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第十九章 千明奪還戦線 絆

−お腹減ったなあ…………−


聖堂にある大きな十字架に裸で張り付けにされたあげく、一週間も飲まず食わずで不眠を強いられている。

それで出てくる言葉が『腹が減った』なのだから、妃山千明という女は並の精神の持ち主ではない。

すぐ近くで激しい物音がする。ようやく仲間が助けに来たのだと知る。

アラエルにやられた傷は魔力を傷口に集中させなんとか塞ぐ事は出来た。

しかしそれにともなっていた痛みは癒えない。


「なにやってんのかしら……早く助けに来なさいよ………」


体力も限界にきている……どうにか意識を保ってはいるが正直辛い。

その時、正面の扉がゆっくりと開く。

気配を感じる余力はなかった。カードは死を示すばかり。希望はほんの一握りだ。

訳がある。ヴァルゼ・アーク達が天界に来てから千明の命にタイムリミットが設けられた。

というのは、張り付けにされてる十字架の向かい……正面扉の上に仕掛けが施してあり、時間にして残り一分。その時眼下来れば剣が千明の心臓目掛けて飛んでくる。

例え扉を開けているのがレリウーリアの誰かだとしても、よもやそんな仕掛けがあるなどとは思うまい。

それに、制限時間は『0』に等しい。


「悔しいけど、終わりね……私……」


目を閉じて死を覚悟する。


−ヴァルゼ・アーク様………申し訳ありません……−


「千明!!」


リリスが先に聖堂へ入って来た。その後にナヘマー、サタン、バルムングが続く。

同時に、仕掛けられた剣が千明に向かって飛び出した。


「リリス様!あれ!」


勢いよく飛んでいく剣をナヘマーが指差す。


「えいっ!」


サタンが剣の軌道を読みロストソウルを投げるがすんでのところで届かない。


「千明−−−−−−−−っ!!!!!!」


四人が全速力で千明を助けに向かうが間に合わない。


「みんな………」


ぼやける視界の中で自分を助けに来てくれた仲間達を目に焼き付ける。

何を言ってるのかも聞こえない。


「楽しかったわ………レリウーリアのみんなといられて………」


瞼を開けてる力もなくなった。

あと数秒、そうすれば剣は千明を貫く。いかに悪魔といえど、心臓をやられればイグジストでなくとも死んでしまう。

………はずだった。飛び出した剣はとっくに千明を絶命させてるはずだが、痛みも何もない。


「過去形は頂けないな……」


聞き覚えのある声がする。

安心感を与えてくれる声だ。


「ヴァルゼ・アーク様!!!」


バルムングが声の主の名を呼ぶ。


「久しぶりだな、千明。」


失くなったはずの力が湧いてくる。

閉じた瞼をまたゆっくりと開く。この一週間ずっと想い浮かべていた顔がある。


「ヴァ……………ヴァルゼ・アーク……様………」


その名を口にした途端、涙が溢れてくる。

安心感からか?それとも嬉しさからか?それは本人にもわからない。

でも確実にわかってる事がある。まだ生きている。弱々しくも貫かれるはずの心臓が息をしている。

飛び出した剣はヴァルゼ・アークが左腕を犠牲にして止めていた。


「総帥!!」


上から滴る赤い液体を見てサタンが心配している。

刺さった剣を抜き放り投げる。


「何をしている。いつまで千明をこんな格好にしておくつもりだ?」


リリス達が慌てて千明を縛り付けている鎖を壊す。

全員が床に降り立つ。


「ヴァルゼ・アーク様、どうしてここに?」


天界に来てから一人で行動していたはずのヴァルゼ・アークに疑問を寄せる。

理由は単純だった。


「なあに、千明の弱っていくオーラを感じてな。任せていたとは言っても、早く助け出せるならそれに越したことはないだろう?大切な……仲間だからな。おっと、悪魔らしからぬセリフだったかな?」


そう言うとニコッと少年のような笑顔を見せる。


「総帥………」


無意識にヴァルゼ・アークの胸へ飛び込む。それを優しく抱きしめる。

そして自分が着ている黒いコートを千明に掛けてやる。


「そんな格好じゃ風邪ひくぞ。」


裸であった事を忘れていたらしく、コートのボタンを慌てて閉める。


「総帥……腕……」


自分の変わりに傷ついたヴァルゼ・アークの左腕を気にかける。

「心配いらん。イグジストでないのならすぐ治る。」


言葉通り見る見る傷が塞がっていく。


「さて、ナヘマー、お前は千明を連れて一足先に外界に戻れ。リリス、サタン、バルムングはアドラメレク達と合流してうるさい蝿共を始末してこい。」


「待ってください!」


リリス達が返事をするより早く千明が声を出す。


「私だけ戻るわけには参りません。私も雑魚くらいなら十分に相手出来ます!」


「ならん。鎧はどうした?破壊されたのなら自己修復するのに大分かかるはず。まさかその格好で戦うつもりか?」


さっきまでの優しい笑顔と打って変わって厳しい表情でいる。


「大丈夫です。全損はしてません。」


そう言うと全損ではないが半壊に近いくらいダメージを負った鎧を纏う。

纏うと言ってもロストソウルのように具現化するのだが。


「………………………」


じっと千明の目を見る。その視線に緊張が走る。


「ヴァルゼ・アーク様、私達もサポートします。決してベルフェゴールに無茶はさせません。ですから………」


バルムングには千明の気持ちが理解出来た。本当なら自分をこんな目に合わせた当人にリベンジしたいところだろう。それでも何もしないで仲間の帰りを待ちたくないのだ。

バルムングだけじゃなく他のメンバーも同じ気持ちになるだろう。


「相手は誰だ?」


「………アラエルです。」


まだ厳しい表情は変わらないまま千明に聞く。


「アラエルはジャッジメンテスかシュミハザもしくはベルゼブブが倒す事になる。お前にリベンジのチャンスはない。本当に雑魚退治でいいのなら、好きにしろ。」


千明達に背を向けて聖堂を出ていく。


「ありがとうございます。」


深く頭を下げる。


「大丈夫なの〜〜?途中退場は許さないからね。」


サタンがベルフェゴールとなった千明の肩に手を回し皮肉ってやる。


「あら……途中退場なんて選択、私にはないわよ?くす。」


久しぶりに特徴のある笑いを見せる。全員がベルフェゴールの健在を確認した。


「さあ行くわよ。アドラメレク達も待ってるでしょうから。ナヘマー、貴女はベルフェゴールの傍にいてサポートしてあげなさい。」


「はい!よろしくお願いしますね、ベルフェゴールお姉様。」


愛らしい表情を見せるが、


「よろしく……でもベルフェゴールお姉様っていうのはあまり頂けないけど……」


嬉しいやら嬉しくないやらの顔をしながらナヘマーの額を指で押す。

その仕草にナヘマーが照れる。


仲間を取り戻した事で疲労していたはずの身体に力が戻る。

そして聖堂を飛び出し神殿の外で戦闘を繰り広げているアドラメレク達の元へ急いだ。

その一部始終をヴァルゼ・アークは見守っていた。

やれやれといった表情とため息を一つ吐きその場を離れた。


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