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第二十六章 Past to Part

「あの日、私は魔王として生まれ変わりましたのよ。」


ルシファーとミカエルは遠い昔の事を思い出していた。

とはいえ、そこには温度差がありすぎてそれに浸るような関係にはない。


「生まれ変わっただと?さっきも言ったが貴様はルシフェルではない!ルシフェルの記憶を持つ人間に過ぎない。忘れるな、ルシフェルも他の悪魔も千年前に死んだのだ。」


客観的に見ればミカエルの言ってる事は正しい。いや、認めたくないのかもしれない。

形を変えて甦るなど、認めてしまえば永遠に答えの出ない疑問となる。


「正しいのは自分だけ………自分の理解出来ないものは認めない。貴方らしい言葉でなによりですわね。」


ルシファーも認めてもらおうなどとは思っていない。

一つの身体に宿る戸川純としての心、ルシファーとしての記憶はルシファー自身の心までも宿らせた。そして上手く共存しているのだ。人間、戸川純の肉体の中で。


「あくまでもルシフェルだと言い張るのなら私を倒して証明することだ。」


「言われるまでもなく、そうするつもりですわ。お互いに過去と決別致しましょう。」


ミカエルが剣を抜く。

ルシファーもまたグングニルを構える。


「おーほっほっほっ。イグジストも持たないのにやり合うおつもりですの?」


「いらぬ心配だ。イグジストだけが全てではない!」


ミカエルが先に仕掛けた。

大きく振り抜く剣をグングニルで弾く。

止まらずミカエルの真空波がルシファーに襲い掛かる。

グングニルを回し、いとも簡単に消し去る。


「まさかこの程度で本気とか言わないで下さいませ?お兄様!」


「黙れ!」


ルシファーに茶化されて苛立ちを抑えられなくなり右腰に下がっている鞘からもう一本剣を抜き二刀流の構えをとる。


「まあ!!いつから二刀流を指南なさいましたの?!ちょっとだけですけど素敵ですわ!」


剣の軌道が激しくなり、ぎりぎりのラインでかわす。


「そうやって…………すぐにムキになるところも変わりませんのね。」


かわすのも厄介に感じ始めたルシファーはグングニルをミカエルの顔面目掛けて突く。

二本の剣を交差させて防ごうとするが勢いがよすぎて防ぎきれない。

しかしグングニルは寸でのところで止まる。


「……………………」


全身から汗が噴き出す。


「おほほほ。びしょ濡れではございませんか。ミカエル兄様。」


また茶化されたが、一瞬感じた恐怖に言い返す余裕がない。

グングニルを引き脇に立てる。

ミカエルも剣を携え立ち上がり体勢を整える。


「フ……フフ……フハハハハハ!!」


「?」


突然ミカエルが笑い始めた。

ルシファーは首を傾げる。


「今留めを刺さなかった事、後悔するぞ?」


嫌らしく笑みを浮かべる。


「お兄様こそ、私を謀った事後悔させてあげましてよ!」


ミカエルから感じるオーラが増大していく。

本気になったらしい。

 ただならぬオーラにルシファーも覚悟を決める。

どちらも負けられないと知っている。

ミカエルの翼が大きく開く。四枚の純白の翼から光の粒子が零れる。


「今度は私自身の手で確実に消してやる!」


ミカエルが宙にその身体を浮かす。


「期待してますわ……ミカエルお兄様。」


ルシファーもまた六枚の翼を広げる。こうもりのような真っ黒い翼だ。


「行くぞ!!ルシフェル!!」


天井スレスレまで上昇していたミカエルが急降下を始め、ルシファーに突っ込んでくる。

もちろんそれを迎え撃って出る。

激しい金属音が鳴り響く。

何度も何度もぶつかり合う二人の武器が叫び声をあげているようにも聞こえてくる。

因縁の対決なんて生易しいものではない。

ミカエルは今の地位を守る為には過去の事が神に知れてはならない。なんとしてでもルシファーを消さなければ………それだけが彼を駆りだたせていた。

また、ルシファーも彼女なりの思惑があるらしく決して怯まない。


「さすがですわね…………手が痺れてきちゃいましたわ………」


