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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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行き場のない思い

フローレス姫がフロントから離れた。

1人で帰るようだ。

フロントのプロポーズを見守っていた忍び衆一同は大きなため息を吐いた。


「やっぱり、ダメだったか‥‥」


ブルーは構えていたカメラを下ろした。

フローレス姫がプロポーズを受け入れ、ハートの婚約指輪を指にはめるところをスクープしようと狙っていたのだ。


「どうします?」


ライガに判断を仰ぐ。

彼らには報告義務があった。


「グレイはティティス陛下に取り合えず一報を入れてくれ。詳細は追って」

「了解しました」


グレイはすぐさま王宮へと走った。


「イエローとグリーンはライアスとサラの護衛を引き続き頼む。そろそろ帰路につかれる頃だ」

「OK、若」


イエローとグリーンは手を振りながら駆けていく。

ライガは残るレッドとブルーを見る。


「レッドとブルーはナイト様を連れてきてくれ。フロントの奴、相当傷ついているだろうから」

「慰めてもらうんですね」

「俺達がじゃ、手がつけられないからな」

「ナイト様がいてくれて本当に良かった』

「だな・・・」


ブルーとレッドが大きなため息を吐い後、涙を零した。


「俺はフローレス様を王宮までお送りしてくるから、頼んだぞ」

「「了解です!」」


ライガがフローレス姫を追いかけ始めると、レッドの声が追いかけてきた。


「あ、若!賭けのことお忘れなく!」

「わかってる!」


ライガはやけくそで答えた。


「ああ、くそ、また、毎日親父の飯三昧か」


ライガはすっからかんになると、忍び衆の頭である父親の元へ転がり込む。

父親は忍びの仕事を息子のライガに一任し、隠居の道楽で屋台を営んでいた。

食うには困らず、旨い。

ただ、父親の小言がうるさいだけだった。

給料全部賭けたのだから、仕方がない。

しかし、フローレス姫がフロントのプロポーズを断るとはさすがのライガも今回は思わなかった。

なんだかんだ言っても、フローレス姫はフロントのことが好きだからだ。

理由が知りたい。

フローレス姫が公園を出たところでライガが追いついた。


「夜道の女の1人は歩きは危険すよ」

「ライガ、来てたんだ」

「もちろんすよ」

「じゃ、もう、知ってる?」


フローレス姫が上目遣いに聞いてきた。


「見てたっす、どうして、断ったんすか?」


フローレス姫は大きなため息を吐いて、歩き出した。

ライガは並んで歩く。


「・・・ねぇ、これって仕組んでた?」

「あ、気付いてたっすか?」

「やっぱり・・・ナイトとネティアもグルね」

「そっす、フロントがプロポーズするって聞いてから、お2人が計画されたっす」


睨んでくるフローレス姫に、ライガはさらりと真実を暴露した。


「変だと思った。真面目なネティアが女王即位したのに、縁日に出かける、なんて言うはずないし、途中でナイト一緒にいなくなったし」

「そうっすね。でも、ナイト様とラブラブしたいのも本当だと思うっすよ」

「だとしても、ひどいわ。騙すなんて。真面目に護衛してたのに・・・・」


フローレス姫が怒ったのを見て、ライガは吹き出した。


「ちゃんと見てたっすよ。立派だったす。フロントが取り付く島もなかったすね」

「ふざけてると思ったのよ!」

「カップルドリンクっすか?」

「そうよ、今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!って」

「前に、フローレス様にせがまれたからって、聞きましたけど」

「そ、そんなこと話してたの、あいつ!!」


フローレス姫は顔から火を噴く勢いで、叫んだ。

ライガは楽しそうに愚痴を聞く。


「ちゃんとあの時、フロントが一緒に飲んでくれれば良かったのよ!恥ずかしがっちゃって・・!」

「フローレス様も今恥ずかしがってるすね」


フローレス姫は言葉に詰まって、さらに顔を真っ赤にする。


「5歳はなれてるから、当時のフロントと同じくらいの年齢っすかね?」

「嫌いになったすか?」

「嫌いになるわけないじゃない。嬉しかった。ちゃんと覚えててくれたら。受け取ろうかなって思ったの。でもこれを受け取ったら、せっかく叶った夢が消えてなくなるじゃないかと思ったの」


