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発露して、

 姉さんが帰って来るまでの間、僕と有紀はソファに隣り合って座っていた。何をするという訳でもなく、テレビを見ていた。有紀は聞いてるだけ。

 バラエティ番組は、見えなくても楽しめるみたいで、有紀はとても楽しそうにしている。

「ねぇ、蓮斗」

「……ん? 何?」

「お母さんはどのぐらいで帰って来るの?」

「一時間ぐらいは帰ってこないと思うよ。姉さん、ご飯とか張り切ると慎重に考えちゃうから」

「そっか。――じゃあ、丁度いいや」

「何が、丁度いいの?」

 有紀の声が、嫌に冷たく聞こえた。漠然と、嫌な予感がする。何か、今までの有紀とは違う、

そんな感じがした。僕に似た何かが、有紀にもある。

 ――そこまで考えて、僕は思考を振り払う。

 ダメだ。僕はそれに気付いてはいけない。僕は、何も分からなくていいのだ。何も考えてはいけない。僕はただ演じればいいのだ。――姉さんが望む、白井蓮斗を。

 これまで、姉さんがいない時はそれを忘れていても問題はなかったのだが、これからは有紀という存在がいる。多分だけど、有紀は賢い。態度を変えてしまうと、気付いてしまうかもしれない。

 そんなことを考えながら、有紀の言葉を待つ。しばらく待って、返ってきた言葉は、僕の懸念を吹き飛ばすような言葉だった。

「どうして蓮斗は、お母さんに嘘を吐いているの?」

 ――見抜かれている。

 有紀のそれは、質問ではなく確認だ。もう、有紀は気付いているのだ。僕が姉さんに嘘を吐いていることを。

「……なんのこと?」

 だけど、僕がそれに答える必要はない。姉さんだって、無言も回答の一つだと教えてくれた。

「ボクね。目が見えなくなってから色々なことが分かるようになったんだ。声を聞くだけでその人が何を思ってるのか、なんとなく分かるんだ。蓮斗はごめんなさい、って思ってるよね」

「……っ」

 姉さんから聞いたことがある。

 生物は体の一機能を失うと他の機能がそれを補うことがあると。そして時たま、その補いは度を越したものになる、と。

 関係ないのかもしれない。だけど多分、そういうのが一番合理的なのだろう。特別な力とかそんなものはこの世界になく、環境や立場が違う人がいるだけ。

 多分、そういう世界を色んな人が望んでいるのだと思う。普通な人だらけで、普通なだけの、そんな毎日を、望んでいるのだと思う。

 だから有紀が得たものは、多分そういう類のものなのだと思う。だから、その時点で有紀の見えるものについてはもう終わりなのだ。

 そんなものよりも、有紀が何を分かっているのかが重要なのだ。

「ごめんなさいは、ちゃんと言わないといけないんだよ」

「…………」

「なんならボクが言ってあげようか?」

「やめて」

「あれれ? 分かんないんじゃないの?」

「……有紀が言うなら、僕も言うよ。今の有紀のこと」

「あはは。まぁ、いいか。ボクは、お母さんと一緒にいられたらそれでいいし。蓮斗が邪魔しないなら、ボクはそれでいいんだよ」

「……そう」

 今更になって、失敗したことに気付いた。相手に同じ条件を突きつけるのは、人間にとって最終手段なのだ。

 どうしようもなく手詰まりで、何も思い付かない。だから、今自分が受けている状況をそのまま相手に返す。それしか選択肢がない。

 有紀がそこまで分かっているとは思えないが、有紀は何かを分かっている。

 有紀は危険だと、今改めて思った。有紀は、僕から姉さんを奪うだけではなく、僕と姉さんの関係を壊してしまうかもしれない。

 何とかしないと、そう思ったところで玄関の方で音がした。

「あっ、お母さんが帰ってきた!」

 ドタドタ、と慌ただしく玄関の方に有紀は走って行く。有紀が転ばないように、僕も有紀の後を追走する。

「お母さん、お帰りなさい!」

「うん、ただいま」

 突進するように抱きついた有紀に全力で嫉妬しつつ、そっと姉さんの持っている荷物を持つ。

 荷物から開放された姉さんは、有紀の頭をそっと撫でていて、やはり羨ましかった。

「さて、じゃあ早いけど、晩御飯にしよう。今日は焼き肉だよ」

「やったー! 焼き肉!」

「じゃあ、姉さん、お餅も焼いていい?」

「いいけど。……あれ? 蓮斗ってお餅好きだったっけ?」

 流石は姉さん。僕のことなら、何でも覚えている。正直なところ、少し前に喉につまらせてからはあまり好きではない。だけど、それでもお餅を出しておきたかった。

「ううん。なんか、焼きたいな、って思ったの」

 焼き餅。――ヤキモチ。

 皮肉でも嫌味でもない、ちょっとしたなぞなぞみたいなもの。気付かれてはいけないけれど、それでも気付いて欲しい。――僕の気持ちに気付いて欲しい。

「そっか。じゃあ、みんなの好きなものを焼いたりもしよっか。有紀はどんな食べ物が好き?」

「お母さんが作ってくれた料理なら何でも好きだよ!」

「ぼ、僕もそうだよ! 姉さんの料理、美味しいもん!」

「お、おう……」

 予想外の返答だったらしく、姉さんは照れ笑いをして後ろを向いてしまう。多分、今の姉さんはとっても嬉しそうな顔をしているのだろう。

 それから、僕と姉さんと有紀で、わいわいととても楽しく、晩御飯を食べた。

 焼き肉だけだったはずが、その場の勢いで焼き氷とか、焼きおにぎりとか、目玉焼きとか、色々な物を焼いたりした。

 姉さんは自分の分のご飯を取りながら有紀にご飯を食べさせたりと、色々大変そうだったので、僕も手伝うと言ったのだけど断られてしまった。

 ほんの少し、前と、姉さんは変わっているような気がした。よく分からないけれど、何か強いものが感じられた。

 姉さんから、そんなものを感じたのは、三年ぶりだ。

 三年前に、もう僕以外を信頼しないと決心したあの日以来だ。

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