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第三十二章 神は賽を振らない

「うえっ……気持ち悪い……」


「おいおい、こんなところで吐かないでくれよ?」


扉に入った後、目が回るような空間が辺りを包みとても神の住む場所とは思えない。


「こんなところに本当に神様なんているんですか?」


飛んでいるような状態で前に進む。先頭を行くヴァルゼ・アークの横まで身体を移動させて蕾斗が尋ねる。


「ここは神界とは違う。ここは言わばワープゾーンってやつだ。ここを抜ければ神のいる大神殿に辿り着ける。」


「大神殿………ですか?」


「まあ、俺もヴァルゼ・アークの記憶しか知らないからこの目で見るのは初めてだけどな。」


これから神と戦うというのに、余裕なのだろうか……緊張が感じられない。


「あの………聞いてもいいですか?」


「なんだ?」


「ヴァルゼ・アークさんてフラグメント集めて魔導書手に入れたら、やっぱり世界とか征服したいんですか?」


以前より疑問に思ってる事を聞く。


「フフ……そう思うか?」


「羽竜君は違うみたいな事を言ってましたけど………そうじゃなかったら何がしたいのかなって……」


「そのうちわかるさ。」


「でも、神様に戦いを挑むのは何故ですか?フラグメント持ってるんですか?」


「約束なんだよ……」


「約束……ですか?」


「…………………。」


それ以上何も言わなかった。

 そうこうしてるうち『気持ち悪い空間』を抜けて神殿の前に出る。これが大神殿なのだろう。


「ここに神様が……?」


あかねが大神殿を守るように立っている大きな石像を見上げて緊張を高める。


「ヴァルゼ・アーク、勝算はあるのか?」


レジェンダも緊張を隠せない。

無理もないだろう、レジェンダは神がどういう存在か知っている。

緊張より恐怖感かもしれない。


「さあな。」


あっさり否定する。


「さあなって……あんたが勝てないならどうやって勝つんだよ?」


苛立ちながら羽竜が詰め寄る。


「心配するな、奇跡が起きれば問題ないさ。」


「き……奇跡?」


あかねも呆れてしまう。


「準備はいいか?」


ニコッと笑うヴァルゼ・アークに調子が狂う。


「後は野となれ山となれ…だね。」


溜め息混じりに蕾斗がヴァルゼ・アークに続く。

大神殿の中を真っ直ぐ歩いて行くと大広間にたどり着く。


「行き止まりみたいね。」


「行き止まりって事はここに神様がいるのかな?」


あかねの問いに蕾斗が答える。


「そういう事になるんじゃないか?」


羽竜がキョロキョロ落ち着きなく辺りを見渡す。


「……………。」


ヴァルゼ・アークはただ目の前の台座を見つめている。


  愚かなるは人間よ………


「!」


どこからか声がする。羽竜達は驚いているがヴァルゼ・アークには声の主がわかっているようだ。


「その愚か者がわざわざ会いに来てやったのだ、姿を見せたらどうだ………メタトロン。」


相変わらずだなヴァルゼ・アーク……


大神殿いっぱいに広がる声が近づいてくる。


「羽竜君!あそこ!」


今まで誰もいなかったはずの台座に誰か座っている。


「人間になってまで神に逆らうとは…………地に堕ちたものよ。魔帝の名が泣いておるわ。」


「余計なお世話だよ。こうしてお前を倒しに遥々時を超えて来たのだ、もう少し歓迎してくれてもいいだろう?」


天使達が纏っていたのと同じ銀色の鎧を身につけている。


「余を倒すと申したか?フハハハハ!面白い。わかっているぞ、お前はまだヴァルゼ・アークとして不完全体だ。だからトランスミグレーションの使い手を連れて来たのだろう?ミカエル達と一緒にしているのなら大きな間違いだ。余は神だ。貴様ら人間など塵も同じよ。」


