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第八章 悪魔の挽歌

「魔法と魔導って違うの?」


蕾斗がベッドの上にいるレジェンダに聞く。


「違う。」


即答された。


「どう違うのさ?どっちも魔力を使うんでしょ?」


蕾斗が口を尖らせる。


「魔力というのは魔法や魔導を使用する際のエネルギーでしかない。」


「じゃあ何が違うの?もったいぶらないで教えてよ。」


 食事を終え、自室に戻って来て扉を開けたらいきなりレジェンダがいたので思わず悲鳴をあげそうになった。

なんでも話があるからと言ってこっちに向かったと羽竜からメールは来てたが、扉を開けてすぐいるとは想像してなかったので心臓が潰れるかと思ったくらいだ。

羽竜によれば多分わざと驚かすような事をするらしい……。


「いいだろう。……魔法というのは自然界に存在したり、自然界にて起こり得る現象をを魔力を使い故意に起こす事を言う。

また、自然界では条件が揃わなければ起こらない現象も意図的に起こしたりする事が出来る。それら全てを魔法と呼ぶのだ。」


「なんとなくわかるけど……例えばどんな事が出来るの?」


「例えば……自然界には電気というものが存在するであろう?」


「うん。」


「その電気は普段はバラバラに空気中や人の身体に存在している。それを魔力を使って一つの塊にすると稲妻として相手を攻撃出来るようになる。また防御する事も可能だ。」


「防御?」


「そうだ。相手が稲妻の魔法で攻撃してきたら同じ稲妻の魔法でそれを防げるのだ。」


「ああ、わかるよそれ!ゲームとかもそんなシステムあったりするし。」


「そうか、なら皆まで言わなくても大丈夫だな。」


「うん。じゃあさ、魔導ってのは何?」


「魔導というのは本来宿る事のない力を宿らせる事により、そのもの単体での攻撃や防御、その単体が持つ性能を活用して付加されてない能力を与えてやる事を言う。」


「ん〜〜〜〜よくわかんないなあ。もっと簡単に教えてよ。」


「例えば、このベッド。これに魔導を宿すと、シーツを剣として使えたり枕を盾として使う事が出来る。もしくは睡眠をとるだけの道具でしかないのに睡眠時に結界を自動で張ったりする事等だ。魔導の説明は非常に難しい、使う者の意思が大きく反映されるからな。」


「傷を治したりするのは魔法なの?」


「身体の傷を治したり、解毒したりするのは魔法だ。生き物には治癒能力というものがある。それを魔力によって極端に活性化させてやる、するとある程度の傷ならば一瞬で治るだろう。ただ治癒魔法の場合は、かけられる者の体内能力にもよるからな。羽竜のような驚くような体力の回復をする者は僅かな魔力で充分だったりもする。」


「魔法と魔導はどっちかしか持てないのかな?」


「そんなことはない。魔導を使う者は魔法も使う事が出来る。魔力さえあれば魔法は使える。しかし魔導は魔力があれば使えるというわけではない。」


「どういう事?」


難しい話は嫌いではないのだが、レジェンダの話している事は人間界においては空想とされる事。それを物理的に説明してくるのだから賢い蕾斗でも混乱してしまう。


「魔導は魔力の強い弱いに関係なく選ばれ者にしか使用出来ないとされている。過去に私の知る限り魔導を使えたのはオノリウス様一人。そして現在は蕾斗、お前だけだ。」


「ま、ま、まさか!この前の事言ってるならあれは偶然だよ!現に、あれからレジェンダに特訓してもらってるけど全然ダメじゃん!」


「偶然で使えるほど安易なものではないぞ、魔導は。確かにあれから魔力を感じる事はないが、お前も羽竜同様不思議な気を持っている。私はお前達の中に眠っている才能を引き出してみたい。」


今までこんなにも自分を評価してもらった事などあっただろうか?成績はいい方ではあるが、ズバ抜けているわけでもないし運動はまあ、人並みといったところだ。だからあまりほめられても羽竜のようにすぐ自信に繋がるわけではない。


