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第八話

 放課後になりました。

 体調はすこぶる元気です。


 みんなに心配してもらいました。嬉しかったです。

 山根君に活を入れられました。痛かったです。まさかジャーマン・スープレックスが来るとは思っていませんでした。気絶しかけました。


 須賀君が近寄ってきました。はたきました。困惑しています。はたきました。ちょっと怒ってます。キン○バスター掛けました。みんなから驚きの声が、山根君からは賛美の声が掛けられました。嬉しかったです。


 ……ま、そんなこんなで放課後です。大事なことなので二度言いました。

 なぜ大事かって? 今日は待ちに待った部活動紹介の日だからだよ。


 何で待ってたかって? 部活に入るか入らないかでこの高校での俺の生活が決まるからだよ。

 部活。それは汗臭くもあり、友情があり、そして女の子との恋物語を作り出すまさに青春の一ページ。ああ……なんて。


 青春の部活と言えば、よく思い浮かぶのがスポーツ。

 赤髪の不良がバスケ部に入部して才能開花して高校界最強の学校を倒したり、百五十キロの豪速球投げる少年がわざわざ転校して部もないところを一から作り上げて甲子園目指したりなんかしているってのが、ごく一般のこれぞまさに青春部活! なんてイメージあるよね。


 まあ俺も好きだよ。そういうの。友情育むって良いよな。俺もやったよ。中学の時はプロボクシング部に入ってたし。プロボクシング部ってのはプロレスとボクシングを合わせた競技ね。俺は中堅だったよ。

 よく仲間たちとつるんで色んなことやって、やっては教師に怒られて盗んで自転車で走りだしたっけ。懐かしいなぁ……


「なあ倉島。お前はどこの部活に入るかもう決めたの?」


 ゆで○まご先生発案の技を俺に受け、つい五分前まで気絶してた須賀が目を覚まして話し掛けてきた。こいつ、さっきの事が完全に頭からなくなってるらしい。なんとご都合主義の性格してやがる。て言うか、俺よりも主人公気質出してんじゃねぇよ……!


「いや、まだ決めちゃいないけど、どこかしらには入ろうと思ってる」

「へぇ。ちなみにどこか目途は付いてるのかよ」

「まあある程度はな」

「ふーん。すげえなぁ。俺は全然考えてもいないってのに」


 まあ俺の考えてることはある意味不純なんだがな。こいつは俺と違って異性関係に問題はなさそうだしな。


「それじゃあ一緒に見に行くか? どうせ放課後暇なんだろ?」

「どうせとか言うな。まあでも確かに暇だけどよ」

「だったら行こうぜ。せっかく高校生活。三年しかないんだからやれることはやった方が得だろ?」

「……そうだな」


 俺の誘いに須賀はコクリと頷いた。しかもちょっと嬉しそうだ。知らん仲じゃないし、この学校で出来た初めての友達だしな。ここで見捨てるような真似したら、死にそうな爺ちゃんに怒られそうだ。


「あ、だったら冬美に言っとかないと」

「ん? なぜそこで滝田さんの名前が出てくるんだ?」

「いやな。今日一緒に帰ろうって昼休みに言われてたんだ。なんでも今日の晩飯の材料買うから荷物持ちになれってな」

「え? なにお前ら。晩飯を一緒に食べてんの?」

「まあな。小学五年のころからかな。俺たち両親共働きで帰ってくるのもなかなか遅かったから、家の事は一緒にやろうぜって冬美の方から」

「よし! やっぱお前と行くのは止めだ。とっとと帰りやがれ!」

「はあ!? なんでだよ! もうメール送っちまったよ! 急に何言ってんだよお前は!」

「うっせぇ爆ぜろ! バルスバルスバルスバルス!!」

「ここはラピュタじゃねぇよ!?」


 畜生……! やっぱ俺はこいつのこういうところが嫌いだ。マジで何なのこいつ。恵まれすぎだろ。みんなが人生に欲しい体験談ベスト3持ちすぎだろ。

 爺ちゃんが言ってた。


『いいか良介。相手がもし鈍感リア従である場合。目潰しして窓から落としてバルスと叫べ。そうすれば、相手はお前に合わせて全治三カ月の入院を喜んで受けるだろう』


 爺ちゃん。言われた通りやったぜ。でも順番待ちがえた。窓から落とすのは俺のカブトムシ並みの精神じゃ無理だった。すまん!


「うわっ!? おい! 目潰ししようとするな! 危ないだろっ」

「黙れ! 男の敵め! 脱げば脱ぐほど強くなるドラゴンになっちまえこのこの!」

「何言ってんだよっ。俺の右腕に立てはねぇぞっ」

「積尸○冥○波!」

「そのネタは危ない!?」


 のび太くんの先生直伝の技だぞ受けやがれ! そしてそのまま帰ってくるなっ。


「あ! いたいた!」


 ん? 後ろから気配が。春麗か!?


