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第二十一章 輪廻転生

神殿に侵入してから天使達の亡きがらがあちこちに散らばっている。殺ったのは間違いなくレリウーリアの誰かだろう。

ロストソウルは魂の浄化をするらしい。そこはイグジストもトランスミグレーションも同じだ。

だとしたら何故『死体』があるのか?

レジェンダによればただ単に力のいれ具合では亡きがらを残す事も出来るらしい。

力といっても腕力の話ではなく魔力の類の話。

トランスミグレーションを使う俺には魔力はないが、何か不思議な力を持っているらしくそれが何かはレジェンダもヴァルゼ・アークもわからないようだ。

「インフィニティ・ドライブも手に入れることが出来る力」……確かヴァルゼ・アークがそう言ってたっけ。

そもそも『インフィニティ・ドライブ』なる力の存在自体疑わしくも思える事がある。

無限を操る………実に抽象的で非科学的な言葉に天使やら悪魔やらが躍起になって戦っている。

大体、オノリウスはどうやって『インフィニティ・ドライブ』の存在を知ることが出来たのか?いや、『インフィニティ・ドライブ』の存在は天使と悪魔も知っている。つまり、存在そのものと言うより伝説的なものはあったんだろう。

俺が言いたいのは、オノリウスは魔導書に『インフィニティ・ドライブ』の手に入れ方を記しているという。

それを悪しき者に渡らぬように魔導で二重に鍵をかけた。

一つはマスターレジェンド、二つ目はマスターレジェンドを砕いたカケラ。そうフラグメントだ。

そしてその監視役というか番人にレジェンダが選ばれた。

そんな面倒な事をするくらいなら初めからオノリウスが『インフィニティ・ドライブ』を手に入れればよかったんじゃないか?放棄する理由があったようには思えない。

まさか自分を悪しき者だと思ったわけではないだろう。

イグジストやロストソウルにしても、イグジストは四本しかないのに対してロストソウルはそれより十本多い十四本存在する。ダイダロスとかいう奴は何故イグジストを四本しか作らなかったのか?天使に負けて欲しかったのか?

考えれば考えるほど謎ばかりが残る。

俺達はこの物語の結末に何を見るんだろうか?


「遅かったな。」


考え事をしながら走って来たが目の前に現れた男に意識が集中する。


「………サマエル。」


羽竜は立ち止まりサマエルと対峙する。


「羽竜、サマエルに構うな。様子がいつもと違う。蕾斗、瞬間移動をするぞ。」


「わかった………」


「待てよレジェンダ、蕾斗。」


様子が違うのは羽竜にもわかった。何か迷いがないような真っ直ぐな瞳をしている。それでいて悲愴感が溢れていて……。


「羽竜!約束を忘れたか!?」


「レジェンダ、サマエルとだけでいい。戦わせてくれないか………?」


「羽竜君!」


あかねが予想した通りの事態になっていた。止めようと羽竜の名を叫んだが羽竜の耳には届かない。


「羽竜………だったな?」


「…………そうだ。」


「ふん………トランスミグレーションを使うとはいえ、まさか人間ごとき小僧に手を焼かされるとは……。そう思った事もあった。だが不思議と………今はそうは思わん。羽竜………お前はその手に何を望む?」


やっぱり様子が変だ。羽竜もレジェンダもそして蕾斗とあかねも感じた。

こんなに穏やかに会話するような奴だったか?


