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第十八章 千明奪還戦線 翼のない天使

「すげぇ………」


イメージ通りと言えばイメージ通りだろう。ただ、実際に目にするとやっぱり感嘆の声をあげてしまう。

羽竜が感動してしまうくらいだから蕾斗とあかねは感動が言葉にならない。

特に真っ赤な月が気に入ったらしい。レジェンダと蕾斗の魔力のおかげで空中飛行を楽しんでいられる。

まさに夢心地だろう。


「ていうか、吉澤まで来る必要なかったんじゃないのか?危険なのに………」


「羽竜君が心配なのよ…。また無茶するんじゃないかって………。」


いきあたりばったりの行動の多い羽竜だから余計である。

レジェンダは断固として反対したのだが、羽竜と蕾斗の押しに最終的には負けてしまった。フラグメントを回収するだけという条件で承諾したのだ。

もちろん、フラグメントの回収が不可能とわかればすぐにでも戻るという条件も付きで。


「無茶も何もないだろ。無茶しなきゃ勝てない相手ばっかなんだし。それに今回はフラグメントをかっさらうだけだよ。」


「その言い方やだなあ……。羽竜君はまだしも僕と吉澤さんはかっさらうなんて事しないよ。」


笑いながら揚げ足を取られた羽竜はもちろん蕾斗にゲンコツをくれてやる。


「イタッ!!」


集中力が途切れ一瞬落下しそうになる。


「危ないよ二人共!」


あかねが「全く……」とでも言いたげな顔をする。


「羽竜、蕾斗、あまり目立つ行動は慎め。ここは敵陣だぞ。見つかったら生きては帰れん。」


「はぁ〜〜い。」


「わかってるって。」


間の抜けるような蕾斗の声にわかってるようには見えない羽竜の態度にレジェンダがため息を漏らす。


「あれ?なんだろあの光………?花火かな?」


「んなわけねーだろ!多分エルハザード軍とレリウーリアの戦いが始まったんだよ……」


蕾斗のボケに一応ツッコミを入れておく。

 遠くで大きな音とともに真っ直ぐに飛んでいく光をいくつか確認できる。


「蕾斗、あそこに見える神殿に向かう。おそらく私達が来た事はミカエルにばれているだろうからこのままスピードを上げて行くぞ。」


「了解。」


四人は前方に見える神殿目掛けてレジェンダの言う通りにスピードを上げて飛んでいった。














「しつっっっこいわねっ!!!!」


バルムングのロストソウル、九十九折の爪が下級天使を貫く。


「キリがないわ………必殺技で一気に片付けちゃおうか?」


「でもこの後アドラメレク様達の援護に向かうんなら少しでも体力残しておかないと………外にかなりの天使の気配を感じますし……」


サタンは面倒くさがりなのでさっさと片付けてしまいたい。でもナヘマーに言われると確かにそうだと納得せざるを得ない。

賢そうな顔をしているサタン……宮野葵だが基本的に後の事を考えるという事をしない。

一般的には決して褒められる事ではないのだが、レリウーリア内ではそこが良しとされている。


「元は貴方も悪魔だったのに………天使に蔵替えとは……笑い話にもならないわね。」


「フン……なんとでも言え。あの時貴様達といたら今頃は生きてはいなかった。私はくだらない争い事で命を落としたくなかっただけだ。それに、私は元悪魔ではなく元天使だ。一時は貴様達に味方したが、ヴァルゼ・アークとは馬が合わなかったからな。」


