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第九章 十四人の悪魔

啖氷空界くうひょうくうかい………空間を凍らせて時間そのものを止める魔法。

凍らされたものは分厚い氷で覆われているわけではなく、極薄い氷で表面を覆われているにすぎない。

とはいえ、魔力の宿った氷は想像以上に硬くミサイルをぶつけたとしても砕ける事はない。


−レジェンダがそう言ってたっけ。なのに……天使って優しくていつも人間の味方をしてくれる、でも現実は違う。天使達は人間をゴミくらいにしか思ってない。人間の中には貴方達を神様と同じくらいに想って崇拝してる人だっているのに……。−



キイィィィィン!!!



「ぼやっしてると危ないよ!!」


結衣がナヘマーとなってガブリエルの放った矢からあかねを守る。


「新井…さん…」


「次は助けないからね!」


そう言って翼を広げガブリエルに向かって行く。

羽竜は……少し先でサマエルと戦っている。


「どうした小僧!アラエルに深手を負わせた実力はこんなものか!?」


「くそ……奴の太刀筋は見えるのに……防ぐのが精一杯なのか?」


「フッ……だが充分すぎる成長だ。あの日からそう日も経ってないのによくここまで力をつけたものだ。」


肩に剣を乗せ羽竜の成長ぶりを称賛する。それは皮肉ではなくサマエルの本音だった。


「お前等フラグメントなんか集めてどうすんだよ!」


「知れた事!オノリウスの魔導書の封印を解きインフィニティ・ドライブを手に入れる!」


「俺が聞きたいのはインフィニティ・ドライブを手に入れて何をする気だ!」


「………そんなに聞きたいのなら教えてやろう。インフィニティ・ドライブの力で宇宙を支配し、愚かな種族のいない時代を創るのだ。神と我々天使だけのな!」


「な……それじゃなにか?千年前からそれが目的だったのか?」


「他になんの目的がある。」


「だったら尚更お前達にフラグメントは渡せない!!」


「笑止!ならば力で止めてみせるのだな!」


サマエルが剣を振り下ろすが羽竜はそれをかわし、間合いをつめる。

トランスミグレーションをアッパーカットを打つようにサマエルの下から振り上げる!

ひらひらとサマエルの青い髪の毛が舞う。


「こいつ………っ!!」


「余裕かましすぎなんだよ!」


サマエルが後方宙返りをして羽竜との距離をとる。羽竜は身の丈よりも大きいトランスミグレーションの切っ先を地面に引きずりサマエルへ突進する。


「調子にのるなよ小僧!」


羽竜の闘気が……オーラが増幅していくのがわかる。サマエルから余裕が無くなる。突進してくる羽竜に応戦すべくサマエルが突っ込む。

ぶつかり合う衝撃が爆風を生み出した。

弾かれた二人は吹き飛ぶ身体を止めようと踏ん張る。地面が凍っているとはいえ魔力により摩擦が生じているので滑ることはない。それでも有に十メートルは飛ばされた。

ビリビリと手が痺れる。言いようのない快感が羽竜に電流となり駆け巡る。


「へへ。こんな時にワクワクするなんて俺おかしいのか?」


堪らず笑みを漏らす。


「おい!青頭!いい加減降参したらどうだ!」


トランスミグレーションの先でサマエルを指す。


「降参?ふざけた事を……。」


本気を出してはいないにしろここまで追い詰められるとは思っていなかった。


−何故だ!?人間如きが何故ここまでやれる?−


「ふふ……ふははははははは!」


高笑いが緊張を消す。


「なんだ…?」


気でもふれたかと羽竜が目を丸くしてる。


「はは…。なるほど……アラエルが手傷を負わされたわけだ。戦い方に荒さはあるがなかなかどうして、認識を改めるしかないようだな。」


「?」


「小僧……気に入った。特別に本気を見せてやろう。」


真剣な眼差しが羽竜に恐怖感を煽る。

消えたはずの緊張が再び羽竜の前に現れた。










「くらえっ!!!」


具現化された矢がナヘマーに次から次へと襲い掛かる。

右に避け、左に避け、時に華麗に宙を舞うように避ける。


「もう少し手加減してほしいんだけど……ダメ?」


おちゃめなポーズがガブリエルの神経を逆なでする。


「どこまでもふざけた真似を!」


「そう怒らないでよ。貴女達天使ってさ、ホント短気だよね。」


「黙れ!知った風な事を!所詮は人間ではないか!悪魔共の記憶か何かは知らんが全くの別人のくせに!」


「あ〜そう〜。そう言う冷たい事言うのね。私を怒らせると怖いんだから!」


学校では見せない小悪魔な顔が余裕を思わせる。


「今度は貴女がくらいなさい!

ハウリング・ハーモニクス!!!」


虹の散弾銃とでも言おうか、光が空を切る音が脳を揺さぶる。

ぐるぐると回りながら攻めてくる虹の散弾銃にガブリエルが矢を具現化して放つ!


「バーニング・アロー!!」


放たれた矢が炎を帯びる!

