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身も蓋もないぐらいに、

 宣言通り翌日から、有紀の訓練が始まった。

「ちょっと聞いてくださいよ、蓮香さん。昨日、彼氏が来たんですけど私足の骨を折って今包帯ぐるぐる巻きじゃないですか、だから冗談で今なら他の子とヨロシクしてもいいよ、って言ったら凄い笑顔でじゃあしてくる! って言ったんですよ! 酷くないですか!?」

「流石ヨロシクして足の骨を折った馬鹿ね……、ちょっとは性的に盛るのやめなさい」

「わー、これで蓮香さんの弟の蓮斗君かぁ……、そっくりですね! 主に胸部とか!」

「あ、あははは……」

「よし、表出なさい。よかったね、ここが病院で」

「目がマジなんですけどっ!? 蓮斗君助けて! 俺、お姉さんにボコボコにされるっ!?」

「僕は姉さんの味方です」

「有紀君って言うんだよね? 可愛いね」

「う、うん。え、えっと、あ、ありがと……」

「あ、急にごめんね。何もしないから、大丈夫。本当に何もしないから……、ぐへへ」

「おいこら、そこのショタコン。君も表出よっか?」

「ひっ!? ごめんなさいっ、あれだけは勘弁してください……っ!!」

「全く……、有紀。さっきの声の人に何かされそうになったら叫びなさい。はい、これ防犯ブザー。ここを引っ張ったら音が鳴るからね」

「うん、分かった」

「私、変質者扱いですか!?」

 騒がしい。騒々しい。三方向からくだらない会話が出てくる。それを、それぞれ聞き分けて、適切な反応を繰り返す。

 これは元々、私が明さんに強制されているボランティアだ。強制されている時点でボランティアもクソもないような気がするが。

 私が、蓮斗や有紀などの関わりの深い相手以外に一切の興味を持とうとしないことを気にしてか、明さんはこんなボランティアを私に課したのだ。

 私のメリットは人間関係を作る練習であり、私の社会復帰の準備段階の話だ。

 勿論、向こうにもメリットはある。私がボランティアとして向かう病室は基本、未成年が集められている部屋だ。

 大人ならば本音と建前を使い分けて、それなりのコミュニケーションを築くことが出来る。

 だが未成年の、特に思春期前後の少年少女達の中にはそれが苦手な者も多い。それらの孤立した状況は精神面の不安を煽る。

 笑うのと同じく、精神面の安定というのは怪我や病気の回復に大きく影響する。私はボランティアという形で、そんな孤立した人たちの話し相手になる。

 なるべく全員を巻き込むような話題を持ち込み、最終的に私がいなくても病室の皆と話せるようにする。それが私の役目だ。

 皆が話せるようになると一人が退院して、新しい人間が入っても周りの空気に流されて話すことが出来る。

 そうして、また孤立してきたと明さんが判断したらまた私が呼ばれる。それを繰り返すのだ。

 有紀に集中させる為に今回はなしとなっていたのだが、有紀の訓練ついでに合わせてやってみたのだ。

「なんだかんだ、責任感あるよな、蓮香」

 そんなものではない。ただ単に何かトラブルが起こった時に、私のせいにされてしまうのが嫌だから、念の為にしているだけだ。

 まぁそんなことを言っても明さんは、照れやがって、とか言うのだろう。だから、そういうことにしておこう。その方が体裁がいいし。

 今日は一時間ほど話して解散ということにした。もともと先週のボランティアで話すようになった皆が残っていたので、ボランティアとしての役割は全くなかったのだ。

 なので、その皆にお願いして有紀が疲れきったところで引き上げることにしておいたのだ。

 私と明さんで疲れきった有紀と蓮斗を病室に運ぶ。運んでいる途中に、二人ともうとうとしていた為、ベッドまで運んで運搬終了。

「蓮斗と有紀、お疲れ様。――って、もう寝てるし」

「姉さん……んぅ」

「んにゃ……お母さん」

 それぞれのベッドで二人は、うずくまるようにして眠っている。流石に最初から飛ばし過ぎただろうか。

 今回の訓練兼ボランティアで、有紀は意外と頑張れることが分かった。訓練という名目だからなのか、それとも女子が多めだったからなのか。

 前者なら名目や体裁だらけの社会に対しての適正があるし、後者なら後者で平凡な男の子の素質ありだ。

「最初にしては刺激が強すぎると思うぞ。正直、ああいう馬鹿なタイプは有紀の治療に向かないだろ」

「馬鹿と何とかは使いようですから。ショック療法、みたいな感じです。ああいうのに慣れてしまったら、大抵は大丈夫ですしね。それに明さんにも慣れればもう完璧でしょ。慣れて、普通に話すかあしらうぐらいになれば、恐怖心を克服してなくても、社会には復帰出来ますし」

「お前は俺を罵倒しなくちゃ俺と話せねぇのかよ?」

「そうですね。でも、割と間違ってないように思ってるんですけど、どうですか? そのプロの目線からみると」

 やはり、専門の人の意見というのも聞いておくべきと判断して尋ねる。――別に不安になった訳ではない。断じてない。……多分。恐らく。メイビー。

「まぁ、間違ってはない。正解でもねぇけどな」

「どういうことですか?」

「精神的な治療に確実なものなんてない、ってのが俺の持論だからな。患者なんて平気でマニュアルの外を突っ切ってくる。治療法なんて、あくまで統計的なものだろ」

 よく考えたら明さんは専門ではなかった。ただ単に看護師としてそういう人をよく担当しているだけなのだ。いや、それでも十分に参考になるか。

 そんな安々とマニュアル的に人の心が正常という型に矯正されてしまうのは、個人的に気に食わない。人間というのはもっと複雑であると、そう思いたい。

「――まぁ、思い通りにやってみろ。それでダメなら、俺も手を尽くしてやるよ」

「……ありがとうございます」

 なんだかんだ明さんは頼りになる。何かとこの人は真摯に向き合ってくれるのだ。

「有紀に関してのことだと身内が資金援助をしてくれるからな。二倍ぐらい請求しても問題ないしな」

 ――本当にこの人は、こういうところがなければ、いい人なのだが。

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