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第六章 監視

「でやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」


ボフッ!!


鈍い音がして羽竜が吹っ飛ぶ。

木刀が羽竜の腹にまともに入り庭先にあった植え込みの中に身体をとられてしまう。


「今朝はこれまで。もうまもなく蕾斗が迎えに来る頃だ。学問に励んでくるがよい。」


具現化したレジェンダの木刀が消える。

身体の傷も癒えないまま早速レジェンダの指導の元、剣の使い方を教わっていた。

無論、昨日の今日で上達するわけではない。まして全身を貪るように纏わり付く強烈な筋肉痛が羽竜を自由にはしてくれないのだから本人はやられっぱなしである。


「くっそ……ちょっとは手加減してくれよ……。」


「甘えるな。奴等は手加減などしてはくれんぞ。」


「わかってるけど………イテテ……。」


不満気な顔してみせるが本音はうれしくもあった。一年のほとんどを一人で過ごす羽竜にとっては部活の仲間とあかね、蕾斗くらいしか寂しさを紛らす相手がいない。頻繁に家に来てくれる蕾斗もやはり自宅があり待っていてくれる家族がいる。叔母で蕾斗の母親もいつもあれこれ気にかけてくれる。すごく有り難みは感じているが、つい心配かけまいと強がってしまう。

それがおとといから同居人が出来た。堅苦しい口調で喋るし、常にマント?を羽織ってフードを被っている怪しげな男であるが。フードを除いても表情はわからない。何せ肉体を持たない幽霊なのだから。レジェンダ本人に言わせると幽霊ではないらしいが、どこがどう違うのか羽竜にはわからなかった。

唯一違いをあげるとしたら、怖さを感じないところだろうか?親近感が湧くというか…………。

いや、前言撤回である。夜中ふと目を覚ますと宙に浮いたままこっちを見ている。寝ているのか起きてるのかわからない。

昨夜に至ってはじっと見つめてたら、何か用かと聞かれびっくりしてしまった。あげくトイレから出れば目の前にいたりする。


−こいつわざと驚かせて楽しんでるんじゃないか?−


と疑ってしまう。


「あ、いたいた。おはよう羽竜君、レジェンダ。いい天気だね!」


「うむ。今日も朝から実に気持ちがいい。」


蕾斗が羽竜の恰好を見て思わず吹き出す。いいから起こせと助けを求めようやく植え込みから介抱された。


「早く着替えて来なよ。遅れちゃうよ?」


「はいはい。わかってますよ。」


不様な恰好を晒してふて腐れる。歩く姿がぎこちない。蕾斗が笑おうとした瞬間羽竜が立ち止まりこっちを振り返り睨みつける。

あたふたと目を反らし口笛でごまかすという古典的な行動に出る。

羽竜が家の中へ入って行くと蕾斗が胸を撫で下ろす。


「全く、羽竜君はおっかないからなぁ。」


「ふっ……あれだけ痛めつけてもお主に突っ掛かる気力があるのだからたいしたものだ。」


「プライド高いからね、あの人。」


しょうがない奴とでもいうような言い方で微笑む。


「ところで、レジェンダはどうするの?」


「どうするとは?」


「僕達が学校に行ってる間だよ。」









「………………………………。」


「どうしたの?身体痛いの?」


あかねが羽竜の浮かない顔を見て遠慮がちに聞く。


「なんで…………なんであいつがついてくるんだあぁぁぁぁ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−っ!!!!」


