5・デザートが食べたいの
愛情たっぷりのお弁当は、張り切って多めに作ってなくて、私のお腹に合わせた量なので、残さずに平らげてしまった。
お腹のほうも、苦しくも、足りなくもない、丁度いい感じだ。
「ごちそうさまでした」
あえてお嬢様ぶって両手を合わせて、丁重に頭を下げた。
「お粗末さまっした」
逆に姫子がくだけた言い方をしたのは、あえてだろう。
「おいしかった?」
「キスをのぞいたら」
「あれがいいのに」
「そっちの趣味ない」
「だんだんと慣らしていって、そのうち病みつきになるようにしてあげる」
「なりませんし、なるわけがない」
私は同性愛者じゃない。
これだけは譲らない。彼氏だっているし、私は仕方なく姫子に付き合わされているだけである。
「そういう割には抵抗しないよね」
「抵抗されたら、なにされるか分かったもんじゃないからよ」
「そういうことにしておきましょう。私の作ったのを、お弁当箱をなめ回すようにペロリと食べてくれるのは嬉しいものだね」
あえて、残したほうが良かったかもしれない。
「そんなに喜んで食べてないわよ。スーパーで半額になっているお弁当を、しかたなく食べた感じよ。それ、洗って返すね」
「彩花ったら、スーパーの空になったお弁当は捨てないで洗う派なんだ」
「捨てるわよ。今のは物の例え、わかっている癖に」
「わたしとのキスはどんな物の例えをするのかな?」
「ナメクジがついたようなものね」
言ったら、姫子は私の唇に唇を当てた。
「…………」
静寂。
暫くの間、そのままとなる。部屋の向こうから、生徒たちの騒いでいる声が聞えてくる。
「うん。ナメクジがついた反応じゃないね。私が見るところ、好きな人にふいな告白を受けた反応といったところかな」
「好きじゃない」
否定するけど、言葉は弱かった。
「洗わなくていいよ」姫子はアルミの弁当箱をオレンジとエメラルドブルーのカラフルな布で包んだ。「むしろ、洗うのも楽しみの一つなんだ。明日も作ってくるね」
「いらない。今日は特例。明日からは、いつものように古屋くんと食べる」
「3人で食べる?」
「やめてっ!」
「修羅場も良いかもよ」
「私は平和でいたいの」
ほんとやめて欲しい。
「でも、ちょっと、修羅場ってきてるよね」
さっき来た古屋くんのメールのことを言っているのだろう。姫子は、スマートフォンを指さした。丁重に爪が切られてあり、ピアノ弾くと似合いそうな細長い指をしている。それと比べて私は、姫子の親指のような太さなのでちょっとへこんだ。
「いっとくけど、本当に今日だけだからね。何度も言うように、私には彼氏がいます。彼女は欲しくありません」
「でも、私の禁煙には協力してくれるんでしょ」
「さっきしたでしょ」
唇が寄ってきたので、顔を後ろに倒してそれを拒否した。
「ちえっ、食後の一服といきたかったのに」
ブツブツと文句を言うけれど、この状況を楽しんでいるようで、笑いをこらえるような表情で、なにかの曲を口ずさんでいる。聞いたことがあるので、何年か前に流行った曲かもしれない。
「んんー」
私は、足を大きく伸ばす。
畳のにおいは好きだけど、座る体勢が定まらないので、疲れてしまう。
姫子は和室になれているのか、ずっと正座だ。痺れた様子もない。茶道のお稽古をしているかのように、動作の一つ一つが上品で、様になっている。
「姫子って、よいとこのお嬢様?」
「悪いとこのお嬢様」
お弁当箱を巾着袋にしまった。2枚の生地繋げて作った、手作りを感じさせる袋だった。
「それって、お母さんが作ったの?」
「ああ、私。うちの母親、こういうのできない、というか、できるのかもしれないけど、私のために作ってくれたことないんだ」
「全部自分でやっちゃうんだ、凄いね」
見た目と性格と違って、非常に家庭的だった。
「こんなの簡単だよ。小学校で習わなかった?」
