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第十六章 千明奪還戦線 作戦前夜

どうしてこの人は唐突に物を言うのか?付き合いが長い蕾斗とあかねでさえ羽竜の言動に理解し兼ねる。

おそらくレジェンダもア然としているであろう。まあ『顔』を持たないのであくまで予想に過ぎないが。

四人の真ん中に無造作に転がるフラグメントだけが羽竜の提案を受け入れている気がする。


「死にに行くようなものだ。エルハザード軍の始末はヴァルゼ・アーク達レリウーリアに任せておけばよい。」


レジェンダの返答など最初からわかりきっている。強い弱いで決めるのなら天使にも悪魔にも勝てない。しかし、彼等さえ恐れるトランスミグレーションという武器がこちらにはある。


「羽竜君、本気なの?」


相変わらず羽竜が心配らしいあかねが表情を曇らせる。


「一度言い出したら羽竜君は退かないからね。」


半ば諦めたように蕾斗が病室の壁にもたれる。


「流石蕾斗!わかってるじゃないか!」


一人になりたいって言ってたんじゃないのか?レジェンダが声には出さないが心で呟く。


「そういう事だから頼むよレジェンダ、天界への行き方知ってるんだろ?シュミハザが言ってたぜお前も知ってるはずだって。」


「そうなの?」


答えるべきかどうか少し迷ったが、知らないと言ったところで納得はしないだろう。


「知らない事もない……が、羽竜、お前を天界に行かせるわけにはいかない。」


「レジェンダ!!」


「まあ聞け。ヴァルゼ・アークが天使とケリをつけるのなら今までより激しい戦いになるのは必至だ。今のお前ではその戦いに巻き込まれて命を落とすのは目に見えている。忘れるな、私がお前にトランスミグレーションを託すのはフラグメントを守り抜く為だ。そのたった一つでいい。インフィニティ・ドライブを手にいれようなどとも思わなくてよい。」


「ふざけんなよ!俺は強くなりたいんだ!強くなって奴等から世界を守りたいんだ!」


「羽竜、これから話す事はあくまで私の予想なのだがヴァルゼ・アーク達レリウーリアはエルハザード軍には勝てまい。」


意外だとは思わないがはっきり言われてしまうと理由を聞きたくなる。


「なんでそう思うのさ?今までの戦いを見る限りはレリウーリアの方が実力が上のような気がするけど?」


蕾斗に異論はないと羽竜とあかねも頷く。


「確かにレリウーリアは強い。しかし天界に行けばサマエル達よりも実力のある天使や神もいる。ヴァルゼ・アークも捨て身で行くのだろうからな。」


「でもシュミハザと話してる限りではそんな気配はなかったけど?むしろ勝つ気満々だった印象を受けたぜ?」


「仮にレリウーリアが勝ったとしても最終的には我々のフラグメントを奪いにくるだろう。お前も蕾斗もそれまで強くなればよい。羽竜の剣の腕も蕾斗の魔力も実力は付いてきている。天界にまで行かずともチャンスはくる。」


消極的なレジェンダに苛立ちを覚えたが、天界への行き方はレジェンダしか知らない。羽竜がなんと言おうとこればかりはどうする事も出来ない。

ただ、あかねだけは羽竜の身を案じレジェンダに賛成していた。


天使と悪魔の戦いが始まろうとしていた。













「闇十字軍レリウーリア、全員揃いました。」


九藤美咲は落ち着き払った声で司令官の仲矢由利に報告した。

レリウーリアの拠点ともなっている屋敷の大広間に悪魔達が集まっている。美女ばかりが集まると華やかに見えるものだが、彼女達の顔に笑みがないのとこれから戦いに挑む決意の前には意味を成さない。


「総帥、早速ですが指示をお願いします。」


椅子に深く腰を下ろし窓の外を見ている。

満月の光がヴァルゼ・アークの顔を照らし出す。

しばし沈黙を守ってから静かに椅子を回転させレリウーリアの面々を見る。


「みんな知ってると思うが、千明がフラグメントを回収に行ってから行方不明になっていたが天界に幽閉されている事がわかった。天使達の条件は我々の持つ三つのフラグメントだ。フラグメントを渡せば千明を返すと言って来たが………十中八九嘘だろう。我々を消しに来るのは目に見えている。もちろん奴等にフラグメントをくれてやる気も更々ない。」