教室の窓ガラスが震えるくらいの衝撃波が起こった。

羽竜の言う『あいつ』とは……言うまでもなくレジェンダの事である。

自分のいない時に攻められてはと羽竜についてきたのだ。

もちろん教室にいるわけにはいかないので校庭の隅の大きい桜の木にすずめ達と共にとまっている。結構大きい木なので目を凝らさない限りは枝に隠れて見つける事は難しい。


「仕方ないよ。心配なんだろうから。」


あかねがまあまあと落ち着かせようとするものの、


「冗談じゃない!監視付きとは聞いてない!!!!」


発狂でもしたのかとクラスメートが心配そうに見ている。


「コラ!目黒!朝から騒々しい!」


 担任の教師が教室に入ってくるとみんな慌てて席につく。

委員長の号令で挨拶を済ますと、教室中を見渡し席が埋まっているのを確認する。


「よし、欠席は無しだな。さて、今日は朝からみんなに新しい仲間を紹介しよう!おい!入っていいぞ!」


担任が廊下に向かって呼び掛ける。廊下にいた新しい仲間が恥ずかしそうに教室へ足を踏み入れる。その容姿に男子が声を上げる。


「今日からこのクラスでみんなと共に勉強をする新井結衣君だ。」


「は、初めまして。今日から皆さんと一緒に勉強をさせていただきます新井結衣です。よ、よろしくお願いします。」


深々と頭を下げ挨拶をする転校生に流行りの萌えを実感する男子に女子の痛い視線が突き刺さる。


「本来はうちの学校は編入を認めていないのだが、何せ新井は全国で1、2位を争う学力の持ち主だ。今回の編入は特別の措置であるからお前達はこの幸運を有り難く思うように。」


「はーーい!!」


男子がいつになく素直な返事をする。


サラサラの髪をセンターで分け、左右の後ろで結わえている。スラッと細身の身体で健康的な愛らしい顔がとても眩しい。


「委員長、実は急な編入で新井の机をまだ運んでないんだ。すまないが倉庫から持って来てくれ。その間新井、お前は委員長の席に座っててくれ。」


「はい。」


結衣は担任の指示する通り委員長の席に座る。


「ほら!!お前等いつまで新井に見惚れてるんだ!!授業始めるぞ!」


ちょうど始業のベルが鳴る。

羽竜がふと目を結衣にやると、彼女もこっちを見て笑顔を見せる。

赤面して結衣から目を反らし前を向く。その一部始終を二人の後ろから見ていたあかねがぷくぅっと頬っぺたを膨らませて口を尖らせていた。


午前の授業が終わり昼休みになると男子がこぞって結衣を取り囲み、色気のない食事会に誘う。困り果てている結衣を救うように女子の一人が割り込んでくる。


「ちょっと男子!新井さんが困ってるでしょ!あっち行った!

