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第三十三章 覚醒

 トランスミグレーションを振り回しメタトロンに立ち向かうが、やはりその気になった神には全く歯が立たない。

ヴァルゼ・アークもうまく立ち回るものの、メタトロンの攻撃を直撃しないようにするのが精一杯だ。


「思い知ったか!所詮貴様らの力などたかが知れてるわ!」


あかねも必死にメタトロンの攻撃を読むが読み切れない。


「そんな……空気の流れがわからないなんて……」


「無理もない。相手が悪すぎる。」


レジェンダにも空気の流れが読めない。


「羽竜、お前達はちょっと下がってろ。」


「下がってろ……ってどうしてだよ?」


「俺が一対一で戦う。」


ヴァルゼ・アークの言葉に納得出来ず反論する。


「何言ってんだよ!あんたもぎりぎりじゃないかよ!一人でなんて無理に決まってるじゃねーか!」


「聞こえなかったのか?下がってろと言ったんだ。」


つい忘れていた。この雰囲気。ただでさえメタトロンのオーラで息苦しい空間が、ヴァルゼ・アークのオーラでさらに重さを増す。

そして恐怖感が襲う。


「わかった。あんたに任せるよ………」


ヴァルゼ・アークの言われた通りに後ろに下がる。


「フン……一人で来るつもりか?」


余裕の笑みで鼻を鳴らす。


「あまり時間が無いものでな。一人の方が早く事が進む時もある。」


絶対支配から黒いオーラが放出される。

ヴァルゼ・アークも本気で行くのだろう。


「その不完全な力で余に勝つ気か?」


「ぐだくだやってても始まらん。行くぞ!」


全身からオーラを出しメタトロンに向かう。

黒いオーラを纏い絶対支配を華麗にさばく。

一方メタトロンは魔法で対応する。

魔法をかい潜り横一閃に真空波を放つ。

しかし見えないバリアによってダメージとはならない。

それでも手を休める事なく何度も何度も絶対支配を打ち付ける。


「小賢しい!」


懐にいるヴァルゼ・アークを殴り付ける。


「ぐおっ!!」


避ける間もなくまともに喰らう。


「ウオオオッ!!」


すぐさま立ち上がりまた攻撃に転じる。

両者のオーラに圧倒され羽竜達はただ事の成り行きを見守るしか出来ないでいた。

こうして見ているとヴァルゼ・アークの実力を窺い知るに致る。

メタトロンはヴァルゼ・アークの力は不完全だと言っていた。

確かにメタトロンに勝っているとは思えない。

それでも攻撃を受けてもすぐに立ち上がる体力や、放たれているオーラから羽竜達から見ればメタトロンと変わらぬ力を持っているよう見える。


「これが……ヴァルゼ・アークの力……」


羽竜にある種の嫉妬が芽生える。

彼は知らないうちに強さというものに憧れていた。

自分とは次元の違う戦いは羽竜の本能に火をつける。


「諦めたらどうだ?ヴァルゼ・アーク。ここまでやったのだ、人間の肉体では限界だろう?」


「フ………その割には留めを刺せないでいるじゃないか。」


「ならばお望み通り殺してやろう。」


大きな翼と両手を広げる。


「最後だ、ヴァルゼ・アーク!終末思想!!!」


空間が圧縮されていく。


「うおお………!」


肉体が悲鳴を上げ意識が遠退く。

圧縮された空間は一気に爆発する。

爆発で生まれた炎は、まるで生きているように辺りを回り始める。


「ヴァルゼ・アーク!!!!!」


終末思想の威力に不安を感じて羽竜が叫ぶ。

勝負はついた。

炎がどこかへ消えていく。圧縮された空間は元に戻り、後にはヴァルゼ・アークの身体だけが転がっていた。


「………嘘だろ?」


ぴくりともしないその肉体は間近で見なくとも終わっているとわかる。


「そんな……」


「死んだの………?」


蕾斗とあかねも愕然とする。

いるだけでどこか心強かったヴァルゼ・アークの姿が今だけは四人に絶望をもたらす。


「魔帝の運命……摘み取ったか。」


満足気に高く笑う。


「野郎!!!」


「止せ!羽竜!」


レジェンダの制止を振り切りトランスミグレーションを握りメタトロンの前に出る。