見た目がか弱い人間の女であるため調子が狂い、苦戦を強いられてる。まあそれを差し引いてもリリスの方が実力が上なのだが……ルキフグスはそうは思っていない。


「ルキフグス……馬が合わない?あのお方と?ふ…ふふ……図に乗らないで。」


目付きがきつくなる。


「貴方と総帥が馬が合うわけないでしょう?次元が違うのよ。貴方みたいにフラフラしてるような輩と一緒にしないで。」


レリウーリアの面々はヴァルゼ・アークに対して絶対服従、それも自らの意志でそうしている。悪魔の記憶だけが関係しているわけではないらしい。

尊敬とかではなく崇拝すべき『存在』なのであって『人物』という表現は値しないのだろう。


「相も変わらずご忠心な事だ。」


「皮肉ってるつもり?別にいいけど。それより、そろそろ後ろの三人も疲れてきたみたいだからキメさせてもらうわ。」


左半身を前に右手にはロストソウルを携える。左手の手の平を下にしてルキフグスに突き出す。


「ルキフグス………大自然は貴方を選んでくれるかしら?」


リリスがロストソウルを下から上……同時に飛び上がり真空波を放つ。


「ぐおぉっ!!」


切り刻まれるルキフグスの肉体。思わず悲鳴をあげる。


「おのれリリス!!ただでは死なんぞ!!」


そう言ってイグジストにありったけの魔力を込め投げ付ける。


「無駄よ……自然淘汰!!!」


リリスの魔力が増幅、大きく一振りした大鎌のロストソウル・生殺与奪がイグジストを粉々に粉砕する。放たれた技がルキフグスの息の根を止めた。


「ぐ…ぐふぅ……」


血を吐き最後の台詞もなく地に伏せその肉体が消えていく。


「悪いわね、出番なくしてしまって。でも残念だけど貴方に用はないのよ。」


後ろで一つに結っていた髪が肩に掛かっているのを後ろにまた払う。


「リリス様…。」


駆け寄って来たサタンが疲労の色を見せる。

残りの二人も大分疲労困憊の様子だが下級天使を片付けた事に達成感を感じてるらしい。


「三人共、お疲れ様。でも休んでる暇はないわ。早く千明を助けに行きましょう。」


「はい。ルキフグスによれば確かこの先の聖堂にいるとか………」


ナヘマーが中庭の先に見える扉を見る。

辺りを警戒しながらも足を進め中庭を抜ける。

真正面にある扉に手をかけてゆっくりと引く。

十字架のレリーフが真ん中から左右に割れ、中から光が漏れる。

眩しさに目が眩む。しかし瞼を閉じず必死の想いで光を見据える。

それが歓迎の光であることを信じて………。














 サマエル、アラエル、サキエルがミカエルに呼ばれ集まっていた。


「早速だが、現状は決して良くはない。神殿を守るはずの兵三万もたった四人の悪魔にてこずっている。それとルキフグスがやられた。リリス、サタン、バルムング、ナヘマーの四人は聖堂に行き着いてしまった。まあベルフェゴールは用済みだ放っておけ。気になるのは、ヴァルゼ・アーク、ジャッジメンテス、ベルゼブブ、そしてルシファーの気を感じない事だ。間違いなく神殿の中に入り込んでいるだろう。お前達はこいつらを捜し出して始末しろ。ただ、ルシファーは私が直接相手をする。見つけ次第報告に戻れ。いいな?」


「アラエル了解しました。」


「サキエル承知致しました。」


「サマエル、了解。」


ミカエルの指示に従いその場から立ち去り任務に就こうとする。


「サマエル。」


ミカエルがサマエルを呼び止める。アラエルとサキエルは一度振り返るが、またすぐに歩きだし台座の間を後にした。


「何か…?」


「サマエル、お前には別に始末をしてもらいたい奴がいる。」


「?」


「実は、レリウーリアの他にも鼠が紛れ込んだ。」


「……まさか……?」


「トランスミグレーションの人間とその仲間だ。何しに来たのか……わざわざ死にに来たとしか思えん。………が、調度いい。奴等を始末しトランスミグレーションとフラグメントを奪ってこい。」


「な……!お待ち下さい!私が殺らなくとも下級兵を数で圧せば十分に勝てるはず!私はレリウーリアを……」


「黙れ!サマエル!よいか、お前は千年前も独断で悪魔達に戦いを挑み天使の象徴でもある翼をもがれたあげく、この時代ではフラグメントの回収をしくじったばかりか人間にいいようにされ、レリウーリアから尻尾を巻いて逃げて帰って来た。何度私の顔に泥を塗れば気が済むのだ!」


返す言葉もない。天界で三つの指に入る剣の腕を持っているからこそ生かされている。

でなればとっくに死刑だったろう。

それを知っているからこそここぞと言う時に強く出られない。


「今一度任務を言い渡す。サマエル、お前はトランスミグレーションを持つ人間とその仲間を始末しトランスミグレーションとフラグメントを回収してくるのだ。仲間の一人は人間でありながら魔力を持っているらしい。くれぐれもしくじるな。最悪、その命と引き替えても留めを刺してこい。でなければ私がお前に留めを刺す事になる。わかったな?」


「………はっ。」


最期通告。神風に成れと言うには言葉に毒があった。

サマエルは悟った。この戦いに勝とうが負けようが自分の居場所は帰って来る場所は失くなったのだ。

トランスミグレーションとフラグメントを回収したとしても、多分ミカエルは次の任務でヴァルゼ・アークの始末を言ってくるだろう。だが、サマエルではヴァルゼ・アークには勝てない。それがわかっていながら何故?

答えは簡単。用済みなのだ。失態を重ね過ぎた……。ミカエルは神に成りたがっていた。しかし、千年前の戦いでは自分が作戦を無視して独断で行動した。その結果、翼をもがれた状態で天界へ帰された。その事で信頼を失っていたのを覚えている。

そして、この時代でも失態を続けミカエルに対する神々の信頼は更に落ちた。

それが気に入らないのだろう。

 台座の間を出て羽竜達の『気』を感じる方へ歩く。

その合間、人生というものを生まれて初めて振り返る。

天界にも人間の世界のように差別、貧富、出世争い等がある。貧しい下級天使の両親を持ち、差別と貧富に泣いた幼少期。その後、必死の鍛練で剣の腕を磨き数々の仲間を蹴落とし上級天使として生まれ変われた。

しかし、オノリウスの魔導書を巡る戦争が起きてからは挫折ばかりを味わってきた。

塔と塔を繋ぐ橋に差し掛かった時、眼下に羽竜達を確認した。


「…………」


拳をぎゅっと握る。


「フ………後にも先にもいばらの道だけか………」


苦笑する。そして………一度瞼を閉じまたゆっくりと開く。

その目にはこちらに駆けて来るトランスミグレーションを手にした少年が映っていた………。


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