命の恩人殿
『いやはや助かりましたぞ!命の恩人殿!』
俺が魔獣を追っ払うと木から真っ白な色の象がふわふわと象に似つかわしくない擬音と共に降りてきた。
ムカつくほどいい声をした象は何でも大翼象と言う種族の旅の象らしい。
旅の象と言えば聞こえはいいんだが実際はと言うと
『まぁ群れからはぐれてしまっただけですがな!』
「あっそうですか、それじゃあ頑張ってください。失礼します。」
俺はルナを伴って回れ右をして退散しようとするが大翼象の鼻が俺たちに巻き付く
『待って下され命の恩人殿ー!是非にご恩を返させてくだされー!』
面倒くさい奴を助けてしまったものだ。
と言うか結構コイツ力強い苦しい苦しい。
「分かった!とりあえず待つから!離せ離せ!」
このままだと俺はともかくルナが潰れてしまう。
現にだんだん顔が青ざめていってる。
ヤバイヤバイ、ルナが昇天してしまう!
『おぉおっ、これは申し訳ございませぬ』
理解してくれたのか、離してくれた。
「ゲホッ、トーヤ……死ぬかと思った……」
ルナは魔法(攻撃以外)は得意なようだがどうにも体力が心もとない。
人狼族だからと言って別に狼のように野を駆け丘を跳ぶとかは無理みたいだ。
一応バズはあの村で数少ない戦える者で、運動能力はあるらしい。
まぁ今となってはバズはどうでもいいのだが
「で、象くん。君はご恩を返したいと?」
『然り。』
ってか何でこの象武士みたいに話すの?処す?
しかし恩を返したいというのは殊勝な心掛けだ。
恩を返してもらおうとするか。
「じゃあ君、何が出来るんだ?」
少し面接っぽく聞いてみることにした。
前世では面接することなかったから、これであってるかは分からないが。
『そうですなぁ……あ、重たいものなど運べますぞ!』
「俺"大収納"持ちなんだよ。」
『なんとぉ!!』
そう、この"大収納"さえあればどんなに重いものでも保存しておくことが出来る。
まぁその重いものはポケットから俺の力で出せるものじゃないといけないという問題点はある。
しかし象さんリアクション面白いな?
『で、ではあれです!愛玩性!ほら、私可愛らしいでしょう?』
その渋い声が聞こえなかったら可愛らしかったかもなぁ!!!!
ルナにはパオンパオンという可愛らしい声にしか聞こえないが俺には渋いおっさんの声しか聞こえないのだ。
見た目はいいだけにむしろ気持ち悪いのだ。
前世風に分かりやすく言うとゆるふわ系の滅茶苦茶可愛い女子高生の声が隻眼の軍人のおっさんボイスのような感じだ。
ゆるふわ要素が微塵へと消える悲しき声だ。
と言うわけで愛玩性は却下となった。
象くんは頭に鼻を乗せ、うんうんと唸り考え込み始めた。
少し間が空くと象くんはあっと気の抜けた声を上げた。
『私を御二人の乗り物にしては如何か?』
「あー、なるほど。」
正直、盲点だった。
何でこんなこと、早くに気付かなかったのだろう。
よくよく考えてみれば俺たち二人は徒歩で移動していた。
あれ、意思疎通の出来る良い乗り物が目の前にいるじゃん。
あれ、こいつ空飛べるっぽいから2人で空の旅行けるんじゃないのか?
……あれ?何でコイツ飛べそうなのにあの高い木から飛んで逃げなかったんだ?




