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14・部屋での件。ごめんね


 悪い別れ方じゃなかった。

 古屋くんに新しい彼女ができたら、私との反省を活かして、上手くやるんじゃないだろうか。

 私も、色々と気付かされたことがあるので、結果的には古屋くんと付き合えて良かったと思っている。

 悪かったのは別れたタイミングだ。

 古屋くんと宇津彩花が別れたニュースは、次の日には広まっていた。


「口には気をつけてね」


 と別れ際に言ったものだけど、人の性格はそう簡単には変われないことを証明するように、その日のうちに友達に言ってしまい――言わされたが正しいのだろうけど、私としたら同じことだ――それが情報源となって、色々な人の耳に入ることとなった。

 古屋の彼女が、女に寝取られたという噂が飛び交っている矢先である。

 本当だったと、話題性抜群となってしまった。


「あの人じゃない」

「えー、あれが?」

「ヤッバー」


 私が歩いていると、好奇な視線と、ヒソヒソ声が頻繁に聞えるようになった。私たちのことを知らない人までもが知るほどに、学校中で広まってしまっている。


「どうなのよ、本当のところ?」


 後ろの席の親しい友達が、シャープペンシルで背中をツンツンとつつきながら聞いてくる。


「もう、なにも聞かないで……」


 ノーコメントなのは認めるようなものだ。だからと、どう対処すればいいのか分からなかった。

 古屋くんもいたたまれなくなったようだ。


『すまない』


 と謝罪メールが送られてきた。


『だったら、どうにかしてよ(´;ω;`)』


 硬い文章で有名な私としては珍しく顔文字を使って返信した。

 返ってきたのは同じく『すまない』だった。

 役立たずの元彼である。

 そこで甲斐性を見せる彼であったら、別れることもなかっただろうに。

 姫子はといえば、


『古屋と別れたってほんと?』


 休み時間にメールが送られてきた。彼女にとって噂よりもそっちの方が重要らしい。デート後にだんまりだった彼女の初めてのコンタクトがこれである。


『事実』


 と返せば、『やりましたわー』と絵文字いっぱいの喜びのメールが返ってきた。

 古屋の彼女を寝取った女として噂となってしまい、それについて聞かれても困ったように愛想笑いをしていた外見とは違って、内面はまったくといって良いほど気に病んでいなかった。

 私より斜め前の席の姫子はこっちを振り向いて、ぱちりとウィンクを送った。ほんの数秒だったが、今のを見られたらと慌ててしまう。

 姫子は立ち上がった。私の所に来るのかとビビッたけど、素っ気ない表情で教室を出て行った。

 暫くすると、メールがやってくる。


『部屋での件。ごめんね』


 謝罪メールだった。まずはそこからと考えたようだ。


『謝っても、反省はしてないでしょ』

 と出すと『てへっ』と可愛い絵文字と共に返ってくる。

『謝りたかったのはほんとだよ。彩花が可愛くてがまんできなくなっちゃったんだ。大好きな子が、私の部屋に来たんだもん。それだけ嬉しかったんだ』


 休み時間が終わる頃に、そんな長文メールが送られてくる。

 悪い気はしなかった。嬉しい気持ちになった、自分が嫌になるぐらいに。

 だからと、姫子と付き合う気はない。古屋くんと別れたばかりだし、噂が広がっているのだ。自ら火事に飛び込むバカはいない。自分の気持ちがどうあれ、暫くは色恋沙汰から離れておきたいし、それが賢明な判断だろう。

 姫子は、トイレ帰りという感じで戻ってきて、私とは顔を見合わせずに席に座った。


『周りが騒がしくて、本当に困っているんだけど、どうすればいい?』


 メールを送ってから、私はスマートフォンを鞄にしまう。

 姫子は、授業中に私のメールをこっそり読んでいたので、先生にみつかったら不味いとヒヤッとした。

 メールは中々来なかった。

 居心地の悪い学校から早々去りたかったのに、こんな日に限って掃除当番である。同じく当番の女生徒から「緑川さんのおっぱいっておっきいの?」「レズのテクは男いらないほど凄いってほんと?」「修学旅行の大浴場でみんなの裸みて興奮してたの?」の失礼極まりない質問攻めにあってしまい非常に疲れた。

 メールが来たのは、やっと解放されてほっと一息をついた電車の中だった。

 姫子のメールは、写真の添付付きの長文だ。


『ほっとけほっとけ。噂なんて風邪みたいなものだから、一週間すれば直ぐに治まるし、みんな気にしなくなるってば。一緒にいれば彩花に迷惑かけるから、暫くはいないほうがいいだろうね。教室でメールするのも危なかった感じ。神木さんが不審がってたよ。私たちが本当はLOVEな証拠を消すためにも、メールを読み終わったら消去してね。私もそうするから。彩花のキスが恋しいから、その間は代わりにタバコ吸うことにする』


 禁煙のためにキスをしてたのに、キスのために喫煙するといい始めた。

 一緒に送られてきた写真は、タバコをくわえている姫子だった。

 火は付いていない。振りだった。

 背景は部屋の中だ。見覚えがあるけど、どこかは思い出せない。それに、写真には姫子の両手が入っている。

 つまりは自撮りではなく、誰かに姫子のスマートフォンを貸して、撮って貰ったものだ。彼女がタバコを吸うことを知っている友達はいないはず。一体、誰だろうか。

 それについて聞きたくても「やいた?」と喜びそうだから、気になるけれど、スルーすることにした。


『禁煙。一度でも吸ったら絶交する』

『彩花の生まれたままの姿の写真を送ってほしいな。それがあれば我慢できる』


 と直ぐに来たので、


『ウザい、死ね』


 私は、妹が古屋くんに出したのと同じ文章を送った。


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