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第十二章 犠牲の柩(中編)

「ダメです、見つかりません。」


南川景子は妃山千明を探し出せなかった事を報告していた。


「この霧では仕方ないわ。」


渓谷に発生した深い霧に戸川純もお手上げ状態だった。

 千明がフラグメントを取りにここへ来たのはおよそ四時間前。レリウーリアの住む屋敷から近い距離ではないにしても遅すぎるので探しに来たのだ。ところが霧がでてきて視界を遮られてしまっている。

数メートル前の仲間の姿でさえ確認するのがやっとだ。


「オーラも感じないなんて……何かあったのかしら?」


ローサ・フレイアルが不安げに呟く。


「どうしますか?一旦屋敷に戻って総帥に指示を仰ぎますか?」


「そうねぇ………。」


景子の言う通り一旦退き上げたほうがいいのかもしれない。

純もそのほうがいいのはわかってはいる。が、仲間がこの渓谷のどこかにまだいるとしたら……やはり見つけてあげたい。


「純ちゃ−ん!」


霧の中から誰かが純を呼ぶ。


「はるかちゃん。何か手がかかりでもあった?」


「あ、あっちに血が……!」


綾乃はるかが血相を変えて飛んでくる。


「血?」


純達がはるかに誘導されて血痕のある場所に行く。


「何これ…!!」


多量の出血を思わせる血痕が不安を的中させる。

ローサが震える手で血痕を触る。うっすらと指に付く血が生々しい。


「千明さんのでしょうか?」


「………………やっぱり何かあったんだわ。」


純がローサの指先に付いた血液を見て確信する。


「みんな戻るわよ。総帥に早急に報告しなくては。」


各々黙って純の言うことに頷き翼を広げる。


「天使の仕業ね、きっと……。」


「もしかして、千明ちゃん……………。」


「はるかやめて!まだ死んだと決まったわけじゃないわ!」


嫌な予感を拭い去れぬまま屋敷へと飛んで行った。













ワイドショーで妃山千明が失踪したとやっていた。人気女優だけに波紋も大きい。

駆け落ちだとか事件に巻き込まれたとか憶測が飛び交う。

失踪して四日。警察も探してはいるようだが手がかかりすら掴めないでいる。

ただ羽竜達には警察に解決出来るようなほど安易なものではないとわかっていた。

新井結衣も四日間学校へ来ていない。

何かあったのは間違いないだろう。あまりに心配になり昨日は帰りにあかねと蕾斗を連れて美術館へ行った。やはり岩瀬那奈も四日間出勤していないとの事だった。

彼女のマンションの住所を聞いて訪ねてみたがそこは既に売りに出されていた。

これに加えて水城あさみも四日休んでいる。

彼女は風邪だと連絡はあったみたいだが怪しい。

あんなことがあった後だ、結衣とまた何かあったのかもしれない。

羽竜とあかねはあさみの自宅を訪ねてみることにしていた。


「水城さんほんとに風邪なのかな?」


「それを確かめに行くんだろ?千明さんも失踪してるし新井も学校を欠席、那奈さんも仕事を休んでるとなるとやっぱり怪しいもんな。」


「千明さん達も……何があったんだろ………心配だな………。」


たった一晩、それよりもっと短い時間だったけど千明はあかねを友達と呼んでくれた。

その後はまた敵同士になってしまったけれどやっぱり他人事には思えない。


あさみの家に着くまで二人共それ以上会話がなかった。

自分達を取り巻く環境が色を変えていっているのがわかる。

攻めの一手を踏み出そうと意気込んでいたがタイミングが合わない。

そして次の一手を打とうにも何かが動いてくれなければ羽竜達にはどうする事も出来ない。

結局、受け身の姿勢を崩せないでいる。


「着いた。ここだな…水城の家。」


「羽竜君これ……」


あさみの家を黒い霧が覆っている。

羽竜とあかねの背筋に悪寒が走り漂う負の力で息が詰まる。


「苦しい………」


「しっかりしろ吉澤。」


戦闘をしている時感じる空気とはまるで違う。というより体験した事のない重い空気が襲い掛かる。

羽竜はまだいい。特訓の成果もあってか差ほど影響を受けていない。だがあかねはまともに影響を受けてしまっている。

首を絞められているような違和感に気絶しそうになる。


「吉澤はここにいろ!これはただ事じゃない。水城には俺が会ってくる。」


黒い霧の届かない場所まであかねを移す。


「気をつけて……羽竜君…。」


「ああ。」


玄関まで来て覚悟を決めてインターホンを押す。


「………………………。」


反応がない。でもあさみはいるだろう。羽竜にはわかる。

もう一度鳴っているのを確認するようにゆっくりと押す。


「…………………………。」


−ダメだ。水城の『気』は感じるのに反応がない。−


羽竜は迷ったが、思い切ってドアを開ける。


「こ、こんにちは〜…。」


こんな挨拶をしても意味がないのはわかっている。


「水城〜?いるんだろ?」


大声で呼んでみるが返ってくる反応は同じだ。


「………目黒君………。」


暗く淀んだ廊下の先からあさみの声がした。


「水城?」


「どうしたの?急に………。」


