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そうだと思いたくて、

 翌日。一番最初に目覚めたのは蓮斗で、その次は有紀、そして最後が私だった。

 有紀の熱は朝を迎えた時点で十分に引いていて、いつも通りの有紀が見れた。

 表情も仕草もいつも通りで、だけど、どこかが不安定だ。

 朝食を食べて、いつも通り無為な時間を過ごす。私は慣れてしまった時間の浪費なのだが、どうも蓮斗や有紀は慣れていないらしい。

 時間の浪費ができるということはそれだけの余裕があるということだ。だから、今のうちにそういう時間を過ごしておくべきなのだ。

「姉さん、何か老人みたいなこと考えてない?」

「お母さん、何か古い匂いがするー」

 この二人はもしかしたらエスパーか何かかもしれない。蓮斗は超聴覚で有紀は超嗅覚と言ったところだろうか。

「ところで蓮斗、宿題は終わってるの?」

「――あっ」

 特に意図なく質問してみたが、蓮斗は分かりやすく顔を真っ青にして冷や汗を流し始める。

「あと一週間もないけど、宿題何日分終わってるの?」

「…………」

「……蓮斗?」

「大体、十日分、ぐらい。……あはは」

 既に諦めたような表情と声で、蓮斗は乾いた笑みを見せた。

「姉さん、手伝って?」

 しばらくの沈黙の後、蓮斗は精一杯のぶりっ子で私にヘルプを求めた。

「最終日だけね」

「えー!」

「だって、全部解けるでしょ?」

「う、ううん……?」

 そんな風に蓮斗は、錆びた機械のように首をぎこちなく動かし、引き攣った笑みを見せながら、不器用な声で否定する。

「それで誤魔化せると思ってるなら相当の天然だと思うよ」

「嘘吐きー!」

 合いの手のように有紀は笑って告げる。からかい半分と言ったところだろうか。

「えっと……、姉さん、本気?」

「本気の本気。ほら、さっさとやって来なさい」

「……はーい」

 とぼとぼと分かりやすく落ち込みながら蓮斗はリビングで課題を始める。時折、涙目でこちらに救援を求めるが、当然ながら手は差し伸べない。

 当然ながら、そんな無茶ぶりをされてしまえばモチベーションが下がる一方だ。

 私も今から急に学校に行けと言われたら間違いなく止める。決心もあっさり霧散する。やはり、来年の四月――つまりは高校二年から、という区切りのいい時期に入学したい。

 区切りというのは、人間にとって非常に大きな原動力になる。その区切りに報酬があればその原動力は何乗にも上乗せされる。

「もし、最終日までに終わってたら、最終日は私と二人でどこかに行こっか」

「やったっ!」

 案の定、蓮斗の意欲が増大し、先程よりも二倍強の速度で課題を取り組み始めた。

 蓮斗は純粋でなくても、真っ直ぐなのだろう。不器用な子犬などではなく、ただひたすらに甘えたがりな子犬。甘えたくて、かまって欲しくて、不器用な振りをしていた賢い犬。

 これだけ抜き出すと、何と言うか――。

「――お手とかしそう」

「姉さん、何か不穏なこと考えてない!? するけど!」

 しちゃうんだ。

「お母さんお母さん! 蓮斗が宿題で忙しいならボクと遊んでよ!」

 好機と見たらしい有紀が、私に飛びつくかのようにせがむ。私の手を掴んで上下に動かす。

 一昨日と昨日の前半は蓮斗に費やしていたし、昨日の後半も有紀は眠っていただけだ。

 有紀は精神的な不安定さを解消し落ち着きたいのだろう。落ち着きたくて、最も落ち着ける私の側にいたいのだ。

「いいよー。蓮斗の宿題の邪魔にならないように、私の部屋に行こうか」

「姉さん! 側にいてよ! その方が捗るからさ!」

「じゃあ、最終日のデートはなしに――」

「やっぱ宿題は一人でした方がいいよね!」

 なんという変わり身の早さ。いや、もしかしたら蓮斗は気付いたのかもしれない。

 ――私が全部決着を付けようとしていることに。

 蓮斗とのいざこざを解決したばかりの今を逃せば、有紀に本当のことを話す機会は遠くになってしまう。そうなれば私は嘘を吐いているという罪悪感に押し潰されてしまうかもしれない。

 そんな風に理由を見つける。

 本当の理由はただの私の都合だ。

 今年中に全てを精算したい。何もかもを綺麗に精算したい。

 そうして、少しでも綺麗で後腐れのない状態を作ってから、学校に入りたい。そんな、くだらない気持ちの問題なのだ。

 だから、だからこそ私は、なるべく早く解決したい。

 私はいつも軽薄な判断で最終的には自分を苦しめる。だから今の――慎重で冷静な状態の今の私が解決するしかないのだ。

 迷わない。考えない。もう、決まっているのだから。

 全部話して、解決する。そうして、私も蓮斗も有紀も、誰も悲しまない結果を生み出す。

 それが一番理想的で、一番良い選択。

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