しっ!しっ!」


クラス切っての仕切り屋が野良犬共を追い払う。

その見事さに女子から拍手喝采が沸き起こる。エヘンッと胸を張り得意気に鼻を鳴らす。


「ありがとう。私の前の学校、女子校だったから男子が苦手で……。」


「大丈夫よ!何かあったら私に遠慮なく言って!ああまだ自己紹介してなかったわね!私の名前は水城みずしろあさみ。よろしくね!」


「こ、こちらこそよろしく。」


「気をつけてね、この学校の男子は変なのが多いから!」


「はい。水城さん。」


「んもう!さん付けはやめてよ!今日から貴女は仲間なんだから!あさみでいいわ。私も結衣って呼ばせてもらうけど。」


こういうやたらとリーダー風を吹かす女子はクラスに一人は必ずいた。全国的に換算すると、とんでもない人数の仕切り屋がいることになる。

結衣は野良犬から逃れると水城に誘われ屋上へ食事に向かった。



「ふわあぁ〜〜……。」


大きな欠伸をして屋上にある貯水タンクの作る日蔭で横になる。それを物珍しそうに結衣が見る。


「ねぇ、あの人私達のクラスの人だよね?」


「え?ああ目黒君?そうだよ。あ!何々?転校初日から恋?」


「ち、違う違う!!」


水城に突拍子もないことを言われ慌てて否定する。


「授業終わった途端に教室出て行ったから気になっただけ。」


「怪しい〜。」


一緒に食事をしていた女子達が一斉に囃し立てる。


「目黒君はあかねのお気にだから手を出すならバレないようにね!」


ウインクをして悪戯な笑みを浮かべる。


「あかね……さん?」


「ほら、栗色の髪した背の小さいかわいい子いたでしょ?クラスに。」


「ああ、吉澤さんの事?休み時間学校を少し案内してくれた人ね。」


すごく親切にしてくれたすごくいい人だ。穏やかな口調で向こうから案内を買って出てくれたので転校初日によくある孤独感を味わなくて済んだ。


「吉澤さん目黒君の事好きなの?」


「だと思うけどね。本人は幼稚園からの幼なじみだからって否定するけど、仲いいもんなあ。」


卵焼きを口に入れ箸を唇につけたまま答えた。


「よし!飯も食ったし今度は私達が学校案内してあげるわ!」


年頃の女とは思えない言葉遣いで昼休みの予定を決める。

水城のこういうさばさばした態度に結衣は好感が持てた。


「午後一の授業は体育だから着替えてから行こう?」


女子の一人が提案し、反対する者がいないと早速実行に移すため更衣室へ向かって行った。




午後は暑さ全開の中、男女共に外でマラソンを強いられた。運動神経抜群の羽竜がビリをとったものだからちょっとした話題にもなった。

授業が終わり一人体育館脇の水道で顔を洗っていると目の前にタオルが差し出された。羽竜は差し出した方を見ると、思わぬ人物が立っていたので面食らってしまった。


「残念だったね。いつもは一位なんでしょ?」


そこにいたのは新井結衣だった。


「顔……拭いたら?」


いつまでも面食らっている羽竜に再度タオルを差し出す。


「あ、ああ。サンキュ。」


羽竜はタオルを受け取り顔を拭く。


「目黒君、身体の傷……どうしたの?」


腕の傷が痛々しさを主張している。


「ああ…これ?ちょっと猫とケンカしてさ。もちろん勝ったけどな!」


そう言うとシャドウボクシングをしてみせようとしたが………うっとうしい筋肉痛が邪魔をする。


「イテッ!!」


「だ、大丈夫!?」


倒れそうになる羽竜に駆け寄る。あかねでさえ近付いた事のない距離に羽竜の心臓が暴れ出す。


その時、強い風が吹き二人の目を眩ませる。


「キャッ!」


小さな悲鳴をあげ結衣がしゃがみ込む。


「あ〜面倒くさいなぁ。」


呑気な声が邪気へと変化していくのがわかる。

羽竜が目を開けると見たことのある鎧を着た男がいる。


「ねえ、君。君からフラグメントの気配を感じるんだけど、もしかしてサマエルが言ってた人間て君の事かな?」


背中に真っ白な翼を持つ男が話かけてきた。


「!!お前……天使か…?」


「「羽竜君〜〜〜!!!!」」


あかねと蕾斗も邪気を感じたのか、羽竜のところへ駆けてきた。


「吉澤!蕾斗!」


「げっ!銀色の鎧!もしかして天使?!」


蕾斗が羽竜と同じ問い掛けをする。


「天使かと言われたらまあ天使だよね。一応名乗っておこうか?」


前髪をかきあげ見下す言い方がカンに障る。


「僕の名はアラエル。天界からフラグメントを奪ってくるように仰せつかってね。あ、もちろん君達の命も奪ってくるように言われてるから心配しないでね。」


心配するもしないも命をくれてやる気など毛頭ない。


「あれ?新井さん…なんでここにいるの?」


あかねが結衣に気付き、結衣と羽竜を交互に見る。


「吉澤!今それどころじゃないだろ!」


痛む身体にムチを打ちファイティングポーズをとる。


「ねえ!羽竜君!どういう事なの?!」


「馬鹿!離せ!」


「馬鹿ってどういう事!羽竜君は他の男子とは違うと思ってたのに!」


「は、はぁ!?意味わかんねーよ!離せって!」


「ちょっと!二人共!敵がいるんだよ!」


蕾斗が止めに入るが収拾がつかない。


「やれやれ…痴話喧嘩かい?困ったねぇ…。人間てのは呑気な生き物だねホントに。悪いけど僕には関係ないからね、遠慮なく殺させてもらうよ。」


アラエルが槍を具現化した。

そして羽竜達目掛けて突いてくる。


ガキィィィン!!!