「あ、冬美。どうしたんだよ」


 滝田さんか。しかたあるまい。可愛い彼女に免じてここは収めてやろう。

 須賀は肩で息をしながら滴る汗を手で拭い、訪問者滝田冬美(たきたふゆみ)さんと対面する。


 彼女は異常に汗をかいている須賀を見て小首を傾げていたが、特に追及の言葉は言わなかった。


「部活見に行くんでしょ? 今から」

「ああ、まあな」

「へぇ~。中学の時は部活なんて面倒くさいからやらないなんて言ってた恭也がねぇ。一体どういう心境の変化なの?」

「別にいいだろ。三年もたてば考え方だって変わるっての。それに、まだ入るとは決めてねぇし」

「ふ~ん」


 須賀を見て何やらニヤニヤ嬉しそうに笑っている滝田さん。こいつが何かをやろうとしている事がそんなに嬉しいのだろうか。幼馴染的に何か思うところがあるのかな。

 ジロジロ須賀を見ていた彼女の顔が俺の方へ向けられる。可愛い。


「リョー君が言ってくれたの? 部活見に行こうって」

「うんそうだよ。なにを見ればいいかわからないみたいな表情してたから、俺から誘ったんだ。そしたらこいつ嬉しそうな顔しやがって」

「ちょ、おい!」

「ハハハハッ! ホント? 恭也が誰かに誘われて嬉しそうにするなんて滅多にないんだよ」

「冬美。お前までなに言って」


 ん?


「だってホントの事じゃん。私がデート行こって言っても素っ気ないし。朝起こしに行ってあげても鬱陶しそうな顔するし」

「朝の五時に起こされたら誰だってあんな風になるわっ。それにデートって言っても隣町に本買いに行くか、お前の服見に行くくらいじゃねぇか」


 人はそれをデートと言う。


「立派なデートじゃん。どれが似合うって聞いても、どっちも似合うなんて典型的な解答しかしてくれないし」

「いや。だって普通にどっちも似合ってるんだから仕方ないじゃねぇか。どう答えればいいんだよ」

「それ聞く? 幼馴染なんだから察しくれてもいいと思うんだけどなぁ」

「そんなん無理ですから。お前だって俺のことを完璧に理解できてるわけじゃないだろうが」

「私は結構理解してるよ。でも確かに完璧じゃないけどね。恭也のヘタレなところとか」

「なんだよそれ。俺のどこかヘタレだって言うんだよ」

「ヘタレ君の気持ちなんてわかりませーん」

「グヌヌ……! こいつ……!」


 やだ。二人の世界入ってる。

 俺、マジ空気☆(?ゝω・?)vキャピ


「ちょいちょいお二人さん。夫婦喧嘩はそれくらいにしようぜ」

「「夫婦じゃねぇよ(ないよ)!」」

「いやもうそれいいから」


 息ぴったりじゃねぇか。さすが幼馴染ワールドか。俺にはいないから、わからない領域だな。


「滝田さん。須賀を捜してみたいだけど、もしかして一緒に部活動紹介に参加しに来たの?」

「あ、うん。そうそう。私もホントは少し気になってた部活があったからちょうどいいかなって」

「なら、なんで見に行くって言わなかったんだよ?」

「もう入る気だったから、わざわざ紹介を見る必要はないかなって。中学時代の先輩が所属してるからもう顔見知りな人もいるしね」

「あ? そうなん。俺、全然知らなかったけど」

「恭也が知らない先輩だからね。でも、先輩は恭也のこと知ってるけど」

「え? 何で? ストーカーか何か?」

「私が先輩に話したから。結構、気になってるみたいだよ。シスコンのボクサーなんて珍しいねって」

「お前は人様に俺の事をどんな風に言ってんだよ!? 俺ボクシングなんてやってねぇぞ!」


 シスコンとは姉の方か妹の方か。俺は気になるがここは敢えて聞かないでいよう。


「その部活って、どんなことしてるとこなの?」

「主に手芸かな。偶にボードゲームしたりスポーツしたりするみたいだけど」

「え? それって手芸部じゃないの?」

「ううん。手芸部は手芸部でちゃんとあるよ」

「手芸するのに手芸部じゃないってどういうこと? て言うか、ボードゲームとかスポーツするって……ま、まさか!」


 部活の中でおかしな部活動の名前があって調べたところが一つあるが、まさか滝田さん。あそこに行く気じゃ……!