「習った気がするけど、覚えてないな。わたし、こんなのすらできないし……」
家庭科で作った茶巾袋は、親兄弟に爆笑されたので、ゴミ行きとなっている。
「作り方教えよっか?」
「ああ、うん、遠慮する」
女として習っておいた方がいいのだろうけど、姫子が先生なのは、セクハラどころか、私の貞操が危険だ。
「あんた、性格以外は、いい奥さんになりそうね」
「厳しくしつけられたからね。家庭的なことなら何でもできるよ。きっとわたし、床上手でもあるだろうし。もらってくれたら、彩花をいっぱい喜ばせてあげる」
「やめて。そういう誘惑は、男にするものでしょ」
「男なんて興味ないし」
「私は、女なんて興味ないし」
「またまたぁ、嘘ばっかり」
嘘じゃないんだけど……。
「姫子って、家的にも、お嬢様っぽいよね。婚約者とかいるんじゃない?」
そうだとしたら、その相手の男の方がかわいそうだ。
「そんな話は聞いたことないけど、まあ、あの親だから、どっかのいいとこから話つけている可能性は否定はできないかな」
「うわぁ、ほんとお嬢様ねぇ」
庶民のうちではありえないことだ。
「別に伝統のある家じゃないけど、親の年収を考えたら、庶民じゃないだろうね」
彼女の場合、いいとこのお嬢様だからこそ、あえて柄を悪くして、バランスを取っている感じがした。
「やっぱ、大きな家に住んでるんだろうね。うちなんか、兄弟が多いから窮屈よ。自分の部屋ないし」
狭い部屋で妹と一緒だ。家の中では一人で過ごす場所はどこにもなかった。
「だったら、オナニーはどうしてるの?」
「は? いや、しないしっ!」
声を大きくして否定した。
「照れちゃって、彩花ぐらいの年の子は普通してるんだから、恥ずかしがることないじゃい」
「恥ずかしいわ。私はしないし、してたとしても、そんな告白はしない」
「私は、彩花を思いながら毎夜……」
「あーあー、聞きたくない、聞きたくない!」
言おうとしたので、耳を塞いだ。姫子はケラケラっと笑った。
「その様子じゃ、姫子は、兄弟はいないっぽいね」
「ご明察の通り、一人っ子。自分の部屋ちゃんとあります。すっごく広いです」
「どのぐらい広いの?」
「この茶道部よりもあるよ」
それは広い。
でも、そんな部屋に一人なのは寂しくもありそうだ。
「メイドいる?」
「います」
「えっ、うそっ!」
冗談だっただけにビックリした。
「といっても、家政婦さんだけどね」
「ああ、料理手伝ってるっていってたね」
「うん。アニメによくある、わたしと同い年ぐらい子がいたれつくせりしてくれる、なんてのじゃなくて六十代の女性。夕食はいつもその人が作ったものを食べてる。うちの親って、得意料理がコーンフレークってぐらい何もできないから。牛乳をかけるだけ。家政婦さんは、最近は私の手間がかかんなくなったし、娘さんが子供を産んで孫の世話で忙しくなっているから、来れないことが多くなったかな。だから、ひとりで食べる日が増えたなあ……」
懐いているのだろう。寂しそうにする。
「だから家庭科の先生は家政婦さんなの。今朝もね、好きな人にお弁当を作るんだ、なんていったら、姫子さんについに彼氏がって、勘違いされちゃった」
「そりゃ、彼女とは思わないでしょ。まあ、彼女でもないし」
じゃあ何かと言われても、こっちが聞きたいぐらいだ。
「姫子の親は?」
「んー、あんまり会わない。2人とも仕事人間なのよね。それでいて、子供には厳しくすんの。子供のときは、ヴァイオリン、水泳、英会話、書道、茶道と、稽古事といえるのはなんでもやらされた」
「それは疲れそうね」
「スケジュールぎっしり。遊ぶ時間までもスケジュールに入れるぐらいだから、今考えたら頭がおかしくなって、爆発するのも無理無かったね」
「爆発したんだ」