「引き出してみたいって、もう充分やってるよ?毎日くたくたになるくらい。これ以上何をするのさ?」


「以前も説明したが、人間が魔力を持つ事などありえない。だが、お前はそれを示した。それも魔導を使ったのだ。疑う余地はない、だから試したい事がある。」


レジェンダが体内(?)から銀色の丸い輪を出す。

指輪だ。


「何それ?って言う前に………一体レジェンダのフードの中ってどうなってんの!?」


「…………………。」


「そうやって都合が悪くなるとすぐだんまり!」


子供みたいに顔ぷいっと横に向ける。


「…………………そんなにこのフードの中気になるのなら見てみるか……?」


「え?」


二人の間しばし沈黙が流れる。蕾斗の目線は既にフードの中にある。時間にしたらごく短い時間であったが、いろんな事が蕾斗の頭の中をよぎる。


「あ、あのさ、やっぱり遠慮しとくよ…。」


もしかしたら、フードの中を覗いた瞬間異次元にでも飛ばされたりするんじゃないかと好奇心よりも不安が勝ってしまう。


「賢明だな……。」


一言そう言うと指輪を蕾斗に渡す。もちろん肉体がないから『手渡し』ではなく、念動力で蕾斗の掌に落としてやったのだ。


「これで何を試すの?」


右手の人差し指に嵌めてみる………。少し緩かったのか中指に目標を変えもう一度挑む………どうやら『居場所』が決まったらしい。華奢な蕾斗の指に少し色気がでたようだ。本人も満足したらしい。

お洒落には興味のない蕾斗が悪くないといった顔をしながら部屋の蛍光灯を掴むような仕草をする。


「その指輪はかつてオノリウス様が魔力を制御する為に嵌めていたもの。」


「制御?」


「うむ。オノリウス様の魔力はとても強大だったからな、自分自身で制御するのは難儀だと言ってダイダロスに造らせた物だ。」


「ふぅん…ダイダロスって人もすごいんだね、イグジストやロストソウルを造っただけじゃなくて魔力の制御装置まで造ってたんだ。でも僕、制御するほど魔力なんてないと思うんだけど……?」


「制御するというのは何も抑え込むばかりではない。それを嵌めることによって指輪の影響を受けたお前の魔力が今一度溢れてくるやもしれん。しばらく嵌めて生活してみるといい。」