「フハハハ……どうした小僧?まさかあの亡きがらを見てもまだ余に逆らうか?」


「偉そうにしやがって!だから神って奴は好きになれねぇ!」


「たわけ!神とは好意を示す存在ではない。崇拝すべき存在だ。」


「だとしてもお前だけは崇拝したくないね!」


いつになく怖い顔を蕾斗がしている。


「なんでも思い通りになると思ったら大間違いよ!」


あかねも空気の剣を手に戦闘体勢をとる。


「どのみち失くなる命なら、最後まで燃やしてやろう。」


レジェンダは三人より少し高く浮き決意を表す。


「気に入らんな。諦める事を知らぬか。」


「ヴァルゼ・アークが言ってただろ?例え?パーセントでも望みがあるなら、そこに全てを賭けられる!それが人間だ!」


「ほざけ小僧!!二度も奇跡が起こると思うな!!」


「やってみなけりゃわからないよ。」


「そうそう蕾斗君の言う通り!」


三人が各々の戦闘体勢に入る。


「なんだかワクワクしてきたね!」


「お前は呑気だな、蕾斗。」


「来るよ、二人共!」


珍しくあかねがリーダーシップをとる。


「後悔するなよ!」


メタトロンが身体に力を入れてオーラを増幅させる。

蕾斗は炎、氷、雷の合体魔法を放つ。かなり全力で。

大きなエネルギーの塊となり飛んでいく。

それに続いて羽竜もトランスミグレーションを手に駆け出す。

あかねも空気の剣を持って羽竜に続く。

二人を援護するためにレジェンダが魔法を連射する。


「こしゃくなっ!!」


蕾斗の放った魔法を魔法で打ち消す。

その衝撃で凄まじい爆風が巻き起こる。


「羽竜君!正面!」


さっきは読むことが出来なかったが、今度はメタトロンの攻撃を読めた。


「でぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」


メタトロンのエネルギー波をトランスミグレーションで受け止める。


「そのまま!!私が行く!!」


羽竜の横をあかねが駆け抜ける。


「よ、吉澤!?」


いつもと違う雰囲気のあかねに驚く。


「私も……私も何かやらなきゃ!!」


「あかね!!足元に床をイメージしろ!!」


駆けて行くあかねにレジェンダが叫ぶ。


「床……?」


レジェンダの言ってる意味がわかる。


「イメージ………出来る!!」


大きくジャンプする。すると、空中に小さな床が見える。もちろんうっすらと。

そこに着地してすぐにまたジャンプする。

着地する先にイメージされた小さな床が出現してメタトロンの目の前まで昇っていく。


「小娘…………貴様エアナイトか!!!」


最後の床を蹴り上げ高く飛び上がる。

メタトロンの頭上に飛ぶ。


「そう……私はエアナイト、吉澤あかねよ!!!」


空気の剣をメタトロンに突き刺す気らしい。

落下するスピードを加速させる為に身体を伸ばす。

勇ましく神に向かう姿は紛れも無い『騎士』だ。


「馬鹿め!ヴァルゼ・アークとの戦いを見ていなかったのか!?余の周りには結界が張ってあるのだぞ!」


「吉澤!!」


「吉澤さん!!」


空気の剣がメタトロンの言う結界に当たる。

しかし意外にもあっさりと結界を裂きそのままの勢いでメタトロンの左目に突き刺さる。


「グオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!!!!」


頭が割れそうな雄叫びを上げる。

エネルギー波が消え、羽竜達があかねの側に駆け寄る。


「すごいじゃないか!」


羽竜が文句なしに褒める。


「カッコイイ〜〜!」


蕾斗の目がキラキラしてる。


「あかね……」


「レジェンダ、ありがとう。レジェンダがアドバイスくれたから……」


「それは違う。お前の実力だ。」


みんなに褒めちぎられ照れまくる。


「でもあれくらいでくたばる奴じゃないだろ………」


羽竜の予感は的中。


「許さん……許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さんぞーーーーーっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


