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第十二章 犠牲の柩(前編)

「ヴァルゼ・アークに会っただと!?」


−やっぱりこいつはわざと驚かせて楽しんでるんじゃないか?−


トイレから出た途端目の前にいるしデカイ声で話かけてくるものだから心臓に悪い。


「なんだよ、いないと思ってたら吉澤のとこに行ってたのかよ。」


こんな得体の知れないものが真昼間から外をうろうろしているってのはどうなんだろう?


「蕾斗の特訓が終わってその帰りに会ってな。それより羽竜、何故そんな大事な事を黙っていた?」


「別に黙ってたわけじゃないよ。まあいろいろ考えてただけさ。」


実際ヴァルゼ・アークと会って羽竜は悩んでいた。彼が何をしようとしているのかはわからなかったが、羽竜が信じる正義を真っ向から否定された。

それは戦いに身を投じた自分自身を否定されたのと同じだ。

一つわかったのはヴァルゼ・アーク達レリウーリアは世界征服なんて事は考えていないという事。なら一体何をしたいのか?


「なあレジェンダ。」


「なんだ?」


リビングのソファーに座り、床を見つめたまま問い掛ける。


「フラグメントって、みんなどうやって探してるんだろう?」


「……………前にも言ったが、それは私にもわからん。何か方法はあるんだろうが………皆目見当もつかん。どうした?急に。」


「俺達ってこのフラグメントを守る為だけに戦ってるけど、でもそれじゃ敵が来るのを待つだけになるだろ?」


テーブルに置いたフラグメントがいつもと変わらない輝きを放っている。


「だから思ったんだ、なんとか残りのフラグメントを探して、レリウーリアが持ってるフラグメントも取り戻したいって。もちろん最終的にはレリウーリアもエルハザードも倒さなきゃならないけど。」


レジェンダは既に肉体を失っていて魂だけで生きて来た。だからわからない。もしかしたら忘れてしまっただけなのかもしれないが、人とはこんなに短い期間でこんなに考え方が成長するものだろうか?

若い羽竜だからこそなのか?

いずれにせよ自分よりも歳上の人間との接触と激しい戦いの中で何かを見出だしているのだろう。


「羽竜、確かにお前の言う通りだが奴等と戦って勝つのは今のままでは無理だ。」


「わかってるよ。だからもっと強くなる。蕾斗だって特訓してるんだろ?あいつがオノリウスと同じ力を持ってるなんて信じられないけど、それでも魔法だか魔導だかを使えるようになれば少しは有利になるだろ?」


「魔導の力を持ってはいるがまだ使いこなせるには至ってない。戦闘は期待しないほうがいいだろう。」


結局は打つ手が見つからないままだ。レリウーリアとエルハザードの先手を行くことは出来ない。


「新井に聞いてみるか………。」


「新井……ナヘマーの事か?しかし何を聞く気だ?」


「フラグメントの情報をどうやって仕入れてるか聞くんだよ!」


「そんな簡単には教えてはくれんだろう。」


「ちっちっちっ。わかってないなあ、俺達がいろいろ動き出せば何か掴めるかもしれないだろ!今までは防戦一方だったけど、これからは攻めも必要だ!」


頼もしくなった。レジェンダはそう感じた。ただ強気なだけの少年はもういない。

まだまだ腕はないがそれでも戦士としての自覚を持ち始めている。


「いいだろう。お前の好きにやってみるがよい。だが無茶はするな。戦闘になれば勝ち目はない。よいな?」


「ああ。大丈夫だって。訓練もちゃんとやるよ。」


そう言うとフラグメントをポケットに入れ玄関へ向かう。

履き慣れたスニーカーを履き、扉を開け立ち止まる。


「トランスミグレーションは心の強さ次第では神さえ倒せるってヴァルゼ・アークが言ってた。なら俺は俺の信じる道、信じる正義を貫き通すまでだ。負けるわけにはいかないもんな。」