「まあ気に入ったからいいけど…………。」


なんだかよくわからないがレジェンダに言われるままにしてみる事にした。

とにかく自分に魔法が使えるかもしれないという期待にどっぷりと浸かっているらしい。


「!?」


レジェンダが急に窓の外を気にする。


「どうしたの?」


「………天使が動きだしたみたいだな……。」


蕾斗には感じられないがどうやら天使の気配を感じとっているらしい。


「フラグメント見つけたのかな?」


「………………。」


レジェンダの様子がおかしい。蕾斗に限らず羽竜もあかねも表情の見えないレジェンダに対して雰囲気でその心中を察する。

だからわかるのだ、ただ事ではないと……。


「レジェンダ?」


「数が………」


「数?なんの数?」


その時携帯が鳴る。羽竜からだ。


「も、もしもし?」


「蕾斗か?レジェンダはいるか?」


いきなりでかい声を出されたので思わず耳から携帯を離す。何やら慌てているのがわかる。ちらっとレジェンダを見る。


「いるけど…?どうしたの?そんなに慌てて…?」


「街に天使がいっぱいいるんだけど、どうしたらいいか聞いてくれ!」


「ど、どういう事!?」


何を言ってるかわからない。


「蕾斗!行くぞ!」


レジェンダが叫ぶと蕾斗の身体が宙に浮く。


「ちょ、ちょっと!」


自分の意志とは無関係に夜の空へ連れ出された。


「靴〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」









どのくらいの人数がいるのか?翼のある者達が現れて街中が混乱している。

大分夜も更けたがそれでもこの国の中心に位置するこの場所には、まだ人が溢れるている。


「騒がしいですわね、人間てのは。」


汚い物でも見るかのような目で逃げ惑う人々を皮肉る。

騒がしくなるのも無理はない。武器を持った者が空から大量に現れたのだ。


「ガブリエル様?どうかなされましたか?」


ガブリエルは辺りをキョロキョロと見渡して何かを探している。


「会いたいのはレジェンダか?それとも悪魔か?」


後ろから青い髪をした男が声をかける。


「サマエル……。そうだな、奴等にも会いたいがアラエルに傷を負わせた人間に興味がある。」


ガブリエルは長い髪が風になびこうとするのを手で抑える。


「ふん。あの小僧がまさかトランスミグレーションを扱えるとは思えんがな。アラエルの事だ油断し過ぎて墓穴でも掘ったのだろう。」


「サマエル様、ガブリエル様たった今フラグメントを見つけました。」


別の女性天使がフラグメントを入手したらしく報告に来た。


「そうか。こんな大勢で来る必要はなかったんじゃないのか?」


サマエルが腕組みをしてガブリエルを見る。

するとまた別の天使がフラグメントを持ってきた。


「サマエル様、フラグメントを無事入手しました。」


片膝をつき、フラグメントを両手で持ってサマエルに渡す。


「ご苦労。」


「はっ!」


そう言うとサマエルはフラグメントをガブリエルに渡す。


「引き上げるぞガブリエル。フラグメントを手に入れた以上用はあるまい。」


「どうせならその少年からフラグメントを奪ってもいいんじゃないのか?お前だって悪魔に会えるのを期待してついて来たんじゃないのか?」


フ…ッと笑い目をつむる。

ガブリエルはサマエルの心中を知っている。もとよりフラグメントに興味などない、ただ悪魔が復活しているのを聞いて千年前の屈辱を返したいだけなのだ。ただそれだけ。だからフラグメントも自分に渡してきたのだ。


街中にいた人々がもうキレイにいなくなっていた。

そこへサイレンを鳴らしかなりの数のパトカーが到着する。中から警官がまるで蟻のようにゾロゾロと降りてくる。ワゴン車からは機動隊までが同じように降りてきて拡声器でがなり始めた。


「お前達!!武器を捨てて投降しろ!!!」


全くセオリー通りの説得にガブリエルが失笑する。


「なんだかうるさいのが来たわね……どうするの?」


「決まっている。」


サマエルが腰に下げた鞘から静かに剣を抜く。


「愚かな人間達に制裁を与えてやらねばなるまい。」


警官隊が拳銃を構え警戒する。

拡声器がハウリングを発生させながら警告を伝えてくる。


「バカな真似は止めろ!!射殺されたくなかったらおとなしく武器を下に置け!!」


下級天使達が一斉に集まって警官隊の前にはだかる。

その下級天使の群れが真ん中に道を作り、そこをサマエルが悠々と歩いて来た。

上空にはまだ下級天使が星空を背に何人かは事の成り行きを見守っている。


「き、聞こえないのか!武器を捨てろ!!」


現実離れした目の前の光景に警官達がたじろぐ。

蛇睨まれた蛙そのものの人間達に哀れむ気持ちなど微塵もない。


「やれ!」


サマエルが制裁開始の合図を出す。


「くっ!!発砲許可するっ!撃て−−−−−−っ!!!!」


警官隊と機動隊が一斉に発砲し、拳銃から飛び出した弾が天使目掛けて一直線に向かってくる。下級天使の何人かが手を前に出すと弾が制止する。

空気中に広がる波紋が視界を遮り前方から来る天使を確認出来ない。

何発も続けざまに発砲するが、結果は同じ。波紋が増え余計状況を把握できない。


「ど、どうなってんだ?」


「夢でも見てんのかよ………。」


警官達が驚きを隠せずうろたえる。

閃光が走り、目が眩む。身体が熱くなるのがわかる。

爆風が起きパトカーの車体と共に警官達もまた吹き飛ばされた。

アスファルトは乱雑に壊され原形を留めていない。

五十人はいたと思われる警官達は全員意識がなくなっている。

遠くから見物していた野次馬達も危険を察知して更に遠くへと逃げていく。


「話にならんな……。」


サマエルが剣を鞘におさめると警官達の放った弾が一斉に地面に落ちた。


「……………帰るぞ。」


無惨にも転がる警官達に背を向け天を仰ぐ。

ガブリエルも翼を広げ天界へ帰る準備をする。



「待てっっ!!!」



どんな気分なのだろうか?教会のステンドグラスに描かれている…………それよりは武骨な恰好をしてはいるが、疑いのない美を有している天使達の視線を独り占めするというのは……。