「言ってくれるな。ならばその塵に倒される運命のお前はなんだ?」


ヴァルゼ・アークとメタトロンは互いに余裕を見せつけ合う。

メタトロンが現れてから妙な息苦しさを感じる。

きっとこれが神の持つ存在感なのだろう。


「まあここで罵り合ってもラチが開かん。勝負だ……メタトロン!!」


ヴァルゼ・アークの手に絶対支配が具現化される。


「羽竜、蕾斗、あかね、レジェンダ、行くぞ!」


ヴァルゼ・アークが号令をかける。


「お、おう!」


緊張が解けないが羽竜も言われるままにトランスミグレーションを構える。


「諦めたらダメだよね……」


自分に言い聞かせて蕾斗も魔法攻撃の準備をする。


「どうして神様と戦わなくちゃいけないのかわからないけど…………とりあえずやるしかないみたいね。」


あかねも剣をイメージしてネフュテュス戦と同じ要領で空気の剣を出す。


「よもや神と戦わねばならんとは………」


レジェンダも出来る限りのサポートをしようと魔法の準備をする。


「身の程を教えてやる。来いっ!!人間達よ!!」


メタトロンの翼が開く。

ヴァルゼ・アークが絶対支配を手にメタトロンに切り掛かる。

メタトロンもまた何やら剣を具現しヴァルゼ・アークに対抗する。


「どうすればいいんだろ?」


ヴァルゼ・アークとメタトロンに圧倒され蕾斗が戸惑いを口にする。


「とにかくメタトロンに攻撃だ!ここまで来て何もしないわけにはいかないだろ?」


「でも羽竜君、私達神様と戦わなくちゃいけない理由がないよ?」


「あかね、神もまたオノリウスの魔導書を狙い、インフィニティ・ドライブを手にしようとしているのだ。その為には人間を消し去るだろう。今まではエルハザード軍がその役目を負っていたが、それも出来ないとなれば自ら人間を抹殺してフラグメントを探し出すはずだ。」