耳鳴りの起こりそうな音に三人が振り返る。


「何をしている!」


「レジェンダ!」


トランスミグレーションでアラエルの攻撃を防いでいる。


「レジェンダ?おやおや、これはまた懐かしい!」


アラエルが間合いをとり槍を肩に担ぐ。


「……サマエルの次は貴様か、アラエル。」


「サマエルが言ってたけどホントに肉体がないんだね。可哀相に。」


嫌らしく笑いまた前髪をかきあげる。


「羽竜!」


羽竜を呼びトランスミグレーションを投げる。


「おわっ!あ、あぶねーな!」


「習うより慣れろだ!」


身体の悲鳴が聞こえるが今は痛みを堪えて剣を構える。


「ここでやるのかよ!」


羽竜が周りを気にしながらじりじりとアラエルに迫る。


「ふぅん。人間にトランスミグレーションが扱えるのかい?」


興味津々に羽竜に話かけてきた。

「試してみるか?」


思いきり強がりだった。身体は絶不調の上、トランスミグレーションを使いこなせていない。


「気に入らないなぁ………その生意気な態度。」


肩に担いでいた槍の柄を地面に立てる。首の節を折り指先でかかってこいと言わんばかりに挑発してみせる。


「羽竜、奴の攻撃はこの前と同じく私が見切って伝える。お前はとりあえず防御に専念しろ。」


「大丈夫かよ…この前のようには身体動かないかもしれないぜ?」


「案ずるな。わかっている。


「何をごちゃごちゃしてんのさ。早く始めようよ。せっかく恰好よく決めたのに。」


「待って!」


結衣が羽竜とアラエルに歩み寄る。


「新井!危ないから下がってろ!」


「これはこれは可愛いらしい。愛しい彼を気遣って変わりに犠牲に成りたいとか?好きだからねえ人間はそういうの。」


「違うの!ここでケンカなんかしたら先生とか来て大騒ぎになっちゃうよ!」


アラエルは結衣が間の抜けた事を言うものだから噴き出してしまう。


「あはははははっ。そんな事を気にしてたのかい?わかったよ、ならこれならどうだい?」


アラエルが左手を空に翳す。すると周りの景色が凍り始めた。


「吉澤さん…これって…。」


蕾斗がついこの前見たばかりの現象に顔が強張る。


「うん。これって千明さんが使った結界と同じやつ。」


あっという間にひんやりした空気が包みこんだ。


「これでいいかな?これなら僕達以外の時間は凍りついてるからどんなに『騒いでも』誰にも怒られないよ。」


『騒いでも』という言葉にどんな意味があるのか誰もが理解出来た。


「さあ、君が来ないなら僕から行かせてもらうよ。」


言うが早いかアラエルが槍を振り上げてかかってきた。


「来たぞ!羽竜!」


羽竜がアラエルに焦点を合わせるが間に合わない!

アラエルの槍が羽竜の左脇腹をかすめる!


「ちっ……!」


間一髪でアラエルの攻撃をかわし、すかさず体勢を整える。


「ほう、やるね。面白い。」


「羽竜!間合いを詰めろ!奴の射程距離を外せ!」


例の如くテレパシーで羽竜に伝えてくる。

自分の中にもいる激痛てきに抵抗しながらレジェンダの指示に従う。

しかしそう簡単には間合いをとらせる相手ではない。


「君……怪我してるのかい?辛そうだね、でも手加減はしないよ!」


アラエルが槍で空を突く。距離は4、5メートルはあろうかというのに羽竜の身体に傷が刻まれる!


