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12・彩花。緑川さんと付き合ってるってほんと?


 学食で、申し訳程度にワカメが入っている180円のかけうどんをずるずると食べる。

 一人で昼食を取るのは久しぶりだ。

 いつもなら、古屋くんが一緒にA、Bランチを、倍速したようなスピードで食べていた。小学生のころ、給食を食べて直ぐにグラウンドに遊びにいく癖が抜けてないと言ってたっけ。

 デートの日から三日が経っている。彼とは一度として話せていない。廊下ですれ違うことはあったけど、私が声をかける前に、気まずそうに目線を合わせず、早足で逃げてしまった。

 妹の出したメールに怒っているのだろうか。

 弁解のメールを出そうにもタイミングを失ってしまい、そのままになっている。

 姫子についても同じだ。

 クラスメイトなので、必然的に顔を合わせることになるけど、キスをされる以前の関係に戻ったように、「おはよう」といった簡単な挨拶しかしなくなっていた。

 私が何か言おうとしても、「後でね」と避けられてしまう。後でねの後が来ることは未だになかった。

 姫子は、授業が終わると直ぐに教室から消えてしまっていた。忙しい用事が急に出来たのだろうか。目線が合えば、持ち前のスマイルを見せて手を振ってくるし、私を避けているわけではなさそうだ。

 茶道室にいけば会えるのかもしれないけど、わざわざ食べられにいくウサギなんていないように、自分から行こうという気にはなれなかった。

 私は怒っていない。そのことは姫子は分かっている。そもそもあいつは、私が怒っていたとして、「怒った彩花ったら可愛い」と、そんなこと気にもせずに近寄って、唇を奪っていくタイプだ。

 急に素っ気なくなった理由が分からなかった。

 言い寄ってくる二人が居なくなり、私の周辺が急に静かになった。

 一人で過ごす時間は久しぶりだ。感情の起伏が少なくて済むので、ストレスのない平和な日々になっていた。

 それは退屈である、ともいえた。

 緑川姫子という嵐と出会ったことで、様々な感情に揺れ動かされていたのだと気付かされる。

 なにもない、ことにホッとすると同時に物足りなさがあった。平和なのを望んでいたはずなのに、そうなったらなったで、刺激が欲しくなるのだから不思議なものだ。

 いつまでも二人の問題を先延ばしにするわけにもいかない。

 私から行動しなければ、とは思うものの、どうすればよいのか分からない。

 うどんを食べ終えて、立ち上がろうとした時に、斜め向こうにいる女子のグループがこちらを見ているのに気付いた。

 バレー部だ。

 クラスメイトの女子が一人交じっている。四人で食事をしていて、丁度私の話題になった所のようだ。声は聞えないけど、ちらちらこちらを見て、なにやら話している。クラスメイトと目が合ってしまい、私が手を振ってみると、それが合図となったようで、立ち上がってこちらにやってきた。


「ねぇ彩花。緑川さんと付き合ってるってほんと?」

「はぁっ!」


 素っ頓狂な声をあげてしまった。その音量に、学食にいた生徒たちが振り向いてしまう。


「あー、いや、違うんなら、いいんだけど、あー、ごめん、変なこといって……」

「噂になってるんだよ」


 残りの女子もやってきて、私の正面に座った。長テーブルに三人が並んだので、面接官に対峙する受験者の気分になってくる。


「噂って?」

「だから、えーと、彩花ってC組の古屋と付き合ってるじゃない?」

「まぁ、一応は……」

「古屋の彼女が女に寝取られたって噂が広まってるんだ」

「うわぁ、それはビックリねぇ」


 他人事のように感心してしまった。驚くよりも先に笑いたくなってくる。


「それって宇津さんのことだよね?」

「古屋くんに他に彼女がいなければそうなるかな」

「寝取ったのは緑川さん?」

「そこで、なんで姫子なのよ?」

「最近の彩花、姫子と連んでるし、だからそうかなぁって……」


 徹底的な証拠があるわけでもなさそうだ。

 私が姫子と仲良くしているので、そのように解釈しただけかもしれない。

 本人である私に直接聞いたのも、あやふやである信頼性のない情報だからこそだ。

 とはいえ、その噂は真実に近い。寝取られたまでは至ってなくても、姫子とはABCでいう、Bのちょっと手前まで経験済みなのだから。不覚にも。

 それを認めるわけにはいけない。刺激が欲しいと言ったけど、これは下手すれば、私の学校での居所を失ってしまう最悪な爆弾だ。


「ほら、やっぱり、違うよ」

「ごめんね宇津さん、変なこと言っちゃって」


 こういう時は動じないに限る。私の淡泊な反応に、ガセネタと判定した様子だった。


「嘘ってわけでもないよ。最近、姫子とちょっと縁があってね、仲良くなったんだ。彼氏がいるのに、新しい友達を作るのは浮気というなら、浮気なんじゃない」


 この手のことは否定すればするほど怪しまれるので、一部を同意した言い方をした。


「あのさ、その噂の出所ってどこ?」

「えーと、どこだろう。わかんないや」


 バレー部の子たちは顔を見合わせる。


「クラスの男子が古屋が寝取られたって騒いでいたのを聞いて、かな」


 そう答えたのはC組の、古屋くんのクラスメイトの子だった。


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