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第三十四章 奏でるは……勝利

覚醒したヴァルゼ・アークは悪魔と呼ぶに相応しかった。

一転した雰囲気が魔帝としての存在感を十分過ぎるくらい証明している。


「どうなってるんだ!?」


羽竜が理解出来ないもどかしさをぶつける。


「うぅぅっ………」


「蕾斗君!気がついた!?」


蕾斗がぼーっとする頭を抱えながら起き上がりヴァルゼ・アークを見る。


「!!!!だ、誰!?」


気を失う前にはいなかった男に驚きをあらわにする。


「ヴァルゼ・アークだよ。」


「え?ヴァルゼ・アーク?だって死んだんじゃ……」


「蕾斗、話は後だ。……ヴァルゼ・アーク、答えろよ!一体何が起きたんだ!?」


蕾斗に遮られた質問をもう一度ぶつける。


「いいだろう……。お前にはその権利がある。」


つかつかと音を立てて羽竜に近づいてくる。


「俺がヴァルゼ・アークの記憶と力を手に入れた時、その力の大きさに精神が崩壊しないように鍵をかけたんだ。そしてヴァルゼ・アークの力に耐えられる精神が出来上がった時に封印を解く鍵としてトランスミグレーションの力を選んだのだ。」


「でもあんたと俺は偶然に出会ったようなもんじゃないか!俺はレジェンダに会わなかったらトランスミグレーションを手にする事はなかったし、トランスミグレーションの力を解放するのだって万が一俺が死んだら意味がないだろ!?そんな不確定な確率に賭けたのかよ!?」


羽竜がまくし立てる。


「今詳しく説明している暇はないから簡単に言うが、俺とお前が出会ったのは偶然ではない。必然だ。だからこそお前に強くなってもらわなければならなかった。ところが、こっちの心配をよそにお前は強くなっていった。今もこうしてな。封印を解くには俺の血も必要だったからわざわざ喰らってやったのさ……メタトロン、お前の終末思想を。」


「なるほど………どうやら余の想像を遥かに超えた何かがお前にあったらしいな、ヴァルゼ・アークよ。」


「そういう事だ。封印解除の仕組みは教えてやったがそこまで教えてやる気はない。」


「じゃあ……奴にトランスミグレーションは効かないのか?」


「ハハハ!心配するな羽竜。あくまでも封印を解くきっかけだ。トランスミグレーションで俺を倒す事は十分可能だよ。むしろ今は怖いくらいだ。」


「どうしてそんな事を教えてくれるんですか!?」


蕾斗がヴァルゼ・アークを問う。


「いずれ戦う事になるのだから、その時安心して戦ってもらわねばつまらんからな。」


言葉の節々にどこかもっと未来の話を織り交ぜている気がしてならない。

何か隠しているのは確かだ。

メタトロンが耐え切れず聞く。


「ヴァルゼ・アーク、神である余にもわからぬ………一体何を隠している?」


「隠しているつもりはない。別に言う必要がないだけだ。特にお前にはな、メタトロン。」


「どういう意味だ?」


「知れたこと、お前はここで死ぬのだからな。」


ヴァルゼ・アークが絶対支配を具現する。


「生意気な!覚醒したところで何が変わる!」


「待てよ、メタトロンは俺が………いつっ!!」


羽竜は戦える状態ではない。緊張が解けてしまった身体は、激痛を野放しにしてしまっていた。

痛さに耐えられず片膝をつく。


「お前はそこで見ていろ。後は俺が片を付ける。」


「どいつもこいつも…………うっとうしい虫けらめ!!!まとめて殺してくれるわ!!」


「塵から虫けらまで格上げしてくれたのか。そいつは嬉しいねぇ………」


「…………ッ!!」


減らない皮肉に怒りが言葉にならない。


「では始めよう……よろしく頼むよ、神様……。」


口元が緩む。

ヴァルゼ・アークの皮肉に付き合う気はないらしく左手に雷を収束させて剣を作る。

特大級の剣で狙うは魔帝の命。

 一方魔帝は俊敏な動きでメタトロンの肉体に傷をつけていく。

覚醒したヴァルゼ・アークは華麗に一撃一撃を決めていく。

絶対支配もまた魔帝の意思に応える。

主人と従者の意気が寸分の狂いもなくシンクロする。

時折魔法も混ぜての攻撃に翻弄され続けるメタトロン。

そこに神の威厳は微塵も残ってない。

調教師に調教される獣と同じである。


「グワオオオオッッ!!」


「フフ……滑稽だな……」


何度も絶対支配の威力を結界で防ぐが、まるで紙でも切るようにいとも簡単に破られてしまう。


「ハハハハッ!!どうしたメタトロン!?動きが鈍くなってきたぞ!」


「黙れっ!!絶対に殺してやるぞっ!!!」


「遠慮はいらん、殺してくれ。お前にそれだけの実力があるのならな。」


「ウオオオオオッッ!!!」


なりふりかまってる余裕はない。

ヴァルゼ・アークを倒す事しか頭に浮かんでこない。

冷静さを失ったメタトロンはただの暴徒でしかなくなった。

どんな攻撃も通用しない。


「ハァ……ハァ……ハァ……なんて素早さだ………」


「いい加減飽きたぞ、ケリをつけるか。愛しい我が部下達が待っているからな。あまり待たせるとうるさくて敵わない。」


「くっ………!!!ならば余も全魔力を使って貴様を葬ってやる!!!」


メタトロンのオーラと魔力が今までにない増幅を見せる。


「神の力を思い知れ!!ヴァルゼ・アーク!!死ねッ!!終末思想!!!!」


「何を今更………」


半ば呆れ気味に溜め息をつき、絶対支配を握り直す。

 空間圧縮が急速に行われる。

強烈な圧迫感に筋肉、骨、毛細血管に致るまでひきちぎれそうになる…………本来は。

ヴァルゼ・アークは終末思想の中でただ一点、神の懐に向かって走り出す。

額にある黒い宝石と真っ赤な瞳が光り、獲物の命の核を捕らえた。

終末思想に逆らい目まぐるしいスピードで駆けて来る悪魔を見て、メタトロンが恐れを抱く。


「し、信じられん………終末思想に逆らう事が出来るなど………」


「メタトロン!!貴様の命…………もらったぞ!!!!!」


終末思想を抜けてメタトロンの前に出る。

二人の目が合う。

絶望を感じる者、そして………


「フェルミオン・プレリュード!!!」


絶対支配がヴァルゼ・アークの魔力を増大させ、それを取り込む。

収束された素粒子が刃を取り巻くエネルギーとなりメタトロンの肉体に食い込む。実に鮮やかに……


「グワアァッ!!!」


「勝利の前奏曲はお気に召したか?」


食い込んだ絶対支配を一気に振り抜く。


「ウオオオオオッッ!!?」


「見ろよ、メタトロンが………消えていく………」


羽竜の言葉に蕾斗もあかねもただ黙って息を飲む。


「これは奇跡か……それとも………」


レジェンダの歴史に神に戦いを挑む者も、まして神を倒す者もいなかった。その二つを目の当たりにしてしまう。


「バ………バカな!?余が………余が負けるというのか?悪魔ごとき虫けらに………か……神である……神である…余がアアアァァァァッッッ…!!!!!」


 神故に最後の最後まで自分の死を認められず、自身の作り出した時間の中で塵となって消えていく。


そして、勝利する者……


「愚か者め………俺も神だ。」



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