「何を……望む…って………何の為に戦ってるかって事か?それなら前にも言った、お前達天使やヴァルゼ・アーク悪魔達に俺達の世界を好き勝手にさせない為だ!!」


「なるほど。それがお前の正義か。いいだろう、お前に剣術の授業をしてやろう。」


そう言ってイグジストを鞘から抜く。

それを見て羽竜がトランスミグレーションを構える。


「授業だと?おもしれぇ………きっちり教えてもらおうじゃねぇか……」


「羽竜!」


「レジェンダ!貴様はそこで見ていろ……。貴様が選んだ戦士ならば信じる事も必要じゃないのか?」


サマエルがレジェンダを諭す。

確かに、サマエルの言うことも一理ある。しかし今の羽竜がサマエルに勝てるかは怪しい。

むざむざ死なすわけにはいかない。


「サマエル……お主何を考えている?」


「……さあな。ただ、何故この時代の人間にトランスミグレーションの使い手と魔導の使い手が存在するのか………それを知るには戦えばわかる、本気で……な。」


不敵に笑みを浮かべイグジストを一振りする。


「来い、羽竜!」


指先で挑発する。それに乗ったわけではないが、羽竜がトランスミグレーションを振りかざしてサマエルにかかっていく。


「うおおおーーっ!!」


振り下ろすトランスミグレーションを片手で軽く打ち払う。


「どうした?その程度ではあるまい?この前の勇ましさはどこにいった!?」


「えらっそうにっ!!!でりゃあああああっっ!!!」


勢いに任せひたすらトランスミグレーションをぶつける。

剣筋を読むまでもなくイグジストで全ての攻撃を防ぐ。


「この程度か?あまりがっかりさせるなよ?」


「やろう…………」


羽竜の実力は確実に上がっている。もちろん剣の腕はサマエルには及んでいない。

今の羽竜には剣を扱う『心』がない。トランスミグレーションの要でもある心の強さにばらつきがあり、上手くコントロール出来ていないのだ。


「ねえレジェンダ、サマエルどうしたのかな?今までだと殺気がむんむんしてたのに、今日は全然感じられない。なんでだろ?」


「私も蕾斗君と同じ事考えてた。穏やかな空気が流れてる……それでいて悲しい空気……なんでかな?見えるんだ、空気の流れみたいなのが………」


「見える?あかね、わかるのか?空気の流れが……?」


あかねの言葉にレジェンダが驚く。


「?」


蕾斗とあかねが驚くレジェンダを不思議そうに見つめる。

こういうシチュエーションは今までも何度かあったが、この状況で何に驚いているのかわかりかねる。


「あかね、いつから空気の流れが読める?」


「いつから………って……レジェンダに会うずっと前からだよ。気付いたらわかるようになってたけど……?まあ……みんなとは違う才能を持ってる自覚はあったけど、そんなに驚く事なの?」


「なんてことだ……私が初めて羽竜に出会った時、羽竜に不思議な力を感じた。それに興味を惹かれトランスミグレーションの使い手として選んだのだ。そして、偶然とはいえ蕾斗に魔導の力が眠っている事を知った。今度はあかねにエアナイトの力を見るとは……」


聞き慣れない言葉を聞くのも何度目だろうか?

自分に宿る力の正体をレジェンダに明かされる。


「エアナイト?何それ?」


あかねが不安をレジェンダにぶつける。


「Air knight……空気の騎士。別名、音想の騎士。空気や音を武器とする騎士の事だ。まさかお前にまでそのような力が備わっているとは……」


「ちょ……ちょっと待ってよ!そんなこと急に言われても困るし!」


「吉澤さんも選ばれし者って事?」


「蕾斗君何言ってるの!そんなわけないじゃない!ムリムリ!」


あたふたと手をバタバタさせながら否定しているが、レジェンダには確信がある。


「思えばベルフェゴールとの戦いの時に私が読み切れなかった太刀筋を読み、羽竜に伝えた事……普通の人間には決して真似る事は不可能。一秒にも満たない世界なのだからな。」