−千明さんが使った衝撃波の突きバージョンかよ!−


思わず身体を支えきれず片膝をつく。

頭のなかでレジェンダが何やら指示を出しているが度重なる疲労が羽竜の意識を奪いに来た。


−ヤバイかも……。目が霞んできやがった………。−


本人は立ってるつもりなのだろうが周りから見ればフラフラと頼りない。


「羽竜君!!」


あかねがアラエルの動きを察知して危険を促すが羽竜の耳には届かない。

 

「フラグメント、貰うよ!」


突進してきたアラエルが羽竜の前で立ち止まると同時に槍の後ろでみぞおちを突く。羽竜の身体が宙に浮く。

折れ曲がった羽竜の顔面に回し蹴りを食らわせた。

凍りついた地面に激しく叩きつけられピクリとも動かない。


「羽竜!!」


「羽竜君!!」


「め…目黒君……。」


「いやあぁぁぁぁっ!!!!!」


怖くて誰も羽竜に近寄れない。


「あ〜あ。もう終わり?可哀相に、レジェンダ君の責任だよ?こんな『弱い』奴に戦わせるなんて………罪だよねぇ。」


「なんだとッ!貴様!」


レジェンダがサイコキネシスでトランスミグレーションを操作し、アラエルに向かって攻撃をする。


「はははは!霊体の君にはこれが限度なんだろうね。」


トランスミグレーションを跳ね退け、羽竜を足で仰向けにする。そしてジャージのポケットからフラグメントを取り出す。


「やっと手に入れたぞ!全くサマエルも君がこの時代に存在してたくらいで引き返してくるんだもんな、弱虫だよなあ。」


レジェンダを見ながら槍の柄で羽竜を何度もツンツンと軽く叩いている。


「さあて、僕は帰るよ。お邪魔様でした。」


背を向けて手を振る。


「待ち……」


「待てよ!」


結衣が何か言いかけたところで羽竜が身体を震わせながら立ち上がった。


「!!羽竜君!」


泣いてたあかねが羽竜に駆け寄る。


「羽竜君もういいよ!」


「羽竜!よせ!これ以上は無理だ!」


アラエルが立ち止まり振り向く。


「…………気に入らないなあ。人間てのはどうして往生際が悪いのかね。そんな身体でまだ戦うの?」


「気に入らないのはお互い様だろ……。昨日誓ったばかりなんだよ、世界を守る……ってな。」


「くっ!益々気に入らないね!たかが人間如きに世界が守れるか!!」


そう言い捨てると槍を振り下ろしてきた!

あかねが目をつむって羽竜にしがみつく。


「羽竜!あかね!」


レジェンダがトランスミグレーションで槍を防ごうとする。その瞬間レジェンダの脇を駆け抜け羽竜とあかねの前に立つ者がいた。

当たりに閃光が走る。


「ぐおっ!?」


アラエルがあまりの眩しさにたじろぎフラグメントを落とす。


「これは……!!」


レジェンダには瞳がないので眩しさを感じず何が起きたのか知り得た。


「蕾斗!」


羽竜は弱くなった光の中に蕾斗を見つけた。

槍は蕾斗が発した光にぶつかって飛ばされたらしくアラエルの横に突き刺さっている。


「蕾斗君……一体何が起きたの?」


あかねも瞼を開けて蕾斗を見ている。


「驚いた……これは……魔導の壁!」


「バカな!人間が魔導を使うのか!?」


「蕾斗、お前?」


「僕にもわからないよ…。ただ羽竜君と吉澤さんを守りたいって思ったら突然………。」


「ふっ……ははは!」


「羽竜君?」


「蕾斗、お前にそんな能力があるのなら俺も負けてはいられない!」


アラエルの目がようやく慣れてきたらしく槍を支えに立ち上がる。

そして落としたフラグメントを探すが………ない!