フローレス姫の声が急に小さくなる。


「叶った夢、騎士になるってやつすっね」

「今、本当に、私幸せなの。ネティアとナイトに必要とされて、自分の存在が認められて」

「でも、フロントのプロポーズを受けてしまったら、またもとに戻ってしまう気がしたの・・・」


ライガはため息を吐いた。

フローレス姫の感は的を射ている。

もし、プロポーズを承諾していたら、親衛隊に居続けることをフロントは許さなかっただろう。

新婚旅行と称して、世界一周旅行に連れ出して、そのことに気付かせないようにしただろう。


「すごいっすね、女の感は」


ライガは笑って空を見上げる。

今月の給料はあきらめざる得ない。


「やっぱり、私が剣を持つの、ダメなのかな?」

「俺はいいと思うっすよ。フロントは器が小さいっす」

「ライガは大きいね」

「大きくないと、負けるっす。フロントのことは任せてくださいっす」

「ライガがいてくれて良かった」

「フローレス様のお気持ちは分かったす。みんなわかってくれると思うっすよ。でも、フロントはしばらく落ち込むと思うすけど、いつものこっとっすから」

「うん、フロントには悪いけど、今はこのままでいたいの・・・」


フローレス姫は2つの幸せを噛みしめていた。

子供のころ願った好きな人のお嫁さんになる夢。

そして、今は騎士になって、女王の姉の役に立つこと。

どちらの夢もまだ叶ってはいないが、手を伸ばせば届くところにあった。

その2つの夢が同時に叶うことをライガは願った。




***




ナイトは合流したブルーとレッドと魂の抜け殻を見つめていた。


「ふられた・・・・・・・・ふられた・・・・・・ふられた・・・・・・・・・・」


フロントは同じ言葉を繰り返していた。

デート中、悪い雰囲気ではなかった。

だが、プロポーズを断られたことは事実のようだ。


「兄ちゃん、フローレスになんて言われたの?」

「ナイト・・・・・・・・・う・・・・・・・ううう・・・・・・・」


ナイトが話しかけるも、言葉を詰まらせて泣き始めた。

レッドとブルーがフロントの肩を持ち、


「よし、今日はとりあえず飲もう」

「飲んで忘れるのが一番だ」


と言って、立ち上がらせた。

そして、忍び衆の頭ガイルが営む屋台へと連れて行った。

屋台のころが入り込んできたフロントを見てガイルは驚きの表情を見せた。


「頭、失敗したみたいです」

「そうか・・・」


レッドから報告を聞いてガイルは大きなため息と共に一升瓶を取る。


「ナイト様、フロントに付きやってやってください」


と2つのコップに酒が注がれた。

フロントは酒が注がれたコップをゆっくりと口に運んだ。

一気に飲み干すと、すぐに、お代わり、と言ってコップを出した。

酒が注がれると、すぐに飲み干し、そのペースはだんだんと早くなっていった。

10杯目を超えたころ、ようやくナイトが止めに入る。


「兄ちゃん、飲みすぎだよ!」

「飲みすぎ?これが飲まずにいられるか・・・・フローレス様に『ふられた』んだぞ!」


とい叫んで酒を一気に飲んで、また煽る。


「ふられったっていうけど、プロポーズ断られただけだろう?」

「ふられたも同然じゃ、ないか・・・」


と言って、フロントは嗚咽しなから酒を煽り続ける。

取り付く島もない。


「ただいま!お、やってる、やってる」


ライガは笑いながらフロントの横に座る。


「若、フローレス様はどうでした?フロントはふられた、ふられたって言ってますけど・・・」


ブルーが飲んだくれているフロント見ながら聞く。


「ああ、大丈夫、大丈夫。フローレス様は今は親衛隊の仕事に夢中だから、結婚はしたくないだけだけだそうだ」

「そうか、それは良かった」


ライガの言葉にガイルはほっとしたが、


「ぬぁにぃが良かったんですか!?」


酔ったフロントが怒りだした。


「ずっと、ずっと、ずううううううううううううっと、待ってたんですよ!!!!やっと、決心して、思いっ切って、プロポーズしたのにぃいいいいいいい。ことわられるなんてぇえええ!!!!!ぜえったい、まあっててね、いってたのに!!!」