ニコリと笑顔でレジェンダを見る。


「さあ行こうレジェンダ!今日はまだ特訓してないぜ?」


「なら始めはランニングからだ。いつものコースを少し延長する。根をあげるなよ?」


ガッツポーズをとり走り出す。

まだまだ強い陽射しを背に受けて。











「水城さん、あがっていいわよ。お疲れ様。」


「はい。それじゃお先失礼します。」


夕方から出番の先輩が出勤してきて交代を告げられる。

 休日にファミリーレストランでアルバイトをするのは水城あさみの楽しみの一つでもある。

特別労働が好きなわけではないが、かわいい制服を着てあれこれと忙しくしていると勉強の事だとか嫌な事を忘れられる。


「あさみちゃんお疲れ〜、また来週だね。」


「うん。来週だね。遅番頑張ってね!」


バイト先で知り合った友人との軽く挨拶を済ませ店を出る。

店からあさみの家まではそう遠くはない。かといって夕飯まではまだ時間がある。


「さて、少し寄り道でもしようかな。」


自転車に跨がり河川敷に向かってこぐ。

大概寄り道するところは決まっている。

この時間は河川敷から見る夕日が綺麗なのだ。休日の河川敷は昼間は野球少年などが試合をして賑わっているが、夕方となると誰もいなくなってしまう。

そこがポイントで、あさみは夕日を一人独めしてるようで好きなのだ。いつか彼氏でも出来たら二人で眺めてみたいと思っている。


河川敷に着くと案の定誰もいない。

自転車から降りて大きく深呼吸する。


−今日も一日よく働いたなあ。−


進学校に通うと中々アルバイトなんて出来ないのだが、あさみの両親が社会勉強だと言って休日のみのアルバイトを許してくれた。

その事は思いがけないラッキーだった。バイト先では同じ歳の子で彼氏のいる子もいる。

違う学校の子の恋愛話は新鮮に感じる。


「私も彼氏欲しいなあ……。」


つい声に出してしまい慌てて周りに人がいないか見渡す。

誰もいないのはわかってはいるが密室にいるわけではない。散歩で通る人だってたまにいるのだ油断は出来ない。


−ふぅ……危ない危ない。ん〜私もいよいよ重傷かな…。−


胸の中で一人でぼやいていると話かけられた。


「あの〜、すいません……。」


「はい?」


話かけてきた男を見て胸がキュンと鳴る。

短髪で左の耳にピアスをしている。チャラチャラしてるわけではなくさりげないお洒落が目をひく。

見た目は若いが同年代ではないだろう。こういうお洒落は同年代の男子には無理だ。


「街中に出たいんですが道を間違えてしまったらしくて…………まだ引越して来たばかりで日が浅いもので……。」


−ひょっとしたらさっきの聞かれたかな?−


そう思うと顔が熱くなる。


「あ、街中ですか?それならこの堤防を真っ直ぐ行けば後は道なりで出られますよ。」


「そうですか、それはよかった。ありがとうございます。」


丁寧にお礼を言うとあさみが教えてくれた通りに堤防を歩き出す。


「そうだ。」


男は立ち止まり何か思い付いたらしい。


「お礼に貴女にプレゼントをあげましょう。」


「え?いえ、お礼なんてとんでもないです。」


「そう言わず受け取って下さい。荷物になるような物ではないですから。」


確かに男は貰って困るほど大きい物を持っているようには見えない。


「ほんとに結構です。当たり前の事をしたまでですので。


「大丈夫ですよ、すぐ済みますから……水城あさみさん……。」


「!」


−なんでこの人私の名前知ってるの?」


男があさみの肩を掴む。


「や、止めてください……人呼びますよ……。」


「その前に終わりますよ。少し苦痛を伴いますが、目覚めたら何も覚えてませんから大丈夫ですよ。」


−何を言ってるの?−


男の手が光る。その光る手があさみに触れる。


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


「いい声ですね。さあ、仕上げです!」