「それじゃ千明さんはどうするんですか?」


結衣が不安げにヴァルゼ・アークに聞く。


「心配するな結衣。フラグメントをくれてやる気もないが千明をくれる気もない。千明は必ず助け出す。」


安堵の表情を浮かべる結衣の肩にローサが手をかける。


「そこでだ、天界に乗り込んでからの指示を出しておく。まず天界で我々を待ち受ける天使達の数は計り知れないだろう。それは千年前と変わらない。下級天使とはいえ数で攻められると厄介だ。これを那奈、翔子、はるか、ローサの四人で相手してもらいたい。」


「私達四人だけで……ですか?」


はるかが少し否定気味に口を添える。


「そうだ。その隙に千明を救出、残りの上級天使の始末、フラグメントの回収を行う。千明救出班は千明を救出したら那奈達の加勢に就かせる。」


「千明さんの救出は是非私にやらせて下さい。」


結衣が一歩前に出る。


「いいだろう。まあ最初からお前にやらせるつもりだったが。しかしお前一人では危険だ、美咲、絵里、葵お前達も千明の救出に向かってくれ。」


「「はい。」」


三人が一緒に返事をする。


「結衣、がんばりましょうね。」


「はいっ!」


葵の笑顔と結衣の元気な返事が周りの空気を明るくする。


「総帥、私は何をすればよいのでしょうか?」


景子が急かすように自分の役割を聞く。


「景子と愛子、それに純は由利についてミカエル、サマエル、アラエル、サキエルの上級天使の始末を頼む。フラグメントはミカエルが持っているだろう。フラグメントの回収も忘れるな。」


「了解です!」


一番歳の若い景子が結衣に負けじと元気に返事する。


「総帥。」


純が後ろの方からヴァルゼ・アークに呼び掛け前に出る。


「なんだ言ってみろ。」


「ミカエルは私に殺らせて下さい。」


「…………ルシファーとしてのけじめか?」


「はい。ルシファーの力を継承した時からいつかミカエルとは決着をつけたいと思っていましたから。」


「千年前は彼にハメられてすっかり悪者にされちゃったもんね。」


愛子が茶化すように純の耳元で呟く。呟くといっても周りに十分聞こえる声でだが。

純の至って真面目な顔に愛子がたじたじになってしまう。


「そうだな。ミカエルに引導を渡してやれ。」


「はいっ!」


深々と頭を下げ感謝の意を示す。


「総帥はどうなさるおつもりですか?」


虹原絵里が右目を覆う前髪を指先で撫でながらヴァルゼ・アークを見る。


「俺か?俺は俺でやる事がある。」


「目黒羽竜君ですか?」


「トランスミグレーションの使い手なんでしょ?」


愛子が羽竜の名前を口に出すとまだ会った事のない葵が興味津々に結衣に聞いてみる。


「でも来るでしょうか?」


結衣としては羽竜に興味等ないのだから来ようが来まいが関係ないのだ。だから投げやりな言い方をしてしまう。


「確かに。彼にその気があったとしてもレジェンダが反対するのでは?」


レジェンダの性格を知る那奈がそう言うと周りも納得する。


「来るさ。あいつらはきっと来る。」


確信でもあるかのようにヴァルゼ・アークが答えメンバーに背を向け満月を眺める。


「作戦開始は明朝六時。それまで各自ゆっくり休みなさい。明日は命懸けの戦いになるわ。」


「あら、司令……私達はいつも命を賭けて戦ってますわ。この身は全てヴァルゼ・アーク様の為の道具にしか過ぎませんもの。」


絵里がにこりと笑みを浮かべて由利とアイコンタクトをとる。

それを聞いてかヴァルゼ・アークが、


「綺麗な満月だ。必ず十四人で戻って来よう。そして……またあの月を全員で見ようじゃないか。」


「あっ!その時は盛大なパーティーをやりましょう!」


メンバーの中でも一番祭りが好きな中間翔子が手を叩いて盛り上がる。

また始まったと言わんばかりにそれぞれが呆れ返る。しかしその表情とは裏腹に緊張を和らげてくれた翔子に感謝もしていた。

その様子を見て常に冷静な仲矢由利、九藤美咲、岩瀬那奈の三人も笑顔を見せる。

ヴァルゼ・アークもまた笑顔でそれを見ていた。


満月が一際明るく輝いていた……


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