「だから、もうちょっと、待っててね、てことだって」

「いつぅまで待てばいいんだぁ?」

「親衛隊の仕事に飽きるまでじゃないか?」

「いつになあるんだよ、それぇ!?」

「さあ?もしかしたら、定年までかな?」

「あああああああ・・・・・・・」


フロントは絶望的なうめき声をあげて、酒を飲みほした。


「おかわり!」

「はいはい」


フロントは泣きながら酒を煽り続ける。

ライガは笑いながら求められるがまま酌を続ける。

プロポーズを断られたことがよほどショックだったのか、フロントの酒量は留まるところを知らない。


「お、まだ行けるみたいだ。親父、樽事持ってきて」

「若、まさか・・・」

「介抱はちゃんとするから」


ライガの笑みにレッドとブルーが青ざめる。

ここぞとばかりに、勇者は仕掛けたのだ。

勇者は傷心の魔王を酒攻めにして、落とすつもりのようだ。


「まあ、それも戦法だな・・・」

「頭!?」

「この世は弱肉強食だ」


ガイルは止めることなく、酒樽を持ってくる。

レッドとブルーがナイトに救いを求める。

ナイトはため息を吐いて、フロントから酒を取り上げる。


「兄ちゃん、酒はその辺にして早く帰ろう」

「まあだまあだ、足りない。もおっと、飲みたいいい!!」


駄々をこねるフロントはナイトからコップをとり返そうとする。


「明日も早いんだよ。帰って寝よう。そうした方が早く忘れるって」

「わあ、忘れられない!!!フぅロぉーレス様!!」

「大丈夫、寝たら、忘れるって!ほら!」


ナイトは完全に酔いが回っているフロントの肩を持って立ち上がらせた。

引きずって帰ろうっとすると、ライガが付いてきた。


「あ、俺が運びますっす!」

「「若!!」」


レッドとブルーが立ちふさがる。


「ナイト様、俺達が食い止めませんで、行ってください!!」

「この俺を食い止めるとは、いい度胸だな。お前らにできるのか?」


不敵な笑みを浮かべるライガにレッドとブルーは一瞬怯んだが、懐から紙を取り出した。


「若、賭けの支払いがまだです!」

「そうです、金を出してください!!」


強盗まがいのセリフで賭けの代金を請求する2人に、ライガは青ざめた。

ライガの掛け金は給料で、まだ手元にない。

ないものを徴収されようとしている。

しかも、後ろには商売をしている父親がいた。


「こら、ライガ、お前また賭けに負けたのか!?」

「う、いや、それは・・・」

「そうなんです、頭!代わりに払ってください!!」


レッドは勇敢にも、頭にライガの借金の肩代わりを要求した。


「肩代わりなんぞするか!このバカ息子!証文書け!」


ライガはガイルに首根っこを掴まれ屋台裏に連れていかれた。

ナイトはその間に逃げるようにその場を後にした。

賭けの代金未払いはナイトも同じだった。

後からライガのように徴収されるのだろうか、心を冷やしながら傷心のフロントを引きずって歩く。

酔ってい、精神不安定なフロントはとても重かった。

これを1人で引きずって城まで歩いて帰るのかと、気を重くしていると、目の前に1台の馬車が止まった。

誰かが手配してくれた馬車なのだろうか?

ナイトがほっとしたのもつかの間、その馬車から降りて来たのは黒いドレスに身を包んだ金髪の美女だった。


「マ、マリア!?」

「フロント様!!どうなさったんです!?」


ナイトなど目もくれず、肩を借しているフロントの惨状を見てマリアが駆け寄ってきた。

なぜ、こんなところにマリアがいるんだ?

