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追憶する。

「あー、そういえば、口喧嘩の原因もこれだったな」

 ふと、そんなことを思い出して、小さく溜息を吐く。

 最近になって、蓮斗は私に対して適度な距離を保つようになってきた。物理的ではなく、精神的な距離。自分の中の何かを抑制しているような、そんな様子が蓮斗から伺えた。

 私がそれを気にして軽く問い詰めたことから、口喧嘩に発展したのだ。

 蓮斗はそれに対して、姉さんには関係ないよ、と言った。そんなことを初めて言われた私は、多分焦ったのだろう。

 焦りと怒りは感情のニュアンスとしては共通している部分がある。私は大きな声を出して、蓮斗に、関係ないことないでしょッ!! と叫んでしまった。

 そこからはありがちな言葉の応酬だ。平行線を辿り、そして最終的に蓮斗の一言。

 ――姉さんなんて、大嫌いっ!!

 私はその一言が、絶望的に辛かった。

「……依存」

 少し前に明さんに言われた一言。厭味ったらしいタイミングで、その一言を思い出す。

「自分の人生を他人中心にするな。今の蓮香の中心は蓮香自身なのか? 依存状態は、必ず救われない結果を生むぞ」

 最初は意味が分からなかった。意味が分からないぐらいに反論が出来なかった。

 言っている意味は分からないのに、それが今の私のことを的確に指し示していることは分かった。明さんのそれが正しいことが分かった。

 勿論、今となっては明さんが何を言いたかったのかも分かっている。

「……止められる訳がないでしょ」

 分かっている。それが止められないことも、分かっている。

 私は蓮斗に依存してしまっている。蓮斗が私に好いてくれているから、と私は蓮斗に甘えている。蓮斗に甘え、蓮斗はそれを許してくれる。

 蓮斗は素直で、純粋で、だからこそ、騙しやすい。

 悪意をもって騙すことは出来なくても、知らない間に騙していることはいくらでもある。

 後になって、蓮斗の好意を利用していたことに気付き、どうしようもない罪悪感に襲われる。

 死にたくなるほどの罪悪感を抱えたあとでも、私は蓮斗を騙すことを止められない。

 どれだけ気を付けていても、私は蓮斗を騙してしまう。

 私は止められない。

 蓮斗を利用し、罪悪感に苛まれることを止められない。自己否定を止められない。

 自己否定をすればするだけ、その真逆に位置する蓮斗は正しいということになる。

 私は間違いで、蓮斗は正しい。

 そういう風に――蓮斗が正しいと、思い込もうとしている。

 正しさなんて所詮は、どこかの誰かの主観に過ぎず、信頼性なんて微塵もないというのに。

「止められないし、止めない」

 私は間違っていて、蓮斗は正しい。

 私の身の回りの人間が、私を取り巻く環境が、私が所属する社会が、私がいる世界が、そう告げている。

 ならばそれに従うべきだ。

 人間は一人では世界を変えられない。それは即ち、大勢ならば幾らでも世界を変え、事実すらねじ曲げてしまう。

 今となっては誰も覚えていないような――覚えられるよりも前に逃げたのだから当たり前なのだが――三年前のあの事件で、私は思い知ったのだ。

 私は間違っているのだ、と。

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