「小僧……………!」


「久しぶりだな青頭!!」


勇ましくも銀色のテロリスト達の前に羽竜が立ちはだかる。


−畜生!蕾斗の奴携帯切りやがって!!やるしかない!俺が!−


「青頭!これはテメェなんの真似だ!」


「なんの真似…だと?フッ………フフ……フハハハハハハッ!」


シンと静まり返る街にサマエルの笑い声が響く。


「!?何が可笑しい!!?」


「いや。なんの真似かは見たらわかるだろう?愚かにも我々に盾突く人間に制裁を下してやったまでだ。」


不敵に笑う。下級天使達が羽竜を取り囲み刃を向ける。羽竜はファイティングポーズを見せる。


「おいおい、まさか素手でくる気か?」


「こいつらは上級天使じゃないんだろ?だったら素手で充分だ!」


「なんだとっ!!」


人間に見下され下級天使達が敵意を剥き出す。


「………なるほど。レジェンダにいろいろ吹き込まれてるみたいだな。」


「面白いじゃないか。」


ガブリエルが羽竜の頭上へ来て話かける。

サマエルと同じプレッシャーを感じる。


−これがレジェンダの言う『気』ってやつかよ………。今までは感じなかったけど、感じる!−


「今日はレジェンダと仲間はいないみたいだな。ということはフラグメントは持ってないのか?」


サマエルが聞く。


「フラグメントなら……あるぜ。」


ポケットからフラグメントを取り出す。


「レジェンダも無用心だな。人間に預けておくとは………。それとも肉体とともに警戒心まで朽ちたか?ハハハハ!」


闇で一層輝くフラグメントがなまめかしく見える。


「いいだろう。この前はレジェンダに邪魔をされたが今日は確実にもらい受けるぞ、フラグメントも小僧……貴様の命も。……やれ!」


サマエルが二度目の合図を出す。剣やら槍やら羽竜を狙って襲い掛かる。

…………が、今の羽竜には恐れる対象にはならない。

あっという間に五人の腹に拳を捩り込む。


「いくら人間じゃないって言っても女の顔はさすがに殴れないな。」


余裕の笑みが零れる。


「ふっ…。少しは成長したみたいだな。しかしたかが五人程度。まだ百…はいるぞ。」


次々と羽竜に攻撃をしかけてくる。女ばかりが天使ではない、サマエルのように男の天使もいる。

男にはその顔面に容赦なく打ち噛ます。

あまりに機敏で華麗な動きが天使達を翻弄させる。五人どころかたちまち三十人倒してしまう。


「はぁはぁ……。」


肩で息をし始める。


「限界か?まあ人間にしてはよくやった方だ。」


「うるせぇ!二言目には人間人間て、そんなにてめぇら偉いのかよ!」


「偉い?そんなレベルではない。もっと崇高な存在なのだがな。」


サマエルと羽竜が睨み合う。


「羽竜くーーん!」


蕾斗の声がして上を見る。レジェンダと共に降りてくる姿を捉える。


「蕾斗!レジェンダ!おせーよ!何やってたんだよ!」


「ごめんごめん!ちょっといろいろあってさ。」


「なんだよいろいろって。」


「いや、たいしたことじゃ……」


「靴がないと困ると駄々をこねてわざわざ戻ったからな。」


レジェンダが余計な事を言ったので蕾斗が手をバタバタさせる。


「ま、まあいいじゃない間に合ったんだし!」


「羽竜くーん!蕾斗くーん!」


助け舟が出され注目はそちらに注がれる。


「吉澤!!」


自転車で来たらしくサドルにまたがったまま息を切らしている。


「これは…………!!!」


周りには警官隊の屍や炎上するパトカー、大きな地震でも来たかのようにうねり裂けたアスファルト、さっきの天使達の攻撃による衝撃でビルの窓まで割れていて、地獄絵図を再現しているようだ。

あかねは今にも泣きそうな自分を堪える。千明と約束したばかりだ、羽竜達の為に自分に出来る事を精一杯すると。自転車を置き道とは呼べない道を歩いて羽竜達のところへ来る。