意識が遠退く。全身を駆け巡る電流の感覚がなくなり気絶する……。


「ふふ。かわいいものです。」


地面にドサッと倒れる。


「期待してますよ、あさみさん…。」


男は沈み行く夕日を眺めながら呟いた…。












ベルフェゴールは絶対絶命の意味を身を持って体験していた。


「くっ……やばいんじゃない?」


四つ目のフラグメントを取りに渓谷に来ていた。

そこにアラエルが部下を率いて現れたのだ。

いつもなら華麗な身のこなしでフラグメントを奪って逃げる事も出来ただろう。しかし今日はそうはいかない……いやいかなくなったのだ。


「隠れても無駄だよ。君の血の臭いでわかるからね。それにフラグメントを置いては帰れないだろ?」


複雑に入り組んだ地形を利用して身を隠しているが見つかるのも時間の問題……アラエルの他にはざっと見て十五人てところだろう。

いつもならこの数は恐れるにも値しない。アラエルとて勝てない相手ではない。


「バカねぇ……私って……。」


 フラグメントを見つけて一度は手にした。そこへアラエルが来て戦闘になった。

………そこまではよかった。逃げようと思えば余裕で逃げれただろう。

戦闘の最中に偶然鷹の巣を見つけてしまった。無視する事も出来たがなんとなく気になってしまった。アラエル達の嵐のような攻撃をかわせばよかったものの巣にいた雛鳥を庇いまともに攻撃を受けてしまい深い傷を負った。

その攻撃がイグジストでなかったのならそれでもなんとかなっただろう。

鎧が砕けて上半身は裸同然。脇腹から多量の出血をしている。

そのうえ落としてしまったフラグメントを奪われてしまいどうすることも出来ないでいた。


「………ほんと……ツイてないわ……あなたのせいよ?わかってるの?」


手にした雛鳥がビービーと鳴いている。

そのあどけない鳴き声に絶対絶命の状況であっても笑みが零れる。


「み〜つ〜けた〜。」


頭上にアラエルがいた。

もはやこれまでだ。


「観念したほうが良さそうね。」


「物分かりがいいじゃない。君が死んだらヴァルゼ・アークは怒るかな?ベルフェゴール。」


「さあ……どうかしら?試すまでもないでしょう?一思いに殺してくれて構わないわ……。」


立っているだけでやっとだった。無駄な会話をする体力など残っていない。


「だよね。それじゃ遠慮なく……。」


「待って!」


「おいおいこの期に及んで命乞いかい?」


「違うわ。私は殺されてもいいけど、この子はそっとしてあげてほしいのよ……。」


アラエルが鷹の雛鳥を見る。


「まさか悪魔が他の生き物を気遣うのかい?それとも人間としての気遣いかい?」


「どちらかと言えば、後者かしら……。」


ベルフェゴールの目が焦点を合わせきれない。そろそろ限界なのだろう。


「わかったよ。その雛鳥にはてを出さないでおくよ。だから安心してあの世に逝くんだね。」


「………約束よ………。」


アラエルが槍のイグジストをベルフェゴールに振り下ろす。


「……………………。」


「アラエル様?どうなされました?」


既に気を失っているベルフェゴールの額ぎりぎりにイグジストが止まる。


「この女使えるかもしれないな。人質として連れて帰ろう。」


「よろしいのですか?」


「ああ。レリウーリアからフラグメントを奪う切り札になるかもしれないしな。殺すのはいつでも出来る。」


そう言って部下にベルフェゴールを運ぶように促す。


「この雛鳥はどうしますか?」


部下の一人が雛鳥を掬い上げアラエルに聞く。


「巣に返しておけ。」


「巣にですか?」


「聞こえなかったのかい?」


ぎりっと部下を睨み付ける。


「い、いえ……。」


その場から逃げるようにして雛鳥を巣に戻しに行った。

アラエルがフラグメントを握り締めてニヤリと笑う。


「さあて、どう出るかなヴァルゼ・アーク………人数分、柩を用意して待ってるよ。」




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