空気の剣は消えているが、メタトロンの左目は多量の出血をしている。

少しはダメージとなるはずが、むしろ火に油状態になってしまった。


「やばくね?」


羽竜の顔が引きつる。


「まあ………しかたないよ……」


蕾斗も同じく引きつった顔で答える。


「よくも余の目を潰したな!!人間の分際で!!」


言い放った直後、火を吐いてくる。


「危ないっ!!」


蕾斗がすかさず魔導の壁を出して防御する。


「えいっ!!」


圧縮された空気であかねが攻撃する。


「ちょこざいなっ!!死ねっ!!」


両手を広げたメタトロンに空気中の粒子が集まる。


「いかん!!ヴァルゼ・アークを殺った技だ!」


レジェンダが注意を促す。


「今更遅いわっ!!終末思想!!!」


再び空間が圧縮される。


「くっ………なんのっ!!」


蕾斗が持てる限りの魔力を魔導の壁に注ぐ。

終末思想の空間圧縮をぎりぎりで抵抗する。


「吉澤さんにばかり……いいとこ持ってかれたくないからね。」


「信じられん!!余の終末思想に抵抗しておるのか!!?いかに魔導を持つ者とて……まさか………!!」


魔力を大量に得た魔導の壁が圧縮された空間を押し返す。


「ヌオオオッッッ!!!!」


「くそっっっったれーーっ!!」


全開になった蕾斗の魔力は終末思想を飲み込んでいく。

衝突した二つの技は行き場のないエネルギーの波へ変わる。

その波は、技を放った両者へ向かい、そして蕾斗とメタトロンに直撃する。


「蕾斗ぉぉぉっっ!!」


飛ばされる蕾斗に羽竜が手を伸ばすが間に合わない。


「グヌヌヌ………なんという魔力だ………」


メタトロンは飛ばされる事はなかったが身体に切られたような傷がある。


「テメェ……今度は俺が相手だ!!」


あかねが蕾斗の元へ走り介抱する。


「羽竜!集中しろ!」


「わかってる!!」


力強く握るトランスミグレーションの刃が光る。


「怯んだ今なら勝てるはずだ!!」


トランスミグレーションを頭の脇に構え、走り出す。


「うおおおっっ!!」


「おのれっ!!」


メタトロンの振り下ろす拳に向かってトランスミグレーションをぶつけに行く。

トランスミグレーションが力を解放する。

サマエルの時と同じだ。

とめどないエネルギーが赤い光の柱………そう、輪廻の炎となりメタトロンの腕を灰にする。


「グワアアアアアアアッッ!!!」


「まだだ!!」


留めを刺すべく渾身の力を込めてトランスミグレーションを振る。

………しかし一瞬、ほんの一瞬だが勝利を意識してしまった。

集中力が欠け攻撃に隙が出来る。

渾身の一撃のはずがかすり傷で終わる。


「ハハハッ!!集中力を欠いたか!!」


「しまっ………」


「羽竜!!」


「羽竜君!!」


レジェンダとあかねがメタトロンの攻撃を告げようとしたが、間に合わなかった。

メタトロンが残った左腕を思い切り振り下ろす。

全身で受け止めた羽竜の身体が鈍い音を立てる。

空間に無造作に転がる。


「羽竜君!!」


「フハハハ!無駄よ!全身の骨が折れたに違いない。立てるものか!!フハハハ!!」


嘲笑う声が響き渡る。


「余の目と腕を奪った人間………憎い気持ちもあるが、よくやったと褒めておこう。」


「遠吠えにしては少し貧相じゃないか?」


「何っ!?」


死んだと思っていたヴァルゼ・アークがメタトロンに向かって歩いて来る。


「うぬぬ……っ。貴様……」


「ヴァルゼ・アークさん!!」


血まみれのヴァルゼ・アークがゆっくりと歩き蕾斗を介抱するあかねとレジェンダの元に来る。


