分からない。
冷たいものが額に触れて、ボクは目を覚ました。
「あっ、起きた?」
「……蓮斗」
起き上がろうとするけど、すぐに力が抜けて倒れてしまう。体に力が入らない。動くのも何となく面倒臭い。
「軽い熱だけど、無理はしないで。明さんが言うにはこの家に慣れてきて安心したから、だって。明さん医者じゃないのにね」
蓮斗は、とても落ち着いた声で話してくれる。もう、蓮斗は純粋な振りをしなくていいから、もう自由でいいから。そういうことなのだろう。
「どうして?」
「何がは聞かないでおくね。……ただの恩返しだよ」
「恩、返し? ボクは、恩なんて、作ってない」
息を吸うのが辛くて、息を吐くのが気持ち悪い。熱以外の何かが、ボクが話すのを邪魔している。
「まぁ、そうだよね。むしろ、恩の反対の仇かな。有紀は、仇を作ってくれた」
「く、れた……?」
「恩を仇で返すなら、仇を恩で返したって問題ない。――っていうのは、姉さんの言葉だけど」
「…………」
「っと、交代の時間だ。それじゃあ、姉さんとゆっくりお話してね」
言いたいことだけ言って、蓮斗の足跡は遠ざかっていった。代わりに近付いてくる足音が聞こえる。
「有紀、大丈夫……、じゃないみたいね」
「……うん」
「びっくりしたんだよ。急に倒れてさ、熱も最初はすっごく大きくて」
「ごめんなさい」
「ううん、蓮斗のせいじゃないから」
蓮斗の言った、交代というのは本当だったみたいだ。お母さんは優しい声で話しかけてくる。
「今日はずっと側にいてあげる。明日になっても熱が引かなかったら病院行こうね」
お母さんはボクの頭をぽん、ぽん、と撫でるように触れる。とっても落ち着ける。
「病院は、やだ……」
「じゃあ、さっさと治さないとね。ほら、おやすみ」
「……うん、おやすみ」




