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誰もが間違えているから、

 有紀と出会ってから一ヶ月と少し。たったそれだけの時間で沢山のことがあった。みんなが傷付いて、みんなが苦しんで、けど最後には全部一応は解決した。少なくとも、私と蓮斗と有紀の間では。

 私にしては珍しく成功と言える結果だ。

 そんなことがあったから、次の超個人的大イベントまでの期間。――つまりは春に訪れる、私の第一高校入学までの約七ヶ月間。いったい何が起きるのだろうと思っていたが、結論として何も起きなかった。

 あえて言うならば、約束通り課題を最終日までに終えた蓮斗と二人でデートしてたり、明さんとその後輩が行方不明になって何故か私達三人が探すはめになったり、蓮斗が突然家出をして有紀と二人で探し回ったり、明さんが全力でブチ切れる一連の流れを全て見てしまったり、とかそんなことぐらいだ。

 半分ぐらい、誰かが行方不明になっているのは気のせいだと信じたい。

 まぁ、そんなこんなはあれど、私と蓮斗と有紀の関係に大きく変わったものはなかった。小さく変わったものはあっても、それは日々更新されていく関係というカテゴリの中に当てはまる些細なことだけだ。

「だぁ……、疲れた……。転入生ってこんなに質問責めに遭うものなの……?」

 まぁ、私だけに関して言えば、死んでも通いたくないとか何とか宣っていた学校に、さらっと入っていたりとか、とりあえず精神面での変化は大きくあった。

 それでもやはり人を好きになることは出来ず、蓮斗と有紀を除けば、気を抜いて話せるのは明さんぐらいだった。

「姉さん、久しぶりの学校生活はどうだった? ってまぁ、今ので大体分かったけど」

「まさか年齢を聞かれるとは思わなかった。最近って、実は留年とか飛び級とかが当たり前なの?」

「飛び級制度はまだないと思うし、留年なんて言葉は知ってるけど留年した人はみたことがない、ぐらいだよ」

「……じゃあ、みんな馬鹿なの?」

「いや、単純に早生まれか、それともみんなと普通なのか、とかそういうことを聞きたかっただけなんじゃないの?」

「聞いて何の意味があるの?」

「姉さん、もしかしてもう誰かに嫌われたんじゃない?」

 はぁ、と溜息を吐いて、蓮斗はそんなことを尋ねた。どうして今の会話からそういう発想に至ったのか私には分からないけど、蓮斗が言うからには何か論理的な展開があるのだろう。

「うん。影で何か言ってる人いたし、SNS見たら転校生ウザいみたいなことツイートしてたね。即効で拡散してあげたけど」

 おかげで余計に嫌われたし、敵の敵は味方という言葉通り、何人からは歓迎された。

「やり方が陰湿」

「えー、だって私のこと呟いてくれたんだもん。反応してあげなくちゃでしょ?」

「明さんに似てる」

「止めるわ」

「変わり身が早いからね!? ……はぁ、姉さんってそういうところがあるよね。心の内を怖いぐらいに分かってくれるのに、全然分かってない、みたいなの」

「それ、あの子にも言われたわ」

「あー、ボランティアの子? 僕もあの子も学校で出会って初めて気付いた。びっくりしたなぁ……、性格が変わってると人も変わって見えるんだね……」

 そう、ボランティアの時に、よく話していた無責任少年と少年愛好少女が、なんと同じ第一高校同じ学年同じクラスだったのだ。

 私も二人に気付いたのは、私が転入生らしく黒板の前で挨拶した時に、露骨に驚いた顔をしていた二人を見たからだ。

 残念ながらテンプレート通りに開いている席に座りなさいとは言われず落ち込んだが、露骨に驚いた声を出した二人が私の机運びになったのはラッキーだった。隣の教室から持って来るまでに十回程足を踏んでやった。かなりスッキリした。

