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第十五章 挑発

「世界を救う……?笑っちまうよな。友達一人救えなくて世界なんて救えるかよ。」


半壊している街を学校の裏山から見下ろし、自分の不甲斐なさを嘆いている。

犠牲の柩をかけられた者は死から逃れられない。それが運命だという。

あさみは自我を失いそうになるぎりぎりのところで自分を保っていたのかもしれない。


−タスケテ……−


最後の声は苦しそうだった。


「そして俺は……躊躇ったんだ。友人として俺が水城を苦しみから解放してやれたはずなのに……それなのに俺は……」


自分への怒りすら感じられない不甲斐なさが一層羽竜を闇に落とす。


「はぁ…。これから俺はどうしたらいいんだ……。」


無惨にも壊された街が今の羽竜の心を映しているように見えてくる。


「傷心を気取るほど、何もしてないんじゃないのですか?」


聞き覚えのある声が明らかに羽竜に罵声を飛ばす。


「お前………確か……」


「友人を失った悲しみ?それとも無様な自分への憐れみなのですか?どちらにしても、情けない一言なのです。」


生い茂る木々の上からシュミハザが飛び降りて来た。


「シュミハザ…?」


昨日纏っていた黒い鎧とは打って変わり近所の女子中学校のブレザーを着ている。


「改めましてなのです。南川景子なのです。シュミハザっていうのは、鎧を纏っているときのコードネームみたいなものだから、出来ればこういう恰好をしている時は人間の名前で呼んでほしいのです。」


少しきつい感じの目つきをしていて身長は150後半くらいだろう。横に髪を結い腕組みをして羽竜を見ている。


「何しに来たんだよ。新井に変わって俺を監視にでも来たのか?」


「断っておきますが、私はお昼寝をしていただけなのです。お前が一人でぶつぶつ言っていたので、目が覚めてしまったのです。」


「ふん。そいつは悪かったな。」


あまり好むタイプの性格ではない。それが第一印象だった。


「いいのかよ、のんきに昼寝なんかしてて。千明さん探さなきゃならないんだろ?」


「お前に心配される必要はないのです。千明さんの居場所は見当はついているのです。」


「ほんとか!?どこに居るんだよ!?」


突然大声を出されてびっくりしてしまう。


「……………耳が痛いのです。そんなに大きな声を出す必要ないと思うのです。」


「そんなことより、居場所がわかってるなら助けに行かないのかよ?!」


「いちいちうるさい男なのです。お前には、何も関係ないと思いますけど?」


実にクールな景子の口調が羽竜を余計に苛立たせる。

景子にしてみればたまたま出くわしただけだしもとよりヴァルゼ・アークほど羽竜に興味もない。ただうるさいとしか思えないのだから風辺りも冷たくなるのは当然の事である。


「関係ない事はない!教えろよ!千明さんはどこにいるんだ!」


「……………………天界にいるのです。」


「テンカイ?」


「天使が存在する世界の事なのです。昨日、あれから千明さんを捜索に行っていた者から連絡があって、千明さんの身柄と引き換えに、私達の所有するフラグメント全てを渡せと言ってきたらしいのです。」


「ヴァルゼ・アークはなんて言ってるんだ?」


「明日、レリウーリア全員で千明さんを救出に向かうのです。」


「それって………」


「天界に乗り込み、エルハザード軍と決着をつける気なのです。」


「だけど、まだお前らオノリウスの魔導書、手にしてないんじゃないのか?」


「魔導書を手にするしないは関係ないのです。私達の目的はエルハザード軍を倒す事ではないのです。天使達にとって、私達を倒す事は、目的の一つかもしれませんけど。なんにせよ、邪魔者は消し去るまでなのです。」


誇らしげに物を言う景子にどこか愛嬌が漂う。


「天界ってどうやって行くんだ?俺も連れて行ってくれよ!千明さんを助けたいんだ!」


「それは無理なのです。」


間髪入れず景子に返される。


「お前と千明さんがどれだけ仲がいいかは知りませんが、お前は敵に変わりはないのです。」


「わかってるよ。前にも同じようなこと言われたからな。」


「だったら、天界に行きたければご自分でどうぞなのです。レジェンダも知ってるのではないのですか?」


「それもそうだな。ならレジェンダに聞くよ。」


近くに自分をこの戦いに引き込んだ張本人がいた事をつい忘れてしまっていた。


「なら、そうするといいのです。じゃ、私は帰るのです。」


「待ってくれ。」


「?」


帰ろうとする景子を呼び止める。


「アドラメレクや千明さんも明確には答えてくれないからお前に聞くけど、なんで悪魔になんかなったんだよ?戦いで命を落とすリスク背負ってまでヴァルゼ・アークに従うのはなんでなんだ?」