混乱する頭でマリアを見つめていると、


「・・・ふられた・・・」


フロントがポツリと呟いた。


「・・・・・・ふられた?・・・・・・とおっしゃいましたか?」


マリアの目が鋭く光ったように見えた。

まずいと思った、ナイトはフロントをマリアから引き離した。


「ふられてないって!自信持てよ。ただ、ちょっとプロポーズは時期尚早だっただけだって!!」


笑いながらフロントをたしなめてマリアから離れようとするが、フロントは子供のように騒ぎ出した。


「早あくなんてない!5年もお待ったんだあ!!早く結婚してぇ、『子供100人』ほしいいいい!!」

「人間、100人も子供産めないって!さあ、帰ろう!」

「お待ちになって!」


マリアが引き留めてきた。


「フローレス様はフロント様のプロポーズをお断りになったんですね?」

「いや、違う・・・・・!」

「そおうなんです!!!!」


否定しようとしたナイトの声をフロントがかき消した。

本人が肯定したので否定はできない。

マリアが静かな微笑みを浮かべて近づいてくる。

ナイトはフロントを引っ張って逃げようとしたが、


「お可哀想な、フロント様。このマリアがお慰めして差し上げますわ」


マリアの魔手がフロントの頬を挟み、甘い声で囁く。

フロントが躊躇いの顔を見せると、


「フローレス様のことなんて忘れてさせてあげますわ。わたくしなら、フロント様のために『1000人の子供』でも産めますわ!」


数で勝負するのかと、ナイトは呆れた。


「1000人!!」


フロントがまさかの反応を示した。

酔っているので正常な判断ができないのだ。

早く結婚して家庭を持ちたいという願望が理性を凌駕している。


「1000人もうぁたしのために、子供を産んでくれるんですかあ?」

「ええ、もちろん!!」

「ちょっおおおおおっと待って!1000人も子供産めるわけないだろう!」


ナイトが現実的な指摘をすると、マリアは睨んできてた。


「気持ちの問題ですわ!それくらいの覚悟がわたくしにはあります!!」


意気込みと言われてはナイトも反論しようがない。


「マリア様、本当にぃ、私のために、産んでくれるんですかあ?」

「ええ、フロント様が望むなら・・・・・・さあ・・・」


マリアはフロントの手を取って、連れて行こうとする。

ナイトは慌てて、フロントの服の裾を掴んで引き留める。

マリアに連れて行かれれば、浮気になってしまう。


「行っちゃだめだ!行ったら、フローレスと本当に終わるぞ!」

「あら、プロポーズを断った時点で終わってますわ」

「プロポーズは断ったのは今はまだ結婚したくなかっただけで、もう少し待っててほしいということだ」

「そんなこと、フローレス様が仰ったんですか?」


マリアが挑発的な質問を投げかけてきた。

ナイトは返事に窮した。

ナイトは経緯を伝え聞いただけで、推測でものを言っていた。

それに、フロントの勘違いから察するに、フローレスはプロポーズを断り、親衛隊の仕事をしたいと言って、『結婚はもう少し待っててほしい』、とまでは言っていないような気がした。

言ったのかもしれないが、プロポーズを断られてショックを受けたフロントがただ聞いていなかっただけかもしれない。


「フロント様、その傷ついた心をマリアに見せてください。わたくしならあなたのすべてを受け入れますわ」

「マリア様・・・」


フロントは完全にマリアに心が動いてしまった。

だが、ここで諦めたら、ナイトとネティアの前世からの後悔が水の泡になってしまう。

何としても阻止しなくては、ナイトはもう一度フロントの服を引っ張ったが、着ていた上着が脱げてしまった。


「フロント!!」


上着を投げ捨てて、追いかけようとするナイトの前にマリアのボディガードが立ちふさがった。


「そこをどけ!」

「その命令は聞けません。人の色恋を邪魔するのはプライバシー侵害です」

「くそ・・・!」


ナイトは成す術もなくフロントがマリアの馬車に乗せられるのを見送るしかなかった。





















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