勘違い。
スマホを確認してみると深夜二時だった。はっきり言って、全く眠れない。
私にとって、この時間帯は活動時間の真っ最中であり、だから眠ろうにも眠れないのだ。
隣には消灯時間の少し前にやって来た少年がいる。
見事な手際で眠っている少年を運び終えた明さんから、なるべく静かにしてやってくれ、と言われている為、ゲームをしたり動画を見たりは出来ない。私の独り言は大きいから。
「寝るか……」
眠るのではなく寝る。睡眠をするのではなく、ベッドに寝転んで目を瞑る。あとは、ぼぅっとくだらないことでも考えていよう。
そうすればそのうち眠くなって夢へと旅立てるはずだろうと、そんな安易な発想で、しかしあっさりと私は、知らず知らずの間に眠っていた。
「寝るか……」
知らない声が聞こえた気がして、ボクは目を覚ましてしまった。
ここはどこだろう。匂いからして多分、病院かな。
病院の匂いの他に、とてもいい匂いがする。どこかで嗅いだことのあるとても心地良い匂い。
どこで嗅いだのだろう。お母さんがいなくなってからは、食べ物の腐った臭いしか嗅いでないから、その前なのかな。
……そうだ。お母さんだ。お母さんの匂いだ。
優しくて、とても綺麗で、ボクを守ってくれていたお母さんの匂いだ。
お母さんが帰ってきたんだ。
そう思うだけでボクは嬉しくなる。もうどれぐらい前だったか分からない。分からないけど、すっごく前に、お母さんはいなくなった。
――いつか、私がちゃんと出来るようになったら、迎えに来るからね。約束。
お母さんの最後の言葉はそれだった。だからボクは待っていた。
お父さんに何をされても我慢して、お母さんを待っていた。もしかして、もう来ないのかなって思ったこともあったけど、お母さんはちゃんと来てくれた。
嬉しい。本当に嬉しい。
どこだろう。お母さんはどこだろう。耳を澄ませてみると、小さな寝息が聞こえた。
その寝息に近付くと、お母さんの匂いがより強くなった。
ここだ。
本物だ。ちゃんとここにいる。お母さんは本当にいる。
お父さんはやっぱり嘘吐きだ。お母さんが死んだなんて、そんな嘘、ボクは全く信じてなかったけど。
「えへへ……、お母さん」
お母さんの眠っているベッドに潜り込む。お母さんの匂いと温度に包まれると、ボクは知らない間にボクは眠りについた。
びっくりするぐらいにボクは落ち着いて眠ることが出来た。こんなに気持ちよく眠れたのは、とっても久しぶりだった。
起きたら、お母さんは困るのかな。でも、いいよね。ずっと会いたかったんだもん。
ごめんなさい、お母さん。ボクはやっぱり、悪い子みたいだ。