「ええ、ドッカーン」と両手をあげて爆発の真似をする。「どれか一つに絞ればいいのに、色々やらせるから、どれも中途半端になって、上手くいかなかった。親はね、教育については、これという有名な人にお金を出すだけ。子供が一生懸命に練習する姿は見ないで、発表会などの結果を見る人だった。成績が悪ければ、メッチャクチャ怒るの。こんな娘に育てた覚えがない、なんて言われてさ、『わたし、あんたに育てられた覚えないんだけど』って、ぶち切れちゃった。殴られるの覚悟でね。まあ、親は自覚してたんだろうね。ぜーんぶボイコットしたんだけど、なにも言わなかった。むしろ、言わなすぎるぐらいに。娘の考えることは分からんと、逃げちゃったんだろうね。仕事のことを優先して、娘をほったらかし、世話はぜんぶ家政婦さん任せ。壊れ物を押し入れにしまうような扱いだから、私がタバコを吸っても気付かない。っと、あー、ごめん、しゃべりすぎた」
「別にいいけど」
親に対する不満は多いようだ。バツが悪そうにする。
「姫子のタバコって、親への反抗?」
「んー、別にそういうわけじゃないけど。まあ、中学のときの家庭教師がヘビースモーカーで、『吸ってみる?』と聞かれたから『うん』って。ほんとは興味なかったんだけど、私その人に憧れていたから、彼女に近づけるかなって思って、それが初体験なのよね」
「あー、やっぱ、彼女なんだ……」
「好きだったというわけじゃないよ。仕草というか、スタイルに憧れていたというか。性格は、反面教師だった。恋多き女、なんて自称してたけど、ただ、男を漁っていただけでしかなかった。お酒も飲まされたことあるけど、そっちも馴染まなかったなあ。ぐるぐるぐるぐる、次の日は気持ち悪くなった」
「二日酔いになったのね」
それにしても、中学の頃から吸っていたとは。
「バレたら停学と思うとゾクゾクするよね。これは、学生であって、未成年であるからこそ。二十歳を超えたらつまんなくなりそう。そしたら、麻薬のほうにいっちゃおうかな?」
「やめなさい」
そっちは停学どころか、人生が終ってしまう。
「うん、やめる。やめました、彩花がいる限り」
「私がいなくてもやめなよ」
「いやでーす」
と、姫子は笑った。
「姫子についてちょっと分かったわ」
私は凝った肩を回しながら、息をついた。
「あんたのタバコは、万引きみたいなものなのね」
欲しかったのは、お嬢様という立場を反抗できる何かなのだろう。その中で手っ取り早く、ストレスを解消できたのは、タバコだったというわけだ。
「あれよりもマシでしょ。万引きはお店に迷惑かけるけど、タバコは私の体に害を与えるだけだもん」
根が善人だから、タバコを選んだのかもしれない。
「もう、そろそろ、六時限だね」
「そうね」
スマホで時間を確認すると残り5分。まったりとしすぎた。姫子が好きなのも納得の、のんびりくつろげる場所だ。
「サボろっか?」
「授業を受けます。ごちそうさまでした」
私は立ち上がった。
姫子も後に続いた。出る前にキスが来るかと構えたけど、何もなかった。
急ぎ足で廊下を歩く。ちらっと姫子を振り向くと、ニヤニヤとしていた。なにか良からぬことを思いついたというように。
「なによ?」
「べーつに」
私は、トイレの前で立ち止まる。
「あー、わたし、トイレ」
「うん、私も」
待ってましたと、私の腕を組んできた。
「ちょっと離して」
「いいからいいから」
素早かった。気がついたら私は芳香剤の臭いのする女子トイレの中に入らされて、洋式便器が設置された個室にいた。
「ふふっ」
姫子は、悪役のような不適な笑いを浮かべて、かちっ、と鍵をかける。
「えーと、姫子……さん?」
私は、足を一歩さがる。便器にぶつかった。さらに下がれない。
「なんですか、彩花ちゃん」
ちゃん付けするな。
「なんで、一緒に入ってきたのかな?」
「なんでだろうね」