衝突する虹と炎……これがエンターテイメントなら拍手喝采の嵐が起きただろう。


「ば、バカな!!」


炎が虹の赤に呑まれる。氾濫した河川の如く虹がガブリエルを飲み込む。


「ぐはあっ!!」


氷の壁に全身を打ち付け吐血する。

その拍子にフラグメントが落ちる。


「また成功しちゃった!」


ナヘマーがテレポートで倒れているガブリエルの元へ来る。


「ガブリエル………大丈夫?そんなに本気出したつもりはなかったんだけど……。」


案外本音だったりするのだが、やられた当人には皮肉もいいところだ。


「あった!フラグメント戴き!!」


「お…おのれ……」


「あ〜あイグジストボロボロじゃん!」


もはや二人のモチベーションは重ならない。


「ロストソウルでとどめ………刺してあげましょうね。」


ナヘマーがロストソウルをガブリエルの首に押し当てる。


「待って!」


後ろを振り返るとあかねがいた。


「吉澤さん………」


「新井さん、ダメよ人殺しなんて……。」


「人殺し?人聞きの悪い事言わないで。彼女は人じゃないわ!このままにはしておけないのよ!貴女にはわからないでしょう?」


新井結衣の目じゃない。悪魔の目だ。


「そうかもしれないけど、もう充分傷ついてるじゃない!」


「吉澤さんてそんなにお節介だった?」


「新井さんこそ……もっとおしとやかっていうか、そんな乱暴な人じゃないじゃない。」


ナヘマー……いや結衣が苦笑する。


「止めてよ。学校では猫被ってるに決まってるでしょ?わかったら邪魔をしないで!」


ガブリエルがあかねに話かける。


「変わった女だ。敵を庇うとは………。人間ならでは……か………。」


苦痛に顔を歪ませる。


「天使は死んだらどこへ行くのかしら?じゃ、ガブリエルさよなら……。」


あかねが目を反らす。

ガブリエルの身体が光の粒子となって消えていった。


「新井さん…………」


「さてと、目黒君のとこ見てこなきゃ!」


結衣はあえてあかねを無視する。

結衣は羽竜とサマエルの方へ飛んでいった。








「はぁはぁ……。こいついきなり強くなりやがった。」


本気を出したサマエルは羽竜の想像をはるかに超えて強い。

体力的にも限界らしく羽竜の身体は彼の命令には従わない。


「!!…ガブリエル!?」


ガブリエルのオーラが消えた。


「まさか!殺られたのか!?」


「そうよ。」


凍り付いたバス停から結衣が声をかける。ロストソウルは手にしたままだが鎧はつけていない。


「フラグメント………もらっちゃった!」


「ナヘマー…………!」


サマエルが結衣に攻撃をしかけようとする。


「待てよ……お前の相手は俺だ!」


羽竜が渾身の力でトランスミグレーションを振り下ろすが、


「羽竜君!!」


蕾斗の声も虚しく剣の柄で横っ面を殴られる。


「引っ込んでろ!!俺の目的は元々貴様等悪魔だからな。覚悟しろ。俺はガブリエルのようにはいかんぞ!」


「コワッ!でもいいの?千年前は翼奪われたんだよ?今度はもっと痛い思いするかもよ?」


これもきっと結衣の優しさだろう。悪魔の記憶があるとは言え、記憶があるだけで思考までが悪魔なわけではない。


「小娘が!」


サマエルの剣にオーラが漂う。


「サマエル……可哀相な人……。翼がないと天界に居場所はないんじゃない?だからわざわざ剣を腰に下げて貴方なりの意地を貫いているんでしょう?」


「何をバカな!」


「あら図星だった?テキトーに言ったんだけど………だってイグジストは具現化出来る物なのにわざわざ腰に鞘まで下げてるからそうかなぁって。気を悪くしないでね!」


本心を見抜かれ最悪の気分だ。


「ガブリエルを倒したくらいでいい気になるなよ?死ねッ!!」


剣に溜めたオーラを一気に開放する。

二本のロストソウルを交差させてサマエルの攻撃を防ぐ。


「そんな防御で防げるかあっ!」


サマエルの怨念を表しているのだろう。オーラは気流となり結衣を包む。


「新井!!」


羽竜が立ち上がろうとするが足に力が入らない。

気流が勢いをなくし消えていく。


「ふっ……愚か者め……。」


サマエルが勝ち誇る。


「愚か者は貴方ではありませんか?」


「!!!!!」


気流が消えた場所に二つの人影が見える。


「結衣さん、今のは危ないところでしたよ?」


「ゴメン……助かったわ景子。」


景子と呼ばれた結衣と同じくらいの女が、その手に握るチェーンで身を守っている。

二人の周りをぐるぐると回っているチェーンの動きを止めて、バス停の上から二人共飛び降りた。


「ふんっ!小娘が一人増えたところで!」


「サマエル、冷静になってみてはいかがですか?」


「なんだと?!」


「貴方……この状況で無事に天界に帰れると………?」


「何っ?!」


サマエルは景子に言われ辺りを見渡す。

…………………!!!!!

