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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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決死の略奪愛

ライガの足止めに成功したレッドとブルーはナイト王子の後を追いかけた。

そして、猛スピードで疾走する馬車とすれ違った。


「たく、危ないな」

「ナイト様とフロントが行った方向からだったな。何かあったのかもしれない」


2人は顔を引き締めて、ナイト達の後を追った。


「ナイト様!?」


5,6人の屈強な男達に囲まれているナイトを発見した。


「退け!」


駆けつけたレッドとブルーを見た男たちは一目散に逃げだした。



「ナイト様、ご無事ですか!?」

「俺は無事だ!」


レッドが駆け寄りナイトをガードする。


「あれ、フロントがいない?」


ブルーが辺りを見回して、姿を探す。

本来ならフロントが次期国王のナイトを警護しなければならない。

失恋しようが、任務には関係ない。


「フロントは連れされられた!早く追いかけないと!」


必死に訴えかけるナイト王子にレッドとブルーはなかなかピンとこなかった。


「連れ去られた???・・・・・・あのフロントが誘拐されたですか!?」


レッドが驚愕の表情で叫ぶ。

フロントは虹の国でも屈指の万能騎士だ。

その強さから魔王と恐れられている。


「そうだ!」

「あの魔王を連れ去るなんて、一体どんな強者ですか!?」

「マリアだ!」


ナイト王子から誘拐犯の正体を聞いたブルーは一時思考停止に陥った。

先ほどの馬車を思い出す。

どっかで見たような豪華な馬車。


「あの、マリア様ですか!?」

「そうだ!?」

「何でこんなところに?」

「そんなこと俺に聞くなよ!」


ブルーの疑問もにナイト王子がいら立つ。


「それよりフロントを連れ去ったのがマリア様なら、かなりやばいぞ・・・」

「相当泥酔してたらから、フロントの奴、コロッと行くかもな・・・」


レッドとブルーの創造にナイト王子が叫ぶ。


「それはダメだ!絶対阻止する!」


駆けだしたナイト王子にレッドとブルーも従う。







マリアは自宅である宰相カリウス邸に戻っているようだった。

邸からは物々しい騒音が響いていた。

慌ただしく出てきた見張りは兜に甲冑、完全装備で警備に当たっている。

まるで戦争でも始めるかのような雰囲気だ。


「まずい、籠城される、レッド!」

「結界が張られる前に中に潜り込む!ブルー、結界が張られないよう妨害してくれ!」


レッドはいうが早いか飛び出しって行く。

ブルーも即座に懐から巻物を取り出して、広げる。

絵のような文字が浮き出てきて、空高く上がったかと思うと、四方に散った。

邸の上空で青と赤の火花が散る。

今まさに結界が張られようとしていたのだ。

印を結ぶブルーの額に汗が滲んでいる。


「ブルー、レッドが潜り込まで頑張れ!」


検討むなしく、数分後、ブルーが膝をついた。

術は押し戻されてしまった。

そして、レッドも帰ってきた。


「ダメでした・・・」

「邸への侵入は我々ではもう無理です」

「そんな・・・何か手はないのか?」

「ないっす」


第三者の声にナイト達はギョッとした。

いつの間にかライガが会話の輪に入っていた。

手には金の入った袋と、頭には大きなたん瘤ができていた。

どちらも父親からもらったのだろう。


「本当に何とかならないのか?」


ナイトは再度ライガに訪ねた。


「なくもないっすけど。宰相のお邸っすよ。俺らが無理に侵入したら反逆罪になるっす。まずは正攻法で行くしかないっすね」

「正攻法?」

「ナイト様が、『フロントを返してください』って、直接お願いに行くんす」


ナイトはなるほどと思った。

立場的には虹の国の現女王の夫で次期国王だ。

宰相に命令することは可能だ。

しかし、男女間のプライベートな問題だ。

身分を利用して、言うことを聞かせることが果たしてできるのか?