「出て行ってほしいんだけど」
「ごめん」
「なんで、この場で謝るのかな。わたしひとりでできるんだけど」
「デザートが食べたいの」
「さっき、食べたでしょ?」
「やっぱ、ごめん。がまんできない」
「へっ? んんっ」
キスをされた。肩に重力がかかって、強引に便器に座らされる。お尻に冷たい感触が直接ふれた。
「え? え? え? あれっ!」
いつの間にか、私の白いパンツが両足にあった。
「パンツを下ろさなきゃ、おしっこできないでしょ?」
「え、あ、いや、いや、だって!」
便器に座らす瞬間に、素早くパンツを下ろしたようだった。
「だからいったでしょ、我慢できないって」
「なにが我慢できないっ……んんっ」
私の唇に、押しつけるようにキスをする。その中に何かが入ってきた。姫子の舌だと分かるのに時間がかかった。
ディープキス。
押しつけ合うだけのキスとは違う、花畑がやってくるような異次元の世界が広がった。
「ん……はぁ……」
唇が離れると、私たちの唾液の糸が出来ていた。
「はぁ……すごい……」
そう感想を漏らした姫子は、私の太ももをさすりながら、下半身に顔を埋めてきた。
私の大事な部分に鼻を押しつける。
「ちょっと、姫子、なにしてるのっ!」
スカート越しでも、すーはーと、鼻息を感じられた。
「ちょっとやめてっ!」
「いいにおい」
「するわけないでしょっ! やめてっ! 変態っ!」
「いいわ、もっと罵倒して……」
本物の変態だった。さらに言っても、姫子を喜ばせそうだ。
「おしっこしてほしい。わたし、彩花のおしっこするとこ見てみたい」
「するかっ! こんな状態でできるかっ!」
「聞きたいな」
「聞かせないっ! 恥ずかしいからっ、もうでてってっ!」
「ねぇ」と顔があがった。「そんな大声をだしたら、誰かに聞かれちゃうよ」
「え? ひといる?」
トイレに入ったときは、誰もいなかったはず。
「廊下まで聞こえてるんじゃない?」
「う……」
「声を聞いて、入ってくるかもよ? そうなると、ヤバいのはどっちかな?」
私だ。
女子トイレの個室で二人きり。その一人は、私の下半身に顔を付けている。こんな姿を見られたら、噂の的となって、私は学校に行けなくなる。
姫子は、バレたところで、気にすることもないだろう。
むしろそれを利用する。そんな奴だ。
「もうすぐ授業始まるよね? このままでいいの? 私はそれでもいいけどな。むしろ、六時間目が終わるまで、ここで彩花と、色々としたいもの」
「わ……わかった……わよ」
するしかなかった。
なんで、こんな事になったのよ。恥ずかしくて堪らない。これは注射のようなものだ。チクッと刺されるのを待っているより、早く打ってもらって、さっさと終わらしたほうがいい。
そうだ。そう考えよう。
「うん、素直でよろしい」
姫子は、私の太ももと太ももの間に耳をくっつける。片方の手は、私のお尻をいやらしく撫でていた。
「ん……その……あまり聞かないで……」
「やだ」
その部分の力を緩める。チョロっと、出てから、少しずつ出していき、あるところから勢いが止まらなくなった。いつもしていることなのに、トイレ中を響かせているような、いつも以上に大きな音に感じられた。早く終わってほしいのに、永遠に出るんじゃないかと思うほど、おしっこが止まらなかった。
「いい音……はぁ……」
鼻から大きく息を吸い込んでいた。くさいはずだ。なのに、花の香りを楽しむかのように、心地よさそうにしている。
私は恥ずかしさよりも、姫子の変態っぷりにどん引きしていた。
もうちょっとで終わりそうなところで、
「うはっ、マジやばっ、モレそうっ!」
「もう、品がないなあ」
「あはは、いや、ほんと、漏れそうなんだもん」
「さっさと、してきなさいっ!」
女子生徒がトイレに入ってきた。会話からして二人いる。