レジェンダがあかねを説得する。


「どのみち戦わなくちゃいけないって事だろ?」


羽竜の問いにレジェンダが頷く。


「心配すんなよ、俺がついてる!」


「羽竜君……」


羽竜に頼もしさを感じ、戦う決心をする。


「あかね、お前には未来を読む力がある。いかにメタトロンといえど、落ち着けば渡りあえる。」


「レジェンダ……どうしてそんなに私の力を信じられるの?」


三人がレジェンダを見守る。確かにレジェンダのエアナイトに対する思い入れが違うのはみんな感じていた。


「………………かつて私もエアナイトだったからな。」


「マジかよ……」


「言われてみれば思い当たる節はあるよね。」


「レジェンダも私と同じエアナイト……?」


「詳しい事は後だ!行け!」


「よし!行くぜ!蕾斗!吉澤!」


「「うん!」」


羽竜とあかねは剣を取りメタトロンに向かっていく。


「フレイムスター!!」


蕾斗は炎の魔法で援護する。

火炎がメタトロンを襲うがそうすんなりとは当たらない。


「その程度魔法ごとき話にならん!」


ヴァルゼ・アークの攻撃をかわしながら蕾斗に炎の魔法を返す。


「蕾斗!」


ヴァルゼ・アークが危険を促すが、蕾斗が意外な行動に出る。


「ダブル・フリージングストーン!!!」


右手と左手から氷の魔法を出し融合させる。

メタトロンの火炎とぶつかり合い激しく弾ける。


「うわっ!!」


衝撃で蕾斗が吹き飛ぶ。


「てんめぇぇぇ!!!よくも蕾斗を!!」


羽竜のトランスミグレーションがヴァルゼ・アークの絶対支配と相成ってメタトロンを攻撃する。


「小賢しい!!」


二人の攻撃を剣と魔法でさばく。


「羽竜君!右から魔法が来る!!」


あかねが一秒に満たない未来を告げる。


「うおおりゃぁぁぁぁっ!!」


予告通りの攻撃を回避するのではなく、トランスミグレーションで薙ぎ払う。


「やるじゃないか。」


ヴァルゼ・アークが褒める。


「フン!あんたにも負けられないからな!」


「ハハハ!そうだ、その意気だ。」


ヴァルゼ・アークにとって羽竜が強くなるのは喜ばしい事らしい。

その二人のやり取りに気分を害したメタトロンが頭上に大きな光球を作り出す。


「対等に戦えていると思うな。余が警戒しているのはヴァルゼ・アークただ一人よ。トランスミグレーションの使い手とはいえたかだか人間の子供ごとき、余の敵ではない!」


そう言って光球を下降させてくる。


「消えろ!!」


落ちてくる光球の重い音がその威力を想像させる。


「ヴァルゼ・アーク!!」


「流石にこいつはマズイな。」


もっと答えを期待していたのだが、横を見ると冷や汗を掻いている。


「しっかりしてくれよ!あんた強いんだろ!?」


「それとこれとは別だよ。」


「…………。」


あんぐりと口を開けるしかない。


「レジェンダ!援護だ!」


蕾斗とレジェンダが光球に魔法をぶつけるもののエネルギーに差がありすぎる。


「避けろ、羽竜!!」


「くそっ!!」


ヴァルゼ・アークと羽竜が大神殿の中を光球から出来るだけ遠くに逃げる。


「無駄な努力を……」


メタトロンが衝撃を受けぬようにバリアを張る。

光球は床に落ちると同時に光を放ちエネルギーを解放する。

そして大神殿を揺るがしながら爆発。柱までも吹き飛ばす。

羽竜とヴァルゼ・アークだけでなく、蕾斗とあかね、レジェンダも爆発に飲まれる。


「フフ………愚か者共が。神の力を侮りおって……」


バリアを解き静かに降りてくる。


「ヴァルゼ・アークも死んだか……」


爆煙がおさまり辺りを確認する。

床は馬鹿でかい穴を開けて崩壊している。壁もひびが入っている。


「口ほどにもなかったか。」


勝利等と思ってもいない。

メタトロンにとっては当たり前の事。人間に負けるわけがない。

その時瓦礫と化した柱の山がガラガラと音を立てる。


「いててて……………」


「貴様………!!」


瓦礫から現れたのは羽竜だった。


「ううぅ………」


「大丈夫か?蕾斗?」


次にレジェンダと蕾斗が現れる。


「全く……神ってのは遊ぶって言葉知らないのかねぇ……」


「あ…あの、ありがとうございます。」


「なあに、礼には及ばないよ。女性を守るのはナイトの役目だからね。特に君みたいに綺麗な女性は尚更。」


「き、綺麗だなんて!……そんな……」


悪魔の総帥とは思えないキザなセリフにあかねが頬を赤らめる。

それを羽竜が見逃すわけがない。


「おいっ!くっつき過ぎだぞ!離れろ!!ヴァルゼ・アーク!!」


トランスミグレーションを本来の使い方とは違った方法で上下に振る。


「フンだ!羽竜君だってあのツンデレ女と仲良くしてたじゃない!」