「え? なに? なにを驚いてるの?」


 須賀がわけがわからず頭に「?」を付けて俺と滝田さんを交互に見ている。


「お前ホントにこの学校のこと調べてないみたいだな。須賀」

「だから何なんだよ。冬美は何部に入ろうとしてるんだよ」

「滝田さんが入ろうしている部活――それは!」

「それは?」


 ごくりと須賀が息を飲む音が聞こえ、場が静寂に包まれた。

 俺は一区切り間を入れ、そして息を吸って口を開く。


「遊芸部だ」

「遊芸部? なんだよ、えらく普通な名前じゃないか」


 部活の名前を聞いた須賀は緊張していたのが馬鹿みたいに大きく息を吐いた。

 甘いぞ、須賀。


「ただの部活ではない。おそらくお前が考えているのは、茶の湯とか生け花とかを楽しむみたいなそんな貴婦人たちが嗜むものだと思っているだろ?」

「いや、そもそも手芸してるのボードゲームやってる時点でそうだとは思ってないけ――」

「だがしかし、ここの遊芸部はそんなお淑やかな部活ではない!」

「話聞いてる?」


 死にそうな時のム○カ大佐みたいな顔しやがって、どうやらまだ気付いてないみたいだな。


「この遊芸部。必ず一ヶ月に約二人、けが人を出しているらしい。骨折やら打撲とか」

「危なくないか?」

「だがしかし、そんな大怪我をしても、彼らは必ず一週間かそこらで帰って来るらしい。しかも退部する者はゼロ。みんな部活にやりがい感じているような達観した表情をしているようだ」

「なにそれ? 打撲はともかく、骨折って一週間で治るもんなの? て言うかボードゲームして怪我なんてすんのかよ。どんだけ危ないプレイしてるんだよ」

「お前のプレイはともかく」

「俺のプレイの話なんてしてねぇよ!」

「滝田さん。本当にその部活を見に行くのかね?」


 隣でギャーギャー何やら言っている大佐を無視し、俺は滝田さんの顔をジッと真剣顔で見つめた。

 彼女は「う~ん?」とこれまた可愛く首を傾げて笑顔で見つめ返してくれた。結婚したい。


「先輩が言うにはそこまで危なくはないみたいだよ。みんなで可愛いコジラを編み物で作ったり、木村対間柴戦を粘土で再現したりしてるだけだって」

「最後のは絶対自分たちでも再現してるだろ!? 危ないだろ!?」


 まさか、あの有名な対戦を粘土で再現しようとするとは! あれは確かに面白かった。青木が気を失った木村の元へ駆けつけて行ったのも感動した。二人の熱い友情を感じるよなぁ。

 だが、そんなことしてるのか。見てみたい……


「ちなみに滝田さんは何戦が面白かった?」

「私は一歩対唐沢戦好きだったなぁ。あんなに頑張ってボディ鍛えたのに、やられちゃった唐沢さんだったけど、あそこまで頑張った人は熱かったね」

「なるほどなるほど。俺は千堂戦かな。王道だけど、フェザー級チャンピオンに一歩がなるための大事な一戦だったから迫力が半端なかったなぁ」

「いいよねいいよね。私今度は○したの○ョーを見ようかなって思ってるんだ!」

「あ、俺全巻持ってるよ。よければ貸そうか?」

「ホント?! ありがとう♪」

「なにボクシング漫画の話で楽しんでんだよ!? 遊芸部の話はどうしたんだよ?!」


 ハッ! しまった。つい語り合ってしまうところだった。須賀が大声を上げなかったらこのまま滝田さんと下校してしまうところだったよ。まあ俺はそれでもいいんだけど。


「冬美。危ないから行くの止めろ。何かあったらじゃ遅いんだぞ」

「大丈夫だって。恭也は少し心配性すぎだよ」

「いやでもな……」


 須賀はちらっと俺の方を見てきた。どうやら自分に呼応してくれって合図なんだろうけど、俺も少々遊芸部に興味を持ってしまっている状態。悪いが、合わせてやるのは無理だ。


「いいじゃないか、須賀。今日は見学だけなんだ。危ない事はおきんだろ」

「そうかもしれないけど」

「もし、何かある時は、お前が守ってやればいいんじゃないの? 幼馴染だろ」


 幼馴染、と言う単語にピクリと反応した須賀は、渋々といった感じで頭を縦に振る。正直なところはいやだって感じだな。滝田さんに何かあるかもしれないっていうのが気持ちを進めてくれないんだろう。

 なんだかかんだで大切に思ってるんだな、こいつ。


「それじゃあ行ってみようか。見学に」

「うん! ありがとね二人とも」


 滝田さんの満面の笑み。これを見れるのならなんだってやってるぜ。


「そう言えば、リョー君は何を見に行くつもりだったの?」

「ん? 俺? 俺はねぇ」


 歩き出した俺の顔を横から覗き込むように見てきた彼女。

 やっぱ可愛いなぁと思いつつ、俺は入ってみたい第一候補の部活の名を口にする。


「麻雀部」

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