世界を救う…なんて事を考えてきたが、それが漠然とした言葉で自分が命を賭けてまで戦う理由ではないのではないのかと思い始めている。

那奈も千明も羽竜より大人であり考えている事が理解出来ない部分もある。だから歳の近い景子に聞いてみる。


「なんで?……面白い事を聞くのです。」


「面白い?俺はいたって真面目だけど…?」


「…………特別に教えてあげるのです。私が悪魔としてこの身をヴァルゼ・アーク様に捧げたのは、人間に飽きたからなのです。」


「人間に……飽きた?」


「人間は滅びるべき種であると、私は常々思っていたのです。そんな私に、悪魔シュミハザの力を授けて下さったのがヴァルゼ・アーク様なのです。とはいえ、ヴァルゼ・アーク様が何をなさろうとしてるのかは、誰にもわからないのです。」


「わからない……って、そんな何をするかわからないものに命を賭けてるのか?」


「私個人としては、非日常に魅力を感じただけなのです。でも、ヴァルゼ・アーク様が、何か私達には想像もつかない事をしようとしているのは、おのずとわかるのです。例えそれが世界の破滅であれ、世界創造であれ、私を始め他の『お姉様』方もどちらでもいいと思っているのです。私達にとって大切なのは、ヴァルゼ・アーク様ただ一人。あの方が望む事を叶えてあげるのが私達の役目なのです。」


「ふん。難しい事を言ってるように聞こえるけど結局はそこに自分なりの正義すらないって事か。」


もっと大きな大義名分を期待していた。しかし返ってきた答えはヴァルゼ・アークの望みを叶える事。しかも他のメンバーもそうらしい。

羽竜の幻滅したような言葉を聞いて景子の雰囲気が変わる


「正義?全く甚だしいのです、その響き。」


「甚だしい?お前もヴァルゼ・アークと同じか……正義なんてないって言いたいんだろ?でも俺はそうは思わない。正義があって始めて人は人でいられるんじゃないか?お前達は正義を認めるのが恐いだけなんだよ。」


「……笑わせないでほしいのです。人に正義はいらないのです。正義なんてものを持ったばかりに戦争が起き、そしてそれを止める術を失くしてしまったのですから。」


「正義が戦争の原因だって言いたいのか?」


「自分が正しい、相手は間違っている、だからそれを正す、正義という言葉を使って……。悲しいけど、言葉の意味とは裏腹に人を惑わしてしまうのです、正義は。」


「なら俺が証明してやるよ。正義は必ずあるってな。」


「せいぜい証明する前に死なない事です、トランスミグレーションの使い手さん。」


左の眉をあげてにこりと微笑む。とても愛らしい表情ではあるが明らかに羽竜を挑発していた。


「それと、天界に来るのなら覚悟することです。天使を全滅させて生きて帰るか、でなければお前には死しかないのです。」


最後に捨て台詞を残して消えていった。


「上等じゃねーか。いつまでも言われっぱなしでいるわけにはいかないからな。天使にも悪魔にもこの世界をいいようにさせるかよ。待ってろよ………。」


さっきまで己の無力を嘆いていた自分を悔いた。

まだ自分にもやれる事があると信じて。












「おバカにもほどがありますわ………。」


純が決意を新たに意気込む羽竜を見て呆れてしまう。

もっともその変わり身の早さが羽竜の良さでもあるのだが、彼女達にわかるはずもない。


「でも純ちゃんはああいう子嫌いじゃないでしょ?」


「おやめあそばせ。ルックスは悪くないにしても、あそこまで単純なのは願い下げですわ。」


苦笑しながら愛子に応える。


「うまく挑発出来たのですか?」


「うまくも何も、大成功ですわ。褒めて差し上げますわ、景子。」


純に褒められて畏まる。

景子にとって他のレリウーリアのメンバーは尊敬すべき『お姉様』なのだ。

一番歳が若い景子は可愛がってもらえるだけでなく時には厳しく指導もしてもらえる。そこに愛を感じているらしい。


「来るかな?天界に………」


「さあ……?レジェンダが承諾しないんじゃないかしら?今の彼では、死にに来るようなものでしょう。」


愛子の問いに、純が諦め顔で答える。


「でも魔導の使い手もいるでしょ?」


「愛子ちゃんは来てほしいみたですわね?でも、残念だけど魔導の使い手も『全然』って言ってたましたわよ、結衣が。」


「ん〜〜〜確かにね。ねぇ、景子ちゃんはどう思う?」


「どっちでもいいのです。」


あまり興味が湧かない。

異性に興味深々の歳なのだが羽竜に限らず周りの男子にすら興味がない。唯一ヴァルゼ・アークには好意を持っているようだがそれは尊敬と憧れが大半を占めている。

なんにしても羽竜に興味はないのだ。


「帰りましょう。明日は、いよいよ天界に乗り込むんですから。」


「純ちゃんは早く会いたいんじゃない?ミカエルに。」


「おーほっほっ。そうですわね、私の中のルシファーの記憶が本当なら一言言ってやりたいですもの。」


「千明さん救出が先なのです。」


二人の会話に景子が釘を刺す。


「わ、わかってるわよ。じゃ、行きましょう。」


純が合図を出して愛子と景子もその場から消えていった。


どこか遠くで雨でも降ったのだろうか………大きな虹が天界へと誘っているように見えた…………


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