好きなんだからしょうがない!
俺の幼なじみは文芸部部長であり、恋人は乙女ゲームという、重度の「オタク」である。
今も同じクラスの部員と最近流行りのアニメについて語り合っている。
「先週の○○すっごいよかったよね!?まさかユウジがキョウコを助けにいくとは思わなかったよ~あれ公式ユウ×キョのフラグ立ったんじゃね!!?」
「落ち着きなよあやめ部長。でもあれは萌えましたなぁ」
「おいおい何いってるんだよ二人とも。先週はユウ×キョよりもアサ×ユイのターンに決まってるっしょ」
「いやどっちにしたって萌え×2だったのは確かでしょ!!あぁ、妄想の範囲が広がっていく!!!」
次の夏コミ新刊はユウ×キョに決定!!と彼女は椅子に座ったままガッツポーズを取った。学校特有の木の板と鉄でできている古い椅子がギィ、と若干悲鳴をあげた。
ふと彼女の薄桃色の髪が揺れた。春独特の暖かい風は、桜の花びらを中等部の教室に送り込む。その桃色の花びらは腰まで長いみつあみされた彼女の髪のようだ。今は丁度帰宅部の生徒たちが謳歌学園の寮、また自宅へと向かっている時間だけあって更に暖かい夕陽が彼女の髪に当たり幼なじみの彼女をより美しく見せる。
「はぁあああ・・・」
自分の席は彼女の席から離れているため、どうやらアニメ話で盛り上がっている彼女たちには聞こえなかったようだ。代わりにサッカー部の友人が心配して声をかけてくれた。
「どうした?優人(ゆうと)キャプテン。なんか悩み事?」
「察してくれ・・・」
「あぁ成る程。」
あやめのことな。と友人ーー翔(しょう)が聞こえないよう小さな声で呟いてくれた。いつの間にかいなくなっていた仲良しの文芸部三人(部室に向かったと思われる)以外には俺と翔しか居なかったが、いつ誰に聞かれるか分からないのでその些細な気遣いが有難い。翔の言葉に頷くと彼は苦笑いを浮かべた。
「いい加減告白したらゆーちゃん。初等部からの恋なんでしょ?それを他の奴に奪われていいの?」
「そんなことしたらそいつ殺「ゆーちゃん落ち着いて目がマジ怖い」
翔はため息を吐いてからうぐぅ、と項垂れる俺に再び俺に優しく語るように話しかけた。
「だったらマジ告白しなよ。そんで玉砕してきたら?」
「おい待て俺の恋は玉砕決定なのか」
「うーん。あやめの性格上多分"私なんかよりももっといい人いるよ"的なこと言いそう。」
「・・・・・・言えてる」
というかな、と俺は言葉を繋げた。
「俺一回告白したことあるんだよ。あやめに」
「・・・えっ」
マジ!?聞いてないよそんなこと!!水くさいぞゆーちゃん!!!と口で言っている翔は目でどうなったの?と訴えてきた。
俺はその目にあの時のことを思いだしつつ伝えた。
* * *
「うーん。ここはやっぱりこの台詞がいいだろうか・・・それともこっち?」
大規模な夏コミ、というのが毎年東京ビッグサイトで行われるらしくあやめはその夏コミに出すべく新刊を描いていた。俺は毎回手伝いとして簡単なベタ塗り、やトーン貼りという作業をPCと専用ソフトを用いて手伝っていた。勿論俺からの提案で。手伝えば彼女が嬉しそうに笑ってくれるのが嬉しかった。
何より、彼女の部屋で二人っきり。というシチュエーションがおいしいのである。
あの時も、そんな二人っきりの部屋で起きた会話から告白に至ったのだ。
「そういえば優人は好きな人とかいるの?」
「ほあッ!!?」
「え、何今の声可愛い」
コロコロと穏やかに笑う彼女に対してその時の俺の内心は嵐が起きていた。心臓はバクバクで、それでも何とか平然を装って彼女に問いに対して答えたが
「あぁ、いりゅよ」
無理だった。普通に噛んだ。
それについては特に追求せず、彼女はそっかと相槌をうった。
「ど、どうしてそんなこと聞いたんだ?」
「ん?いや、ピクシブでアサ←ユイの片想い漫画うpしようと思ったんだけどさ、片想いってどんな感じかなぁって思って」
「な、なるほど」
「で、どんな感じ?」
「ほあっ!?」
クルリと、彼女は勉強机と同じデザインの椅子に座りつつ方向転換し、俺の方を向いた。
片手にはメモ帳を持って。
「将来漫画家になるんだったら嘘は描けない。で、どんな感じなの?片想い」
「そ、それは・・・」
片想いしてる相手にどんな感じかを伝えなきゃいけないって、どういういじめだ?これ。
そんな考えを頭の外に除外し、俺はそうだなぁと沸騰しそうな頭でなるべく分かりやすいように考えた。
ぽんっと出てきたのはベタなものだった。
「その人のことを考えてると、すっごく苦しいが、それも安らぐんだ」
「苦しいのに?」
再び首をかしげるあやめに写真撮りたいという気持ちを抑えあぁ、と返す。
