犬耳少女 ルナーディア
狼になった俺は相当な脚力を持っていた。
何せ一番高い屋根からとは言え、城壁を軽々と跳び越えたのだ。
背中はよく見えないが犬耳少女の重さを感じているし平気だろう。
飛び降りてる時に「うおぉおぉぉぉぉおおおぉ……」って聞こえたけど気のせいだよ。平気平気。
何人か見られたがまぁ、平気だろう。
真昼間に屋根をピョンピョン跳んで最終的に城壁越える狼だよ?
夢って思うって。
さて、華麗に着地。
犬耳少女も無事だよ……ね。
「う、うう……」
ほらうめき声が聞こえる。
「おーい、大丈夫か?」
声をかけてみたら何か反応してくれるだろうか。
少し間が空いたと思ったら
「吐きそう。」
「え、オイ待てオイ馬鹿ごめん、ごめんて。だから俺の背中で吐かないで。」
「うぉぇ。」
「ちょまっ!ごめんなさいごめんなさい吐かないで!ほら深呼吸深呼吸!」
狼の背中で吐きそうになる犬耳少女、その狼は青ざめた表情で必死に叫ぶ
第三者から見たらどれ程シュールな光景なのだろうか。
俺が見ていたらドン引きして逃げます。
何とか犬耳少女は吐き気を抑え込み、俺の体から降りる。
改めて見てみると可愛らしいなこの娘。
だが服装は可愛らしさに合わないくらい地味だ。
基本的に土色だ。
「貴方、さっきの男の人なの?」
犬耳少女が聞いてきたがそう言えばまだ狼のままだったな。
俺は"変態"を解除し人の姿へと戻る
「そう、さっき君を助けさせてもらった者だ。いきなり狼になってびっくりしたか?」
犬耳少女はコクンと首を前に傾け肯定を示す。
でもあまり驚いているようには見えないんだけど、あまり表情を出さないタイプなのかな?
「君の名前は?俺はトーヤだ。」
「トーヤ……私は、ルナーディア。ルナでいい。」
ルナーディア……ルナは俺の名前を繰り返し呟く。
あれだな、繰り返し言葉にしないと名前を覚えられない性質なんだろう。
ハハッ辛い。
「じゃあお言葉に甘えてルナって呼ばせてもらうよ。」
「うん。」
「ルナ、君は何で追われてたの?もしかして奴隷にされかけた?」
コクンと頷く。
まぁそうだろうなぁ。
こんなに可愛らしい奴隷、欲しくない人間はそうはいないだろう。
「私は元々、このフォトムに魔物の核を売りに来ていたの。買い取ってもらった後誤って帽子を落としちゃってあの人たちにこの耳を見られた。」
ルナは帽子を取りぴょこんと生える犬耳を露出する。
実に可愛らしい。
それとフォトムと言うのはこの街……いや城があったし多分国か。
「君みたいに犬耳?が生えている人たちはよく狙われるの?」
「そうでもないの。私はどちらかと言うと犬耳とこの銀色の髪で狙われているんだと思う。」
ふむ、確かにルナの銀色の髪は素晴らしく綺麗だ。
犬耳と合わせて魅力が何倍増しにもなる。
「でも貴方が来てくれて助かった。強いのね。」
「うん、どういたしまして。」
上目遣いのルナに思わず頭を撫でてしまう。
この感覚は何だろう。
小さな子の頭を撫でているのか、はたまた小さい犬を撫でているのか。
ルナも文句を言ってないし撫でてもいいと思おう。
ひとしきり感触を楽しませていただきました。
「それでルナ。君はどうするんだ?」
「もう核は売り払ってお金にしたから村に帰る。流石にフォトムに戻ってまたあの男たちに鉢合わせても嫌だもの。」
まぁそうだよなぁ、もしかしたらあいつらは組織の一部かもしれないし。
ほとぼり冷めるまで入らない方がいいだろう。
うーん、しかし俺はどうするかな。
食料は一応確保しているけど今日は野宿しておくかな。
「貴方も来る?」
突然のルナからの提案。
来るというのはもしかして村についていってもいいというのか。
「いいのか?」
「いいの。お礼もしたいし、あなたの事を聞きたい。それに」
「それに?」
「暴漢に襲われた直後で傷心中の女性を放っておくの?」
いや、君そんなに傷心してないでしょ。
無表情でそんなこと言われても説得力ないよ!?
心の中でツッコんでおいたがまぁ断るわけにもいかないな。
「お邪魔させていただきます。」