「そう言われれば確かに……」


蕾斗も納得する。


「二人共やめてよ。偶然よ!ぐ・う・ぜ・ん!」


おかしな方向へ転がる空気を必死に修正するが納得してしまっている二人には無意味のようだ。


「落ち着け、あかね。それよりもサマエルの攻撃、読めるか?」


「違うって言ってるのに……」


ぶつぶつ文句を言いながらもレジェンダの言うことを聞いてしまう。


「……うん、見える。右………羽竜君の頬を狙って突き……次は胸元に……」


あかねはサマエルの太刀筋を読んでいるわけではない。サマエルの繰り出す攻撃によって振動する空気を読んでいるのだ。

これはまさしく一秒にも満たない話だが、未来予知に近い能力でもある。


「羽竜君!!後ろっ!!」


「!!!!」


あかねの叫びに直ぐさま反応し、後ろにトランスミグレーションを突き出す。


「あぶねぇあぶねぇ………」


「ふっ……女に救われたな。」


サマエルに背を向けたままトランスミグレーションの切っ先だけ左脇腹を通してサマエルの腹に寸止めされている。

そしてイグジストは羽竜の頚椎けいつい付近で往生していた。


「カッコイイ〜!」


場違いな言葉を蕾斗が発す。

映画で見るような二人の体勢に感心してしまったようだ。

羽竜とサマエルがお互い離れる。


「今度は俺から行くぜっ!!」


フロアを蹴りサマエルに飛び掛かる。

トランスミグレーションがランダムな軌道を描きサマエルを攻める。


「ムダだ!」


サマエルはトランスミグレーションをかわしイグジストで一閃を切る。


「ぐわっ」


羽竜の右脇腹に血が滲む。


「「羽竜君!!」」


あかねと蕾斗が羽竜に駆け寄る。


「何度も同じ事を言わせるなよ?ただ剣を振るだけでは攻撃とは言わん。」


「………へっ……偉そうに説教垂れてるわりにはかわせなかった一撃があったみたいだな。」


「なに…?」


違和感を感じサマエルが左の太腿を見る。


「バカな!?」


太腿を守る銀色の鎧が裂け出血している。


「そうか、ひたすらトランスミグレーションを振ってたのはサマエルを油断させて隙を作る為だったんだね。」


羽竜の思考を蕾斗が代弁する。


「それより羽竜君大丈夫?」


「ああ。かすっただけだ。」


あかねの心配を余所に再びトランスミグレーションを構える。


「フン。この程度の傷………傷の内に入らんわ!」


羽竜のオーラが上昇する。

それに呼応するかのようにサマエルのオーラもまた上昇する。


「待って!」


蕾斗が羽竜を呼び止める。


「なんだよ、邪魔すんな。」


「よく聞いて、サマエルは動きに一定の法則があるみたい。」


「法則?」


「うん。吉澤さんがサマエルの攻撃を読んでるのを聞いてたら気付いたんだ。」


「………なんだよ法則って。」


「サマエルは真横、右から攻撃した後に突きを出してくる。その後必ず胸を切り付けてくるんだ。」


「マジかよ……?」


「きっとボクシングで言うところのワンツーみたいなものかも。サマエルの癖なんじゃないかな?」


「………なるほど。癖……か……」


「何をごちゃごちゃやってるんだ?仲間と相談したところでお前に俺は倒せん。」


サマエルが今までとは違うイグジストの持ち方をする。

斜め前に左足を出し、左手を正面にかざす。右手で持ったイグジストを少し後方に構え、切っ先を羽竜に向ける。


「このままではいずれサマエルに殺られる。……賭けてみるか。蕾斗、死んだら怨むからな。」


「え?」


キョトンとしている蕾斗を尻目に羽竜が立ち上がる。


「羽竜、覚悟はいいか?」


「ああ。望むところだ。」


空気が重くなる。

どちらともなく走り出した。

羽竜がトランスミグレーションを突き出す。

それをギリギリでかわしてトランスミグレーションの外側……羽竜の右側に避ける。


「ムダだと言っただろう!!」


羽竜の右頬を狙ってイグジストが真横に流れる。


−来たっ!−


羽竜が後ろに飛びのきイグジストをかわす。


−次は………−


かわされたイグジストをすかさず引き、突きに変えて羽竜の顔面を狙ってくる。


「はあっ!!」


サマエルが気合いを込める。


「くっ……!」


更に後ろに飛びのく。

神殿を支える柱に羽竜の背中がぶつかる。


「!!」


「終わりだっ!!」


かわされる事をわかっていたかのようにイグジストを左へ振りかぶる。


−…………!!−


羽竜の胸元を切り付けて来た。


「ウオオオッッ!!」


サマエルが雄叫びを上げる。

下に屈んでイグジストを避ける。イグジストが羽竜ではなく柱を切り付ける。


「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!」


トランスミグレーションの刃が赤く輝く。


「うおっ!?」


トランスミグレーションの眩しさに目が眩み隙を見せる。

軌道は下から上へ一直線に昇る。

 赤い光は蕾斗達の視力も奪い戦いの行方がわからない。

 唯一人、レジェンダだけが事の成り行きを見ていた。

赤く強い光は神殿の天井を破壊して大きな柱となり天界の遥か上空まで延びていく。


トランスミグレーション………それは輪廻転生の意味を持つ剣。

少年は輪廻の炎の中で自身の成長を感じ取っていた……。

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