パタパタと走りながら、隣の個室に入っていく。ドアを閉まる音はひとつだった。鍵がかかる音もひとつ。
「聞かないでよーっ!」
「きくかっ! んもう、なんでこいつの友達やってんのだか……」
もう一人の生徒は、洗面台の前にいるようだ。蛇口を開いて、水道が流れる音がした。
「あの……」
私は囁くような小声を出す。
「なに?」
堪能していた姫子が、こっちを向いた。
「終わったからどいてくれる?」
長い屈辱だった。
「拭いてあげる」
「い、いいよ」
「拭いてあげる」
トイレットペーパーを手にして、両手でスカートをそっとめくった。
丸見えになった私の部分に、
「わーお」
と感嘆する。
見られたのは初めてのことだ。当然、触られるのも初めてであって……。
恥ずかしさに頭が沸騰しそうになる。
「ねぇ、舐めていい?」
「……っ!」
とんでもないことを聞いてきたので、悲鳴が喉まででかかった。
「やったらぶっ殺す」
軽めの否定なら本当にやりかねないので、酷い言葉を使った。
「残念」
姫子は出していた舌を引っ込める。
「綺麗にするね。抵抗したら、隣の子に聞こえちゃうよ。ほら、足を開いて……」
されるよりも、バレるほうが嫌なので、言うとおりにする。
姫子は、私の僅かに生えた恥毛の方へと手を持っていって、丁重に濡れた箇所を拭いていく。
「ん……ちょっと……」
敏感な箇所に触れた。
「あ、ごめん。間違えちゃった」
絶対にワザとだ。
私、なんでクラスメイトの女子に、あそこを拭いてもらうという辱めを受けているんだろう。
※
授業が始まるスレスレに、私たちは教室に戻った。黒板の前に先生がいて、生徒の大半が席に着いている中だ。
注目を浴びてしまった。
姫子が拭いた場所が気になる。感じることも、ドキドキすることもなかったが、痴漢されたような気持ち悪さもなかった。
この変態どうにかしてくれ、といった気持ちの方が大きい。
それは軽蔑というよりも、呆れというか、絶叫したくなるというか、なんというのだろう。
良く分からない感情がぐるぐるしている。
分かっているのは、これほど精神面で疲れたことがない、ということだ。
ヘトヘトだった。
授業を受けても、先生がなにを言っているのか、私がなにを書いているのかすら分からない。
なんで私は、姫子の禁煙に協力するために、上の唇どころか、下の唇まで悪戯されるという、最低最悪なセクハラにあわなくてはならないのだろう。
抵抗しなきゃいけないのに、できなかった。
今回で分かった。
私は押しに弱い。
滅茶苦茶といっていいほどに弱い。
姫子に流されて、私はとんでもない方向に向かいつつあった。
どうにかしなければ……。
「ねぇ、彩花……」
気がつけば授業が終わっていて、先生が教室から出ていっていた。
「おーい、生きてるかー」
前の席の子が振り向いて、私に手を振っていた。
「なーに?」
運動したあとのように、私はだるそうに返事する。
「緑川さんに、弱み握られてんの?」
「え?」
「いや、だから、なんかさ、彩花って、緑川さんにこき使われているんじゃないかって。違ってたらごめんだけど」
「んー」
「いじめられてるなら、ビシッといってあげるよ」
心配してくれているのだろう。いい友達だ。固定したグループに属してない私だけど、兄弟が多いおかげで自然と社交性を身につけていたようで、ぼっちになることはなく、話しかけてくる相手は男女問わずに多い。
「弱みを握ってんのって、私の方なんだよねぇ」
「え?」
「なんで、こんなことになってるんだろう?」
「いや、私が知るわけないじゃん」
ですよねぇ……。
彩花のことが好きだと言った姫子の気持ちは、嘘ではないのだろう。
付け入る隙があると確信していて、彼氏がいるから、とのお断りは通用しなかった。
まったく、どうしようもない女に惚れられたものだった。