「探し物はこれかしら?」


結衣がフラグメントを上に投げては片手で受ける。その動作を繰り返している。


「振り出しに戻ったみたいだな。アラエル、さっきの礼はさせてもらう!」


羽竜がトランスミグレーションをとり構えた。


「小僧……調子にのるなよ……。」


アラエルも槍を抜き、構える。


「一つ聞きたかったんだけどそれってイグジストってやつか?」


「…………だったらなんだ?」


「可哀相に…。」


羽竜が不敵に笑う。


「なんだと!?どういう意味だ!」


「使いこなせてないじゃん!力任せにブン回してるようにしか見えないね!せっかくのイグジストが可哀相すぎる!」


「小僧っ!!貴様生かして帰さんぞッ!!!!!!!!」


レジェンダが失笑した。あかねも蕾斗も結衣までもが羽竜の思惑にアラエルがまんまとのった事にニヤつく。

羽竜は敵を見下す奴に限って怒り始めると冷静さを欠き隙だらけになる事を千明との戦いで学んだ。


「ここでやらなきゃ次はない!」


羽竜の意志に呼応するようにトランスミグレーションが闘気を放ち、刃が紅く光る!

今は痛みを感じない。一時なのかもしれないが絶好のチャンスであるには違いないとアラエルに向かって走り出す。


「死ネェ!!小僧−−−−−−−−−−−−−−−ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「うおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!」


ぶつかり合う音はしなかった。

映画のワンシーンのように二人の軌道がクロスする。

互いの位置が入れ代わり着地する。

羽竜はトランスミグレーションを振り切ったまま、アラエルはイグジストを突いたまま動かない。


「こ…こんな……こんなことがあってなるものか……!」


アラエルが大きく体勢を崩し片膝をつく。左脇腹を押さえ苦痛に歪む。


「あるんだよね、これが。」


全員の視線がアラエルに向けられる。


「くそ………覚えていろよ……。」


「覚えておかなきゃならないのはお前だろ。俺の名前は目黒羽竜だ!」


目を合わせる事なくアラエルは天界に帰って行った。


「「やった−っ!!」」


蕾斗も元に戻りあかねと初勝利を喜び合っている。


「目黒君……。」


結衣が三人の側に来る。


「新井………。」


なんだかマズイものを見られたようで言葉がない。

どうやら結衣もそれを察したらしく、


「目黒君、これ大事な物なんでしょ?」


そう言って羽竜の手を取りフラグメントを置くとそれを包むように羽竜の手を握った。


「なんだかよくわからなかったけど恐かったね!でもすごいよ!目黒君強いんだね!そこの彼も!」


蕾斗が顔を赤らめて俯く。


「いつまで握ってるの?新井さん。羽竜君困ってるじゃない。」


あかねは笑みを浮かべてはいるが、非常にひきつっている。


「俺は別に困ってなんかないぞ?」


素直すぎる反応にあかねが睨み付ける。羽竜は慌てて自分から手を離す。


「あ!ごめんなさい!私そんなつもりじゃ……。」


アラエルが張った結界が解けた。あの独特のひんやりした空気はない。


「じゃあ私先に教室に戻るね!」


結衣は羽竜達に声をかけて走り出す。少し進んだところでこっちを振り返り自身の腕時計を指差している。

時間がないことを教えてくれてるらしい。

羽竜が片手を上げ返事をした。

するとまた教室に向かって走り出した。


「あれ?」


「どうしたの?」


羽竜が脂汗をかいてふらつく。

あかねがそれを支えて倒れるのを防ぐ。

全身の痛みが目を覚ましたようだ。


「保健室に連れて行こう!」


蕾斗がそう言うと羽竜もおとなしく身を任せ保健室へと向かう。


「じゃ、レジェンダまた後でね!」


「……………………………。」


レジェンダは返事をしなかったが蕾斗は気にもとめず校舎の中へ消えていった。


「まさか蕾斗が魔力を持っているというのか?それにあの女………いつの間にアラエルが落としたフラグメントを取りに行ったのだ?」


 最後の授業開始のベルが鳴った。


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