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仕返しもされて私は、

 嫌な叫び声が聞こえた。有紀の、否定的な声。

 やっぱりと思った。

 多分、姉さんは有紀に本当のことを言ったのだろう。

 しばらく経って、扉の開閉音が聞こえた。解決したような雰囲気ではなかった。

 ゆっくりと、おぼつかない足取りで僕の前に来て、泣きそうな顔で。

「蓮斗、助けて」

 初めて、僕に救援を望む声を告げてくれた。

 だから、思わず笑ってしまう。

「姉さんも僕と一緒だね。僕と一緒で、姉さんも思い込むとそれを疑えない」

「……何を言ってるの?」

「あははは……。本当はね、もう一生の秘密にしようと思ってたんだけどね。けど、こんなことしか僕には言えないから言うね」

「蓮斗……?」

 戸惑ったように姉さんは僕の名前を呼ぶ。でも、大丈夫。どうせ、今から僕は姉さんをもっと戸惑わせるのだから。

「僕は、姉さんが好き。姉としてじゃなくて、一人の女の人として、僕は姉さんが大好き」

「……え?」

「分かんないよね。僕も分かんない。訳が分かんない。けど、姉さんのことは大好き。これだけは分かってる。これだけは正しいって分かってる。僕の押し付けかもしれないし、間違ってるのかもしれないけど、それでも僕は正しいって思ってる」

「…………」

 姉さんの頭の中は真っ白になっているだろう。だから、姉さんは冷静に考えることが出来る。

 ちゃんと考えることが出来る。落ち着いて、冷静に、慎重に考えることが出来る。

「姉さんはお母さんじゃない。有紀のお母さんじゃない。だけど姉さんは有紀のことを守れる。有紀が本当にお母さんを求めてるなら、偽物のお母さんなんて許す訳がない。お母さんが無理なら別の人になればいい。無理にお母さんにならなくてもいい。姉さんは、どこまで言っても姉さんだよ」

 思い付く言葉を全部告げて、それでも足りない気がして、僕は姉さんを抱き締めた。

 今まで与えてくれた、暖かさや優しさを少しでも返せるようことを願って。

「姉さんはお母さんじゃないけど、僕にとっては最高のお姉ちゃんだよ」

「……っ」

 がくっ、と姉さんは崩れた。僕を道連れに膝から崩れ落ちて、そのまま倒れこんだ。

「あはははっ!」

「姉さん?」

 僕の問いには答えず、姉さんはずっと笑い続けた。

「姉さん、大丈夫?」

 笑いが収まったところで、僕は姉さんにそう尋ねる。

「大丈夫、平気だよ。ありがと蓮斗、おかげでいいこと思いついた」

「そっか……、よかった」

 本当によかった。姉さんがいつも通りの表情になった。

「あのね蓮斗」

「……何?」

「私にとっても、蓮斗は最高の弟だよ」

「なっ……!?」

 突然、姉さんはそんなことを言う。分かりやすく反応してから、ちょっとした仕返しだと気付いた。

「あはははっ、顔真っ赤。――そだ、蓮斗。私達は、そういう関係にはなれない。社会的にも倫理的にも、そんなことは許されない」

「……うん、知ってる」

 分かっている。そんなことは分かっている。

「まぁ、そもそも、そんな関係よりもずっとずっと、深くて強い関係なんだから、なる必要なんてないしね」

「……え?」

「さて、蓮斗。お願いがあるんだけど」

「え、あ、うん。姉さんの為なら、何でもするよ!」

「オッケー、今言質は取ったからね。じゃあ、このお金でお米一キロとお肉買ってきて。今日は焼き肉だよ!」

 そう言って、福沢諭吉を五枚手渡される。

「なんでそこで重労働を押し付けるの!?」

「お願いね。私の最高の弟」

「っ……、ずるいよ、姉さん」

「ずるくないとやってけないよ、こんな世界。それじゃあ、蓮斗が帰って来るまでには、解決させておくから」

「……うん、頑張って」

 姉さんは僕を玄関まで見送ってくれた。笑顔でよろしくね、と笑ってくれた。

 いつもより少しだけ早く歩いて、家から遠ざかる。

「……えへへ」

 思わずニヤけてしまう。

 そうだ。そうじゃないか。

 僕は姉さんは好きで、姉さんも僕のことが好きで。だけどその好きは少し違くて。

 それは絶対に交わらなくて。

 だけど、僕と姉さんはずっと姉弟で。だけど絶対にそれが消えることがなくて。

 そんな最高の関係なのだ。

 僕と姉さんは、生まれてから死ぬまで、ずっと姉弟なのだ。

 別に僕は姉さんの恋人にならなくてもいい。僕と姉さんの関係は唯一の、血の繋がった永久不変の関係なのだ。


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