鎌蜘蛛
足の先の刃がまるで鎌のような形をしている……これは間違えないだろう。
こいつが鎌蜘蛛かよ!
しかもこの鎌蜘蛛、小屋の灯でハッキリと見えたがコイツ赤いぞ。
まるで血のような赤さだ。
そしてこいつ今、完全に俺をロックオンしている。
瞬間、奴の鎌が横薙ぎで斬りかかってくる。
「うわい!」
奇妙な声を上げてしまったが、伏せることで何とか躱すことができた。
そして俺は避けた後直ぐに起き上がり棍棒を取り出す。
ナイフを取り出さなかったのはどうにも鎌蜘蛛の体の表面が堅そうに見えたからだ。
ナイフを欠けさせてしまっては敵わない。
俺はダッシュで鎌蜘蛛に迫り、跳躍し、ゴリラに"変態"した。
「どっせい!!」
気合の掛け声とともにゴリラの腕力で棍棒を鎌蜘蛛の頭に叩き込む。
グシャという音とともに鎌蜘蛛の頭部は床にめり込んだ。
やったか!?
そう思ったのもつかの間、俺の頭に衝撃が与えられそれに抗うことが出来ず、俺の体は壁に激突した。
「ガハッ!」
あまりの衝撃と痛みに肺の中の空気が口から吐き出た。
どうにも先ほど避けた鎌で殴られたみたいだ。
刃の部分じゃなくて良かった。
鎌蜘蛛はと言うとまるで何事も無かったかのように床から頭を抜き出す。
そして壁にもたれかかっている俺を見てギシギシと笑っているような音を出した。
やべぇ、割と命の危機かもしれない。
「燃やせ!"火激"《ファイア》!」
手のひらから鎌蜘蛛に向けて小さな火球を出してみるが、鎌を振るうことなくその体で受け止めた。
まさかとは思ったが案の定、全くの無傷。
避けるに値しないという事かよ!
しかし俺の使える魔法は全部が初級魔法だ。
火柱とか出せる訳もないし大波を出せるわけでも無い。
「ちっくしょお!」
俺は狼に"変態"し奴の体に牙を突きさす
これも効果なしっていう硬てぇ!
歯が折れるかと思った……!!
あー駄目かもしれない。
魔法もダメ、有効な武器もない。
何とか距離を取ろうと後ろにジャンプする
が、悪手だったか。
狙いすましたように鎌蜘蛛の刃が俺目掛けて振り下ろされた。
空中では当たり前に方向転換出来ない
うわ、終わったか!?
その時だ、小屋の扉が勢いよく開かれた。
「大地よ、命を守る盾となれ。"大地の壁"《グランドウォール》」
声が聞こえたと思ったら俺と鎌の間から地面が盛り上がり鎌蜘蛛の攻撃を妨げた
これが俺の使えない初級以上の魔法なのか。
そして俺にはこの魔法を唱えた声には聞き覚えがある。
「ルナ!」
扉の方を見るとルナが息を切らしながら立っていた。
「はぁ、トーヤ。間に合ってよかった……」
攻撃を妨げたられたことに怒りを覚えたのか、鎌蜘蛛はルナに狙いを定め鎌を振るう
「あぶねぇ!」
「わっ」
俺は咄嗟に駆け出しルナの服を咥え思いっきり引っ張った。
ルナが両断にされることは回避できたがこのままだと俺の体力が"疲労軽減"で疲れにくいとは言っても長い時間全力で戦い続けたら当然不味い。
あ、そうだ。
「ルナ!お前攻撃魔法とか使えるか!?」
あれほどの土魔法が使えるんだ。
少なくとも俺より強い魔法は唱えられるだろう。
「ごめんなさい。私攻撃魔法は覚えられないの。」
「!?」
マジかよ!
いやでもルナが嘘つくような奴にも見えない。
いっその事逃げるか。
駄目だ、ルナを背負ったまんま逃げ切れるとは限らないし後ろからバッサリされたりしたら終わりだ。
万事休すかよ!?
その時だ。
神様の気まぐれか、奇跡か、それとも運命なのか。
頭の中に声が響いた
――ユニークスキル"変態"がレベルアップしました。




