村にて
「これは酷いな……」
これは村と言ってもいいのか、廃屋じゃないのか。
木々は倒れ家は一部が崩れたり全壊だったりするものもある。
ちらほら穴ぼこも存在する。
ちらっとルナを見るといつもの薄い表情が崩れ焦りが見える。
それもそうだろう。
ルナの村が最初からこんなに荒れ果てている村では無い筈だ
「父さん……っ!!」
ルナは堪らず村に駆け込み、俺はそれに歩いてついていった。
「父さんっ!どこにいるの……!返事をして……!」
ルナが手当たり次第にまだ姿を見せぬ父を探すために周囲を走り回っている
すると半壊の家の1つから足に包帯を巻いた初老の男が頭に包帯を巻いた男に支えられながら出てきた
「ルナか……!良く戻ってきてくれた。」
「父さん、一体何が!」
次第にぞろぞろと家の陰から老若男女がルナの帰還に反応するように現れた。
うわ、本当に全員犬耳だ。壮観だなこりゃ
「鎌蜘蛛だ、鎌蜘蛛が現れたんだ!」
ルナ父が口をわなわなさせながら叫んだ。
鎌蜘蛛?
妖怪みたいな名前だな。
どんな姿かはあらかた予想できるな。
「鎌蜘蛛って父さん、撃退できるはずなんじゃあ」
「鬼種だ。鬼種が生まれたんだ……!」
その言葉に村人の表情がこわばる。
ある人は怒りに震え、ある人は泣き崩れ、ある人は乾いた笑いを浮かべている。
鬼種とは何だろうか?
鎌蜘蛛とやらを倒せるルナ父が倒せないってことは上位種みたいなものなのか。
いや、どちらかと言うと突然変異か?
「ところでルナ。あそこにいる人間は何だ。」
おっとルナ父がこっちを見ている。
いや?これは睨んでいると表現した方がいいかな。
「どうも、ルナのお父さん。お名前を存じ上げてないのでお父さんと呼ばせていただきますね。」
「私は貴様なんぞの父親ではない。」
「いや、知ってますよ。でもお名前知らないから仕方ないですよね。でも俺は名乗ります。トーヤです。旅人ですのでどうぞよろしく。」
転生者とは言わず旅人と言っておく。
これはルナとも約束済みで基本的には俺は旅人という設定で転生者という事は秘密だ。
厄介ごとに巻き込まれかねないからな。
だからさっさと服のことは考えておこう。
「ルナ、何でお前は人間なんかと一緒にいるんだ。」
いや、アンタらも犬耳除けば人じゃないですか。
流石にこんなこと言ったら反感を買いそうなので心の中にしまっておこう。
「トーヤはフォトムで人さらいに遭った私を助けてくれたの。そしてここまで送ってくれた。」
ルナが俺をかばうかのように俺とルナ父の間に割り込む。
「フン!どうせルナを奴隷商に引き渡すために同業者を叩いたに決まっている!!」
「父さん、何を……!」
「そんなこと考えてたらこの村まで送り届けてないはずですが?」
「チッ!」
チッ!ってルナ父よ、露骨だな。
そんなつもりだったらわざわざ城壁を乗り越えるなんて馬鹿な真似は多分しない。
どうにも視線が痛いな。
ルナ以外の村人の俺を見る目が敵を見るそれだ。
その視線をへらへらと受け流しているとルナ父の近くにいた男がルナ父に耳打ちをする。
「……ほう、そうか……うむ。なるほど、いい考えだ。」
耳打ちを終えるとルナ父は俺を品定めするような目で見始めた
止めてくれないかなぁ、気持ち悪い。
「すまなかったな、旅人よ。ルナを助けてくれたこと、感謝する。今日はぜひ泊って行ってくれ。」
うっわ、怪しい。
怪しいが、怪しいんだけど。
と言うか名乗ったのに旅人って覚える気ないんですね。ソウナンデスネ。
ふーん。
「おお、それは有難い。お言葉に甘えさせていただきます。」
俺はニッコリと微笑んで深々と頭を下げた。
ルナはどこか複雑そうな目で俺とルナ父を見る。
俺としてはコイツ等が俺に何をするか多少興味はあった。
多分酷いことするんだろうなぁ。
ちなみに俺はMではない。