主従の契約
「な……」
何を言っているんだと言おうと思ったがルナの力強い眼差しに押し殺されてしまった。
「何を言っているんだルナ!」
あ、代わりにバズが大きな声で言ってくれたわ。
娘がいきなり自分が忌み嫌っている相手に命を捧げるなんて言っているんだからそりゃ心中穏やかじゃあないだろう。
対してルナは平然としている。
「父さんが彼に感謝の意も何も示さないというなら私が彼に付き従うことにする。これはもう決めたこと。」
平然としているといったな、あれは嘘かもしれない。
幻だが、ルナの背後に般若が見える気がする。
無表情ながら怒髪天を突いているのだろう。
俺のためにここまで怒ってくれているの言うのであればそれはもう嬉しいのだが
「それに父さん達の考えにはもううんざりしていた。人間だからと全員クズのような扱いをして人間の中にも良い人がいるなんて当たり前の事すら考えようとしない。」
ルナのいう事に図星なのかバズは苦虫を噛み潰したような顔になる。
にしても、やっぱり人間嫌いかコイツ等。
「私は狼人族の私でも分け隔てなく接してくれた。人は違うこの耳を持っていても気にしないでくれた。」
まぁその獣耳を除けば普通の人間だからなぁ、それだけで俺は相手を貶したりすることはしない。
……ん?待て、今狼人族って言った?
あれ、狼耳かよぉ!?いや、そんなに犬と変わらないけどさ!
衝撃の真実を知ったことでショックを受けている俺のもとにルナが歩み寄る。
「トーヤ、いい?」
上目遣いで訪ねてくるルナ、卑怯じゃないかそれは。
「え、お、おう。」
思わずどもってしまったが、俺としては問題はなかった。
単純に1人は寂しいからなぁ何も知らない世界に一人ぼっちで旅をするというのはハードモード過ぎる。
案内役としてもルナの存在は有難いのだ。
「じゃあトーヤ、右手を出して?」
ルナの言った通りに俺は右手を差し出す。
それを聞いたバズは血相を変え
「だ、駄目だルナ!その魔法を使うな!」
と迫ってきた。
しかし、ルナは止めに来た父を一瞥したかと思うと魔法を唱え始めた
「彼の者を閉じ込めよ、"土の檻"《グランド・ゲージ》」
そう唱えるとバズの足元の地面が盛り上がりバズを鳥かごのような檻に閉じ込めた
「ルナ!何をする!」
「父さんはそこで見ていればいい。これは私からの貴方への決別の儀式でもある。」
ルナは冷たい声で言い放ち再び俺に視線を向け、俺の右手にルナの右手が重なる。
「トーヤ、もう一度聞く。私は貴方に命を捧げて、付き従ってもいい?」
正直、重いと思ってしまったが流石に口にはできなかった。
でもここで断るのは男じゃない気がした。
「あぁ、俺についてきてくれ。」
俺の言葉にルナは薄く笑った。
結構ルナの笑顔はレアかもしれない。
出来れば今後とも見たいものだ。
「ありがとうトーヤ。これからかけるのは貴方と私の契約の魔法、"主従の契約"。」
ルナが唱えると俺とルナの手に光が降りかかり俺の右手の親指、ルナの右手の小指に銀色に輝く指輪が付けられた。