「若、ナイト様が行っても聞き入れてもらえないですって!!マリア嬢はめちゃくちゃフロントに執着してたんですよ。絶対返しっこないです!」

「カリウス様だって、この機を絶対に逃さないですよ!見てくださいよ、あの鉄壁の守り!」

「まずは一か八かナイト様に賭けてみるしかない」


ライガがナイトの方を見る。


「ナイト様、お願いできるっすか?」

「・・・・やるしかないだろう、フロントの勘違いなんだし」


ネティアとフローレスの為、ナイトは交渉に赴く決心をした。

しかし、どう交渉したらいいのか、頭はまとまらなかった。

取り合えず、カリウス邸の門へと向かう。

塀の上には完全武装の見張りが隙間なく立っている。

邸には強力な結界が張れれている。

邸は完全な要塞と化していた。

しかし、門からは出入りはできるようだ。

重厚な門構えの前に完全武装の兵が槍を持って、立っている。

並々ならぬ威圧を放つ彼らの元へ、ナイトは1人で歩いていく。

和睦交渉に敵陣に赴く使者の気分だ。

フロントを取り戻すため、なんと切り出せばいいのか、ナイトが思い悩んでいると


「こんばんわ、ナイト様!」


と向こうから挨拶してきた。

その声は見た目の物騒な格好とはかけ離れた親し気なものだった。


「月がきれいですね」

「・・・・・・・・・・・月はあっちだぞ」


ナイトは突っ込みを入れた。

慣れない兜をかぶっているせいで、月がちゃんと見えていようだ。

話しかけてきた門番は咳ばらいをして誤魔化す。

今の会話で緊張が解ける。

武装はしているが、攻撃の意思はないようだ。


「完全武装だな」

「そうですか?いつもこんな感じですよ」

「嘘つけ。日々の見張りのためにそんな重装備見たことないぞ」


とぼける門番にナイトは呆れた。


「いいえ、嘘ではありません!我が主の娘マリア様は虹の国一の美女!邪な者たちから常日頃から狙われているのですから」


王の一族の1人ブラッドがマリアに執着していること知っていた。

そのため、天敵のフロントがマリアの警護によく駆り出されていた。


「それにしては、その武装、大げさすぎないか?狙われてるって言っても、城攻めしてまで襲ってこないだろう?」

「今夜はマリア様の大切なお客様がいらしているので、、まあ、特別ですね」

「その大切な客っているのはフロントだな?」


ナイトは本題に切り込む。


「その通りです」


門番はとぼけなかった。


「なら、話は早い。俺の護衛がいない。だから、呼んできてくれ」

「ご冗談を。ナイト様ほどのVIPに護衛がいないなどあり得ないでしょう」

「それがあり得るんだ。ネティアと縁日に遊びにいきたくてな。忍んで出かけたんだ。護衛はフロントとフローレスだけだった」

「そうでしたか、事情は分かりました。しかし、フロント様はナイト様をとても護衛できる状態ではありません。泥酔していらっしゃいました。ですから、マリア様が介抱のためにお連れになられたのです」


ナイトは言葉に詰まった。

たしかに、フロントは泥酔していて護衛できる状態にはなかった。


「泥酔しているのに無理に護衛をさせるなど、ナイト様もお人が悪い」

「介抱なら俺がする。明日も忙しいし、フロントがいないと、仕事が進まないから、俺が連れて帰る」


ナイトは強引な理由でフロントを返すよう要求したが、


「承服いたしかねます」


あっさり拒否された。


「・・・なぜだ?」

「フロント様はフローレス様にふられたと仰っていました。つまり失恋なされたのです。仕事となれば失恋相手であるフローレス様と顔を合わせなければなりません。そうなれば、古傷を抉られるようなもの。休息が必要です」


