第七話
春の訪れを阻害された俺は、半日をボーっとしたまま過ごしていた。
いやなんでって、朝の須賀野郎のせいで俺は具合悪いの調子悪い、腹痛常習犯というわけのわからないレッテルを貼られてしまったのだ。
意味がわからん。具合悪い、調子悪いならまだしも、腹痛常習犯はどこから来たんだよ。
そもそも常習犯ってなんでだよ。俺はいつでもどこでも腹壊して身体をくの字にさせる使命を負わされた不幸の少年なの? 俺は山根君なの? 廊下側に座ってる本当の山根君はバリバリのムキムキの体育会系もとい武術系少年だから、こっちにその任が回って来たって言うのかよ。
て言うか山根君。七×七を七十七って答えてたんだけど、あの子掛け算できないくらい馬鹿だったのかよ。
どうしてわからないの? て聞かれて『俺の常識ではこうだからです』なんて堂々と答えた時は身震いしちゃったよホントに。
俺の常識って、世界が自分中心に回ってないと答えれないね。ジャイアニズムだね。違うね。違うか。
数学の青峰先生顔真っ青で『ああ、うん……そうだね』って答えてたけど、あの人別に納得してないからな。山根君勝ち誇った顔してたけど、別に勝ってないからね。寧ろ社会的に負けてるからね、君。
この世の春が来たーーー!(゜∀゜)みたいな顔してたけど、今後は控えてもらいたいな。もしくはそのまま繭に包まれて消えてもらいたい。
昼時になり、俺は人知れず教室を出て学校の屋上に来ていた。教室を出る際に須賀に保健室行くならついて行くぜなんてイケメンよろしく発現されたが丁重にお断りした。
このままこいつといたら、いつまでたっても腹痛常習犯から抜けだせないからな。
背後から複数の優しげな視線に見送られ、俺が今いるのは学校の屋上。
雲ひとつない快晴の転機に心地よい南風が俺の頬をくすぐる。半日のいやな気持ちを忘れさせてくれるような気持ちにさせてくれるみたいだ。もう今日はずっと、ここにいたい。いや、いよう。
そう、思っていたところへ誰かが屋上の扉を開けた。
「緊急回避!」
スネークみたいに老人体系になっても現役さを忘れさせない軽やかな動きで、俺はすぐ近くの物影に隠れる。
隠れるといっても壁の後ろ――扉からちょうど死角になる場所に隠れただけだが。
「あれ~? いないよ~」
「んな馬鹿な。確かにこっちそれらしい奴が来たって先輩に聞いたんだけどな」
最初は女。次は男の声がした。何だカップルか。俺に殺されに来たのか? おっと本音が。
今の台詞的にどうやら二人は誰かを捜しに屋上へ来たようだ。ハッ! そうやって自分たちのラブラブぶりをそいつに見せたいってわけか。
なんて外道なのっ! お前たちの血の色は黒色か?!
「でもどこにもいない。人違い?」
「人違いなら人違いで誰かここにいるだろ。でもいないってことは、最初から屋上には来てないってことだろ」
「え? じゃあさっきの先輩が見たのって、もしかして幽霊?」
「なんですぐそっち方面に持ってきたがるんだお前は。この学校できて間もないし、不吉な噂話だって聞いたことないぞ」
男の方からため息交じりの台詞が。それに対し、女の子はちょっと照れた感じで笑い声を出してなんだか楽しいそうだ。ペッ!
「仕方ない。んじゃ帰るか。いないんじゃここにいる意味ないし」
「あ、それなんだけどさ」
「あ?」
帰りモードな男へ女の子が何かを取りだしているようだ。
「せっかくだし。ここでご飯にしようよ」
「でも、あいつが」
「もう教室に帰っても時間ないし。それにきっとどこかでちゃんと食べてるよ」
「俺飯が」
「きょ、今日は少し作り過ぎちゃって余分に用意したんだ。二人分はちゃんとあるから大丈夫!」
「マジか。だったらいいか――って重箱かよ!? どうりで重たいもん持ってると思ったよ! デカッ! 二人分ていうか四人分だろこれ作り過ぎだろ!?」
え? 何これ? どいうこと? もしかしてこの二人、ここで食べるつもり? 俺帰れないんだけど……
「ほらほら! こっち来てこっち来て。一緒に食べよ♪」
うわもう女の子食べる気満々じゃん。完全に帰るタイミング見逃したよ。今出たら、何考えてんの空気出されちゃう。
「……まあこの際、仕方ないか。こんないい天気だし、偶にはな」
「そうそう♪ 偶には良いでしょ。お外で食べるのも」
なんだかいい雰囲気だなおい。女の子の方はもうこのために来たって感満載じゃん。最初から友達捜す気なんてなかったんじゃないの。だとしたらその友達、めっちゃ可哀想だな。ぷっぷー( *´艸`)
「それにしても倉島の奴、どこ行っちまったんだろうな?」
名前判明www倉島wwwカワイソwww
「教室出る時にどこに行くかって言ってなかったの?」
「ああ。でもなんか思いつめたような表情してたし。心配だなぁ」
「相変わらず、自分のことより他人のこと心配するの。変わんないね。恭也は。もっと自分こと大切にしないと」
「してるっての。俺ほど自分を大切にしてる奴なんていねぇよ」
「恭也の大切ラインが私にはわからないよ」
女の子の方から溜め息がした。箸の箱との擦れる音がすることから、もう食事は始まったようだ。俺も飯食いたい。
「あ!」
「ん? どしたの?」
「そう言えばさっき、安瀬さんが話しかけて来ただろ?」
「安瀬さん? ……ああ、さっきの可愛い子ね」
「そうそう。て言うか何でちょっと不満げなんだよ」
「別に。それで、あの子がどうしたの?」
「聞かれたんだよ。倉島のこと。大丈夫かなって」
「へ~。まあでも聞く限りだと、今日の倉島君ってかなり体調悪いみたいだったから聞いて来てもおかしくはないかもね」
「まあなぁ。まるでこの世の終わりみたいな顔してたからなぁ」
……腹減った。さっきから風につられてご飯の良い匂いがする。俺も食いたい。
それにしても倉島wwwどんだけ死にそうなんだよwwwこの世の終わりってwww
「そう言えばさぁ、恭也」
「なんだぁ?」
「倉島君の下の名前ってなんだっけ?」
「あれ? 聞いてなかったっけ?」
「ううん。ちゃんと聞いたんだけど。恭也がうるさくてちゃんと聞こえなかった」
「俺のせいなの? あれって、あいつのせいだよね」
「まあまあいいからいいから。倉島ぁ……なんだっけ?」
「ええっと確か――」
下の名前覚えてもらいないほど、どうでもいい存在ってことですねwww
倉島wwwマジでお前ってwww
「良介だったかな?」
俺だった。