吾輩はミニチュアダックスフンドである。
「―ら!……み…こん…るよ!」
なんだなんだうるさいなぁ
人がいい気分で寝ていたってのに騒がないでくれよ。
ってあれ?人の声ってことは転生したのか。
何か体の下がふわふわちくちくする。
あぁこの感触はあれだ。草原だな。
俺はうっすらと目を開ける。
さて、俺が転生して最初に見る光景は何だー?
「あ、起きた」
赤髪の女の顔だった。
しかも美人さん。
(うわわっ)
俺は思わずよろめいて背中からポテンと倒れた。
ん?ポテン?
いや、俺ぐらいの体格ならせめてゴロンだろう。
まるで犬の、それも小型犬のような音を
待て。
そう言えば俺って眠る前に念じた、のか?
しかし、そう考えなければ説明もつかない
何故なら今俺の体は
小さい体に茶色い毛並み。
肉球のある手足に真っ直ぐ伸びた口と鼻
間違いない。
俺はミニチュアダックスフンドになっていた!
「驚かせてしまったか?ワンコ、すまなかったな。」
くすくすと笑いながら見下ろす赤髪の女性
いや、白い鎧着飾ってるから騎士さんか?
とりあえずコミュニケーションをとらねば。
「わふっ」(大丈夫だ。)
げっ!マジか。喋ってるつもりが犬の鳴き声に変換される!
とにかくこの状況から脱するべきなんだけど問題はこの女騎士。
今は犬だからいいものの……これが人間に変化したらどうなるんだろうか。
下手したら斬りつけられるかもしれない。
そんなのは御免だ。
早くここから離れよう。
俺は何とか起き上がり(もちろん四つん這いだが)女騎士の脇をすり抜けようとするが
「おいおい、待てよ。どこ行くんだワンコ。」
ひょいと抱え込まれてしまった
「わぅっ!?」(うぉわ!?)
身を捩ったりバタバタしても一向に離してくれない。
それもそうだろう。方や女でも騎士でこっちは小型犬だ。
いくら身体能力が上がってるとは言えこの姿ではそれも意味をなさないだろう。
「ワン!ワンワン!」(オイコラ、離せ!)
吠えてみるが、女騎士はビビる様子はない。
寧ろ
「ん~?何だ何だー?この私に吠えるとはちっこいのに中々勇ましい奴だな!」
アカン、気に入られている。
女騎士は俺をまじまじ見つめる。
「しかし見たことのない犬だな。新種か?」
物珍しそうな目で俺をじっくりと観察する。
この世界、ミニチュアダックスフンドいないのか。
うーむ、そんな存在でこの女騎士に見つかったのは運が悪かったな。
女騎士の視線はつーっと下に下がったと思ったらある一点を見つめて
「あ、オスだ。」
やめて、恥ずかしいから!そんなところ見ないで!
くっそう!俺を辱めやがってぇ!
グルルルルと唸って見せるがやはり女騎士に笑い飛ばされる
ん?待てよ。そう言えば俺魔法使えるんだよな
頭に魔法を思い浮かべるとなんか文字が浮かんできた。
成程、これを詠唱すればいいのか。
待て。これ犬の状態でもいけるのか!?
えぇい、なりふり構ってられるか!やらねばやられる!
「バウババウワンワン!!」(地に穴を。地操!)
犬語で叫ぶと女騎士の片足の地面が急に削り取られ小さな穴ぼこができる
「何っ!?このワンコ、魔法を!?」
とっさの出来事に対処できず女騎士は俺を手放す
華麗に着地した俺は、すぐさま全力ダッシュで女騎士から逃げる
ってうおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
はっや!これミニチュアダックスフンドが出す速度じゃない!
何でこのスピードがさっき出せなかったんだよ!
「おい待て!」
後ろから女騎士の大きな声が聞こえるが誰が待つか!
待てと言われて待つ奴はいないぃ!!
俺はスピードを維持したまま近くの森に駆け込んだ。