理由も正論だ。

しかし、引くわけにはいかない。


「フロントは失恋してない。ただ、プロポーズを断られただけだ。まだ時期じゃなかったんだ」

「一世一代の男の決意を無碍になされたのです。失恋で間違いありません。フロント様は今ご結婚なさりたいのです」

「それはフローレスとだ。マリアとじゃない」

「そうはどうでしょうか?」

「どういう意味だ?」


門番は強気で持論を展開する。


「なぜ、フロント様はマリア様の手を取られたのでしょう?マリア様のお気持ちは知っておられたはずです。全くお気持ちがなかったわけではないと、推察いたします。それに、フロント様が今結婚を申し込まれたということは、今愛がほしいのでしょう。フローレス様に断られたことで、寂しを埋め合わせたいはずです」

「それは・・・」

「フローレス様との恋は終わったのです」

「終わってない!ただフロントが早とちりをしただけだ」

「早とちりだろうと、構いません。フロント様を想い続けるマリア様にチャンスがもたらされたのです。マリア様はそのチャンスをお掴みになった。我々は全力でその恋を応援するまでです」

「つまり、フロントを返す気はないということだな?」

「いいえ、ちゃんとお返しします。ただし、ことが終わり次第ですが」

「だから、返す気がないってことじゃない、フローレスに」

「そうですね、フローレス姫にフロント様をお返しすることはできません」


ナイトは歯を食いしばって、門番を睨んだ。


「力づくで奪還なさいますか?いいでしょう。我々はすでに命を懸ける覚悟があります」


完全武装の門番がナイトに槍を向けてきた。


「おっと、ナイト様には手を出させないぜ!」

「ナイト様、お下がりください。ここは俺達にお任せください」


仮面をつけたレッドとブルーが門番たちの前に現れ、体術で蹴散らしていく。

その強さは圧倒的だったが、完全武装した門番の守備力は高く、すぐさま立ち上がって向かってくる。


「そんな思い鎧着てたら、俺達の動きにはついてこれないぞ!」


レッドが挑発するも、リーダが鼓舞する。


「怯むな!数では圧倒的にこちらが優勢だ!絶対に中にいれるな!」


門を固めていた兵が加勢に入る。

残った人数は10人、もちろん精鋭だろう。


『死にたくなけらば、どけ!!』


門の守備が手薄になったところで、天空から重厚な声が降りてきた。

上空から仮面をかぶったライガが降ってきた。

完成された術を構えている。

それを見た精鋭の兵は震え上がって、慌てて逃げだした。

凝縮されたその技を見て、太刀打ちできないと本能が理性を打ち負かしたようだ。

しかし、一人腰を抜かしてしまい、門の前に取り残されてしまった。

ライガは無情にも、大技を繰り出す。



『大気の鼓動』



静かだが、空間を振るわせるライガの声が響き渡ると、天空からの猛風が扉にぶち当たった。

取り残された1人はその衝撃で仲間の元へ弾き飛ばされた。


ごおおおおおおおおお!!!!!!



