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第三章 惹かれ合う運命

「ウリエルが殺られただと?」


純白とはこういうものを言うのだろう。声を聞けば男だとわかるものの、その顔はあまりに綺麗すぎた。そしてその背中には四枚の翼がある。純白なのはもちろん翼のほうだが、肌も凄く透き通るような肌をしている。金髪の長い髪が印象的だ。

長身で細身な身体をしているから声さえ出さなければ背の高い女性にしか思われないだろう。翼があることも何故か自然のことに思えてしまう。


「はい。レリウーリアが待ち伏せをしていたらしく、加えてウリエル様はイグジストを持って行かなかった為、成す術もなく……。それと二つ目のフラグメントも奴等の手に渡ったようです。」


男の家来であろう女が顔色を伺っている。

意外なほど顔つきが険しくなったことが怒っていることを知らせているからだろう。


「………。わかった。もう下がってよい。」

「はっ!」


男が何かを考えるように自分の顎を摩りながら女に言った。

女の方もホッとした感じですぐにその場から消えた。


「リスティ!リスティはおるか!」


神殿の中に声が響いた。


「お呼びでございますか?ミカエル様……。」


神殿特有の真ん中が膨らんだ柱の影から白髪の短髪で髭を生やしたミカエルとは正反対の背の低い肌の浅黒い老人が現れた。


「リスティ、聞いていただろう?ウリエルが悪魔共に殺られたらしい。言うまでもないがフラグメントも奴等に渡った。」

「悪魔共は既に一つ手に入れてましたな。これで二つは悪魔達が所有してるわけですな。」

「フラグメントは全部で8つあるんだったな?」

「はい。その通りでございます。残り6つ早々に探し出しましょう。」

「うむ。しかし千年前の闘いで悪魔達に魂を封印されようやくその封印が解けたと思えば滅ぼしたはずの悪魔達が何故か人間の姿で復活している……。おまけに眠りから覚めてから一ヶ月間で千年前よりも強くなっている。………リスティ、お前は千年の時を生きて来た唯一人の『人間』だ。我々が封印され眠っている間に何があったか本当に知らぬのだろうな?」


ミカエルに睨まれリスティはおどおどしだした。


「ミカエル様!わたくしは千年もの間この天界でミカエル様達の眠りを守り続けて来たのです!外界にはずっとでておりませぬ!悪魔達がなにゆえ人間の姿で復活したかなどわかるわけがございませぬ!」


ミカエルは全天使を長める天使長。それゆえに厳格でその容姿からは想像できないほど容赦ない。逆鱗に触れようものなら有無を言わさず消されてしまう。


「ならもう一つ聞きたい。フラグメントの在りかを探り当てられるのはお前だけのはず。ならどうやって悪魔達はフラグメントの在りかを調べているのだ。ウリエルは待ち伏せをされたらしい。ということは我々の行動もつつぬけと言うこと。これができるのは貴様以外誰がいるのだ?」


どうやらミカエルはリスティが悪魔と手を組んでいるのではないかと疑っているらしい。


「何をおっしゃいますか!わたくしめを疑ってらっしゃるのですか!」


思わぬ方向に話が転がり始めリスティは焦りを隠せず声を張り上げる。


「ミカエル様!あまりにも酷すぎませぬか?!そのような大それた事わたくしめがするわけが…!」

「あるんじゃないのか?」


ミカエルとは違う低い声がした。ミカエルとリスティは神殿の入口から歩いてくる人影を見る。


「サマエルか。」


他の天使同様に銀色の鎧を纏っているが背中に翼がない。


「リスティ、貴様ならやりかねないだろう?」

「サマエル様!いくらサマエル様でも聞き捨てなりませんな!」

「ほう、殺るのか?」


サマエルが腰に下げた剣の柄に手をやる。それを見てリスティも何やら怪しげなポーズをとる。


「よさぬか。」


ミカエルの声にサマエルが抜きかけた剣を収めリスティもゴマをするような仕種でミカエルのほうを振り返る。


「リスティ、わかっているだろうが我々を裏切るようなことがあればただではすまさん。人間であるお前が千年も生きていられるのは私のおかげであると忘れるな。」

「は…ははっ!」

「わかったのなら次のフラグメントを早く探し出せ!」


リスティは一礼をすると神殿を後にした。


「ふん。目障りな…!」


小走りで出ていく老人のリスティを睨む。どうもサマエルはリスティが気に入らないらしい。人間であるリスティが天界にいること自体、サマエルに限らず他の天使同じ想いでいる。だがミカエルが迎え入れたこともあり誰もそれを口にすることはなかった。


「なにゆえあのような輩を天界に置いておくのですか?」

「仕方あるまい。フラグメントを探し出すことが出来るのは奴しかおらんのだから。必要無くなればいつでも始末できる。心配はいらん。それよりも何用だ?」

「はっ。実は、折り入ってお願いがございます。」

「…申してみよ。」

「はっ。単刀直入に申し上げます。悪魔討伐の指揮をとらせていただきたいのですが。」


そうミカエルに伝えると忠誠の格好をとる。


サマエルには天使の証である白く大きな翼がない。それは千年前に起きた悪魔との闘いで悪魔達に奪われてしまったのだ。前大戦で天使達は肉体こそ残ったもののその魂は千年の封印をかけられ眠りにつかされた。逆に悪魔達は肉体も魂も滅ぼした。

……はずだ。

悪魔は闇十字軍レリウーリアを名乗りオノリウスの魔導書を巡り天界の軍団エルハザードに闘いを挑んで来た。レリウーリアは強かったがそれでも圧倒的な数で討って出て来たエルハザード軍の前に最終的に敗れ去った。その時レリウーリア軍は全魔力を使って天使達の魂だけを眠らせたのだ。