いる。1、2、3、4、5……6…………

その気配にようやく気付く。

囲まれている!!


「サマエル、おとなしく退きなさい……。」


街灯の上に羽竜達の知る者がいる。

駆けて来たあかねが驚きの声でその名を呼ぶ


「千明さん!」


「先程はどうも。あかねちゃん。」


「サマエル、貴方には伝言役をしてもらわねばなりません、剣をおさめなさい。」


暗闇からアドラメレクが現れる。

そう包囲されてるのだ。

いつのまにか悪魔達が結界に入り込んでいる。いや、元から潜んでいたのかもしれない。

羽竜にも蕾斗にもレジェンダにもあかねにもわかっていた。サマエルが恐怖を感じている。

それだけの数なのか?違う。悪魔はロストソウルに力と記憶を託し、この時代で人間が継承たのだ。ロストソウルの数は確か………十四本。

多くてもそれ以上はいない。

だがサマエルは数に圧倒されているわけではない。

いるのだ。彼に恐怖を与えてる人物が…………。


「十四人全員いるな………。」


レジェンダが人数を確認したらしい。


「なんだ……この感覚は…………力が………抜ける?」


体力を使い果たして力が入らないのとは明らかに違う。


「それが本当の恐怖よ、目黒羽竜。」


聞き慣れない女性の声がビルの上から落とされる。


「誰だ!」


羽竜の精一杯の声が啖氷結界に響き渡る。


「目黒君!!」


結衣がやめろ言わんばかりにこっちを見てる。


「結衣……構わないわ。はじめましてね、目黒羽竜君。蕾斗君、あかねさん。レジェンダは久しぶり……だったかしら?でもそれは記憶でしかないから貴方もはじめましてね。」


姿はわからないが彼女が喋る時、他の悪魔達の顔に緩みがない。多分偉い人物なのだろう。


−でも確か千明さんは悪魔の軍団……レリウーリアで一番偉いのは男の人だって言ってた…。十四人が全員で、今十四人いるんだから…………来てるんだ……総帥って呼ばれている人が……−


あかねが緊張からか身体を震わす。


「伝言役だとっ………?」


「帰ってミカエルに伝えなさい、このまま私達の邪魔をするなら天界まで乗り込んで天界を崩壊させる意志もあると。」


アドラメレクが代表でサマエルに伝言を伝える。


「この俺を使い魔にする気か!」


「サマエル……無駄な会話をしてる暇はない。今回は見逃してあげましょう。その変わりに仕事を頼んでいるのです。わかりますね?」


ビルの上の女性がまるで子供をしつけるような言い方をする。

サマエルもそれが誰の声なのかわかっいるみたいだ。

穏やかな口調で話してはいるが、威圧されている感覚に囚われる。


「安いものじゃないかしら?伝言役を務めるだけで命を救われるのだから……くすくす。」


艶やかな容姿でいつもの笑いを見せるのは千明だ。


「サマエル、お前も天界にその名を刻む戦士なら退くべき時は退け!」


突如男の声がした。あかねも羽竜も蕾斗も確信した。この声の主が『総帥』なのだと。

 羽竜がビル上の女性の脇に身長の高い人影を見つける。

サマエルはしばらく声の主を見上げていたが、鞘に剣をおさめ帰る意思を見せる。


「貴様等……このままで済むと思うなよ…。」


捨て台詞を残し天界へ帰っていった。


「や〜ねぇ、往生際が悪いっていうかなんというか………。」


千明が最後まで意地っ張るサマエルを皮肉ってやった。


「千明さん!!」


あかねが何か言いたそうに声をかけるが、千明の予告通り敵として再会した事を感じ何も言えない。千明の目がそう語っている。


「新井………お前……。」


「目黒君、私は貴方達を監視するために転校してきたの。」


「監視?」


「そう。貴方達が持つフラグメントがエルハザード軍に渡らないように見張っていたのよ。」


羽竜はレジェンダとあかねの言っていた事が気になり、偶然見かけた結衣をつけていて天使の襲撃に出くわしたのだ。


「目黒羽竜!」


『総帥』が羽竜を呼ぶ。

羽竜は声が出せないでいる。


「お前が持っているフラグメントは今しばらく預けておく。大切に保管しておいてくれよ。」


『総帥』が背を反し、消えた。

ビルの上の女が命令を出す。


「全員退却よ!」


そして次々と消えていく、おそらくはどこかに『帰る』場所がありそこへ帰るのだろう。


「レジェンダ、よくそこまで彼を育てましたね。羽竜君、貴方ももっと精進しなさい。」


アドラメレクが消えた。


「目黒君、吉澤さん、それと蕾斗君だったっけ?また明日ね!バイバイ!」


結衣が手を振りながら消えていった。


「ハー君、まだ私には勝てないわねぇ。長官の言う通りもっと精進なさい。」


くすっと笑い最後の悪魔が闇に帰っていった………。


「あれが………レリウーリアの総帥………」


羽竜はただじっと空を見ていた。


解けていく結界とは裏腹に四人の恐怖は朝が来るまで、解ける事はなかった………。


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