 あの二人はものの見事にキャラを作り演じていた。気持ち悪いぐらいに、公私を分けていた。

「……まぁ、あんな二人はどうでもいいけど」

「言い切ったね」

「言い切るよ。それで、蓮斗は何なのよ。なんであんたは、あんなにインテリキャラなのよ。このメガネとかさぁー!」

 今の蓮斗は、赤い眼鏡を掛け制服をキッチリと着ている。いつもはラフな格好が大好きだと言うのに。

「やーめーて! 僕だってキャラ作ってるの!」

「私作ってないのに!?」

「姉さんが不器用なだけじゃん!?」

「言ったなー!!」

「やーめーて! 僕のクールキャラが!」

「あんたはクールってかフールでしょ!」

「単なる暴言だ!?」

「蓮斗、フールって単語の意味が分かったの……?」

「酷すぎる!?」

 なんて馬鹿みたいな会話を繰り広げながら、第一高校附属中学校に辿り着く。今から、有紀の入学式なのだ。

 第一高校の入学式は午前で、第一附属中学校の入学式は午後から始まる。親代わりに高校生が保護者として出ることがが頻繁にあるが故の、第一高校特有の配慮らしい。

 まぁ私と蓮斗も、その配慮をありがたく享受している。

 保護者席に座ってのんびりと入場を待つ。

 しばらく経って、生徒入場という教頭らしき人の声が聞こえて、新入生が入場して来た。最後に先輩女子生徒に手を引かれて有紀が入場した。

「……ふぅ」

 よかった。有紀を見てざわつきは起こらなかった。正直、それが心配だった。

「よかった……」

 蓮斗も同じことを思っていたらしく、安堵した表情をしていた。

「……そういえば明さんは来なかったね」

「そうだね。色々と手続きしてもらったし、一応誘ってみたんだけどね」

 明さんは基本的に目立つことが嫌いらしい。そのくせにモブになるのは嫌だという矛盾。実に明さんらしい矛盾だ。

「……有紀、綺麗に笑えるようになったよね」

「姉さんのおかげだよ」

「そう言ってくれると嬉しいな。けど、まだまだ本当の有紀じゃないよね」

「あはは……、まぁね」

 微妙で曖昧な差。気付こうとすれば気付くし、気付こうとしなければ気付かない。

 それでも、演技していたと知っている私や蓮斗には分かってしまう。

「ちょっと無理があったかな。やっぱり呼称や認識だけを変えて関係はそのままにしよう、なんて」

「大丈夫だと思うよ。姉さんはキャラを作ってないから分かんないんだろうけど、学校生活を送っていたら、みんなに対して嘘を吐く余裕なんてなくなるから」

 さらっと皮肉を告げながら、蓮斗は有紀を優しく見守った。

 なるほど、確かにそう思う。

 蓮斗ですら全員に嘘を吐くのは無理だと悟って、学校用のキャラを作って誤魔化していた。

「……なんか、最近の蓮斗は少し頼りになるね」

「少しか……、結構頼りになれるように、頑張ってるんだけどな……」

 あはは、と分かりやすく落ち込んで見せる。本当に、こういう演技は堂に入っている。

 三年来の堂々たる演技だ。本当に板についている。

「まぁ、もっと頑張れ」

「はーい。……でも、まぁ、僕も思うよ。有紀も嘘を吐かないでいられるようになってくれたらいいな、って。――もう、有紀は、僕の弟なんだからね」

「そっか」

 少し嬉しい。蓮斗にも兄としての自覚が芽生えたのかと思うと、少し嬉しく思う。

 私が依存して、蓮斗が依存している私へ依存して、有紀は母親という存在に依存して、そんな関係からほんの少し、軽く、僅かながらに脱却して、純粋だけど、少し変な――つまりは普通の姉弟兄弟になれたのだと思う。


 入学式を終えて、有紀と一緒に家路に就く。

「有紀、どうだった、初めての学校」

「えっとね、なんかね、人が一杯いた」

「……他には? 何かない?」

「沢山の名前を呼ばれたよ!」

「どうしよう蓮斗! 私、ここまで感想に中身がない子初めてなんだけど!」

「オリジナリティのある感想だね、有紀」

「なんちゃらティって付けとけば適当に誤魔化せると思ってたら大間違いだからね!?」

「午後のハーブティ?」

「ネタセンスが若干古い」

「蓮斗とお姉ちゃん、何を言っているの……?」

「頭のいいはずの有紀のそういうところ最高。マジ可愛い」

「姉さん、最近そういう発言心から漏れてるからね」

「いいでしょ。私の弟なんだし」

「僕の弟だよッ!」

「有紀は渡さないからね」

「こっちこそ!」

「やめて! ボクのために争わないで!」

「あれ、なんでこんな修羅場になったんだっけ……?」

 なんて、無駄で無意味で不必要なやり取りを繰り返す。気楽に気さくに理由もなく、くだらないやり取りをしている。

 この時間が、私も蓮斗も有紀も、どうしようもなく楽しくて嬉しくて、仕方がないのだ。

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