「矛盾してるんだが苦しいが嬉しい。安らぐ。そしていつでも会いたい、そう思える。その子が悩んでたり困ってたら力を貸してあげたいし、助けてあげたい。そう思うんだ」
「ほほぅ・・・」
なるほど、とあやめはメモ帳にペンを滑らせた。さらさらと文字が生まれる音が妙に俺の心を落ち着かせた。
落ち着いた心で、ひとつの案が生まれる。丁度彼女がメモし終えるのを見計らって、強引にも彼女にも同じ質問を返した。
「あやめは?好きな人いないのか?」
ん?とメモ帳から顔を上げて首をかしげてきた。あぁ可愛いすぎると些細な仕草で思ってしまうところ自分は終わってるのだろう。
彼女はうーんと考える素振りを見せ、「いないね」と呟いた。
「いたら優人に聞かないし、そもそも私なんかみたいなオタク女に好きになられてもその人困ると思うし」
そう自嘲する彼女に俺はそんなわけない!と強く言った。あやめは大きな目を更に大きくしていたので「ごめん、でも」と話を続ける。
「あやめは確かにオタクだけど、秋葉系みたいに気持ち悪い訳じゃないし、周りをよく見て冷静に物事を対象する力も持ってる。男女平等に優しいし、けど時には厳しくできる。そんなあやめのことが俺は・・・好きなんだ!!」
語尾がとても強くなったのは仕方ないだろう。その時の自分は(あー言っちゃったどうしよう嫌われるそれともオッケー!!?)と結構混乱していた。
チラリとあやめを見るとぽかーんと魂が抜けているような表情をしていて、心配であやめ?と話しかけると彼女はビクっと肩を揺らした。
「ご、ごめん。まさか優人がそんな風に思ってくれてたなんて思わなくて・・・その、ビックリして。嬉しいよ、ありがとう」
ふふ、とはにかんだ彼女は天使のようで。お花畑と化していた脳内を切り替えて返事はいつでもいいと言わなければと思ったときだった。
「でも優人。好きって言葉は安易に言っちゃダメだよ」
「・・・はっ?」
ちょっと待てどういうことだ。目でそう訴えるとあやめはだって・・・と眩しい笑顔を見せる。
「だって好きって言葉は本命に言わなきゃ。友情としても捉えられるけど優人かっこいいから違う方に思われちゃうよ」
あやめの言葉ですべてが繋がった。
つまり俺は「友人として」あやめのいいところを言ったと。「友人として」あやめのことが好きだと勘違いされたらしい。
あまりのショックで口が上手く回らず、唯一言えたのが
「そっか・・・そうだな」
だった。
* * *
「それ、ゆーちゃんが悪くない?」
「でもそれでも勇気だしたんだぞ!?」
「いや、でもその流れだと友人としてって捉えられるから・・・鈍感なあやめだとまずそっちに思考がいくだろうね」
「だとしても少しは顔赤くしたり恥ずかしがってくれても・・・!」
「・・・きついこと言うけど、幼なじみとしか見られてないんじゃない?」
「うぐっ」
一番言われたくないことを言われると、頭上から金盥(かねたらい)が落ちてきた衝撃を受ける。
それは一番逃げてきた結論なのに・・・!
若干涙目になった俺に、翔ははははと薄く笑った。
「もういっそ好きな子切り替えたら?難しいと思うよ。あやめは。恋愛のれの字もない女の子だし」
「確かに、確かに切り替えられたらとっくにしてるさ、けど、けどなぁ!」
ちょ、ゆーちゃん落ち着いてという翔の言葉を無視して俺は誰にでもなく気持ちをぶつけた。
「それでも俺はあやめが好きなんだよ!!うざいししつこいと思われても!!!これだけは変えられないんだよ!!!」
ガララララ。
教室独特の木製の扉が開いた。しまったと焦る。誰だ、誰が来たと後ろを向いた。
「・・・・・・・・」
唯一その場で話せたのは翔だけだった。「あちゃーマジやっちまったなーゆーちゃん」と肩にドンマイという意味を込めて手が置かれた。
自然と口が開く。
「「えっ?」」
あやめと俺の声が重なった中等部、春の教室はとても穏やかに窓から夕陽の光を招き入れていた。
「好きなんだからしょうがない!」いかがでしたでしょうか?優人君は友人をもとに作ったキャラでしてしっかりしてるけど好きなこの事になると情けない系の子になってしまう子です。あやめちゃんはオタク系女子とはなんたるものかということを考えさせてくれた子でした。
注意事項としては、敢えて連載ものに属すとしますが、それは謳歌学園のものとまとめるためにさせていただきました。この作品のあとに好きなんだからしょうがない!2と続く訳ではありません。幾つか違うものを書いたら続きを書くというような形となります。
面倒かとは思われますが、ご了承ください。
なお、文章中にありましたピクシブ、ビッグサイトは実在物ですが、あとは存在いたしません。
この作品を読んでいただきありがとうございました。




