自分の間違いを押し通す。
蓮斗が完全にいなくなってしまったことを確認して、私はもう一度笑った。
「蓮斗、私のこと好きだったんだ」
よかった。嬉しい。本当に嬉しい。蓮斗が私のことを好き。
そんなの、姉冥利に尽きる。私だって、蓮斗のことは大好きだ。弟として、一人の男の人として蓮斗のことは大好きだ。
だけど、それはやはり恋人になれるような好きではないのだ。そういう複雑なことに、蓮斗もそのうち気付くだろう。蓮斗はもう、複雑なことを考えられるのだから。
「さて、やりますか」
リベンジ。
大リベンジ。今度こそは成功させる。これから、あらゆることに間違えたとしても、これだけは絶対に成功させてみせる。
部屋の扉を開けてみる。有紀は部屋を出て行った時と何も変わってなかった。微動だにせず、そこにいた。
「有紀」
「……放っといて、って言ったでしょ」
食い気味に、つまりは話を聞く気すらなく、有紀は拒絶する。分かりやすい拒絶。
本当に有紀は真っ直ぐで、正しい。
「無理。有紀はもう私の家族だから」
「お母さんじゃないのに?」
「うん、私は有紀のお母さんじゃない。私に有紀のお母さんは荷が重すぎる。有紀のお母さんは、私よりも綺麗で真っ直ぐで、そして何よりも――絶対的に正しいでしょ」
そうでなければ、理不尽に虐待を受けた人間が、ここまで汚れを知らず、真っ直ぐで、正しい訳がない。
「私は、そんなお母さんにはなれない。有紀の本当のお母さんを私で塗りつぶしたくない。まだ、有紀は私とお母さんの違いを分かってる。だから今のうちにお母さんは本当のお母さんに返す。その代わり私は、――有紀のお姉ちゃんになるから」
「……は?」
間の抜けた声が有紀から漏れる。これもまた初めてだった。今日は有紀の初めての口調や表情が見える。本当の有紀が、分かりやすく現れている。
「私は有紀のお母さんにはなれないけど有紀のお姉ちゃんにならなることが出来る。完璧なお母さんになるのはムリだけど、完璧なお姉ちゃんなら私は出来る自信がある。証人もいるしね」
完璧で最高の弟という、私にとって最強の証人が。
「不完全なお母さんとずっと一緒にいるのと、完璧なお母さんを忘れないで、完璧なお姉ちゃんと一緒にいるの、どっちがいい?」
ついでに完璧な弟。――有紀にとっては完璧な兄もいる。
「…………」
有紀は何も答えない。それは無視や拒絶ではなく、ただひたすらに私が何を言っているのか分からない、と言った反応だった。
「……でも、それじゃあ、蓮斗に」
「蓮斗は私の血の繋がった弟。有紀は義理の弟。比べるなんて勿体無いじゃん。二人とも同じぐらい大切で同じくらい特別。優劣の付けようがないぐらいに二人とも特別なの。――それじゃあ、ダメかな?」
「……でも、だけど」
混乱している。ああ、もう本当に分かりやすい。こんな有紀、初めてだ。初めて見る、子供らしい姿だ。
これまでの、有紀の完璧な演技ではなく、素の本当の有紀の戸惑い、混乱、それが見れて私は場の雰囲気やら空気やらというくだらないものを全て無視して、無性に保護欲をくすぐられた。
「私はどんな有紀でも受け入れて、どんな有紀でも守りたい。守りたいし、守る。その為ならどんなこともする。それでも、ダメかな」
そう言って私は有紀を強く抱き締めた。遠慮なく、気遣いなく、全力で勢い良く。
初めて私は、有紀に対して少し雑で、乱暴な行動をした。