「ぬおおおっ!!別に仲良くなんてしてねーよ!!ヴァルゼ・アーク!!吉澤から離れないとあんたの部下達にチクるぞ!!浮気してるって!!」


「勘弁してくれ……俺はお前の彼女を守っただけだぞ?感謝される事はあっても恨まれるのは心外だな。」


「別に彼女じゃありません!」


「そうだ!別に彼女じゃない!」


羽竜とあかねがすこぶるムキになって否定する。


「若いねぇ……うらやましいよ、そのモチベーション。」


腰に手を当て溜め息をつく。


「貴様ら……余を愚弄しておるのか……」


ワナワナと怒りが満ちた表情をしている。

その気持ちもわからなくもないが…………。


「自分の家を破壊してまであんな技使うかよ……」


「面倒くさかったんじゃない?」


羽竜も蕾斗も勝手な事を言う。


「あれを喰らってなんともないのか……!!!」


怒りもおさまらないが驚きも隠せない。


「あの程度の攻撃、俺達の命を奪うには安すぎるんだよ!……まあちょっとはやばかったけど……」


「馬鹿な………有り得ん!!何故……何故効かぬ!?」


羽竜の元気っぷりに恐れすら覚える。


「なんでそんなに驚いてんの?効かないものは効かないんだからしかたないと思うんだけど……」


蕾斗が疑問をぶつける。


「神はさいころを振らないってやつだな!」


羽竜が得意げに答える。


「アインシュタインか……」


「レジェンダ、アインシュタイン知ってるの?」


「友人だったからな………」


「「「何ぃっ!!!!」」」


あかねとの会話から思いもよらない言葉が飛び出す。

羽竜も蕾斗もあかねも目を丸くする。


「千年もこの世に存在すればそういう事もある。」


「でも羽竜、神はさいころを振らないってのは少し違う。」


ヴァルゼ・アークが割って入る。


「何が違うんだよ?」


キメたと思ったセリフを否定されムッとする。


「神は俺達と違ってさいころを振る勇気がないんだよ。自分の意思の通じないものを認めたくない故にな。そうだろう?メタトロン……」


ヴァルゼ・アークの言葉は図星だったらしい。


「ヴァルゼ・アーク……お前の仕業か……」


羽竜達が助かった訳がわかった。


「あの程度の攻撃、俺達の命を奪うには安すぎるんだよ。」


ニヤリと悪戯に笑って、羽竜のセリフを真似る。彼は遊び心を知っている。それも普通の人よりかなり上を行く。この辺がいつも羽竜の調子を狂わせる。


「おのれッ!!許さんぞっ!!神は賽を振る勇気がないだとっ!?貴様らと一緒にするなっ!!」


軽口を叩かれどうにもこうにも怒りがおさまらない。


「メタトロン、お前達神にはわかるまい。人間にはたった1パーセントでも可能性があるならそこに望みを賭ける………そういう事が出来るんだよ。その勇気は秘めた以上の力を呼び起こす。お前達がかつて人に与えたもの………奇跡だ。」


「では何か?あの攻撃を防いだのはお前ではなくあの小僧共だと言うのか?」


「そうだ。羽竜と蕾斗が自らのオーラと魔力で防いだのだ。俺は崩れる柱から彼女を守ったに過ぎない。」


「そういう事だ!」


羽竜がヴァルゼ・アークの話に鼻を高くして見せる。


「フン、なるほど。奇跡か………だがそうそう起こるものでもあるまい。あれが余の本気だと思っているのなら大間違いだ。次は本気で行こう。貴様らの奇跡に敬意を表してな。」


メタトロンがまた翼を広げて宙に身体を持っていく。


「ここでは戦いにくいだろう………」


剣を振り上げる。すると大神殿が灰になって散っていく。

床すらも消えていく。


「これは……!」


蕾斗がどこかに堕ちてしまうのではないかと思いメタトロン同様に魔力で羽竜とあかねと自分の身体を浮かす。

辺りは歪んだ空間はまるで宇宙にいるような感覚になる。


「ヴァルゼ・アーク……これって一体……」


きっと答えを知っているだろうヴァルゼ・アークに羽竜が尋ねる。

神界に来るまでのあの気持ち悪い空間とは違う。


「メタトロンの時間だ。」


「神様の……時間?」


ヴァルゼ・アークの答えではあかねにはわからない。もちろん羽竜達も同じだ。


「簡単に言えば啖氷空界の神様版だ。」


ヴァルゼ・アークの顔からさっきまでの余裕は失くなっていた。


「今度は奇跡を期待するなよ?」


「おお………あれは……!」


レジェンダが驚くのはメタトロンの姿。

人型の肉体が変化していく。

宇宙を泳ぐ遊魚に獣の頭。身体は人型のまま大きくなる。


「野郎……マジになりやがって。みんな気をつけろ!」


ヴァルゼ・アークが真剣な表情をするという事は、かなりやばい状況だとわかる。

メタトロンの絶大なオーラが辺りを包む。


「教えてやるぞ、神は賽を振るまでもないという事を。」



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