弱音を吐いてるわけではない。寧ろ楽しんでいた。

緊張感に包まれ命をやり取りする。余裕をなくした事が、彼女の集中力を高めた。


「ふんっ。この期に及んで笑みを浮かべるとは。どこまでもルシフェルを真似るか!」


「貴方も物分かりの悪い人ですわね〜。私はルシファー、おわかり?」


どうにも堅物なミカエルに少々腹が立つ。


「戯れ事を………」


ため息をついてミカエルの堅物さに舌を巻く。


「まあ別によろしいですけど………」


グングニルを静かに回転させ戦闘体勢を作る。

堅物といえど天使達を統率する大天使長。油断はならない。

彼の繰り出す攻撃の一つ一つに対して判断を誤るわけにはいかない。

かわすのか?防ぐのか?次の攻撃を読みながら隙を伺う。

針の穴に糸を通すほどのチャンス………よくそういう言われ方がなされる。まさにそんな状況だ。

空中で互いに出方を伺っている。


「いつまでも貴様と遊んでるわけにはいかん。他の蝿共を退治しなければならんからな。」


「おーーほっほっ。おバカですわねぇ………もう勝負はついてると言いませんでした?」


「ハハハ。勝負がついてるだと?笑わせるな!私をサマエル達と同じだと思うなよ!今の私ならヴァルゼ・アークとでも渡りあえる!」


「ムリムリ。」


「な………」


ルシファーが首と手の平を振ってジェスチャーする。


「貴方じゃヴァルゼ・アーク様どころかサマエルにも勝てないわよ、きっと。」


「私がサマエルに勝てない?どういう意味だ?」


「ご心配ならなくても教えてあげますわ………よっ!!!!」


腰の後ろに廻したグングニルで素早い突きを繰り出す。残像が残り本物を見分ける事が難しい。


「こしゃくな…………」


今度はミカエルが必死にルシファーの攻撃を防ぐ。


「ほら、どうなさいましたの?そんなんじゃヴァルゼ・アーク様となんて渡りあえませんことよ?」


憎たらしいほどの女性独特のスマイルがミカエルの集中力を散らしていく。

二本の剣を右へ左へ振りルシファーの攻撃を防ぐばかりで自分から攻撃に転じられない。


「はあっ!!!」


集中力の切れたミカエルに隙が出来たのを見逃さない。

グングニルがミカエルの左肩へ命中、ミカエルが失墜する。


「くっ………油断したか……!」


「油断禁物ですわよ。」


方膝をつくミカエルの脇に降り立ち、不様な姿を眺める。


「そういえば、あの時も左肩怪我してたみたいですけど…………あれ、ご自分でなさったんでしょ?役者ねぇ。」


ルシファーを陥れる為に自らの肩に短剣を刺したミカエルに感心してしまう。


「フフ………なるほど……………伊達にルシフェルの名を名乗っているわけではなさそうだな。いや、魔王ルシファーだったか…………その強さはまさしくルシファーだ。」


「ようやく認めてくれる気になりました?」


「ああ。認めよう。女、貴様は間違いなく我が弟ルシフェル………魔界に堕ちた魔王ルシファーだ。」


「女だけど弟なんておもしろいと思いません?」


一人できゃっきゃっと騒ぐ。


「だがな、それ故に私も奥の手を見せねばならん。」


「奥の手?」


「ルシファー、貴様も知らない私の秘密。もっともこの力は貴様があの黒い渦に呑まれ、魔界に堕ちたと知った後に手にした力。知るわけもないが。」


不穏な空気が流れる。

ルシファーは肌で感じ取った。何か危険な臭いがする。


「私の大天使としての姿………その目に焼き付けるがいい!!!」


辺りがフラッシングする。眩しさに思わず目をつむる。

瞼が熱い。ミカエルが全身から放つ光の強さを物語る。

フラッシングが治まる。ゆっくり目を開けると………そこには見慣れない『何か』がいる。


「ミカエル……?」


一回り身体が大きくなり手足は鎧で包まれてはいるが、ミカエルのそれではない。

そして大きな冠のような兜に仮面のような顔に変貌している。


「ククク……さすがに驚きを隠せないみたいだな。」


「これは……一体……?」


「光栄に思え。ルシファー、この姿は貴様に初めて見せる。」


(どうりでヴァルゼ・アーク様と渡りあえるなどと自信を持つわけですわ)