門は始め、猛風に耐えていた。

しかし、10秒後には金切り声のような音を響かせたその口を開けた。

そして、全開になった門扉は風にもぎ取られ、邸の壁に叩きつけられた。

その音は砲弾が落ちたようなものすごい轟音だった。

少し離れた王宮まで届いていた。







「始まったか・・・・・」



王宮のバルコニーから自宅を見ていたカリウスは呟いた。

カリウスも兜こそ被っていないものの、鎧を着て武装していた。

それはむろん、愛娘マリアのためだ。

マリアがフロントを自宅に連れ帰ったと報告を受けた時、命を懸ける覚悟をした。

フロントはフローレス姫の許嫁だ。

マリアがやろうとしてる行為は略奪愛だ。

それを手助けすることは王家への反逆行為だった。

もちろん、カリウスに反逆の意思など毛頭ない。

ただ、娘の恋を成就させたいという親心からだった。

カリウスは厳しい顔で踵を返した。

向かう場所はレイガル王の元だ。

事情を説明し、許しを請い、娘マリアとフロントの結婚の許可を願うために。






カリウス邸の門は完全に破壊された。


『さすが、忍び衆を率いることはあるな・・・』


ナイトは汗をぬぐって、ライガの後姿を見て頼もしく思った。

重厚な作りだけではなく、魔法防御も施されていたはずの門を、ライガは一撃で破壊してしまった。

邸の一部にも穴が開いている。

このまま突入すれば、フロントの奪還は確実だと思われた。

しかし、ライガは突入しなかった。

代わりに取り出したのは、拡張機だった。




「フロントおおおおおおおお!!!!起きろおおおおおおお!!!!!、フローレス様の危機たぞおおおおおおおおおお!!!」



拡張機はライガの声を拡大し、轟かせた。







マリアは湯浴みを終えて、上機嫌で寝室へ向かっていた。

寝室ではフロントが休んでいる。

これから、彼の心の傷を癒すのだ。

本当は帰宅してからすぐにでも慰めたかったのだが、体を清めてからではないと彼に嫌われてしまうかもしれないと思いと、入念に体をきれいにしてきたのだ。

愛するフロントと2人きりで朝まで過ごせる。

邸は安全、邪魔が入ることはない、そうマリアは思っていた。

しかし、邸を地震のような揺れが襲った。

爆音がしたかと思うと、窓の一部が壊れ、突風が吹きこんできた。


「マリア様!!」

「マリア様を守れ!!」


侍女たちがマリアを庇う。

ボディガードが盾となった。

風はすぐに止んだ。

ボディガードや守衛がやってきて、破損した窓の周囲を包囲した。

侵入者が撃退するためだ。

しかし、侵入者が入ってくる気配はなかった。

代わりに入ってきたのは、邸全体に響く大声だった。




「フロントおおおおおおおお!!!!起きろおおおおおおお!!!!!、フローレス様の危機たぞおおおおおおおおおお!!!」





声が止んだ後、体がしびれてすぐには動けなかった。

しかし、マリアは体を奮い立たせて、寝室へと急いだ。

今の声なら泥酔しているフロントにも聞こえたはず。

それが狙いだ。

わざわざ、助けに行かなくても、フロント自身に出てきてもらう作戦だ。

恐らく今の言葉ははったり。

この際、真偽など関係ない。

彼はフローレス姫のためなら、どんな状況でも駆けつけるのだ。

マリアはそんな彼をずっと見続けてきた。


『フロント様はもうフローレスには返さない!』


マリアは寝室の扉を勢いよく開けた。

案の定、フロントは身を起こしていた。


「・・・・・・・・・・フローレス様・・・・・・・・・・きき?・・・・・・・・今の声は・・・・・・・ライガ・・・・・?」


しかし、意識はまだ朦朧としていた。

マリアはすぐさまフロントに駆け寄った。


「フロント様、起きてはダメです。お体に障ります!」

「まりあ・・・様?・・・・でも、行かないと・・・・・・フローレス様・・・・・・」

「フローレス様のことなんて、忘れてください!!」


立ち上がろうとするフロントの体にしがみ付いてマリアは叫んだ。


「マリア様、泣いているんですか?」

「はい・・・」

「・・・・・・なぜ?」

「フロント様が傷つくのをもう見たくないからです」

「私は大丈夫です・・・・それより、フローレス様を・・・・」

「お忘れですか?フローレス様はあなたを拒みました」

「拒んだ・・・・」


フロントのもやもやした頭に、今日の出来事が思い出されたようだ。

目の端に涙が滲み出した。


「あなたがどんなにフローレス様を思って、フローレス様はすぐには振り返ってはくださらない」

「振り返ってくれない・・・・」


フロントから体の力が抜けた。


「わたくしではだめですか?」


マリアはフロントの手を強く握って、目を見つめる。

フロントの虚ろな目がマリアを捉える。


「一体いつまでフローレス様をお待ちになるおつもですか?フロント様は今フローレス様に傍にいてほしいのでしょう?でも、それは叶いません。でも、わたくしなら、いつでもあなたの傍にて、一生を捧げる覚悟があります」

「・・・・マリア様・・・」

「さあ、休んでください、今のあなたには休息が必要です」


マリアは優しくフロントをベッドに戻した。


「わたくしがずっとお傍にいます」


マリアはフロントの隣に身を横たえた。











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