「何しに来たんだよ!」


「何しにって……パトカーとかすごかったから気になって来てみたら……。」


「危ないから帰れよ!!」


あまりに冷たい羽竜の言葉に堪えていた涙が溢れる。


「何よ!意地悪!」


「い、意地悪ぅ?!俺はだな!」


サマエルは不思議に思った。肩で息をしていた羽竜がもう体力を回復している。

信じ難いが仲間が来た事で体力が回復したのだ。サマエルには考えられないことだった。


「レジェンダ……会いたかったぞ。」


ガブリエルがレジェンダに歩み寄る。


「ガブリエル……私は特にお前達に会いたいとは思ってはないがな。」


軽く皮肉ってやる。


「そうつれなくするな。千年来の付き合いではないか、私は今か今かと待っていたのだからな。」


ガブリエルが弓を具現化する。


「持ってるんでしょ?トランスミグレーション……。」


レジェンダの足元からトランスミグレーションが出現し、それを羽竜が無言で取り構える。


「ガブリエル、気をつけろ。こいつ……闘気を纏ってやがる。」


「アラエルに深手を負わせるわけね……。」


サマエルもガブリエルも納得せざるを得ない。油断したのだろうと思ってはいた、しかしそれだけが敗因ではなかった。素手で三十人もの天使を倒し、トランスミグレーションを構える姿に違和感を感じない。揚句、闘気を身につけている。


「やれやれ……派手にやってくれたわね。」


また見知らぬ声がした。


「新井さん!」


あかねが先に気付きその名を呼ぶ。


「新井?」


「こんばんは、目黒君。吉澤さんとそちらの彼も。」


「やはりただ者ではなさそうだな。」


レジェンダが確信を持つ。


「目黒君ずっと私の後つけてたみたいだけどまだまだね、見失ったでしょ私の事。」


「バレてたのか……。」


「ちょっと羽竜君?どういう事?」


あかねが羽竜を問い詰める。こういう時のあかねは周りの空気を一切無視する。


「違う!なんか勘違いしてんだろ!」


「じゃあ一体どういう事?こんな夜中に女の子を付け回すなんて!信じらんない!」


「だ〜か〜ら〜、違うって!!」


「お二人さん、痴話喧嘩は後回しにしてね。今はやらなきゃいけない事があるから。」


結衣に言われ恥ずかしそうに顔を背ける。


「啖氷空界!!」


結衣が結界を張る呪文を唱える。

例の如く街が凍り出す。


「やはり……。」


レジェンダは結衣の正体を見抜いてあえて聞く。


「お前もレリウーリアの?」


「待てよ、レリウーリアって………新井が?」


頷きはしないもののその笑みが全てを語っている。


「ほう……悪魔も参戦か…今宵は面白い事ばかりだ。だがお前等この状況を忘れてないか?」


周りにはまだ大勢下級天使がいる。


「こんな下級天使なんか何人いても同じよ。」


結衣が両手を翳すとその華奢な身体に鎧が纏われ短剣を翳した両手に握る。

小さな紫色の翼が四枚ある。

まさしく千明の時と同じパターンだ。


「どいててみんな!」


羽竜達を押し退け、額のところで腕を交差させ目を閉じて深呼吸を一回だけする。


「ハウリング・ハーモニクス!!!!」


結衣が叫ぶと交差していた両腕を一気に振り下ろす。その身体からカラフルな長細い光がほとばしり、羽竜に倒されていた下級天使共々光の中へ消し去った。


「嘘………すごい………」


天使が消えていく。あかねにはそれが映像に見えた。光の塵となりその肉片残さず存在が消える。


「やった!!成功した!!」


結衣が無邪気に跳びはねる。


「この気配は……」


悪魔とは思えないはしゃぎようを見せる結衣だが感じるプレッシャーは人間ではなく悪魔のそれである。

サマエルが結衣を別の名で呼んだ。


「女………貴様、ナヘマーか!」


名前を呼ばれサマエルを見て笑みを浮かべるが、いつもの爽やかな笑みじゃない……。不気味ささえ感じる笑みがそこにある。


「久しぶりね。サマエル、ガブリエル。名前……覚えていてくれたのね……。」


彼女自体がサマエルとガブリエルを知っているわけではない。悪魔の力を手にした時に一緒にその記憶も受け継いだとアドラメレクが言っていた。

雰囲気が変わった結衣に羽竜とあかねは目を白黒させるだけである。


「さあ、始めましょうか?消えて逝った天使達の為に悪魔の挽歌を………。」


 閉ざされた氷の世界が冷気よりも冷たいナヘマーの『気』で覆われていた。


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