「どうしたのって…………お前こそどうしたんだよ四日も学校休んで……。」


普通の会話をしてはみるがやはり様子が変だ。

あさみは羽竜から距離を置いている。羽竜からあさみの顔は見えない。


「水城………何かあったのか?顔、見せてくれよ……。」


「なんの事?学校を休んだのはただの風邪よ。」


「じゃあこの黒い霧はなんだよ?なあ、頼むから顔見せてくれないか?」


「……………………そうだよね………せっかく来てくれたんだもん顔……見せなきゃね………でも………驚かないでね……。」


淀んだ空気の中からあさみが姿を現す。


「水城…!お前……!」


姿を見せたあさみの顔を見る。そこにいるのはあさみではない別の誰かにも見えるほど顔付きが違う。額に何やら紋章のようなアザがあり、瞳が赤く染まっている。


「目黒君……ちょうどよかった、貴方の持ってるフラグメントっていうの……欲しいんだけど?」


「いきなりなんだよ……なんで水城がフラグメントの事知ってるんだ?」


「聞いたの………素敵なお兄さんに。」


「お兄さん?」


「そう。とてもカッコイイ人よ。」


焦点の定まってない瞳が不気味に光る。


「そいつの名前は?」


「それがね……教えてくれないの。フラグメントを持って来たら教えてくれるって…………だから……目黒君の持ってるフラグメント……………貰うわ!!!!」


叫ぶと同時に手を伸ばして羽竜に襲い掛かってきた。

あさみから感じていた『気』が一気に暴走する。

その暴走した『気』が爆発したのか辺り一面を吹き飛ばす。


「うわあっ!!!!!!」


一瞬の事で何が起きたのかわからないが身体が壁か何かに叩きつけられた事は認識出来た。


「くっ…………。」


ゆっくり目を開け立ち上がる。


「吉澤!!?吉澤−−−−ッ!!!」


砂埃が濛々と立ち込める中あかねが倒れているのを見つけ、痛む身体を庇いながら駆け寄る。


「おい!しっかりしろ!!吉澤!」


「ん………羽竜……君……一体……何……が……」


見た感じ外傷は擦り傷程度だが頭でも打ったのだろうか?意識が朦朧としているようだ。


「あら、あかねも来てたの?」


声が上からした。まさかと思い羽竜が見上げると、あさみが空中に浮いて羽竜とあかねを見下ろしている。

羽竜とあかねの周りが炎で包まれる。どうやら爆発のきっかけで火災が発生したらしい。


「水城!お前何をしたのかわかってんのか!?」


怒りを抑えきれずあさみを怒鳴りつける。


「何……って………私はただフラグメントっていうのが欲しいのよ……。」


あさみから感じるオーラが邪気を帯びている。

制御の効かない力が渦を巻き彼女の周りで大蛇のようにうごめいている。


「そういえば…………結衣は?私……あの娘に借りがあるんだった………。この前のね……。」


「水城、まさか新井に戦いを挑む気じゃないだろうな?」


「そのまさか……よ……。知ってるんだよ…………結衣も不思議な力……持ってるんでしょ……?」


「羽竜っ!!」


「羽竜君!!」


炎の向こうからレジェンダと蕾斗が来る。


「蕾斗!レジェンダ!」


「羽竜君これは……?」


「今は説明してる暇はない!吉澤を早く病院に連れて行かないと!」


「わかった!」


「羽竜、あの女は…………?」


「水城だよ、この前学校の屋上で新井に殺されかけた………。」


「なんだこのオーラは……?羽竜君、彼女も悪魔なの?」


「いや……奴等とは違う。邪気っていうのかな………とにかく息苦しいオーラをもってやがる。」


「犠牲の柩……か………。」


「ギセイノヒツギ?なんだよそれ。」


レジェンダの口から聞き慣れない言葉が出てくる。


「説明は後だ。蕾斗、一先ずここから脱出するぞ。」


「わかったよレジェンダ。羽竜君、吉澤さんの事しっかり抱いててね。」


蕾斗に言われあかねの肩を強く抱く。


「何をする気だ?」


「テレポート!!」


蕾斗の掛け声で羽竜、あかね、レジェンダそして蕾斗の四人が天使達や悪魔達同様に炎の中から姿を消した。


「ふふ。目黒君……逃げてもムダだから……フラグメントを奪いに行くから……………待ってて…………。」


消防車やパトカーやらのサイレンがうるさくなってきた。


「ごめんね……お父さん……お母さん……………私…………好きな人が出来たの…………その人は………神様なの…………選ばれたのよ…………私は……その神様に……。」


焦点の定まっていない虚ろな瞳に彼女の言う神様学校映り込んできた。


「大分派手にやりましたね、あさみさん。」


「お兄さん……申し訳…ありません………。」


あさみの表情は言葉とは裏腹に男に見とれてニヤついている。

「まあいいでしょう。それにしても制御出来ない力がこんなにも凄まじいとは…………。」


見渡す一面が炎で埋め尽くされている。

街の一部が円形に失われ人々の悲鳴が聞こえる。

あさみは顔色を変えず男に寄り添う。


「天界もレリウーリアも関係ない。インフィニティ・ドライブは私が手に入れる……。」


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