その闘いの中でサマエルだけが翼を失ってしまった。

そして幸か不幸か滅ぼしたはずの悪魔が姿こそ人間とはいえ同じ時代に復活しているという偶然。サマエルにとっては雪辱を晴らすチャンスであることに間違いはない。

もちろんミカエルもサマエルの心中を察していた……だが、


「ならん。」


サマエルは耳を疑った。天使にとって翼はただ飛行する為だけのものではない。天使としての威厳と品格を示すものでもある。まして上級天使であるサマエルにとってはある意味命より大切なものだ。それを知って一言で却下されてしまった。


「な…何故ですか!」


それ以上言葉はでなかった。


「サマエル…お前の気持ちはよくわかっている。しかし今は悪魔達にかまってる暇はない。奴等と戦うというのはこちらも相当の被害を被る。ウリエルが殺られて、フラグメントも既に二つレリウーリアに渡った。今、相手をしなくてもいずれ戦いは避けられないだろう。今は一刻も早く残りのフラグメントを集めるのが優先だ。」

「お言葉ですがミカエル様、奴等もどういうわけかフラグメントを探し出せるそうではないですか!ならば優先すべきは…!」


サマエルは思わず立ち上がった


「ならんと言ったのが聞こえなかったのか?」


ミカエルの表情が変わる。


「奴等もフラグメントを探し出せるのなら嫌でもそのうち出くわすだろう。だいたい悪魔達の居場所すらわからんのだ、悪魔討伐などするよりもそのほうがよかろう?」

「ですが…!」

「くどい!!」


何事も上手くいかないのは何も人間の世界に限ったことではない。組織というものが存在する以上は個人の想いなど、どこにいっても同じなのだろう。フラグメントなんかよりもサマエルにとっては悪魔討伐のほうが意味のあることなのだが……


「…………わかりました。」


これ以上はミカエルの怒りを買うだけと思いサマエルは諦めてミカエルに一礼をし神殿を出ようとした。するとさっき出ていったばかりのリスティが戻ってきた。


「ミカエル様!三つ目の反応がありました!間違いなくフラグメントだと思われます。」

「誠か。こんなに早く見つけるとは。千年前はあんなに探しても悪魔達に渡った一つしか見つけられなかったというのに、この時代は…………一体何を急いでいるのだ?調度いい。サマエル、お前にこの任務を任せよう。望み通りレリウーリアと出くわすかもしれんぞ。だが優先すべきはフラグメントを持ち帰ること!よいな?」

「承知しました。必ずやフラグメントを持ち帰ってみせましょう。」


サマエルは右手を胸に当て敬礼をすると神殿を後にした。





「人間でありながらよく千年も生きてこれたものだな、レジェンダよ。」


サマエルはフードの男をレジェンダと呼び、間合いをとる。


「私は既に人ではない。肉体は朽ち果て、魂だけの霊的存在。魔導書を護る番人でしかない。」

「フッ…笑止!肉体を失ってまで魔導書を護ることになんの意味がある!」


しばらく沈黙があった。羽竜達三人はただ唖然としている。


最初に口を開いたのはサマエルだった。


「ハハハハハ!」

「何がおかしい?サマエルよ。」

緊張をほどくかのようにサマエルが高笑いをしている。


「フフフ…よかろう、今日のところは引くしかあるまい。貴様の存在は無視できんからな。天界に戻り報告せねばなるまい。」


剣を鞘におさめマントで身を包む。


「女!そのフラグメント、次は必ず奪いにくる!それまで失くさないでくれよ。」


あかねはハッと我に返りフラグメントを強く握り絞める。

サマエルは羽竜達の前から消えていった。


「な…なんなんだよアイツ……。」


羽竜が誰に聞くでもなく口を開く。



「さて、人間達よそのフラグメントを私に返してはくれまいか?」

「え…こ、これ貴方のなの?」


あかねは二人目の来訪者に未だ警戒を解けずにいる。


「…………誰の物ということはない。お前達には必要のない物だ。」


怪しい?奇しい?妖しい?とにかくこじんまりとフードを被り目の前に『いる』。

よく見てみれば彼はこの豪雨の中ひとつも濡れていない。おまけに剣を握ってるはずなのだが握っているはずの手が見えない。

さすがに勝ち気な性格の羽竜も気味悪さを隠せない。


「フラグメントを持ったままだとまたサマエルに狙われるだろう。それと悪魔にもな…。」

「あ…悪魔…………?」


蕾斗が恐る恐るフードの男に問い掛ける。何を言わんとしてるのかレジェンダにはわかったらしく、


「何度も言うがお前達には関係のないことだ。知ったところで理解するのは不可能だろう。」


そんな事言われなくてももう既に理解不能に堕ちている。相変わらず打ち付ける雨が次第に羽竜に冷静さを取り戻す。これ以上ここにいてはいけない。そう感じて羽竜が叫ぶ。


「な、なんだかよくわかんねーけど、吉澤!蕾斗!逃げるぞ!走れ!」


その声を聞いて二人が駆け出す。

ばしゃばしゃと音を立ててレジェンダの前から走り去った。


「………愚かな……。」


三人の後ろ姿を眺めながら呟く。


−まあいい。またすぐに会うことになるだろうからな。−


 不可解な出来事の終わりを告げるかのように最後の雷鳴が鳴り響いた。

それを合図に雨が止み光りが疎らに射し始める。


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