「たいした少年達だ。神に手傷を負わせるのだからな。」


心の底から感心しているのだろうが、いつもの調子とは違う。

なんというか、目線が上なのだ。


「フン!その身体で何が出来る!!死にぞこないが!!」


「お前が言うな。片目と腕一本失くしたお前がよ。」


「どこまでもどこまでも憎い奴よ……」


「立て!羽竜!」


倒れている羽竜に呼び掛ける。


「フン!無駄だ。全身の骨がバラバラになってるからな。」


「どうした羽竜!さあ、立て!!」


メタトロンを無視して羽竜を呼び続ける。


「くっ……うるせぇなあ……聞こえてるよ……」


「バ……バカな……!!」


ヴァルゼ・アークの呼び掛けにゆっくりと立ち上がる。


「彼も意外とタフらしくてな、バラバラになった骨も俺達ほどではないが回復が早いんだよ。」


「いってぇ………」


身体中を走る激痛に耐える。


「油断したぜ………でも今度は確実に仕留める!!」


トランスミグレーションをもう一度構える。


「小僧………来るなら来いっ!!」


羽竜を迎え撃つ準備をする。

それを合図に羽竜がまたトランスミグレーションの力を解き放ちながらメタトロンに向かって走り出す。


「うおおーーーっ!!」


気合いを入れて狙いを定める。


「フ…………」


何故かヴァルゼ・アークがにやける。

そして、羽竜とメタトロンがぶつかり合う瞬間、間に割って入る。


「!!!」


「ヴァルゼ・アーク!!」


勢いを止められずトランスミグレーションがヴァルゼ・アークの身体を貫く。


「…………!!!?」


「な……なんであんたが……?」


誰もが驚きを隠せない。

当たり前だ。自らトランスミグレーションに刺されに行ったようなもの。そんな行動普通はとらない。


「フフフ…………これだ………この時を待ってたんだよ…………我が封印を解く鍵…………トランスミグレーション………その解き放たれた力………」


我に返り慌てて羽竜がトランスミグレーションを抜く。


「ヴァルゼ・アーク……一体何を………」


「羽竜、お前がトランスミグレーションの力を解放するのを待ってたんだよ………」


「トランスミグレーションの………力?封印って………」


その時ヴァルゼ・アークの身体に異変が起きる。


「羽竜!離れろ!」


レジェンダに言われその場から離れる。


「ぐおおおっ!!!」


ヴァルゼ・アークの身体から炎が出て、あっという間に彼を包む。


「…………何が始まるの?」


人の身体が燃え盛るのを目の当たりにしてあかねは怯えてしまう。


「これは………炎じゃない………」


メタトロンに一抹の不安が過ぎる。

ヴァルゼ・アークの身体が激しくフラッシュする。

眩しさに全員が目を閉じる。

それでも瞼を通して眩しさを感じる事が出来る。

どれくらいの時間かは定かではないが、かなり目を閉じていたのは確かだ。

静かに瞼を開く。

すると辺りに霧が立ち込めていた。

一瞬視界を遮られるが、少しずつ晴れていくにつれて影が浮かび上がる。


「……ヴァルゼ・アーク?」


羽竜が確認するようにヴァルゼ・アークの名を口にする。

影が徐々に色付く。

そこには見慣れない男……が立っている。

漆黒の重厚な鎧を纏い、その髪は真っ赤に染まり、大きな角が二本頭の脇から生えている。

そしてその瞳は白目の部分までもが赤い。


「……魔帝………!!」


メタトロンが呟く。


「フフ……ようやく封印を解く事が出来たか。」


 魔帝ヴァルゼ・アークが覚醒した………


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