいと思います」


フロントは力なく答えた後、立ち上がった。


「フロント、わたくしがフローレスと話してみるわ!だから、待ってて、お願い・・・」


ネティア女王が立ち上がってそう言ってくれた。


「私の気持ちはまだフローレス様にあります」


そう胸の内を打ち上げて、ネティア女王の部屋を後にした。




***




フロントが訪れた翌日の夕方、ネティアはすぐに行動を起こした。

神殿での女王の仕事を終わらせ、フローレスを散策に誘った。

行く場所は、フローレスの秘密基地、フローネの墓があった場所。


「フローレス、どうしてこの場所を閉じたの?」

「ごめん、もう必要なくなっちゃったの」


ネティアの問いにフローレスはバツが悪そうに答えた。


「騎士になって、親衛隊にもなって仲間もできた。ずっとネティアの傍にいられる。ナイトの力にもなれるんだよ、私!」

「そうね、でも、フロントは?」


フロントの名前を出すと、フローレスの顔が曇った。


「フロントも一緒よ。だって、ナイトの腹心なのよ」

「マリアと一緒になれば、別の場所に帰ってしまう。私たちの家族じゃなくなってしまうわ」

「それは仕方ないじゃない」

「それで、あなたは本当にいいの!?」


抑えていた感情が高ぶり、ネティアはフローレスの肩を掴んで叫んだ。


「いいのよ、私の傍にいるより、絶対、幸せだから!」

「どうして、わかるのよ!?」

「わかるわよ、だって、マリアが傍にいる時の方がいい顔してるもの!」

「嘘つき!」


パシ!!


ネティアはフローレスの頬を叩いていた。

やけに大きく響いた。

叩かれたフローレスは放心状態になった。


「あなた、言ったのよ。わたくしにだって、フロントは渡さないって!」

「それは、子供の頃の話でしょう・・・」

「フロントと話して」

「もう話したわ」

「もう一度、話して」


ネティアは懇願した。

しかし、フローレスは、反発する。


「フロントなんていなくてもいいじゃない。私が傍にいるわ。ネティアは私がずっと傍にいるのが嫌なの?」

「嫌じゃないわ!でも、わたくしだけじゃ、あなたを守り切れないの!」

「・・・・・・・・守り切れないって、どういうこと?」

「それは・・・」


言ってはいけない言葉を口にしてしまったネティアは言葉に困った。

まだ秘密を明かしてはいけない。


「・・・・・何、この霧?」


急にフローレスが辺りを気にしだした。

言われて、ネティアも辺りを見ると、いつの間にか濃い霧が辺りを覆っていた。

霧はフローレスの秘密基地の入り口があった場所から噴き出していた。

霧の噴出が止まると、奇妙な声が聞こえてきた。


『・・・・・タダイマ・・・・・・・ネェサン・・・・』


声が消えると、霧が一か所に集まり、人の形になった。

フローレスと共に凝視していたが、その正体に気付いて、思わず名前を口ずさむ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・フローネ・・・・・」


前世の妹の残留思念が閉ざされた空間から出てきたのだ。

ネティアの2回目の結界継承の儀式で、結界の人柱になったフローネとの繋がりが強くなった可能性がある。


『あの人にもう一度会いたい』


フローネの恋人への強い思いが、フローレスとフロントの別れの危機を引き金に、具現化して姿を現したようだ。

彼女の目的はただ一つ、恋人に会うこと。


『だとすると・・・』


思い当たる前に、フローレスが剣を抜いてネティアの前に立つ。


「ネティア、逃げて、ここは私が食い止めるから!」


親衛隊のフローレスは体を張って、女王であるネティアを守るためにフローネの残留思念に立ち向かっていく。


「ダメ!戻って!」


ネティアはフローレスを止めようとしたが、時すでに遅かった。

フローネの狙いはネティアではなく、フローレスだからだ。

実態のないフローネに剣は効かない。

剣が空を切る。

前世の妹に魔法を放つのは躊躇われたが、ネティアはフローレスを守るために火の魔法を唱える。


「火の精よ、霧を払って!」


叫んだが、魔法は発動しなかった。

何度も魔法を唱えるが、発動しない。


『魔法が使えない!?」


最大の武器である魔法が使えない。

ネティアの頭は真っ白になった。

フローネの魔力はネティアの魔力でもある。

だから、使えないとう結論に至る。

フローレスは効かない剣で果敢に霧のフローネに斬りつけている。


「フローレス、逃げて!」

「私は大丈夫!ネティアが逃げるまで頑張るから!」


フローレスは自分が狙われているとは露ほども感じていない。


『・・・・・・・・オカエリ・・・・・・・・ワタシ・・・・・』


フローネを形成する霧がフローレスを捉えた。

しかし、ネティアに対抗手段はない。


『助けて、ナイト様!!!!!』


どうすることもできず、ネティアは心の中かで夫に助けを求めた。




















第2章終了です。

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