人を良くも悪くも変えてしまう。
私は延々と、自分中心に生きて、そしてある時突然に、蓮斗の存在を思い出した。
キッカケとかそういうのは何もなかった。本当にふと、何でもないタイミングで、白井蓮斗という存在を思い出した。
思い出したと同じタイミングで、私はそれまでよりも更に自分を嫌った。
思い出すということは、それまで忘れていたということだ。
双子でほとんどの時間を共有している、もう一人の自分と言ってもいい存在を私は、自分中心に生きていたくせに忘れていた。
今更になって、半身を引き千切られたような感覚に襲われ、私は部屋を飛び出した。
時刻は丁度、蓮斗が学校から帰って来る頃だった。
家の中を探し回り、いないと分かれば外に飛び出した。二週間以上、全く動かなかった私が全力疾走をしたのだ。当然のように転びまくった。
転んで、起き上がろうとして、倒れた。多分、今の私がそれを見れば大爆笑だろう。一人で何百人分も笑う自信がある為、誤用ではない。
擦り傷や痣、それに打撲も含めて体中に怪我を負った。だけどその代わりに蓮斗を発見した。
友達といたのかもしれない。あまり、周囲の状況は覚えていない。そんなことはどうでもよかった。蓮斗を見つけたことが、あまりにも嬉し過ぎて、それ以外は本当にどうでもよかった。
蓮斗を見つけると私は全力で押し倒して、抱き締めた。泣いた。全力全開の大号泣だった。
あの時に私は何を言っていたのだろうか。何かを言ったことは覚えているが、言った内容は覚えていない。
覚えているのは蓮斗の暖かさと、抱きしめ返してくれた感触だけだった。
あの時に蓮斗は何を言っていたのだろうか。何かを言っていたことは覚えているが、言われた内容は覚えていない。
私は蓮斗と共に帰宅し、そのまま自分に与えられた部屋に戻った。蓮斗に深夜になったら行くから、と言われたのだ。
その日に毎日夕食を運んでくれていたのが蓮斗だと知った。蓮斗はずっと私のことを気にかけてくれていた。
私は蓮斗のことを忘れていたというのに蓮斗は私のことを忘れていなかった。それがただひたすらに辛かった。
だけど、私はそれを自責しなかった。――出来なかった。
「姉さん、これ以上自分を責めないでよ。もう、自分自身を傷付けないで。どうしても我慢できなくなったら、全部僕にぶつけてよ。僕が全部受け止めるから」
そう言って、蓮斗は抱き締めてくれた。痛いぐらいに強く抱きしめくれた。痛かった。本当に痛かった。だからこそ、蓮斗の気持ちが分かった。
蓮斗の純粋さが嫌というほど伝わった。両親が殺されても尚、蓮斗は変わっていなかった。
同じ境遇を経験したはずの私と蓮斗との間に、格差とも言うべき大きな差が開いていた。
――というより、私が一方的に落ちぶれていた。
そして、思い知らされた。平等なんて言葉は、嘘であり虚実であり傲慢であり欺瞞であると。
私と蓮斗は同じ環境に生まれ、同じ境遇の中で育ってきた。だけども、その成長の質も速度も大きく違った。
全然等しくなんかなかった。
私は大きく落ちぶれ、自分中心で劣っていて、惨めにも蓮斗に救われた。
蓮斗は何も変わらず純粋で、優れていて、正々堂々と私を救ってくれた。
私は劣り、蓮斗は優れている。それがどうしようもなく絶対的で確定的で致命的だった。
だから私は諦めた。
社会的であることを諦め、まともであることを諦め、正しいことを諦めた。何もかもを諦めた。そして、それらを諦めていない蓮斗に救われることを求めた。
蓮斗が、優れている人が助けてくれると思い込んだ。頼った。――依存した。
それから私は、蓮斗に依存することにしたのだ。
そうして、今に至る。二人暮らしをして、のんびりと、自分を傷付けながら、蓮斗に迷惑をかけないように、そっと毎日を生きてきた。これからもずっと、こんな感じなのだろうと思っていた。だけど、有紀の存在が、それを大きく変えようとしている。
いや、もう既に変わっているのかもしれない。私は幾つか、大きな決意をしたのだから。それは有紀に出会わなければ、絶対にしなかったような決意だ。
だから、改めよう。
有紀の存在は、今の私と蓮斗の関係を大きく変えつつある。――大きく変えている。