オーラの増加が凄まじい。

さっきまでのミカエルの比ではなくなっている。


「これって……かなりヤバイくありません…………?」


「ククク………容赦はせんぞ。」


そう言うといきなり魔法攻撃を仕掛けてきた。


「………!」


かわす間もなくルシファーに直撃する。


「フハハハハハ!!」


「うぅぅ………いったぁ……。少しは手加減なさいませ!」


身体が痛みに支配される。たった一撃で。


「どうした?もう降参か?フ………降参したところで見逃したりはせんがな。」


ズシッズシッと足音を立てて近付いてくる。


「聞いてませんわ………くっ!」


グングニルを杖代わりになんとか立ち上がるがとても戦う余力はない。


「ルシファー………嘆く事はない。お前が弱いわけではない、私が強いだけだ。」


皮肉の一つも言ってやりたいが、立っているだけでやっとだ。


「今楽にしてやる………喰らえ!!マルチバース!!!」


ミカエルの唱えた魔法が爆発を起こす。

防ぐ術もなくまたもまともに喰らってしまう。


「きゃあッ!!!!!!」


神殿の柱を吹き飛ばす。ルシファーは勢いよく壁に激突して床に叩きつけられる。


「逝ったか…………」


横たわるルシファーを見て死を確認する。


「憐れな女よ………くだらん力を持ったが為に……」


横たわるルシファーに背を向けそのまま台座の間を出ようとする。その時………


「憐れはミカエル、お前だ。」


「……!!!バカな!生きて………」


死んだはずのルシファーを見る。そこにはなんと紛れも無い『聖天使ルシフェル』がいる。


「お………おお……ル……ルシ……フェル……」


「どこまでも愚かな男よ……」


「お前………本物の……?」


幻か?現実か?金色の髪をオールバックにしたルシフェル。

ミカエルをじっと見ている。


「いや、幻影だ………千年前に魔導書を巡る戦いで消滅したはず。記憶と力を残したとしても肉体は滅んだはずだ……」


「まだわからぬか?俺はルシフェル。お前の双子の弟のな。」


身体が震える。恐怖に怯えているの自分がいる。


「愚かだとぬかしたな?私のどこが愚かだと言うのだ!」


「気付かないのか?お前の今の姿は化け物だ。それも欲にかられた。」


「何ぃっ?!」


「己の地位を守る為だけに化け物に姿を変える奴など、家畜以下だ。」


「私が家畜以下だとっ!?貴様!!誰に物を言ってるかわかってるのか!!」


「お前だよ。」


はっと我に返る。今まで目の前にいたルシフェルがいない。

そこに立ってるのは傷ついた身体を庇い破損した鎧を身につけているルシファーだった。


「女………ルシフェルは……ルシフェルはどこだ!!」


「何言ってますの?私ならずっとここにいるではありませんこと?」


「貴様が…………私にずっと話かけていたのか?」


「他に誰かいまして?」


ミカエルは唖然として言葉を失う。自分が見たのは幻だったのか?


(違う。私は確かにルシフェルを見た。そう、今目の前に立っている人間の女にルシフェルを見たのだ。)


「フン…そのまま寝てればいいものを。今度は確実に消えてもらう!」


ミカエルが全身を震わせ力を入れる。


「マルチバー−−−−−−−ス!!!!!!」


さっきより魔力を込めて放ってくる。

魔力の大きさのためか魔法の周りの空間が歪む。


「あいにく………こんなところで死ぬわけにはいきませんのよっ!!生生流転!!!!!!」


マルチバースに対抗すべく必殺技を放つ。

二つの技が激しく衝突する。

青白い炎球を気流の波が押し戻す。


「むうぅぅっ………!」


「どこにそんな力が残ってるというのだ!!?」


マルチバースが生生流転に耐え切れず変形し始める。


「くっ!爆発する!!」


「おいきなさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっっ!!!!」


球状を保てなくなったマルチバースがその力を解放してしまう。

爆発し強烈な爆風が起こる。


「ウオォォォッッッ!!!!??」


ルシファーの放った生生流転が爆風を突き抜けてミカエルを直撃する。

その衝撃でミカエルの身体は外へ飛ばされる。


「…………………。」


全魔力を使い放った必殺技。ミカエルを倒す事が出来なければルシファーの負けが決まる。

ただ黙って成り行きを見守るしかない。

崩壊した壁の瓦礫ががさがさと崩れる。


「冗談はほどほどになさいませ………」


瓦礫の中から『元』のミカエルが現れる。


「うっ……………なんて技だ………マルチバースを破るとは……」


相当ダメージは与えられたみたいだ。

マルチバースの解放エネルギーと生生流転をまともに喰らったのだから無理もない。


「状況は一緒………ですわね。」


ミカエルから感じていたオーラが大分減ったように思う。

どちらも身動きがとれないでいた。


「認めたものの、ここまでやるとは………我が秘法も未完成だったか……」


「何が秘法よ。増大させたオーラで肉体を変えたところで、維持する魔力は甚大ではないのではなくて?神でもないのに貴方にとっては諸刃の剣に過ぎない力だったはず。」


「黙れ!貴様に言われる筋合いはない!!」


ボロボロの身体を引きずってルシファーの方へ歩いてくる。


「ルシファー様!!」


「シュミハザ……」


助かった。ルシファーはそう思った。状況はミカエルに不利となる。

ルシファーとシュミハザに挟まれる。その気になればルシファーくらいはなんとか出来る。でもその前にシュミハザに殺られるだろう。

シュミハザのデスティニーチェーンは近、中、遠距離を問わない。


「これまでか…………」


ミカエルは体力が尽きたのか膝をついてしまう。

その拍子にフラグメントが床に落ちる。

それをすかさずデスティニーチェーンで拾いあげる。


「四つ目ですね、これで……」


壊された壁から差し込む光よりも眩しく輝いている。


「おーほっほっ。私達の勝ちでございますわね。」


「覚悟するのです、ミカエル。」


シュミハザがデスティニーチェーンを両手で横に引っ張り殺意を見せる。


「……………好きにしろ。」


ミカエルが覚悟を決める。


「とどめを刺したいのであれば私は遠慮するのです。」


ルシファーに気を遣って一応断る。ルシファーは俯くミカエルを黙って見つめる。


「とどめを刺すまでもありませんわ。」


「!?」


予想しなかったルシファーの言葉にミカエルが言葉を失う。


「……それでいいなら何も言わないのです。」


シュミハザだけは答えをわかっていたようにルシファーに念を押す。


「ふ、ふ、ふざけるな!!!とどめを刺さないだとっ!?何故殺さない!!?」


顔を紅潮させながら怒りをあらわにする。


「フラグメントも手に入れたましたし、貴方が生きようが死のうが興味が湧きませんの。」


軽くいいのけるルシファーを見てワナワナと震え出す。


「この期に及んでまだ私をおちょくるつもりか!?」


ルシファーは問いには答えず、ミカエルの脇を抜けてシュミハザのところまで歩く。


「ま、待て、ルシフェル!」


外へ出ようとする二人を呼び止める。


「いい加減目を覚ましなさいませミカエル。」


「何?」


「私達の勝ちは見えましたわ。貴方はどうせ死ぬ運命。わざわざとどめを刺すまでもありませんわ。」


「情けを…かけるのか?」


「自惚れるな。」


その時、またルシフェルの幻を見る。


「ルシフェル………」


「ミカエル、お前は私に負けたわけではない。自分自身に負けたのだ。なぜそれがわからぬ?」


「自分自身に負けた……?」


「最後の最後まで自分自身を信じられず、欲に己を見失った時点ですでに負けていたのだ。」


「ぬ……ぬかせ!私は……私は大天使長ミカエル!いずれ神になる者だ!」


「情けない……」


「何を!?」


「情けないと言ったのだ。そんなものにこだわった結果が今の姿じゃないのか?」


ボロボロになりあちこちに傷を負いもはや自立すら出来ない自分の身体を見て黙り込む。


「お前は殺すにも値しない。逃げたいのなら逃げればいい。止めはせぬ。」


その言葉を最後にルシフェルの幻影が消えた。


「行きますわよ、シュミハザ。」


シュミハザが黙って頷いた。

 彼女の肩を借りてその場を去る。

 少し歩いたところで歩みを止めてミカエルに言葉をかける。


「自分すら信じられないなんて………どこまでも悲しい人……」


二人は再び歩きだし次なる戦いへ向かって行った。

 似たような事をルシフェルにも言われた。あれは幻ではなかったのか?

ルシファーに見た幻影だと思っていたが、そうではなかったのかもしれない……。

今となってはどうでもよかった。


 神を目指した男は今、全てを失った。


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